会計名及び科目 | 厚生保険特別会計 | (健康勘定) | (款)保険収入 | (項)保険料収入 |
(年金勘定) | (款)保険収入 | (項)保険料収入 | ||
部局等の名称 | 北海道ほか28都府県(1保険課及び232社会保険事務所) | |||
保険料納付義務者 | 1,879事業主 |
徴収不足額 | 健康保険保険料 | 1,239,658,299円 |
厚生年金保険保険料 | 3,245,254,669円 | |
計 | 4,484,912,968円 |
1 保険料の概要
健康保険は、常時従業員を使用する事業所の従業員を被保険者として、業務外の疾病、負傷、分娩等に関し医療、療養費、傷病手当金、出産手当金等の給付を行なう保険である。また、厚生年金保険は、常時従業員を使用する事業所の65歳未満の従業員を被保険者として、老齢、死亡等に関し年金等の給付を行なう保険である。
健康保険においては、国及び健康保険組合が保険者となっている。また、厚生年金保険においては、国が保険者となっている。
保険料は、被保険者と事業所の事業主とが折半して負担し、事業主が納付することとなっている。
そして、これらの事業主は、都道府県の社会保険事務所等に対し、健康保険及び厚生年金保険に係る次の届け書を提出することとなっている。
(ア) 新たに従業員を使用したときには、資格取得年月日、報酬月額等を記載した被保険者資格取得届
(イ) 毎年8月には、同月1日現在において使用している被保険者の報酬月額等を記載した被保険者報酬月額算定基礎届
(ウ) 被保険者の報酬月額が所定の範囲以上に増減したときには、変更後の報酬月額等を記載した被保険者報酬月額変更届
これらの届け書の提出を受けた社会保険事務所等は、届け書に記載された被保険者の報酬月額に基づいて標準報酬月額(注1) を決定し、これに保険料率を乗じて得た額を保険料として徴収している。
(注1) 標準報酬月額 健康保険では第1級92,000円から第40級980,000円まで、厚生年金保険では第1級92,000円から第30級590,000円までの等級にそれぞれ区分されている。被保険者の標準報酬月額は、実際に支給される報酬月額をこの等級のいずれかに当てはめて決定される。
2 検査の結果
本院では、毎年度の決算検査報告において、特別支給の老齢厚生年金(注2)
の裁定を受け年金の額の全部を支給されている受給権者(「厚生年金保険の老齢厚生年金等及び国民年金の老齢基礎年金の支給が適正でなかったもの」参照)
を使用している事業主が届出を適正に行っていなかったため多額の保険料が徴収不足となっている事態を掲記している。さらに、平成8年度決算検査報告においては、派遣労働者を使用している労働者派遣事業の派遣元の事業主が届出を適正に行っていなかったため保険料が徴収不足となっている事態を掲記している。
また、6年6月に健康保険法(大正11年法律第70号)が一部改正されて、医療機関における患者に対する看護は、当該医療機関の看護婦、准看護婦のほか、主治医又は看護婦の指導を受けて看護の補助を行う者(以下「看護補助者」という。)が行うものとされた。これにより、従来当該医療機関の従業員以外の者であって、患者の負担によって看護に従事していた者が医療機関によって看護補助者として雇用されるようになり、常用的に使用されていて健康保険及び厚生年金保険の被保険者となる者も多数に上ると想定された。
これらのことから、本年の検査に当たっては、北海道ほか28都府県の1保険課及び237社会保険事務所管内の事業主のうち、次のような4,642事業主について、都道府県における保険料の徴収の適否を検査した。
(ア) 派遣労働者を使用している派遣元の事業主
(イ) 看護補助者等を使用している医療機関の事業主
(ウ) 特別支給の老齢厚生年金の裁定を受け年金の額の全部を支給されている受給権者を使用しているなどの事業主
(注2) 特別支給の老齢厚生年金 厚生年金保険において行う保険給付であり、厚生年金保険の被保険者期間が1年以上あって老齢基礎年金に係る保険料納付済期間が25年以上ある者などに60歳以上65歳に達するまでの間支給される。そして、受給権者が厚生年金保険の適用事業所に使用され被保険者である間は、その者の標準報酬月額等に応じて年金の額の一部又は全部の支給が停止される。
