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  • 平成9年度|
  • 第2章 個別の検査結果|
  • 第1節 省庁別の検査結果|
  • 第5 農林水産省|
  • 本院の指摘に基づき当局において改善の処置を講じた事項

国営かんがい排水事業の施行について、附帯する事業の予定実施時期を的確に把握し、それを事業の評価に反映させて、かんがい排水事業全体の効果的な実施を図るよう改善させたもの


(4) 国営かんがい排水事業の施行について、附帯する事業の予定実施時期を的確に把握し、それを事業の評価に反映させて、かんがい排水事業全体の効果的な実施を図るよう改善させたもの

会計名及び科目 国営土地改良事業特別会計 (項)土地改良事業費
(項)北海道土地改良事業費
昭和60年度以前は、
一般会計 (組織)農林水産本省
特定土地改良工事特別会計

(項)土地改良事業費
(項)北海道土地改良事業費
(項)土地改良事業費
部局等の名称 北海道開発局、東北、関東、北陸、近畿、九州各農政局
事業の根拠 土地改良法(昭和24年法律第195号)
事業 国営かんがい排水事業(神居地区ほか19地区)及びこれらの附帯事業
事業の概要 水利用の安定と合理化を図ることを目的とするダム、頭首工等の基幹農業用用排水施設の整備を国営事業で行い、併せてこれに附帯する事業により、末端用排水路や区画整理等の整備を行うもの
事業費 6967億余円(国営事業に係る平成9年度末までの支出済額)

1 事業の概要

(かんがい排水事業の概要)

 農林水産省では、土地改良法(昭和24年法律第195号)に基づき、農業生産基盤の整備及び開発を図る土地改良事業の一環として、国営かんがい排水事業(以下「国営事業」という。)を施行している。昭和24年度以降に実施した国営事業の地区は、平成9年度末で267地区(完了172地区、継続中95地区)となっており、これらに対して、9年度末までに投下された事業費は総額4兆2019億余円となっている。
 国営事業は、水利用の安定と合理化を図ることを目的とするダム、頭首工、用排水機場及び幹線用排水路等の基幹的な農業用用排水施設の整備を行うもので、受益面積がおおむね3,000ha(北海道、沖縄県及び離島においてはおおむね1,000ha)以上のものについて、受益農家又は市町村等からの申請を受けて施行されることとなっている。

(附帯事業)

 国営事業の実施に当たっては、事業の着手に先立ち、受益面積、総事業費、完了予定時期、主要工事等に関する土地改良事業計画(以下「事業計画」という。)を策定することとなっている。そして、この事業計画には、当該国営事業に関連して都道府県や市町村等が実施する土地改良事業(以下「附帯事業」という。)に係る分も記載することとなっている。
 この附帯事業は、国営事業によって整備された幹線用排水路に接続する用排水路等の整備を行うかんがい排水事業や水田の区画整理等を行うほ場整備事業等であり、土地改良事業として受益農家等からの申請を受けて施行されることとなっている。そして、そのほとんどが国庫補助事業として実施されている。
 附帯事業の実施に当たっては、国営事業の進ちょくの度合いを勘案して、その事業内容、施行時期等を決定することが求められており、これらの国営事業と附帯事業とが連携して施行されることにより、作物生産効果、営農経費節減効果等(注1) の事業全体の効果が発現されることになっている。

(注1)  作物生産効果、営農経費節減効果等

〔1〕  作物生産効果とは、干害等の被害防止や用排水の分離等によって得られる単位面積当たりの収穫増などの効果、畑地かんがい施設の整備等による作物選択の自由度や土地利用率の向上に伴う作物ごとの増産効果などをいう。

〔2〕  営農経費節減効果とは、区画整理等によるほ場条件の改善に伴い作付体系の変化や機械の利用効率が高まること等により作物生産に要する費用が節減される効果などをいう。

(かんがい排水事業の経済効果と投資効率)

