検査対象 | 北海道東北開発公庫 |
出資・融資の概要 | 昭和44年に策定された新全国総合開発計画に示された基本構想に基づき開発が進められている苫小牧東部開発地域及びむつ小川原開発地域の開発主体である苫小牧東部開発株式会社及びむつ小川原開発株式会社に対する、用地取得及び造成等の事業に必要な北海道東北開発公庫の出資・融資 |
平成9年度までの出資・融資額 | 苫小牧東部開発株式会社 | 出資額 | 15億 | 円 |
総融資額 | 1360億 | 50百万円 | ||
償還済額 | 399億 | 32百万円 | ||
融資残高 | 961億 | 18百万円 | ||
むつ小川原開発株式会社 | 出資額 | 20億 | 円 | |
総融資額 | 1430億 | 円 | ||
償還済額 | 470億 | 64百万円 | ||
融資残高 | 959億 | 36百万円 | ||
2社計 | 出資額 | 35億 | 円 | |
総融資額 | 2790億 | 50百万円 | ||
償還済額 | 869億 | 96百万円 | ||
融資残高 | 1920億 | 54百万円 |
1 苫小牧東部開発地域及びむつ小川原開発地域の概要
苫小牧東部開発地域(以下「苫東工業基地」という。)及びむつ小川原開発地域(以下「むつ工業基地」という。)の開発は、国土総合開発法(昭和25年法律第205号)に基づき、昭和44年に政府により決定された新全国総合開発計画(以下「新全総」という。)に示された、基礎資源型工業の大規模コンビナートを中軸とする巨大工業地帯の建設を図るという基本構想に基づいている。そして、苫東工業基地については北海道開発庁(以下「開発庁」という。)が、むつ工業基地については青森県(以下「県」という。)が策定したそれぞれの地域の開発に係る基本計画に基づいて推進されている。
苫東工業基地の開発主体として、47年7月、北海道東北開発公庫(以下「公庫」という。)、北海道ほか地方公共団体及び民間企業の共同出資(出資額20億円)により苫小牧東部開発株式会社(以下「苫東開発(株)」という。)が、むつ工業基地の開発主体として、46年3月、公庫、県及び民間企業の共同出資(同15億円)によりむつ小川原開発株式会社(以下「むつ開発(株)」という。)が、それぞれ第3セクターとして設立された。両会社は国及び地方公共団体と協議しながら、用地の取得、造成及び分譲のほか、道路、緑地の造成等を行うことになった。
国においては、工業基地開発の総合的推進を図ることを目的として、開発庁を事務局とする関係11省庁(現在は13省庁)からなる苫小牧東部大規模工業基地開発連絡会議(平成9年2月以降は苫小牧東部開発連絡会議)(注1)
及び経済企画庁(昭和49年6月以降は国土庁)を事務局とする関係8省庁(現在は14省庁)からなるむつ小川原総合開発会議(注2)
が設置された。そして、これら関係各省庁、地方公共団体等が港湾、道路等の基盤整備を実施するなど、両工業基地は国家的事業として総合的に推進されてきた。
(ア) 苫東工業基地について
開発庁は、新全総における北海道開発の基本構想を受け、北海道開発法(昭和25年法律第126号)に基づき策定された第3期北海道総合開発計画に示された苫小牧東部地区における大規模工業基地建設を実施に移すため、46年8月、苫小牧東部大規模工業基地開発基本計画(以下「苫東基本計画」という。)を策定した。
苫東基本計画では、始期を46年度、終期を完成が見込まれる60年代とし、同工業基地の開発を国家的事業と位置付けるとともに、工業開発地区の面積を約1万haとし、この地区に国際的規模の鉄鋼、石油精製及び非鉄金属等の基幹工業と自動車工業等を導入するものとしていた。
そして、苫東工業基地の開発は長期かつ広範多岐にわたるものであることから、苫東基本計画の実効性を確保するために、中間的目標を定めた第一段階計画(48年)、第二段階計画(54年)、第三段階計画(61年)がそれぞれ策定された。