検査したところ、北海道ほか28都府県の1保険課及び232社会保険事務所において、4,603事業主のうち1,879事業主について徴収額が4,484,912,968円(健康保険保険料1,239,658,299円、厚生年金保険保険料3,245,254,669円)不足していた。これは、上記の29都道府県の1保険課及び232社会保険事務所において、事業主が次のように届出を適正に行っていなかったのに、これに対する調査確認及び指導が十分でなかったことによるものである。
(ア) 被保険者資格取得届の提出を怠っていたもの | ||
1,721事業主 | 徴収不足額 | 4,160,110,292円 |
(イ) 資格取得年月日の記載が事実と相違していたもの | ||
129事業主 | 徴収不足額 | 292,584,844円 |
(ウ) 被保険者資格喪失届を誤って提出していたものなど | ||
29事業主 | 徴収不足額 | 32,217,832円 |
このように事業主が届出を適正に行っていなかったのは、派遣労働者を使用している派遣元の事業主及び看護補助者等を使用している医療機関の事業主が制度を十分に理解していなかったり、従業員が受給している特別支給の老齢厚生年金が支給停止となる事態を避けようとしたりしていたことなどによるものである。
なお、これらの徴収不足額については、本院の指摘により、すべて徴収決定の処置が執られた。
徴収不足額の大部分を占める被保険者資格取得届の提出を怠っていた事態についての事例を示すと次のとおりである。
<事例1 > 派遣労働者を使用している派遣元の事業主が被保険者資格取得届の提出を怠っていたもの
A会社は、派遣先において事務用機器の操作等の業務に従事する派遣労働者1,736人を使用していた。同会社は、これら派遣労働者のうち905人については、使用期間が短く常用的な使用でないなどとして社会保険事務所に対して被保険者資格取得届を提出していなかった。
しかし、上記の905人について賃金台帳、雇用契約書等により調査したところ、同会社は、このうち派遣労働者153人を常用的に使用しており、被保険者資格取得届を提出すべきであった。
このため、健康保険及び厚生年金保険の保険料45,912,185円(健康保険保険料15,096,850円、厚生年金保険保険料30,815,335円)が徴収不足になっていた。
<事例2 > 看護補助者等を使用している医療機関の事業主が被保険者資格取得届の提出を怠っていたもの
B医療法人は、看護補助者22人を含む従業員152人を使用しており、医療保険についてはC健康保険組合に加入していた。同医療法人は、これら従業員のうち看護補助者18人を含む27人については、使用期間が短く常用的な使用でないなどとして社会保険事務所に対して厚生年金保険の被保険者資格取得届を提出していなかった。
しかし、上記の27人について賃金台帳、雇用契約書等により調査したところ、同医療法人は、このうち看護補助者15人を常用的に使用しており、厚生年金保険の被保険者資格取得届を提出すべきであった。
このため、厚生年金保険の保険料4,400,300円が徴収不足となっていた。
<事例3 > 特別支給の老齢厚生年金の受給権者を使用している事業主が被保険者資格取得届の提出を怠っていたもの
D会社は、建物の管理等の業務に従事する従業員22人を使用していた。同会社は、これら従業員のうち10人については、年金の受給権者である従業員から、被保険者資格取得届が提出されると受給している特別支給の老齢厚生年金が支給停止になるとの申し出を受けるなどしたため、社会保険事務所に対して被保険者資格取得届を提出していなかった。
しかし、上記の10人について賃金台帳、雇用契約書等により調査したところ、同会社はこれら10人を常用的に使用しており、被保険者資格取得届を提出すべきであった。
このため、健康保険及び厚生年金保険の保険料8,459,353円(健康保険保険料3,140,612円、厚生年金保険保険料5,318,741円)が徴収不足になっていた。
これらの徴収不足額を都道府県別に示すと次のとおりである。