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  • 意見を表示し又は処置を要求した事項

先進的農業生産総合推進対策事業等による農産物処理加工施設、農産物集出荷施設の設置及び運営が事業の効果を発現するよう是正改善の処置を要求したもの


(1) 先進的農業生産総合推進対策事業等による農産物処理加工施設、農産物集出荷施設の設置及び運営が事業の効果を発現するよう是正改善の処置を要求したもの

会計名及び科目 一般会計 (組織)農林水産本省 (項)農蚕園芸振興費
(項)水田農業確立対策費
部局等の名称 農林水産本省、東北、関東、北陸、中国四国、九州各農政局、沖縄総合事務局
補助の根拠 予算補助
事業主体 町5、村1、農業協同組合35、その他6、計47事業主体
補助事業 先進的農業生産総合推進対策事業等
事業の内容 農業の生産性の向上等を図ることを目的として、農産物処理加工施設、農産物集出荷施設の整備等を行うもの
効果が十分発現していない施設 55施設
上記の施設に係る事業費 45億5249万円
上記に対する国庫補助金 20億1795万円

【是正改善の処置要求の全文】

先進的農業生産総合推進対策事業等による農産物処理加工施設、農産物集出荷施設の設置及び運営について

(平成10年12月3日付け 農林水産大臣あて)

 標記の件について、会計検査院法第34条の規定により、下記のとおり是正改善の処置を要求する。

1 事業の概要

(先進的農業生産総合推進対策事業等の概要)

 貴省では、農業の生産性の向上、農産物の品質の向上、流通の合理化等を図ることを目的として、農業生産体質強化総合推進対策事業(昭和62年度から平成3年度まで実施)、先進的農業生産総合推進対策事業(4年度から6年度まで実施)及び水田農業確立対策推進事業(昭和62年度から実施し平成5年度に先進的農業生産総合推進対策事業に統合)(以下、これらの事業を「生産総合対策事業等」という。)を、また、7年度からは、生産総合対策事業等を引き継いだ農業生産体制強化総合推進対策事業をそれぞれ国庫補助事業として実施している。
 生産総合対策事業等においては、市町村、農業協同組合等が事業主体となって、大豆、野菜、果樹などの農産物を加工・販売する農産物処理加工施設(以下「加工施設」という)及び農産物を集出荷して流通の合理化を図ることなどを目的とした農産物集出荷施設(以下「集出荷施設」という。また、「加工施設」及び「集出荷施設」を合わせて「施設」という。)等の共同利用施設の整備事業等を実施している。
 そして、元年度から6年度までの間に、生産総合対策事業等により実施された施設の整備等に係る事業費は計4959億0248万余円、これに対する国庫補助金の交付額は計2137億3741万余円に上っている。

(事業の実施)

 生産総合対策事業等の実施に当たっては、以下のように事業を行うことになっている。

(ア) 事業主体は、実施計画を作成し、市町村長を経由して都道府県知事に提出する。

(イ) 市町村長は、実施計画について必要な調整等を行い、都道府県知事は、その審査を行うとともに、あらかじめ地方農政局長等と協議した上で実施計画を承認する。

(ウ) 都道府県等は、事業実施の円滑かつ適正な推進に資するため、事業主体に対し農業生産技術等の推進指導を行う。

(施設の管理・運営等)

 事業主体は、施設の継続的利用を図り得るように収支計画等を定めて適正な管理・運営を行うこととしており、都道府県等は、事業実施後の管理・運営が実施計画に従った適正なものになっているかについての把握に努めることになっている。
 さらに、都道府県は、

(ア) 事業を実施した年度から5年間、事業主体が作成する実施状況報告を基に、施設の管理・運営状況を把握し、適正かつ効率的に運用されているか審査する。

(イ) 施設が適正かつ効率的に運用されていないと判断される場合には、事業主体に対し、事業内容の見直し等を含めた改善計画を作成させ、施設を有効に利用するよう指導する。また、改善計画を地方農政局長等に届け出て、必要に応じその指示を受ける。

(ウ) 改善計画に沿った利用を行っても適正かつ効率的な運用が期待し難いと判断され、かつ、補助対象範囲内で、農産物のための別の施設として有効利用を図ることが確実と認められるときには、事業主体に施設の目的外使用の承認申請の手続きを行わせる。

2 検査の結果

(検査の着眼点)

 生産総合対策事業等による施設の設置及び運営においては、農業経営の安定に資するなどのため、最適な運営方法及び規模とするよう留意し、施設の利用率の向上及び処理数量の増加が図られるよう配慮するなど効率的な運営を行う必要がある。また特に、加工施設については、農業所得の向上に寄与するなどのため、収支の均衡がとれた健全な経営が行われる必要がある。
 そこで、〔1〕 施設を設置するに当たり、実施計画は適切なものとなっているか、〔2〕 施設の設置後において、施設は適正かつ効率的に運営され、その利用実績は上がっているか、〔3〕 加工施設については運営収支は均衡のとれた適切なものとなっているかなどに着眼して検査した。

