検査対象 | 総理府(防衛庁) |
会計名及び科目 | 一般会計 (組織)防衛本庁 (項)武器車両等購入費ほか |
部局等の名称 | 防衛庁調達実施本部 |
調達の概要 | アメリカ合衆国政府の有償援助による装備品等及び役務の調達 |
昭和54年度から平成9年度までの前払金の総額 | 1兆4651億余円 |
平成9年度末現在の前払金の精算が完了していない金額 | 3345億余円 |
上記のうち出荷予定時期を過ぎたものの金額 | 1454億余円 |
1 調達の概要
防衛庁では、我が国で開発されていない装備品等を調達するなどのため、「日本国とアメリカ合衆国との間の相互防衛援助協定」(昭和29年条約第6号)等に基づき、昭和31年度以降、アメリカ合衆国政府(以下「合衆国政府」という。)の有償援助(Foreign Military Sales)により、装備品等及び役務(以下「調達品等」という。)の調達(以下「FMS調達」という。)を実施している。
このFMS調達は、51年にアメリカ合衆国の武器輸出管理法が制定されたことに伴い防衛庁が定めた「有償援助による調達の実施に関する訓令」(昭和52年防衛庁訓令第18号。以下「訓令」という。)に基づき実施されている。そして、訓令によると、FMS調達による調達品等は、「その調達源が合衆国政府に限られるもの又はその価格、取得時期等を考慮して有償援助による調達が妥当であると認められ、かつ、合衆国政府が有償援助による販売を認めるもの」とされている。また、FMS調達は、原則として調達実施本部(以下「調達本部」という。)が実施することとされている。
FMS調達は、合衆国政府による有償援助であることもあって、売主である合衆国政府から種々の取引の条件が示されており、そのうち主なものは、次表のとおりである。
表1 取引の条件
事項 | 条件 |
取引額 | 合衆国政府が負担する総費用(同政府の事務的経費等を含む。)の見積額 |
支払 | 前金払 |
出荷予定時期 | 出荷までの目標月数 |
引渡場所 | 出荷地点(工場、補給処等) |
精算 | 合衆国政府が受領した額のうち、総費用を超過する額を購入国に返済 |
解除 | 合衆国政府は、国益上必要な場合は解除の権利を有し、購入国は、自国による解除に起因するすべての費用に対して責任を負う。 |
使用制限 | 使用目的を制限 |
陸上、海上及び航空各自衛隊の幕僚監部等(以下「各幕等」という。)の調達要求により、調達本部が実施するFMS調達の手続は、次のとおりとなっている。
(1) 調達条件の照会から代金の支払までの手続
〔1〕 価格等の調達条件を合衆国政府に照会し、回答を得る。
〔2〕 外務省を通じて合衆国政府に引合書(調達品等の内容及び条件を記載した書類で合衆国政府の代表者が署名したもの)を請求するための措置を執る。
〔3〕 外務省を通じて合衆国政府から引合書を受領し、引合書に署名を行い、引合受諾書とする。
〔4〕 通商産業省と輸入協議を行う。
〔5〕 輸入協議に係る同意書を受領する。
〔6〕 外務省を通じて引合受諾書を合衆国政府へ送付する
〔7〕 引合受諾書の条件に基づき代金を日本銀行等を通じ、合衆国政府に前金により支払う。
(2) 調達品等の受領から余剰金の返済までの手続
〔1〕 合衆国政府から調達品等が納地に到着すると、自衛隊各部隊等が調達品等の受領検査を行い、受領検査調書を作成する。
〔2〕 四半期ごとに調達品等の価格等が記載された計算書を外務省を通じて受領し、受領検査調書と照合して給付の確認を行う。
〔3〕 前払金の精算による余剰金が生じた場合は、外務省を通じて合衆国政府に余剰金の返済を請求する。
〔4〕 日本銀行等を通じて余剰金の返済を受ける。
2 検査の結果
(検査の観点及び対象)
FMS調達を開始した31年度から今日まで長期間が経過し、この間、東西冷戦の終結など我が国の安全保障の環境は大きく変化した。これに対応して、防衛庁においては、新たな防衛大綱に従い策定された中期防衛力整備計画で、防衛力の合理化・効率化・コンパクト化を推進するとしている。
また、装備品等の大部分は国内で調達しているものの、主要な装備品の一部についてはFMS調達に依存しており、FMS調達による前払金額も毎年度多額に上っている。
さらに、54年度から平成9年度までの間に支払った前払金の総額1兆4651億余円に対する9年度末現在の未精算額(注1)
は、3345億余円の多額に上っている。
そこで、FMS調達の予算が効率的に執行されているか、FMS調達が所期の目的を十分に達成しているかなどの観点から、FMS調達による前払金について、9年度末現在未精算となっている1,231ケース(注2)
、3345億余円を主な対象として検査を実施した。
(注1) 未精算額 次の式により算出した額
(注2) ケース 引合受諾書に基づく個々の取引
検査したところ、FMS調達による前払金について、次のような事態となっていた。
(1) 未精算について
9年度末現在の前払金の精算状況は、次表のとおりとなっていた。
表2 前払金の精算状況
事項 | ケース数 | 金額 (百万円) |
|||
前払金額 | 1,465,111 | ||||
精算 | 1,130,527 | ||||
未精算 | 1,231 | 334,584 | |||
