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  • 平成9年度|
  • 第2章 個別の検査結果|
  • 第1節 省庁別の検査結果|
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  • (防衛庁)|
  • 本院の指摘に基づき当局において改善の処置を講じた事項

航空タービン燃料JP−4の調達に係る事務を適切に行うよう改善させたもの


(1) 航空タービン燃料JP−4の調達に係る事務を適切に行うよう改善させたもの

会計名及び科目 一般会計 (組織)防衛本庁 (項)防衛本庁
部局等の名称 調達実施本部
契約名 航空タービン燃料JP−4売買契約(674契約)
契約の概要 航空幕僚監部の調達要求に基づき、調達実施本部において、航空機に使用する航空タービン燃料JP−4の調達を行うもの
契約の相手方 日本石油株式会社ほか10会社
契約 平成7年5月〜10年3月 指名競争契約、指名競争後の随意契約
契約金額
485億0698万円(平成7年度〜9年度)

1 契約の概要

(航空タービン燃料の調達)

 調達実施本部(以下「調達本部」という。)では、自衛隊の航空機のジェットエンジン燃料等として、航空タービン燃料JP−4(以下「JP−4」という。)を毎年、大量に調達している。平成7年度から9年度までの間においては、航空幕僚監部からの計353件の調達要求に基づき、航空自衛隊千歳基地ほか17基地等(注1) (以下「基地」という。)で使用する約155万4000klのJP−4について、日本石油株式会社ほか10会社(注2) (以下「石油11社」という。)と、指名競争契約又は指名競争後の随意契約により、計674契約を締結し、総額485億0698万余円で調達している。

(JP−4の調達手続)

 調達本部では、防衛庁長官が定めた「装備品等の製造設備等の認定に関する訓令」(昭和50年防衛庁訓令第44号)に基づいて認定された設備を持つ上記の石油11社からJP−4を調達することとしており、その調達手続については、国の会計法令に基づき、次のように実施することとしている。

ア 契約の方法

 国が契約を締結する場合、会計法(昭和22年法律第35号)第29条の3第1項の規定により、原則として、一般競争契約によらなければならないとされているが、同条第3項により、契約の性質又は目的により競争に加わるべき者が少数で一般競争に付する必要がない場合には、指名競争契約によることとされている。
 調達本部では、本件JP−4の調達は、同条第3項に定める場合に該当するとして、指名競争契約により実施している。

イ 予定価格の作成及び決定方法

 予定価格の作成及び決定方法については、予算決算及び会計令(昭和22年勅令第165号。以下「予決令」という。)で次のように定められている。

(ア) 契約担当官等は、その競争入札に付する事項の価格を当該事項に関する仕様書、設計書等によって予定し、その予定価格を記載した書面を封書にして、開札の際、これを開札の場所に置かなければならない。

(イ) 予定価格は、競争入札に付する事項の価格の総額について定めなければならない。ただし、一定期間継続してする製造、修理、加工、売買、供給、使用等の契約の場合においては、単価についてその予定価格を定めることができる。

ウ 複数落札入札制度

 自衛隊の装備品等の調達に当たっては、その需要数量が多く1社で対応できないような場合について、予算決算及び会計令臨時特例(昭和21年勅令第558号)第4条の2の規定により、複数の者を落札者とする複数落札入札制度が定められている。
 これは、一般競争又は指名競争において、需要数量の範囲内で、数量及びその単価を入札させ、予定価格を超えない単価の入札者のうち、低価の入札者から順次需要数量に達するまでの入札者をもって落札者とするものである。
 JP−4の調達の場合は、1社で必要数量をすべて供給できないことがあり、その場合には、上記に基づき、複数の会社を落札者としている。

エ 随意契約への移行

 競争に付しても落札者がないときは、予決令第99条の2の規定により、随意契約によることができることとなっている。この場合においては、最初の競争に付するときに定めた予定価格は、これを変更することができないこととなっている。

2 検査の結果

(検査の対象及び着眼点)

