会計名及び科目 | 農業経営基盤強化措置特別会計 (項)農業改良資金貸付金 |
昭和59年度以前は、 一般会計 (組織)農林水産本省 (項)農業振興費 |
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部局等の名称 | 農林水産本省、東北、関東、北陸、東海、近畿、中国四国、九州各農政局、沖縄総合事務局 |
国の貸付金等 | 農業改良資金貸付金 (昭和59年度以前は、「農業改良資金助成補助金」) |
貸付け等の根拠 | 農業改良資金助成法(昭和31年法律第102号) |
貸付け等の内容 | 農業者等に対し農業改良資金の貸付けを行う都道府県に対する資金の貸付け等 |
貸付け等先 | 北海道ほか27県 |
道県の貸付金の種類 | 青年農業者等育成確保資金 |
検査対象とした道県の貸付け | 1,534件 (平成4年度〜8年度 貸付金額144億0758万余円) |
上記に対する国の貸付金等相当額 | 96億0505万余円 |
貸付けの目的が達成されていない道県の貸付け | 33件 (平成4年度〜8年度 貸付金額 2億8379万円) |
上記に対する国の貸付金等相当額 | 1億8919万円 |
貸付けの効果が十分発現していない道県の貸付け | 643件 (平成4年度〜8年度 貸付金額 59億3601万円) |
上記に対する国の貸付金等相当額 | 39億5734万円 |
1 事業の概要
農林水産省では、農業改良資金助成法(昭和31年法律第102号)に基づき、農業者等における農業経営の改善等に必要な資金の貸付けを行う都道府県に対して、当該貸付けに必要な資金の3分の2を無利子で貸し付けている(昭和59年度以前は当該額を補助金として交付している。)。
都道府県は、この国の貸付金及び補助金に自己資金等を合わせて農業改良資金として資金を造成し、能率的な農業技術の導入に必要な施設の設置又は機械の購入等を行う農業者等に対して、その必要な資金を無利子で貸し付けている。
農業改良資金制度の目的は、農業経営の改善を目的とした合理的な生産方式の導入や青年農業者の育成確保等を助長するため、農業者等に対する農業改良資金の貸付けを行う都道府県に対して国が助成を行うことにより、農業経営の安定と農業生産力の増進に資することとされている。そして、その貸付条件、貸付手続等については、農業改良資金助成法、農業改良資金制度の運用について(昭和60年60農蚕第3060号農林水産省構造改善局長、農蚕園芸局長、畜産局長、食品流通局長連名通達。以下「運用通達」という。)等に基づき取り扱われている。
これらによれば、農業改良資金の貸付けの限度額は、資金の種類により、農林水産省令で定める所定の額、又は同省令で定める標準資金需要額を基準として都道府県が定める額の100分の80又は100分の90となっている。また、償還期間は12年以内となっている。そして、この資金の貸付けを受けようとする農業者等は、貸付申請書に事業計画を添えて貸付申請を行い、都道府県はその内容を審査の上貸付けの適否を決定することとなっている。
農業改良資金のうち青年農業者等育成確保資金は、青年農業者(20歳台の農業者又は30歳台を上限として都道府県が貸付規程において定める年齢の農業者をいう。以下同じ。)その他の農業を担うべき者が、近代的な農業経営(技術、知識能力を絶えず向上させ、経済の発展・技術の進歩に即応した農業経営)の担当者として必要な農業経営の基礎を形成するのに必要な資金とされており、借受申請者が近代的な農業経営を担当するのにふさわしい者として育成確保される見込みがある場合に限り貸し付けることとされている。そして、平成9年度末現在で7,485件、335億0873万余円と多額の資金が貸し付けられている。
青年農業者等育成確保資金には、青年農業者又はその組織する団体(以下「青年農業者等」という。)が農業経営を自ら行う場合に、その開始に必要な施設の設置等に係る資金を貸し付けるものがある。その貸付けの限度額は1300万円から5400万円となっており、償還期間は10年又は12年以内となっている。
また、貸付対象となる農業経営は、次に掲げる事項のいずれかに該当するものとされている。
〔1〕 農家子弟等の農業経営の承継者が開始する経営、農業以外からの新規参入者その他農業経営の承継者でない者が新たに開始する経営又は青年農業者の組織する団体が新たに開始する経営(以下、これらの経営開始に係る貸付金を「経営開始資金」という。)
