会計名及び科目 | 厚生保険特別会計(業務勘定) (項)保健事業費 |
部局等の名称 | 社会保険庁 |
政府管掌健康保険生活習慣病予防健診事業の概要 | 健康保険法(大正11年法律第70号)に基づき、政府管掌健康保険の被保険者等の生活習慣病の予防、早期発見、早期治療を図るために、各都道府県が健康保険病院等の実施機関に委託して行う一般健診、日帰り人間ドックなどの健診事業 |
健診事業の検査対象受診者数 | 延べ516万5004人 | (平成8、9両年度) |
上記に係る委託費の総額 | 786億6465万余円 | (平成8、9両年度) |
不適切に支払われた委託費の総額 | 21億7737万円 |
(平成10年12月1日付け 社会保険庁長官あて)
標記について、会計検査院法第34条の規定により、下記のとおり是正改善の処置を要求する。
記
1 事業の概要
貴庁では、健康保険法(大正11年法律第70号)第23条の規定に基づき、政府管掌健康保険の被保険者及び被扶養配偶者(以下「被保険者等」という。)を対象とし、疾病の予防、早期発見及び早期治療を図ることを目的として、生活習慣病予防健診(以下「健診」という。)事業を実施している。
この健診事業は、貴庁が定める政府管掌健康保険生活習慣病予防健診実施要綱等(平成8年庁保発第21号。以下「実施要綱」という。)により実施されている。そして、貴庁では、健診事業の事務の一部を都道府県に委任するとともに、財団法人社会保険健康事業財団(以下「財団」という。)と委託契約を締結し事務の一部を行わせている。
都道府県は、実施要綱に基づき、健康保険病院等及び都道府県の選定した医療機関(以下「実施機関」という。)と、毎年4月に政府管掌健康保険生活習慣病予防健診等委託契約(以下「健診委託契約」という。)を締結し、被保険者等の健診を行っている。
この健診委託契約に基づき、実施機関が行った健診の受診者総数は、平成8年度延べ331万6975人、9年度延べ331万4477人、これに係る費用のうち国が負担する委託費総額は、8年度511億0669万余円、9年度500億3182万余円となっている。
財団では、前記の委託契約に基づき、主に次の事務を行っている。
(ア) 受診者氏名等を記入した「健診申込書」を事業主から受け付け、その内容を記録する。
(イ) 申込みのあった健診が当該年度の事業枠の範囲内であることの確認、実施機関との受診日の調整などの処理を行い、申込書を実施機関へ送付する。
(ウ) 実施機関から次の書類の送付を受け、その内容を確認した後、これらを都道府県へ送付する。
〔1〕 健診の種類別人数、金額等を記入した「請求書」
〔2〕 受診者氏名、健診の種類、実施年月日等を記入した「健診実施状況報告書」
(エ) 実施機関から前月分の健診内容等を記した「健診結果通知票」の送付を受け、その内容を記録する。
実施機関が行う健診は、その内容が実施要綱で定められており、これによれば、健診の種類には、一般健診、日帰り人間ドックなどがある。これらは、原則として全ての項目を検査する一次検査と、実施機関の判断により必要に応じて実施する二次検査などに区分されている。
実施機関は、健診を実施したときには、受診者から健診費用のうちの一部を受診者負担額として徴するほか、健診費用と受診者負担額との差額を国の負担額として都道府県に請求するため、1箇月ごとに請求書及び健診実施状況報告書を作成し、翌月10日までに財団を経由して都道府県へ提出することとされている。
都道府県では、実施機関から請求書及び健診実施状況報告書の提出を受けたときには、その内容の審査確認を行い、国の負担額を健診事業の委託費として、健診を実施した日の属する年度の予算から、実施機関に支払うこととされている。
一次検査の受診者1人当たりの健診費用、受診者負担額及び国の負担額(いずれも9年度)は、次表のとおりである。
(単位 円) | ||||||||||||
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そして、実施要綱では、一次検査に係る国の負担は、同一年度において受診者1人につき1回に限るものとし、都道府県と実施機関との健診委託契約書においてもこの旨を明記している。
2 検査の結果
この健診事業は、昭和39年度から実施されているが、近年、国が負担する委託費は、前記のとおり多額に上っている。そこで、事業は適切に実施されているか、また、委託費は適切に支払われているかなどに着眼して検査を実施した。
北海道ほか28都府県(注) において、平成8年度に931実施機関との健診委託契約により支払われた委託費延べ259万0932人分398億3906万余円、9年度に972実施機関との健診委託契約により支払われた委託費延べ257万4072人分388億2558万余円、計延べ516万5004人分786億6465万余円を対象として検査した。
検査したところ、次のような状況となっていた。
(1) 国の負担する委託費を会計法令に違背し異なる年度の予算で支払っているもの
国の負担する委託費は、会計法令によれば、健診を実施した日の属する年度の予算で支払わなければならないのに、都道府県において、実施機関に健診実施状況報告書の実施年月日を改ざんさせ、健診実施年度と異なる年度の委託費を請求させるなどして、異なる年度の予算で支払っているものが、次のとおりあった。