(検査の対象)

 北海道ほか29県(注1) において、元年度から6年度までの間に生産総合対策事業等により設置された施設のうち、加工施設69件、事業費96億8081万余円(国庫補助金43億6036万余円)及び集出荷施設202件、同292億7230万余円(同115億3319万余円)、計271件、同389億5311万余円(同158億9356万余円)を対象に検査した。

(検査の結果)

 検査の結果、北海道ほか21県(注2) において、施設の運営を中止していたり、利用率が著しく低くなっていたり、運営収支が赤字となっていたりしていて、補助事業の効果が十分発現していないと認められるものが、加工施設22件、事業費16億5303万余円(国庫補助金7億0811万余円)及び集出荷施設33件、同28億9945万余円(同13億0983万余円)、計55件、同45億5249万余円(同20億1795万余円)見受けられた。
 これらを態様別に示すと次のとおりである。

(1) 製品の製造技術の習得が十分でなかったり、販路が確保できなかったりなどしたため施設の運営を中止しているもの

加工施設 北海道ほか5県 6件 事業費3億3407万余円
(国庫補助金1億4768万余円)
集出荷施設 宮城県 1件 事業費 704万余円
(国庫補助金300万余円)

<事例>  水田農業確立対策推進事業

道県名 事業主体 事業の内容 年度 事業費 国庫補助金

岡山県

A農業協同組合

大豆加工処理施設

4
千円
73,801
千円
35,911

 この事業は、地元産の大豆を原料とする味噌を製造、販売することにより、農産物の付加価値を高め、農家所得の向上に寄与することを目的として、大豆加工処理施設を設置したものである。
 実施計画によれば、上記の組合が本件事業の参画農家から大豆を購入し、これを原料として年間30tの味噌を製造することとし、このうち20tについては食品販売会社等に販売し、残りの10tについては参画農家に販売することとしていた。また、収支計画では、目標年度(7年度)において、販売収入を1590万円、原料資材費等の経費を1576万余円とし、13万余円の利益を見込んでいた。
 しかし、〔1〕 製造技術の習得が十分でなかったため食味等が消費者の嗜好に合わなかったこと、〔2〕 販売先として予定していた食品販売会社等との間で取引価格等について合意が得られなかったこと、〔3〕 参画農家が原料を組合に販売して製品を購入することについて、当該参画農家の合意が得られず、既存の小規模な味噌加工処理施設(4施設)を利用していて本件の加工処理施設を利用していなかったことなどから、味噌の販売が伸びず、6年度に製造を中止し、8年度には一部製造を行ったものの、9年度には再び製造を中止していた。また、運営収支は、施設の稼働開始以降毎年度赤字となっており、9年度末までの累積赤字は1477万余円となっていた。なお、同組合では、製造技術の研修、広報活動及び販売先の開拓等に努めているものの、具体的な改善策になっていなかった。

(2) 施設規模についての調査・検討が十分でなかったり、参画農家の栽培技術の習得が十分でなかったりなどしたため施設の利用率が著しく低くなっているもの

加工施設 北海道ほか5県 6件 事業費1億6983万余円
(国庫補助金8253万余円)
集出荷施設 北海道ほか11県 32件 事業費28億9241万余円
(国庫補助金13億0683万余円)

<事例>  先進的農業生産総合推進対策事業

道県名 事業主体 事業の内容 年度 事業費 国庫補助金

北海道

B町

キャベツ予冷施設

4
千円
202,343
千円
101,171

 この事業は、鮮度が高く品質の優れた野菜を消費者に提供することにより、野菜産地としての定着化及び農業所得の増加による農業経営の安定を図ることを目的として、キャベツ予冷施設を設置したものである。
 実施計画によれば、受益地区を同町全域とし、目標年度(7年度)における作付面積を65ha、計画処理数量を3,250tと見込んでいた。
 しかし、〔1〕 天候不順及び病害虫の発生などによりキャベツの収穫量が減少したこと、〔2〕 当該地区においてキャベツの栽培が開始されたのは3年度からであり、参画農家の栽培技術の習得が十分でなかったこと、〔3〕 実施計画の策定時(3年度)における作付面積は9.1ha、生産数量は321.4tであったにもかかわらず、4年後の目標年度(7年度)における作付面積を7.1倍の65ha、処理数量を10.1倍の3,250tとし、一時に大規模な施設を設置したことなどから、当該施設の平均利用率(目標処理数量に対する7年度から9年度までの間の各年度の実際の処理数量の割合の平均値)は12.9%となっており、計画を大幅に下回る状況となっていた。なお、本件については、改善計画を作成していなかった。