その後、開発庁は、平成7年8月、社会経済情勢の変化を踏まえ、苫東基本計画の理念である基幹工業を中心とした、いわゆる「重厚長大」型の工業開発から、生産機能はもとより、研究開発機能や居住・生活機能等を備えた、いわゆる「複合開発」への転換を図った「苫小牧東部開発新計画」を決定し、同計画を実行するため、9年3月「苫小牧東部開発新計画の進め方について(新段階計画)」を策定した。
(イ) むつ工業基地について
県は、新全総における東北地方開発の基本構想を踏まえ、昭和47年6月「むつ小川原開発第1次基本計画(以下「第1次基本計画」という。)を、50年12月「むつ小川原開発第2次基本計画」(以下「第2次基本計画」という。)を策定し、関係各省庁に提出した。
第2次基本計画は、第1次基本計画を更に具体化したもので、工業開発地区の面積を約5,280haとし、この地区に石油精製、石油化学、火力発電及びその他関連工業を導入するものとしている。
52年8月、関係各省庁において、第2次基本計画を参酌しつつ、計画の具体化のため所要の措置を講ずる等についての申し合わせが行われ、これに基づき事業推進に必要な施策等について適切な措置を溝ずることとなった。さらに、60年4月には、第2次基本計画に原子燃料サイクル施設の立地が織り込まれた。
公庫は、北海道・東北地域開発のための政府系金融機関として設置されており、平成9年度末現在の融資残高は1兆5036億円、出資金残高は137億円で、これらの原資は、資金運用部等からの借入金6578億円、政府引受債等債券7958億円、政府出資金750億円などとなっていて、その大半を財政投融資資金に依っている。
そして、公庫は、国家的事業として位置付けられている両工業基地に対する国の方針等を踏まえ、民間の投資及び一般の余融機関が行う金融を補完し、又は奨励するため、苫東開発(株)及びむつ開発(株)の設立以降継続して出資・融資を行うことにより、金融面から国家的事業推進の一翼を担ってきた。
2 検査の背景
両工業基地の用地の分譲は、苫東開発(株)では4年度以降、むつ開発(株)では昭和62年度以降低迷を続け、また、平成9年11月には、苫東開発(株)に対する協調融資団(注3)
(株式会社北海道拓殖銀行(以下「北海道拓殖銀行」という。)ほか38行等が協調して融資する体制を以下「苫東協調融資団」という。)の幹事行である北海道拓殖銀行の経営破綻等を契機として、協調融資体制の維持が困難となったため、苫東開発(株)は新規融資が受けられなくなり、元利金の支払いができない事態となった。
一方、行政改革の一環として9年9月に政府において決定された「特殊法人等の整理合理化について」では、「北海道東北開発公庫は、平成11年の通常国会において法律改正を行うことにより廃止し、日本開発銀行が担当してきた業務を新たな視点から減量再編成した新銀行に統合する。」、「北海道東北開発公庫に係る「むつ小川原開発」、「苫小牧東部開発」の両プロジェクトについては、新銀行設立までの間に、関係省庁、地方公共団体、民間団体等関係者間において、その取扱いについて協議の上、結論を得るものとする。」とされた。
公庫の苫東開発(株)及びむつ開発(株)に対する出資・融資については、本院としても、従来から、主として融資が適正に行われているか、出資・融資の効果は上がっているかなどの観点から検査を実施してきているが、上記の経緯や状況を踏まえ、公庫の両会社に対する出資・融資の状況、両会社の事業実績、経営状況及び債務の返済状況について検査を実施した。
3 検査の状況
(1) 両会社の事業実績
両会社は、公庫及び民間金融機関等からの融資を受け、用地の取得、造成及び分譲等を行い、その分譲収入を原資として債務の返済を行う仕組みとなっている。
両会社の9事業年度(苫東開発(株)は、4月から翌年3月まで、むつ開発(株)は、1月から12月まで)末現在の用地取得、造成及び分譲の事業実績は次表のとおりである。
区分 | 苫東開発(株) | むつ開発(株) | 備考 | |
開発計画面積 | 10,700ha | 5,280ha | 苫東開発(株)の買収済面積7,473haのほか、北海道が先行取得したままとなっている面積等が761haある。 したがって、苫東工業基地全体としての買収済面積は8,234 ha(買収率87.2%)となる。 |