〔2〕 経営主の下で、当該経営主の経営と区分して新たに開始する農業部門の経営(将来、経営を承継することが見込まれる者等であって、近代的な経営方法又は農業技術を実地に習得する者に限る。以下、この経営開始に係る貸付金を「部門経営開始資金」という。)
経営開始資金は、その借受者が新たな農業経営を開始し、独立した農業経営主として自らの経営の安定的発展に努めるとともに、当該地域の中核的農業者として活動することを期待して貸し付けられるものである。このため、当該借受者が、自己の経営について農業簿記による適正な経営管理を実施するとともに、税務申告を行うことによって、独立した農業経営主であることを明確にすることが貸付条件とされている。
また、経営開始資金は、貸付申請書の事業計画において、経営の基礎の形成のための所得目標(注1)
及びこれに至るまでの年次計画を明確にした経営計画等が定められている場合に貸付けを行うこととされている。
そして、経営開始資金のうち、農家子弟等の承継者に対する貸付けについては、経営主から経営の承継を受けて自ら経営を開始する際に必要とする資金であることから、原則として、経営の承継時期に合わせて資金を貸し付けることとされている。
部門経営開始資金は、その借受者が経営主の下で、当該経営主の経営と区分した経営を行うことによって、経営方法又は農業技術を実地に習得することを目的として貸し付けられるものである。そして、経営主と借受者との経営を明確に区分するため、当該借受者が自ら行う部門経営についての収支を明らかにすることとされており、部門経営の経営収支に関する帳簿を記載すること及び自己の預金口座を開設することが貸付条件とされている。
そして、本資金の借入れにより開始した部門経営を通じて経営方法等の習得を図るためには、借受者は、農業後継者として一定期間経営主の下で当該部門経営を継続する必要があることから、近い将来、経営主から経営を承継することが明確になっている場合は貸付対象としないこととされている。
都道府県が経営開始資金及び部門経営開始資金の貸付けの審査を行うに当たっては、借受者が近代的な農業経営を担当するのにふさわしい者として育成確保される見込みがあるかなどについて、借受者の能力、意欲等を含め総合的に判定することとされている。また、経験の乏しい青年農業者等が、本資金を借り受けて新たな農業を開始するに当たっては、技術面・経営面の指導が重要であるので、都道府県は、経営開始前及び経営開始後の普及指導に万全を期するものとされている。
2 検査の結果
近年、農業や農村を取り巻く状況は、農業労働力の高齢化が進行するとともに、農業後継者が減少するなど厳しいものとなっている。このことから、これからの農業及び農村を活力あるものとする上で、担い手の育成、特に農業後継者の育成と確保が重要な施策の一つであるとして位置付けられている。
そこで、北海道ほか27県(注2)
が、4年度から8年度までの間に貸し付けた経営開始資金及び部門経営開始資金のうち、貸付件数計1,534件、貸付金額計144億0758万余円(国の貸付金等相当額計96億0505万余円)について、貸付対象である農業経営は貸付けの趣旨に沿って適切かつ効果的に運営されているかなどに着眼して検査した。
検査したところ、次のような事態が見受けられた。
(1) 北海道ほか18県(注3)
において、借受者が、農作物の販売価格の変動に十分に対応できなかったり、育苗、病害虫の防除等の農作物栽培上の技術力が不足していたりしていたことなどから、他に転職するなどし、貸付対象である農業経営を中止していて、貸付けの目的が達成されていない事態が、貸付件数33件、貸付金額2億8379万余円(国の貸付金等相当額1億8919万余円)あった。
上記の事態について一例を挙げると、次のとおりである。
新潟県では、6年10月に、農業者Aに対して、同人が、経営主である父親の経営と区分して野菜(サニーレタス)部門の経営を開始するに当たり、サ二ーレタス栽培用の水耕プラントを設置するのに必要な資金2343万余円の一部として、900万円(国の貸付金等相当額600万円)を貸し付けている。借受者は、事業計画において、施設設置後3年目に、サニーレタスの販売により390万余円の農業所得を得ることとしていた。
しかし、栽培技術の習得が十分でなかったことなどのため、収量が目標を大きく下回り、品質も良くなかったため、販売収入が上がらなかったことから、7年12月に販売を中止した。そして、その後、サニーレタスに替わってトマトの栽培を8年4月から始めたが、借受者にトマトの栽培経験がなかったこと、当該水耕プラントがトマト栽培に適していなかったことから、十分な栽培ができなかった。