(3) 販路の確保及び消費者の需要動向の調査が十分でなかったなどしたため加工施設の運営収支が赤字となっているもの

加工施設 北海道ほか7県 10件 事業費11億4912万余円
(国庫補助金4億7790万円)

(是正改善を必要とする事態)

 上記のように、生産総合対策事業等により設置した施設が、運営を中止していたり、利用率が著しく低くなっていたり、運営収支が赤字となっていたりしているものが多数見受けられた。これらの事態は、設置した施設が、農業の生産性の向上等に寄与しておらず、事業効果が十分に発現していないもので適切とは認められず、是正改善を図る要があると認められる。

(発生原因)

 このような事態が生じているのは、農産物の輸入の増大、農業従事者の高齢化の進行、農業後継者の減少など、近年、農業を取り巻く情勢がめまぐるしく変化してきていることにもよるが、主として、次のようなことによると認められる。

(1) 事業主体において、

ア 施設を設置するに当たり、〔1〕 施設の規模についての調査・検討が十分でないこと、〔2〕 参画農家の意向、栽培技術の習得状況等を十分把握していないこと、〔3〕 加工施設については、運営収支の見通し、販路の確保、消費者の需要動向などについて十分検討していないこと

イ 施設の運営に当たり、〔1〕 運営を中止していたり、利用率が低くなっていたりなどしている施設についての原因分析や改善の取組みが十分でないこと、〔2〕 加工施設については、採算性に対する意識が十分でなく、販路の確保及び広報活動も十分でないこと

(2) 道県において、

ア 施設を設置するに当たり、前記(1)アの各項目について審査・指導が十分でないこと

イ 運営を中止していたり、利用率が低くなっていたりなどしている施設について改善計画を作成させていなかったり、作成させていても具体的又は実現可能な内容にさせていなかったりしていること

ウ 運営の改善が見込めないと判断される施設については、補助対象範囲内で農産物のための別の施設として有効利用できることになっているのにこの点についての検討が十分でないこと

(3) 貴省において、

ア 施設の設置後に事業主体から提出される実施状況報告において、利用状況について報告させることになっているが、加工施設における収支状況については、報告を徴することとしていないこと

イ 上記の実施状況報告の提出期間は、施設の設置後5年間となっているため、運営を中止していたり、利用率が低くなっていたりなどしている施設について、その後の運営について把握できるような体制が整備されていないこと

ウ 改善計画を作成させる場合の具体的な基準を明確に示していないこと

エ 道県に対し、施設の設置時における実施計画の審査及び設置後の適正かつ効率的な運営の確保に関する指導が十分でないこと

3 本院が要求する是正改善の処置

 貴省では、生産総合対策事業等に引き続いて、生産性の向上等を図ることを目的として農業生産体制強化総合推進対策事業を実施している。したがって、これらの事業の効果が十分発現するよう、貴省において、次のような処置を講ずる要があると認められる。

(1) 実施状況報告において、加工施設について収支状況に関する報告を徴することとし、都道府県においてその状況が把握できるような体制を整備すること

(2) 運営を中止していたり、利用率が低くなっていたりなどしている施設について、実施状況報告の提出期間を延長してその後の運営の状況についても把握できるような体制を整備すること

(3) 改善計画の作成を徹底させるため、改善計画を作成する場合の基準を具体的に定めること

(4) 都道府県に対して、次のような指導を行うこと

ア 施設を設置するに当たり、

(ア) 事業主体に対し、〔1〕 施設の規模についての調査・検討を十分行わせること、〔2〕 参画農家の意向等を十分把握させること、〔3〕 加工施設については、専門的な指導を受けさせるなどして、運営収支の見通し、販路の確保、消費者の需要動向などについて十分検討させること

(イ) 都道府県が上記(ア)の各項目についての審査・指導を十分に行うこと

イ 施設の運営に当たり、

(ア) 事業主体に対し、〔1〕 運営を中止していたり、利用率が低くなっていたりなどしている施設について原因を分析させ、改善計画を確実に作成させるとともに、その内容を具体的かつ実現可能なものにするよう十分検討させること、〔2〕 加工施設については、採算性に対する意識を高めさせ、販路の確保及び広報活動を十分行わせること

(イ) 都道府県において、改善が見込めないと判断される施設については、速やかに、補助対象範囲内で、農産物のための別の施設として有効利用を図らせること

(注1)  北海道ほか29県 北海道、岩手、宮城、秋田、山形、福島、茨城、栃木、群馬、埼玉、千葉、新潟、富山、石川、福井、山梨、静岡、愛知、滋賀、兵庫、和歌山、岡山、広島、愛媛、高知、福岡、佐賀、熊本、大分、沖縄各県

(注2)  北海道ほか21県 北海道、岩手、宮城、秋田、福島、茨城、栃木、群馬、埼玉、新潟、石川、福井、山梨、静岡、岡山、広島、高知、福岡、佐賀、熊本、大分、沖縄各県