|
買収計画面積(A) | 9,434ha | 4,343ha | ||
買収済面積(B) | 7,473ha | 3,989ha | ||
買収費用 | 707億72百万円 | 260億61百万円 | ||
買収率(B/A) | 79.2% | 91.8% | ||
用地造成実績 | 1,097ha | 833ha | ||
造成費用 | 498億84百万円 | 218億12百万円 | ||
分譲予定面積(A) | 5,500ha | 2,874ha | ||
分譲済面積(B) | 820ha | 1,101ha | ||
分譲売上高 | 972億37百万円 | 1201億76百万円 | ||
分譲率(B/A) | 14.9% | 38.3% |
苫東工業基地の用地については、開発を長期的・計画的に進め無秩序な開発を防止するなどのため、北海道が昭和44年から先行取得を開始しており、49年からは苫東開発(株)も買収を開始している。また、むつ工業基地の用地については、むつ開発(株)が財団法人青森県むつ小川原開発公社に用地買収交渉等の事務を委託して47年から買収を開始している。
両工業基地の平成9事業年度末の用地買収実績のうち第2次石油危機が発生した昭和53事業年度までの用地買収実績についてみると、苫東工業基地では、苫東開発(株)が4,293ha(買収費469億66百万円、平成9事業年度末買収費総額の66.3%)、北海道等が2,879ha、計7,172ha(買収率76.0%)、むつ工業基地では、むつ開発(株)が3,074ha(買収費180億93百万円、9事業年度末買収費総額の69.4%、当時の買収計画面積5,280haに対する買収率58.2%)となっていて、用地取得開始後、早い段階に買収が行われ、その費用は公庫及び民間金融機関等からの多額の借入れにより賄われた。そして、9事業年度末現在、両工業基地で未買収となっている用地は、その大部分が国有地となっていて、用地買収は既におおむね完了している。
両工業基地の用地の造成等は、苫東開発(株)が昭和52事業年度から、むつ開発(株)が54事業年度から実施しており、原則として販売実需に応じて、上水道施設、道路等の整備工事等とともに実施されている。このうち用地造成開始後10年間の累計額は、苫東開発(株)が394億45百万円(用地造成費総額の79.0%)、むつ開発(株)が166億70百万円(同76.4%)となっており、いずれも初期の段階で用地の分譲が進んだこともあってこの時期に費用の大半が投じられている。
(ア) 分譲価格の設定方法
両会社は、用地の分譲に当たり、基本的には、総括原価方式を採用して分譲価格を設定している。この方式は、毎事業年度、事業終了までに必要と見込まれる用地取得費、造成費等の総支出を積算し、それを賄うのに必要な総収入を算出して、この総収入を、今後の販売可能面積(未分譲面積)で除して工業基地全体の平均単価を算出するものである。各地区ごとの分譲単価については、立地条件や近隣の工業団地の分譲単価等を総合的に勘案して決定している。
そして、上記の方法で決定した平成9事業年度の分譲単価は、苫東開発(株)については、最も高い臨海部で23,900円/m2
、最も安い内陸部で12,200円/m2
、むつ開発(株)については、最も高い臨海部で22,300円/m2
、最も安い地区で13,100/m2
となっている。
(イ) 用地の分譲及び企業立地の状況
両会社は、企業誘致のため種々の営業活動を実施してきており、北海道、県等においても、立地企業に対して、種々の優遇措置を講じたりして、用地分譲の努力を重ねてきた。しかし、工業用地の分譲開始後約20年を経過した9事業年度末現在の両会社の分譲予定面積に対する分譲率は、それぞれ14.9%、38.3%と低いものとなっている。
また、事業年度別の分譲実績の推移についてみると、次のとおりである。
〔1〕 苫東開発(株)における分譲実績の推移