このため、部門経営収支は7年251万余円、8年305万余円の赤字となり、このまま推移すると農業経営が困難になるとして、借受者は、8年8月、農業以外に就職し部門経営を中止していた。
(2) 北海道ほか27県において、次の〔1〕 から〔3〕 のとおり、貸付けの効果が十分発現していない事態が、貸付件数計643件、貸付金額計59億3601万円(国の貸付金等相当額計39億5734万円)あった(事態については重複しているものがある。)。
〔1〕 貸付対象である農業経営の収支が、経営計画で定める目標額等を大幅に下回っていて低調となっていたもの
貸付件数52件、貸付金額5億9188万余円(国の貸付金等相当額3億9459万余円)
〔2〕 経営開始資金について、既に経営の承継を受けて相当年数経過している借受申請者に貸し付けられていたり、部門経営開始資金の借受者が、一定期間経営主の下で経営方法等の習得を図らずに経営の承継を受けていたりなどしていたもの
貸付件数88件、貸付金額8億6973万余円(国の貸付金等相当額5億7982万余円)
〔3〕 経営開始資金の借受者が行うこととされている帳簿の記載や税務申告を行っていなかったり、部門経営開始資金の借受者が行うこととされている部門経営の収支に関する帳簿の記載や自己の預金口座の開設を行っていなかったりしていたもの
貸付件数540件、貸付金額48億6200万円(国の貸付金等相当額32億4133万余円)
したがって、上記(1)及び(2)の事態は、近代的な農業経営の担当者を育成確保するという青年農業者等育成確保資金の貸付けの趣旨から見て適切かつ効果的なものとは認められず改善する要があると認められた。
このような事態が生じていたのは、主として、次のようなことなどによると認められた。
(1) 農林水産省において、
(ア) 借受申請者が適切な経営計画を作成するに当たっての留意事項及び当該経営計画に対する審査方法並びに借受申請者の経営の承継時期等に関する審査方法について、道県に対して明確に示していないこと
(イ) 貸付け後における借受者の経営の実態、経営の承継時期、帳簿の記載状況等事業の実施状況の確認を的確に行うよう、道県に対して十分指導していないこと
(2) 道県において、
(ア) 貸付けに当たり、経営計画の審査及び借受申請者の経営の承継時期等に関する審査が十分でないこと
(イ) 貸付け後における借受者の農業経営や農業技術の状況、帳簿の記載及び自己の預金口座の設置状況等についての把握及び指導が十分でないこと
(ウ) 借受者に対する貸付けの趣旨の周知徹底が十分でないこと
(3) 借受者において、農業経営を開始するに当たっての基本的な農業技術が不足していたり、貸付けの趣旨の理解が十分でなかったりしていること
3 当局が講じた改善の処置
上記についての本院の指摘に基づき、農林水産省では、10年11月に運用通達を改正するとともに、都道府県に通達を発して、青年農業者等育成確保資金の貸付事業が貸付けの趣旨に沿って適切かつ効果的に実施されるよう、次のような処置を講じた。
(ア) 運用通達を改正し、都道府県が貸付審査を行うに当たっては、経営計画の内容の妥当性及び借受申請者の経営の承継時期等について十分留意するよう明記するとともに、事業計画の様式に所要の記載事項を加えた。また、貸付け後において、借受者が独立した経営主として経営を行っているかなどを把握するために、帳簿の記載状況等の確認が的確に行えるようその確認内容を明確にした。
(イ) 都道府県に対して通達を発し、経営計画の内容及び借受申請者の経営の承継時期等の具体的な審査方法を示すとともに、貸付け後における農業経営の状況及び帳簿の記載状況等を的確に把握させ、不適切な事態については十分な指導を行うよう徹底した。また、借受者に本資金の貸付けの趣旨について周知徹底するよう指導した。
(注1) 経営の基礎の形成のための所得目標 青年農業者又はその組織する団体の構成員1人当たりの所得目標は、都道府県知事が、「農業経営基盤の強化の促進に関する基本方針」において、経営感覚に優れた効率的かつ安定的な経営体の所得目標として示している額のおおむね5割(都道府県の実情等により異なるが、平成6年現在では全国平均350万円程度となっている。)の所得水準の範囲内で設定することとされている。
(注2) 北海道ほか27県 北海道、岩手、宮城、秋田、山形、福島、茨城、栃木、群馬、埼玉、千葉、新潟、富山、石川、福井、静岡、愛知、滋賀、兵庫、岡山、広島、高知、福岡、佐賀、熊本、大分、宮崎、沖縄各県
(注3) 北海道ほか18県 北海道、宮城、秋田、福島、茨城、群馬、千葉、新潟、富山、石川、福井、愛知、滋賀、岡山、広島、高知、佐賀、宮崎、沖縄各県