会計名及び科目 | 一般会計 (組織)林野庁 (項)林業振興費 |
部局等の名称 | 林野庁 |
補助の根拠 | 予算補助 |
事業主体 | 市3、町4、森林組合9、農業協同組合等9、計25事業主体 |
補助事業 | 林業構造改善事業等 |
事業の内容 | 林業者等の就業・所得機会の増大等を図り、林業・山村地域の活性化、特用林産の振興等に資することを目的として、製材加工施設、きのこ等生産・販売施設等の整備を行うもの |
効果が十分発現していない施設 | 27施設 |
上記の施設に係る事業費 | 67億4320万円 |
上記に対する国庫補助金 | 33億2811万円 |
【是正改善の処置要求の全文】
(平成10年11月25日付け 林野庁長官あて)
標記について、会計検査院法第34条の規定により、下記のとおり是正改善の処置を要求する。
記
1 事業の概要
貴庁では、林業の安定的な発展を図り、林業従事者の所得を増大して経済的・社会的地位の向上に資するために必要な施策の一環として、林業・山村地域の活性化、特用林産の振興等を図るため、林業構造改善事業及び特用林産振興対策事業(以下「林業構造改善事業等」という。)を国庫補助事業として実施している。
林業構造改善事業等において、市町村、森林組合等の事業主体では、林道等の整備事業のほか、収入で支出を賄うことを原則とした施設(以下「収支を伴う施設」という。)の整備事業等を実施している。
このうち、収支を伴う施設の整備事業は、施設の健全な経営によって林業者等の就業・所得機会の増大等を図り、林業・山村地域の活性化、特用林産の振興等に資することを目的として、製材加工施設、きのこ等生産・販売施設等を整備するものである。
林業構造改善事業等の実施に当たっては、市町村長等が、関係地域住民の総意と事業主体の意向を尊重し、関係行政機関等の意見を聴いたうえで、施設の利用、収支等に関する諸事項を定めた事業計画を樹立し、都道府県知事に提出することになっている。そして、都道府県知事は、これを審査し、適切と認めたものについて貴庁に協議のうえ認定することになっている。
事業主体は、認定された事業計画に基づき、施設の整備事業を実施することとなっている。
貴庁では、林業構造改善事業等で整備した施設の管理・運営が当該事業の趣旨に即して適切に行われているかを把握するため、事業計画を樹立した市町村長等に、運営を開始した年度から3年間、毎年度当該事業計画の達成状況を都道府県を通じて報告させることとしている。
2 本院の検査結果
前記のとおり、収支を伴う施設は、その健全な経営によって、林業・山村地域の活性化、特用林産の振興等に資することを目的としている。このため、収支を伴う施設は、適切な事業計画に基づき整備され、収入で支出を賄うなど、収支の均衡がとれた健全な経営が行われる必要がある。
そこで、事業計画は適切なものとなっているか、また、これにより整備された施設が適切に管理・運営され、収支等の実績が健全なものとなっていて、林業者等の就業・所得機会の増大等が図られ事業の効果が発現しているかなどに着眼して検査した。
北海道ほか21府県(注1)
において、市町村、森林組合等の事業主体が、平成2年度から7年度までの間に林業構造改善事業等により整備し、管理・運営を行っている収支を伴う施設は492施設であり、これらに係る事業費は691億0387万余円(国庫補助金338億0135万余円)と多額に上っている。
これらのうち、経営が順調となっていないものを中心に、175施設(事業費265億2638万余円、国庫補助金130億8660万余円)ついて検査した。
検査の結果、北海道ほか10県(注2)
において、損失額が多額に上っていることにより、遊休したままで事業の継続が困難な状況となっていたり、健全な経営が困難な状況となっていて、事業の効果が十分発現していないと認められるものが、27施設(事業費67億4320万余円、国庫補助金33億2811万余円)見受けられた。
これらを態様別に示すと次のとおりである。
(1) 販路を確保せずに事業計画を樹立したり、技術の習得等が十分でないまま生産を開始し安定的な生産ができなくなったりしたなど、事業計画及び管理・運営が適切を欠いたため、損失額が多額に上り、施設が遊休したままで事業の継続が困難な状況となっているもの
4施設 事業費 4億5934万余円
(国庫補助金 2億2966万余円)
事業名 | 特用林産産地化形成総合対策事業 | |||
県名 | 事業主体 | 年度 | 事業費 | 左に対する国庫補助金 |
奈良県 |
A椎茸生産農業協同組合 |
5〜7 |
千円 290,000 |
千円 145,000 |
この事業は、A椎茸生産農業協同組合が、作業用建物1棟(1,720m2
)、高圧殺菌装置2台等の菌床ブロック生産施設を整備したもので、施設は8年5月から操業を開始している。
この施設は、事業計画では年間に菌床ブロックを120万個生産し販売するとしていたが、菌床ブロックの販路を確保せずに収支計画や利用計画を策定したり、生産に係る技術の習得等が十分でないまま生産を開始し雑菌を混入させたりしたことなどから、8年度では計画を大幅に下回る35,212個を販売したに過ぎなかった。
そして、同組合は、経営が悪化したことから、9年4月に活動を停止し、関連施設の管理・運営を放棄した。以降、本件施設は、遊休している状況である。
(2) 販路を確保せずに事業計画を樹立して生産を開始したり、操業開始後における生産コストの削減や生産体制の見直しが十分でなかったりなどしたため、損失額が多額に上り、健全な経営が困難な状況となっているもの
23施設 事業費 62億8386万余円