昭和53事業年度に分譲を開始して以来、最初の4年間で電力会社発電所(石炭火力)用地、民間及び国家石油備蓄用地、自動車会社工場用地等として561haを分譲(分譲率10.2%、分譲売上高446億77百万円(平成9事業年度末までの分譲売上高の45.9%))した。しかし、その後は、2度の石油危機等による原油価格の高騰、プラザ合意以降の急激な円高に伴う企業の海外進出等の要因から、当初想定した石油精製等の基幹工業が進出しなかったことなどのため、大規模な分譲実績はない。
直近5年間における分譲実績は20ha(1事業年度平均4ha)、分譲売上高33億78百万円(同6億75百万円)と小規模かつ少額となっている。さらに、分譲契約を締結した企業は、9事業年度末現在で70企業あるが、そのうち37企業(86ha)は操業に至っていない。
〔2〕 むつ開発(株)における分譲実績の推移
昭和55事業年度に分譲を開始して以来、最初の7年間で原子燃料サイクル施設用地、国家石油備蓄用地等として985haを分譲(61事業年度の分譲計画面積2,543haに対する分譲率38.7%、分譲売上高513億10百万円(平成9事業年度末までの分譲売上高の42.6%))した。しかし、その後は、苫東開発(株)の場合と同様の要因から、当初想定した石油精製等の基幹工業が進出しなかったことなどのため、大規模な分譲実績はない。
直近5年間における分譲実績は60ha(1事業年度平均12ha)、分譲売上高87億60百万円(同17億52百万円)と小規模かつ少額となっている。さらに、分譲契約を締結した企業は9事業年度末現在で61企業あるが、そのうち24企業(16ha)は操業に至っていない。
(2) 両会社の経営状況
上記のとおり、工業用地の分譲が計画どおり進ちょくせず、分譲収入がごくわずかとなっていることから、両会社の損益及び資金収支は極めて厳しい状況となっている。このため、両会社は公庫等と協議し、役職員数の削減等、経費の削減を行ってきた。しかし、5事業年度から9事業年度までの営業損益についてみると、両会社とも、毎年営業損失を計上しており、9事業年度末現在の当期未処理損失は苫東開発(株)が38億39百万円、むつ開発(株)が31億15百万円となっている。
両会社は、用地取得費、用地造成費、公共負担金の全額及び現地経費のほか、支払利息の大部分を資産勘定である未成不動産(注4)
に計上している。このうち支払利息は、長期の不動産開発事業においては、企業会計処理上用地の取得と密接な因果関係が認められる支払利息を用地の取得原価に算入することが容認されていることから、未成不動産に含め、費用に計上しないため、当期の損益には反映されないこととなる。
両会社の5事業年度及び9事業年度末現在の未成不動産の帳簿価額は、次表のとおりである。
事業年度末
\
区分 |
平成5事業年度(A) | 平成9事業年度(B) | 増減 (B-A) |
|||
構成比 | 構成比 | |||||
苫東開発(株) | 用地取得費 |
百万円 59,498 |
% 32.5 |
百万円 59,611 |
% 27.3 |
百万円 113 |
造成費 | 31,232 | 17.1 | 32,022 | 14.6 | 790 | |
支払利息 | 83,565 | 45.7 | 114,749 | 52.6 | 31,184 | |
その他経費等 | 8,224 | 4.5 | 11,511 | 5.2 | 3,287 | |
計 | 182,521 | 100 | 217,894 | 100 | 35,373 | |
むつ開発(株) | 用地取得費 | 42,893 | 20.4 | 42,528 | 17.3 | △365 |
造成費 | 4,869 | 2.3 | 5,145 | 2.1 | 276 | |
公共負担金 | 28,271 | 13.4 | 30,407 | 12.4 | 2,136 | |
支払利息 | 118,893 | 56.6 | 151,128 | 61.7 | 32,235 | |
その他経費等 | 14,976 | 7.1 | 15,483 | 6.3 | 507 | |