 7年度から9年度までの間の、JP−4の調達数量約155万4000klに係る調達要求353件を対象とし、予定価格の算定事務、入札等の契約事務の執行は適切に行われているかなどに着眼して検査を実施した。

(検査の結果)

 検査したところ、JP−4の調達における予定価格の算定及び入札の状況については、次のとおりとなっていた(参考図参照)

(ア) 予定価格の算定

 JP−4の予定価格の算定に当たっては、その主たる成分が灯油であることから、原則として、一般に公表されている積算参考資料などに掲載された東京地区における灯油の市況価格の最低額を基に、18基地に適用する1kl当たりの価格を算定し、この価格に各基地別の輸送費を加算するなどして、基地ごとの単価を算定していた。そして、複数落札入札制度を適用する場合は、この単価をそのまま予定価格とし、また、それ以外の場合は単価に数量を乗じた総価を予定価格として定めていた。

(イ) 指名競争入札の実施

 JP−4の指名競争入札は、年間を5期に分け、各期ごとに、基地ごとの予定価格を上記により算定し、石油11社のうちから、納入場所、納入条件を勘案して、基地ごとに2社から7社を指名して実施している。各期ごとの入札は、石油11社を調達本部に集めて18基地の分をおおむね1週間から2週間の間に一括して実施している。
 そして、検査対象とした調達要求353件について入札から落札に至るまでの状況を調査したところ、そのうち290件はおおむね次のようになっていた。

〔1〕  指名競争入札において、それぞれ3回の入札を繰り返し行ったが、いずれも不調に終わったため、随意契約への移行を前提とした価格交渉(商議)を入札者との間で行うこととした。

〔2〕  入札で辞退した会社を除いて1回ないし2回の商議を行ったが、会社との間で価格面での合意が得られなかった。このため調達本部では、次の商議の前に、それまでのすべての商議(18基地分)において最安値を提示した会社の価格(輸送費を除く。)までの引下げを目的として、他の10社に対して各会社ごとの具体的な下げ幅を示し、石油11社がすべて同一価格となるよう商議を行っていた。

〔3〕  その後、最終の商議に入り、各会社は、それぞれ調達本部から示された下げ幅分の金額を減額するなどした価格を見積書により提示したが、依然として予定価格より高額であることから、商議は当然不調となった。そして、各会社は、以後の商議を辞退したため、調達本部ではこの一連の調達手続をいったん終了させていた。

〔4〕  調達本部では、上記の一連の調達手続が不調となった原因は予定価格にあるとして、上記の最終の商議で提示された価格を新たな予定価格(以下「再予定価格」という。)とし、当初の入札で指名した会社を再び指名して、新たな指名競争入札(以下「再入札」という。)を行っていた。その結果、いずれの再入札においても、当初の入札で指名を受けた会社が応札したが、このうち最終の商議に残った会社の応札価格が再予定価格と同額であったことから1回で落札(複数落札の場合を含む。)し、売買契約を締結していた。

 また、本件調達要求の353件から上記の290件を除いた63件については、上記の〔1〕 から〔4〕 の経過をたどった入札等との期間が1週間から1箇月程度と短期間であったため、その再入札における再予定価格を予定価格として入札を実施していた。そして、これらのうち44件は1回の入札で予定価格と同額で落札され、19件は2回又は3回の入札を行ったが不調となりその後の商議で予定価格と同額で合意に達し、売買契約を締結していた。
 以上の結果、上記の353件に係る契約金額はすべて再予定価格と同額となっていた。

(ウ) 落札者と落札数量について

 上記の入札結果における落札者をみると、290件については再入札を実施しているにもかかわらず、290件すべてにおいて、当初の入札の最終の商議に残った会社が落札者(複数落札の場合を含む。)となっていた。そして、石油11社はすべて、いずれかの基地において落札者となっていた。
 また、353件の入札が行われた7年度から9年度のJP−4の落札数量における石油11社のそれぞれのシェアは、毎年ほぼ一定となっている状況であった。
 本件調達は、当初の入札が不調になったことに端を発して、上記のような経過をたどっていたものであるが、その事務処理においては、次のような改善すべき点があると認められた。