出荷予定時期を過ぎたもの | 832 | 145,414 | |||
調達品等の納入が遅延しているもの(ア) | 141 | 46,116 | |||
調達品等が納入されたのに精算が遅延しているもの(イ) | 691 | 99,298 | |||
出荷予定時期を過ぎていないもの | 399 | 189,169 |
(注) 出荷予定時期を過ぎていないものには、その時期を過ぎ、納入が遅延した期間が1年未満のものを含む。
未精算となっているもののうち、出荷予定時期を過ぎたもの832ケース、1454億余円について、態様別に示すと次のとおりである。
(ア) 調達品等の納入が遅延しているもの
9年度末現在で、出荷予定時期(品目により出荷予定時期が複数となっているものについては最も遅い時期)を1年以上経過したのに調達品等が納入されていないものが、 次表のとおり、141ケース、未精算額(未納入相当額)461億余円に上っていた。
表3 出荷予定時期からの経過年数別未精算状況
経過年数 | ケース数 | 前払金額 (百万円) |
左のうち未精算額 (百万円) |
7年以上 8年未満 | 4 | 1,473 | 649 |
6年以上 7年未満 | 9 | 5,931 | 1,140 |
5年以上 6年未満 | 13 | 5,326 | 1,836 |
4年以上 5年未満 | 20 | 114,079 | 17,645 |
3年以上 4年未満 | 33 | 12,153 | 3,884 |
2年以上 3年未満 | 35 | 9,807 | 4,273 |
1年以上 2年未満 | 27 | 74,052 | 16,685 |
計 | 141 | 222,825 | 46,116 |
このように、FMS調達による調達品等の納入が大幅に遅延したため、装備品等が本来の機能を十分発揮していなかったと認められる事態は、恒常化していた。
これらの事態について事例を示すと次のとおりである。
<事例1 > 携帯式地対空誘導弾装置の調達
基地等の防空のために必要な携帯式地対空誘導弾装置(以下「携帯SAM」という。)の本体及びこれと一体として使用される味方識別装置等を昭和56年度から平成6年度までの間に、31ケース発注していた。
しかし、本体については、予定の納期を平均6箇月遅延して納入されていた。また、味方識別装置の2種類の構成品については、予定の納期を平均21箇月又は36箇月それぞれ遅延して納入されていた。
このため、本体は配備されたものの味方識別装置が適切に配備されなかった間は、携帯SAMによる防空機能が十分発揮していない状況となっていた。なお、このような状況は改善されつつあるものの、9年度末現在においても解消されるまでに至っていない。
<事例2 > 対戦車ヘリコプターに装備する70mmロケット弾の調達
対戦車ヘリコプターAH−1S(以下「AH−1S」という。)に装備する70mmロケット弾(以下「ロケット弾」という。)をAH−1Sの導入に併せて、昭和58年度から62年度までの間に、7ケース発注していた。
しかし、このロケット弾は、62年度に一部が納入されただけで、平成8、9両年度に残りの大部分が納入されるまでの8年間は全く納入されなかった。特に、AH−1Sが初めて納入された昭和59年度から、ロケット弾が国内製造業者のライセンス生産により納入され始めた平成元年度までの間は、逐次増加していたAH−1Sの機数に比べロケット弾の数は不十分な状況となっていた。
<事例3 > 護衛艦に搭載する補給品の調達
4年度以降に完成した6隻の護衛艦に搭載する装備品、装備品の故障等に対処するため艦内に搭載する補給品などを、昭和63年度から平成5年度までの間に、6ケース発注していた。
しかし、この6隻のうち4隻の補給品については、護衛艦の完成時においても一部の品目が納入されていない状況であった。
また、残りの2隻の補給品についても、その搭載数量を定めた定数表を完成時に合衆国政府から受領していなかったため、実際に搭載されている数量と定数との確認ができない状況であった。なお、海上幕僚監部では、その後受領した定数表により確認した結果、上記残りの2隻の完成後10箇月又は1年10箇月経過した10年1月に、納入されていない補給品の出荷促進を調達本部に依頼している状況であった。
<事例4 > 早期警戒機の搭載通信電子機器の部品の修理
早期警戒機E−2Cに搭載している通信電子機器の部品の修理を、2年度から8年度までの間に、7ケース発注していた。
しかし、2年度から5年度までの間に発注した4ケースは、完納までに3年から5年を要していた。また、9年度末現在、発注した部品で納入されていないものが、6年度分で21%、7年度分で42%、8年度分で61%となっている状況であった。
(イ) 調達品等が納入されたのに精算が遅延しているもの
調達品等が納入されていて、計算書が送付されていないため精算が完了していないものが、前記のとおり、9年度末現在691ケース、992億余円あった。このうち、納入完了後1年以上経過しているにもかかわらず、精算が完了していないものが336ケースあり、未精算額は396億余円の多額に上っている状況であった。
この状況を経過年数別に示すと次表のとおりである。
表4 納入完了後の経過年数別未精算状況
経過年数 | ケース数 | 未精算額(百万円) |