計 | 209,904 | 100 | 244,692 | 100 | 34,788 |
未成不動産の帳簿価額のうち支払利息についてみると、苫東開発(株)においては5事業年度835億65百万円(構成比45.7%)であったものが、9事業年度には311億84百万円増加して1147億49百万円(同52.6%)となっている。また、むつ開発(株)においては、5事業年度1188億93百万円(同56.6%)であったものが、9事業年度には322億35百万円増加して、1511億28百万円(同61.7%)となっている。
このように、支払利息が帳簿価額の半分以上を占めているのは、前記のとおり用地の取得が、開発の早期の段階で公庫及び民間金融機関等からの借入れにより行われたにもかかわらず、用地の分譲が長期にわたって低迷していることから、利息の支払い、借入金の返済のために新たな借入れをせざるを得ず、支払利息が年々累増したことによるものである。そして、この結果、未成不動産の帳簿価額が膨らむことになり、分譲価格の算定の際の原価が上昇する要因になっている。
(3) 両会社に対する出資・融資及び償還状況
前記のとおり、公庫、地方公共団体、民間企業等は、両会社に対し共同して出資を行っており、このうち公庫は、両会社の用地の取得及び造成等事業の遂行を支援する目的で、新株引受けの方法により出資を行っている。9年度末現在、苫東開発(株)の発行済株式総数の25%に当たる300万株(出資額15億円)、むつ開発(株)の発行済株式総数の33.3%に当たる400万株(同20億円)を保有している。
苫東協調融資団は公庫等と協調して融資を行っており、苫東開発(株)に対する9事業年度末現在融資残高は1781億09百万円で、その内訳は、公庫961億18百万円、都市銀行等23行647億10百万円、生命保険会社16社150億35百万円、その他22億46百万円で、借入先の総数は43の多数に上っている。
むつ開発(株)に対する協調融資団(注5)
(株式会社日本興業銀行ほか35行等が協調して融資する体制を以下「むつ協調融資団」という。)も公庫と協調して融資を行っており、むつ開発(株)に対する9事業年度末現在融資残高は2278億31百万円で、その内訳は、公庫952億36百万円、都市銀行等25行1117億59百万円、生命保険会社11社208億36百万円で、借入先の数は37の多数に上っている。
このうち、公庫の両会社に対する9年度末現在の融資及び償還状況は、次表のとおりである。
区分 | 苫東開発(株) | むつ開発(株) | 2社計 | |||||||
総融資額 | 1360億50百万円 | 1430億円 | 2790億50百万円 | |||||||
償還済額 | 399億32百万円 | 470億64百万円 | 869億96百万円 | |||||||
融資残高 |
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(注) ( )内は、公庫の9年度末融資残高1兆5036億円に対する比率
公庫では、苫東協調融資団及びむつ協調融資団とともに、両会社に対し当初から融資を行ってきており、融資の利率については、本件融資対象が大規模基地活性化事業に係る貸付けに該当するものの、公庫の資金事情を勘案し、その過半について基準金利より低利な特別利率を適用している。
そして、公庫の貸付けの対象となる事業費(以下「貸付対象事業費」という。)は、用地取得費、造成費及びこれらに係る借入金の支払利息等とされている。このうち借入金の支払利息は、両会社設立当初から、用地取得費、造成費等と同様に土地原価に計上される諸費用であるとして融資対象としていたが、当初は、その大宗が用地の取得及び造成等に直接必要とするものがその対象となっていた。しかし、長期にわたって用地分譲が進まないことから、公庫の4事業年度から8事業年度までの5年間(9事業年度は延滞が発生しているためその直近の年度から5年間)の苫東開発(株)及び5事業年度から9事業年度までの5年間のむつ開発(株)に係るそれぞれの貸付対象事業費についてみると、支払利息に係るものはそれぞれ82.9%及び77.6%を占めるに至っている。