健診実施年度 | 支払年度 | 都道府県数 | 人数(人) | 金額 |
7 | 8 | 24道府県 | 50,191 | 7億1708万余円 |
8 | 7 | 2都県 | 7,336 | 1億1526万余円 |
9 | 14府県 | 16,695 | 2億0571万余円 | |
9 | 8 | 10都道府県 | 15,426 | 2億2477万余円 |
合計 | 29都道府県 | 延べ89,648 | 12億6284万余円 |
(2) 実施機関からの不適正な請求により、委託費を支払っているもの
〔1〕 福岡県において、7年度から9年度に実施機関が虚偽の健診実施状況報告書を作成していた。また、兵庫県において、8年度に実施機関が請求書に虚偽の人数を記載していた。そして、両県において実施機関が受診者の人数を水増しして請求し、これらに対して委託費が支払われていたものがあった。これらの人数及び金額は福岡県13,221人分2億2564万余円、兵庫県2,190人分4134万余円、計15,411人分2億6698万余円である。
〔2〕 大阪府及び神奈川県において、9年度に受診者が1回しか健診を受けていないのに、実施機関が2度にわたって委託費を請求し、これに対して委託費が重複して支払われていたものがあった。これらの人数及び金額は、大阪府1,524人分2604万余円、神奈川県67人分56万余円、計1,591人分2661万余円である。
〔3〕 神奈川県において、8年度に受診者が若年であるなど国の負担の対象とはならないのに、実施機関がこのような者についても請求し、これに対して委託費が支払われていたものが195人分200万余円あった。
(3) 同一受診者について同一年度中に2回以上委託費を支払っているもの
29都道府県の514実施機関において、同じ実施機関で同一年度中に2回以上健診を受けている者が、8、9両年度に、それぞれ17,472人、19,206人いた。そして、2回目以降の健診に対して都道府県が委託費を支払っているものが、それぞれ、17,536回、19,267回あった。
しかし、前記のとおり、一次検査に係る国の負担については、同一年度において受診者1人につき1回に限るものとすると実施要綱及び健診委託契約書で定めているのであるから、同一年度において同一人の健診費用を2回以上国が負担しているのは適切でないと認められる。
したがって、同一年度に2回以上受診した者について2回目以降の分を国が負担しなかったこととすれば、8年度2億9083万余円、9年度3億2808万余円、計6億1891万余円は支払う要がなかったものと認められる。
以上のとおり、国の委託費を、会計年度を違えて支払っていたり、実施機関から不適正な請求がなされていたのに審査確認を十分行わずに支払っていたり、実施要綱に違反して同一年度に受診者1人につき2回以上支払っていたりしている事態が多数見受けられた。このような事態は適切とは認められず、是正改善の要があると認められる。
このような事態が生じているのは、主として次のようなことによると認められる。
(ア) 都道府県において、健診事業の実施に当たり、年度途中における健診実績及び申込状況を適時適切に把握せず、適切な調整を行わないまま、年度末に至って実施機関に年度を違えた請求を行わせるなど、不適正な予算管理及び会計処理を行っていること
(イ) 財団において、健診申込書又は健診結果通知票の人数と請求書の人数とを対比すれば不適正な請求がなされているのを把握できたのに、これを行っていないこと
(ウ) 都道府県及び財団において、国の負担は同一年度に受診者1人につき1回に限ることを実施機関、事業主及び受診者に周知徹底していないため、不適正な健診申込み及び請求が行われていること、また、財団において、健診の申込みがされた際に、国が既に費用を負担していないかの確認を行っていないこと
3 本院が要求する是正改善の処置
生活習慣病予防健診事業は、被保険者等の疾病予防、健康の保持増進を図ることを目的としており、本件事業をより効果的に推進することにより、多額に上っている医療費の適正化にも寄与することが期待されている。
ついては、本件事業は今後も引き続き実施されることが見込まれるのであるから、その重要性にかんがみ、前記の事態が再発することのないよう、貴庁において、次のような改善の処置を講ずる要があると認められる。
(ア) 都道府県に対し、健診事業の実施に当たって、健診の実績及び申込状況を毎月把握し、予算執行残額を確認した上で健診の勧奨や受付を行うなどさせて、会計法令に従った適切な事務処理が行われるよう指導すること
(イ) 財団に対し、実施機関から不適正な請求がなされないよう、健診結果通知票の人数と実施機関からの請求書の人数とを対比させたり、受診者ごとに健診申込書と健診結果通知票を突き合わせて確認させたりすることについて財団との事務の委託契約書に明記すること
(ウ) 都道府県及び財団に対し、国の負担は同一年度において受診者1人につき1回に限ることを実施機関、事業主及び受診者に周知徹底させるとともに、健診申込書に前回の受診年月日を記載させ、財団及び実施機関に確認させること
(注) 北海道ほか28都府県 東京都、北海道、京都、大阪両府、青森、岩手、宮城、山形、福島、茨城、栃木、埼玉、千葉、神奈川、新潟、石川、長野、静岡、愛知、兵庫、岡山、広島、山口、香川、福岡、長崎、熊本、宮崎、鹿児島各県