9年以上 | 7 | 120 |
8年以上 9年未満 | 5 | 122 |
7年以上 8年未満 | 5 | 989 |
6年以上 7年未満 | 5 | 1,578 |
5年以上 6年未満 | 35 | 1,338 |
4年以上 5年未満 | 26 | 8,106 |
3年以上 4年未満 | 32 | 2,429 |
2年以上 3年未満 | 46 | 6,844 |
1年以上 2年未満 | 100 | 8,356 |
小計 | 261 | 29,885 |
給付の確認未了 | 75 | 9,805 |
計 | 336 | 39,691 |
(注)1 経過年数は給付の確認(計算書と受領検査調書との照合)時からの年数
2 給付の確認未了は、合衆国政府から計算書が送付されていないため、受領検査調書との照合ができず、経過年数ごとの区分ができないもの
このように、調達品等が納入されたのに長期にわたり多額の未精算が生じている状況となっているのは、合衆国政府が生産単位ごとの補給が完了するまで計算書を発給しないことなどによると認められる。
(2) 前払金の精算により生じた余剰金について
上記(1)のほか、5年度から9年度までの5年間に前払金の精算により返済のあった余剰金は、768ケースで387億余円となっていた。このうち、73ケースについては、数量変更等によるものであるが、残りの695ケース、202億余円については、次表のとおり、計算書による給付の確認の結果、前払金が過大となっていたものであった。
表5 給付確認額に対する前払金額の倍率
前払金額/給付確認額 (倍) |
ケース数 | ケース数の構成比 (%) |
余剰金(百万円) |
2.0以上 | 124 | 17.8 | 3,877 |
1.5以上 2.0未満 | 81 | 11.7 | 4,500 |
1.4以上 1.5未満 | 21 | 3.0 | 830 |
1,3以上 1.4未満 | 37 | 5.3 | 1,948 |
1.2以上 1.3未満 | 65 | 9.4 | 2,617 |
1.1以上 1.2未満 | 112 | 16.1 | 4,575 |
1.0以上 1.1未満 | 255 | 36.7 | 1,871 |
計 | 695 | 100.0 | 20,220 |
このように、前払金が過大になっているのは、合衆国政府がいかなる損失も被らないようにすることなどを定めた武器輸出管理法に基づき引合受諾書が定められていることから、見積価格が高めに設定される傾向にあることなどによると認められる。
上記(1)、(2)の事態に対して、防衛庁では適切を欠く事態と認識し、次のような対策を講じている。
(1) 内部部局では、
ア 8年10月から毎年、合衆国政府と出荷及び精算の促進などについて討議する会議を開催している。
イ 10年1月、各幕等に対し、過去の余剰余の発生状況を踏まえた上で、より正確な見積りで引合書の価格が算出されるよう依頼文を引合書の請求に添える旨を指示した。
(2) 調達本部では、
ア 昭和53年度以降、合衆国政府と、出荷促進を含む精算促進のための日米精算交渉会議を年2回程度開催している。
イ 訓令によると、調達品等の納入が遅延しているもののうち、各幕等から請求があった場合などは、個別に合衆国政府に対して書面で出荷促進を要請することとされている。
3 本院の所見
本院はこれまでも、FMS調達について重大な関心をもって検査に当たってきたところであり、今回の検査は主に効率性、有効性等の観点から実施した。
そして、防衛庁においても、上記のとおり、対策を講じているものの、依然、事態の抜本的な改善が見られていない。
このため、これらの事態が解決されないまま推移すると、次のようなことなどが継続すると認められる。
〔1〕 調達品等の納入が遅延する場合や、前払金の精算により多額の余剰金が生じる場合は、資金が利息も発生しないままアメリカ合衆国に滞留することとなり、国庫金の有効活用が図られないこと
〔2〕 精算促進等のために時間及び労力を費やし、業務が非効率になること
〔3〕 防衛力の整備に支障を来す懸念があること
ついては、これらの事態が生じているのは、基本的には、合衆国政府の事情によるものであるが、防衛庁においても、限られた予算を効率的に使用して、我が国の安全を確保するため、次のような対策を講ずるなどして、可能な限り事態の改善を図り、国費の使用について国民の理解が得られるよう努めることが望まれる。
(ア) 合衆国政府との間では、ケースごとに担当者間でその都度交渉して問題の解決を図っているが、担当者により交渉結果が左右されたり、交渉に時間を要したりなど、これには自ずから限界がある。したがって、関係機関等とも調整を図りながら、合衆国政府との会議の場において、問題解決に向けた新たな方策を導入するために努力するとともに、FMS調達で同様な立場にある諸外国を調査するなどして、合衆国政府と折衝を行うこと
(イ) 調達品等の納入が著しく遅延しているものについては、部隊等の運用に支障を来しているものとそうでないものとをしゅん別し、支障を来しているものについては、合衆国政府に対し個別に交渉して、遅延の理由や納入見込時期等の説明を求め、納入の促進を図るとともに、他に調達方法を検討し、また、支障を来していないものについては、調達の必要性を検討すること