(国庫補助金 30億9844万余円)
事業名 | 林業山村活性化林業構造改善事業 | |||
県名 | 事業主体 | 年度 | 事業費 | 左に対する国庫補助金 |
福岡県 |
B株式会社 |
5〜7 |
千円 337,275 |
千円 167,615 |
この事業は、第三セクターであるB株式会社が、竹炭工場1棟(574m2
)、竹炭製造機械一式等を整備したもので、施設は7年2月から操業を開始している。
この施設は、事業計画では年間に竹炭を55,000袋、竹酢を99,050リットル生産するとしていたが、その実績についてみると、7年度は竹炭7,268袋、竹酢5,650リットル、8年度は竹炭11,190袋、竹酢15,693リットル、9年度は竹炭24,609袋、竹酢9,747リットルを生産したに過ぎず、計画に対して著しく低いものとなっていた。また、収支については、目標年度の11年度に黒字とすることを目途に、7年度から9年度までの3箇年度に合計1861万余円の損失を見込んでいたが、実際の3箇年度の損失額の合計は1億0662万余円の多額に上っていた。そして、この損失を補てんするために、9年度に町の一般財源から593万余円の助成を受けており、本件施設は健全な経営が困難な状況となっていた。
これは、販路を確保しないまま事業計画を樹立して生産を開始したこと、操業開始後において、市場の需要に応じた生産体制の見直しや販売活動が十分でなかったことなどによると認められた。
事業名 | 林業山村活性化林業構造改善事業 | |||
県名 | 事業主体 | 年度 | 事業費 | 左に対する国庫補助金 |
岩手県 |
C森林組合 |
5 |
千円 99,292 |
千円 48,200 |
この事業は、C森林組合が、製材作業用建物1棟(77m2
)、丸鋸(のこ)盤1台、自動梱包機1台等を整備したもので、施設は5年10月から操業を開始している。
この施設は、事業計画では、加工品売上を7年度は4,194m3
、8年度は4,406m3
、9年度は4,621m3
としていたが、その実績についてみると、7年度は3,010m3
、8年度は3,207m3
、9年度は105m3
にとどまっていた。また、収支については、7年度から9年度までの3箇年度に合計969万余円の利益を見込んでいたが、実際には、3箇年度連続して損失を計上し、その合計は7165万余円に上っており、健全な経営が困難な状況となっていた。
これは、生産ラインにおける機械の配置が適切でなく、人員の配置も適切でなかったため、生産効率の低下を招いたこと、市場の需要に対応した製品の開発が十分でなかったこと、生産コストの削減や生産ラインの見直しを行うなどの対応が十分でなかったことなどによると認められた。
林業構造改善事業等により整備した収支を伴う施設のなかには、上記(1)及び(2)のとおり、損失額が多額に上っていることにより、遊休したままで事業の継続が困難な状況となっていたり、健全な経営の継続が困難な状況となっていたりしているものが見受けられた。これらの事態は、整備した施設がその目的とした林業者等の就業・所得機会の増大等に寄与しておらず、事業の効果が十分発現していないもので、適切とは認められず、是正改善を図る要があると認められる。
このような事態を生じているのは、次のようなことによると認められる。
(1) 事業主体において
〔1〕 事業の計画段階において、その施設における販路の確保、コスト管理等について、企業経営的な観点からの分析、検討が十分でなかったこと
〔2〕 施設の運営開始後において、生産コストの削減や生産体制の見直しが十分でなかったなど管理・運営が適切でなかったこと、また、収支等が低迷した原因を究明したり、その結果に基づく適切な対応を執ったりしていなかったこと
〔3〕 施設の運営開始後に報告する事業計画の達成状況報告に、関係市町村等による助成の事実など正確な収支等の実績を記載していなかったこと
(2) 都道府県及び貴庁において
〔1〕 市町村等が樹立した事業計画の認定に当たり、企業経営的な観点からの審査等が十分でなかったこと
〔2〕 事業計画の達成状況報告が、正確な収支等の実績を報告するものとなっていなかったこと
〔3〕 施設の経営が不振となっている場合に、経営改善のための指導を十分に行っていなかったこと
3 本院が要求する是正改善の処置
ついては、林業構造改善事業等による収支を伴う施設の整備事業は、今後も引き続き実施されるのであるから、事業の効果が発現するよう、貴庁において、次のような処置を講ずる要があると認められる。
(ア) 事業計画の樹立に当たっては、事業主体等に、施設の規模及び内容、事業主体の技術力、経営能力等について、専門家による企業経営的な観点からの経営診断等を受けさせ、その診断結果等の意見を反映させることとし、また、都道府県に審査を徹底させること
(イ) 事業計画の達成状況報告を、都道府県及び貴庁が正確な収支等の実績について把握できるものとすること
(ウ) 正確な収支等の実績を把握した結果、経営が不振となっていると判明した場合には、事業主体に経営改善計画を策定させ、これを都道府県が審査して、その実施状況を経営が改善するまで都道府県を通じて報告させるとともに、健全な経営とするための情報提供、経営診断、経営管理指導等を行えるよう体制を強化すること
(注1) 北海道ほか21府県 北海道、大阪府、青森、岩手、福島、新潟、茨城、山梨、長野、岐阜、三重、滋賀、和歌山、奈良、広島、山口、愛媛、高知、福岡、熊本、大分、宮崎各県
(注2) 北海道ほか10県 北海道、青森、岩手、福島、新潟、奈良、高知、福岡、熊本、大分、宮崎各県