 かんがい排水事業を含む土地改良事業の施行に当たっては、事業の経済性に関する要件として、土地改良法施行令(昭和24年政令第295号)により、「当該土地改良事業のすべての効用がそのすべての費用をつぐなうこと」と定められている。そして、国営事業の事業計画は、この経済性の要件に適合するものとなるよう策定しなければならないこととなっている。
 農林水産省では、上記の経済性の要件を満たしているか否かの判断を行うため、経済効果を測定することとしており、その方法として、「新規土地改良事業(開拓・干拓を含む)計画の経済効果の測定方法について」(昭和43年農地局長通達)及び「土地改良事業における経済効果の測定方法について」(昭和60年構造改善局長通達。平成6年一部改正。以下両通達を「基本通達」という。)等を定め、次の算式により投資効率を算定して、経済効果の評価の指標とすることとしている。

国営かんがい排水事業の施行について、附帯する事業の予定実施時期を的確に把握し、それを事業の評価に反映させて、かんがい排水事業全体の効果的な実施を図るよう改善させたものの図1

還元率:将来発生する毎年の事業効果を割引率等により現在価値に還元(評価)した額の総額を算出するために用いる係数

建設利息率:将来発生する事業効果を、発生するまでに要する借入金の利息相当分で割り引くために用いる係数

廃用損失額:事業が実施されることにより使用されなくなる旧施設のうち、廃用時以降も耐用年数を残している施設の損失(評価)額

 この投資効率の算定式においては、総事業費及び妥当投資額は国営事業と附帯事業を一体のものとして計算することになっている。すなわち、総事業費は国営事業費と附帯事業費とを合わせた投資質金の総額とされており、年総効果額は国営事業及び附帯事業による作物生産効果、営農経費節減効果等の額の総和とされている。
 また、妥当投資額の算定式の中の建設利息率の算出においては、事業に着手してから、頭首工が完成して安定した取水が可能となるなど事業効果の一部が発生するまでの年数を用いることとなっている。したがって、この年数が長くなるほど、建設利息率が大きくなり、投資効率は低下することとなる。

2 検査の結果

(検査の背景と着眼点)

 本院では、昭和59年に、国営事業及び附帯事業について、事業効果の速やかな発現を図るよう意見を表示(昭和58年度決算検査報告掲記)し、その中で、国営事業が長期化している事態とともに、国営事業が完了又はほぼ完了しているのに、附帯事業が進んでおらず、国営事業と附帯事業との間には行を生じている事態を措摘した。これに対し、農林水産省では、国営事業に対する重点的な予算配分、整備に着手した附帯事業の事業管理等について所要の処置を講じており、事態の改善に努めてきている。
 その後、十余年が経過し、農業従事者の高齢化、農村地域の過疎化の進行など農業をとり巻く社会経済情勢は更に厳しいものとなってきている。
 上記を踏まえ、今回、国営事業の着手に当たり、国営事業と附帯事業とが連携して施行されるよう計画されていたか、国営事業及び附帯事業の実施時期が投資効率の算定に的確に反映されていたかなどの点に、特に着眼して検査した。

(検査の結果)

 国営事業が完了し附帯事業が継続中の地区のうち30地区並びに国営事業及び附帯事業ともに継続中の地区のうち56地区、計86地区(平成9年度末までの支出済額2兆0112億余円)について検査したところ、次のとおり、所期の事業効果が発現されていない事態が見受けられた。
 上記86地区のうち、神居地区ほか19地区(注2) (9年度末までの支出済額6967億余円)では、国営事業が完了又はほぼ完了しているのに、附帯事業の整備面積計122,867haのうち41,331haが整備されておらず、所期の事業効果が発現されていないと認められた。この未整備面積のうち27,959haについては、事業の採択がされないまま未着手となっており、さらに、この未着手面積のうち6,609haについては、国営事業完了後10年以上未着手のまま推移していた。
 このような事態となっているのは、申請事業であるという土地改良事業の特性や高齢化、過疎化の進行など農業、社会経済情勢の変化などが要因となっているものの、国営事業の着手時点において、次のような改善すべき点があると認められた。