(ア) 予定価格の算定事務について

 調達本部では、当初の予定価格の算定に当たっては、灯油の市況価格の最低額を基に決定しているが、上記のとおり、353件のうち290件については、当初の予定価格による落札者がなく不調となっていた。そして、残りの63件については、先行する入札の再予定価格を基に予定価格を算定していた。
 さらに、再予定価格については、灯油の市況価格の平均値、及び前回調達時からの市況の動向等を比較検討して決定することとしているが、最終の商議で提示された価格とすべて一致しており、この価格をそのまま再予定価格にしていたものと認められた。
 したがって、予定価格の算定については、市況全般を考慮するとともに、見積資料を徴するなど必要な調査を行うなどして、JP−4の価格の把握に努める要があると認められた。

(イ) 入札、契約事務について

 本件調達における事務手続は、当初の指名競争入札が不調となり、その後の商議によっても契約が成立しないという異例な事態を受けてのものであり、その取扱いについて、会計法令も予定していないものである。
 しかし、最終の商議の前に、予定価格より高い価格を基に、各社ごとに具体的にその下げ幅を示した後、この価格を基にして会社が見積もった最終の商議価格と同額を再予定価格として、再度の指名競争入札を実施し、その結果、1回目の入札で落札するという、一連の調達手続が毎年毎期繰り返され慣例化している。このような事態は、予定価格そのものを変更したり、再予定価格を開示したりしたものではないとしても、指名を受けたすべての会社が、この慣例化した手続により再入札前にその再予定価格を推定し得るという結果を招いており、早急に是正する要があると認められた。

 なお、本件調達の競争性の確保についてみると、商議が終了していない段階で、予定価格よりも高い商議価格を基に下げ幅を示しているのは、その後の商議において予定価格以下で合意に達する可能性を失うことになるばかりでなく、再度の指名競争入札における会社間の競争を阻害し、より低価格での落札の可能性をも失うことになること、さらに、本件JP−4の調達における石油11社のシェアが毎年ほぼ同じ割合となっていることなどから、競争が十分に行われていないと認められた。

(発生原因)

 このような事態が生じていたのは、調達本部において、入札の競争性等についての認識が十分でなく、前記のような調達手続が慣例化していたこと、予定価格及び再予定価格の算定に当たり調査検討が十分でなかったこと、会社に対して下げ幅を示して再予定価格が推定されるなど予定価格の取扱いが適切でなかったことによると認められた。

3 当局が講じた改善の処置

 上記についての本院の指摘に基づき、調達本部では、10年11月以降のJP−4の調達契約に当たり、従来の慣例化した調達手続を見直し、競争入札制度本来の機能を十分発揮させるため、次のような処置を講じた。

(ア) 市況全般を考慮するとともに見積資料を徴するなどして予定価格の算定方法を見直し、その算定事務の適正化を図る。

(イ) 納入場所、納入条件により指名する会社を限定することなく、JP−4の供給が可能なすべての会社を指名したり、再予定価格を容易に推定されることがないよう予定価格の取扱いに十分配意したりして契約事務の適正化を図る。

(注1)  航空自衛隊千歳基地ほか17基地等 千歳、三沢、松島、百里、入間、浜松、岐阜、小牧、小松、美保、築城、芦屋、新田原、那覇各基地、秋田、新潟両分屯基地、石川島播磨重工業株式会社瑞穂工場、三菱重工業株式会社名古屋誘導推進システム製作所

(注2)  日本石油株式会社ほか10会社 日本石油、コスモ石油、出光興産、三菱石油、ジャパンエナジー、ゼネラル石油、モービル石油、昭和シェル石油、エッソ石油、九州石油、キグナス石油各株式会社

(参考図)

(参考図)