 すなわち、これらの20地区では、国営事業の事業着手時までに、附帯事業の予定実施時期が定められておらず、このため、着手後も予定実施時期に基づく附帯事業の事業管理が行われていなかった。そして、事業が経済性の要件を満たしているか否かの指標となる投資効率の算定においては、事業着手から一部効果が発生するまでの年数(以下「T係数」という。)を、それぞれの国営事業の地区ごとに算定することなく、一律の年数により算定していた。これは、「昭和43年度新規土地改良事業(開拓、干拓を含む)計画の経済効果測定に必要な諸係数について」(昭和43年農地局長通達)及び「土地改良事業における経済効果の測定に必要な諸係数について」(昭和60年構造改善局長通達)において、附帯事業は国営事業の完了に合わせて完了することを前提として、国営事業の標準的な工期を基に、T係数を10年(事業費の都道府県償還分のうち地元負担分についても借入金を財源として実施する場合は8年)と一律に定められていたことから、これによって算定していたものである。

 そこで、本院において、上記の20地区のうち基本通達により投資効率を算定していた16地区を対象として、それぞれの国営事業の当初計画に基づき、その附帯事業の事業規模等から予定実施時期を仮に設定するなどして算出したT係数(注3) を用いて、各地区の投資効率を再計算することとした。
 その結果、各地区のT係数(平均)は、当初計画の9.0年に比べ11.7年と大きくなり、投資効率(平均)は、当初計画の1.09が1.06と低下することとなる。すなわち、投資効率の算定に当たって、すべての附帯事業が国営事業に合わせて完了するとして、T係数を一律にして算定していたため、上記の16地区においては、投資効率が過大に評価される傾向になっていると認められた。

 このように、附帯事業の予定実施時期が定められないまま一律のT係数により投資効率が算定されており、このため、国営事業各地区の事業全体の実施時期が経済効果の評価に的確に反映されることなく国営事業が着手され、着手後も予定実施時期に基づく附帯事業の事業管理が行われていない状況となっていた。このことが、附帯事業が着手されないまま推移する原因の一つとなっており、ひいてはかんがい排水事業全体の事業効果が十分に発現していない事態を生じさせることになっていると認められた。

(注2)  神居地区ほか19地区 神居、東郷、女満別、北檜山右岸、浅瀬石川、盛岡南部、河南、名取川、迫川上流、請戸川、石岡台地、鹿島南部、鬼怒中央、信濃川下流、東播用水、耳納山麓、上場、菊池台地、一ツ瀬川、大淀川左岸各国営土地改良事業

(注3)  各地区の当初計画に基づき、国営事業の着手後その効果が一部発生すると見込まれるまでの年数を基礎とし、一方、附帯事業について、その事業種類、事業費及び事業規模から予定実施時期などを仮に設定し、これらにより事業全体の効果が一部発生するまでの年数を算出してT係数とした。

3 当局が講じた改善の処置

 上記についての本院の指摘に基づき、農林水産省では、平成10年11月に、各地方農政局長等に対して通達を発するなどし、遅延している附帯事業に対し重点的な予算の配分に努めるなど速やかな事業の進ちょくを図らせるとともに、かんがい排水事業全体の効果的な実施を図るよう次のような処置を講じた。

(ア) 国営事業に着手するまでに、都道府県に附帯事業全体に係る予定実施時期を明確にさせることとした。

(イ) 上記の附帯事業の予定実施時期を、国営事業の事業計画の投資効率の算定に反映させ、一層的確な経済効果の評価を実施することとした。

(ウ) 附帯事業の事業管理に当たっては、上記の予定実施時期を踏まえた管理調書を作成させるなどし、未着手地区を含めた附帯事業の実施状況についての把握に努めることとした。