公庫の苫東開発(株)に対する貸付金の償還状況についてみると、昭和48年3月から55年9月までに貸し付けた355億円については、貸付条件を変更したものを含めて平成7年3月までに全額償還されている。昭和54年3月以降に貸し付けた1005億50百万円のうち、当初の約定による償還日が到来した841億50百万円については、93億円の貸付けに係る44億32百万円の償還がなされたのみで、残りの748億50百万円については、期限の延長等償還条件の変更により返済が繰り延べられている。
また、公庫のむつ開発(株)に対する貸付金の償還状況についてみると、48年1月から56年5月までに貸し付けた458億円については、貸付条件を変更したものを含めて平成8年3月までに全額償還されている。昭和56年8月以降に貸し付けた972億円のうち、当初の約定による償還日が到来した815億円については、18億円の貸付けに係る12億64百万円の償還がなされたのみで、残りの797億円については、期限の延長等償還条件の変更により返済が繰り延べられている。
上記の貸付条件の変更について、公庫では、貸付金の償還は、土地の分譲収入を原資としていて、分譲収入は年度によって大きく変動するなどの当該事業の基本的な性格にかんがみ、円滑な事業推進を図る上で必要不可欠であるとして、苫東協調融資団及びむつ協調融資団と協議・調整の上、繰り返し期限の延長等償還条件の変更を行っている。
しかし、これらの分譲が進まないままでの貸付条件の変更は、当面の資金不足の回避にはなるものの、結果として金利支払総額を増加させることになり、その分が分譲用地の価格の上昇要因になると認められる。
(償還計画及び償還の見通し)
苫東開発(株)に対する公庫及び苫東協調融資団等の融資残高は、9事業年度末現在1781億09百万円であるが、前記のとおり9年11月から、元利金の支払いが延滞となっていて、償還の見通しが立っていない。
むつ開発(株)に対する公庫及びむつ協調融資団の融資残高は、9事業年度末現在2278億31百万円であり、9事業年度末現在の貸付条件に基づいて作成した10事業年度以降の毎年の償還予定額は、10事業年度約439億円、11事業年度以降24事業年度までで約1839億円となっている。
(抵当権の設定状況及び担保価値)
担保の徴求に当たっては、公庫と両会社との間で、毎年度、抵当権設定契約を締結しており、その時点で残高(被担保債権)のある全貸付けについて、取得済用地から分譲済用地を差し引いた用地(以下「担保物件」という。)をその時点のものに洗い替える形で抵当権を設定している。順位は第1順位で、苫東開発(株)については仮登記、むつ開発(株)については登記を留保している。
両会社の担保物件の評価は、用地買収費に道路、港湾等の公共事業等の付加価値を上乗せして用地が分譲できることを前提としている分譲価格をもとに算出している。
(ア) 苫東開発(株)ついて
苫東開発(株)の9年度末現在の担保物件は、6,596haである。その担保価額については、分譲単価の最も低い地区の4年度単価(9,700円/m2 )から造成費相当額(3,000円/m2 )を控除した後の金額に一定の率を乗じて、1m2 当たりの担保価額を5,700円とし、これに担保物件(6,596ha)のうち緑地(2,002ha)を除いた分譲用地面積(4,594ha)を乗じた2618億58百万円であり、苫東協調融資団等を含めた被担保債権額(1778億63百万円)を上回るとしている。
(イ) むつ開発(株)について
むつ開発(株)の9年度末現在の担保物件は、工業用地、新市街地及び固定資産土地等の3,035haである。その担保価額については、上記各地区の平均分譲単価(未造成地は造成費控除後の単価)に一定の率を乗じて、これに担保物件(3,035ha)のうち緑地等(934ha)を除いた各地区の面積(合計2,100ha)をそれぞれ乗じた2702億68百万円であり、むつ協調融資団を含めた被担保債権額(2290億28百万円)を上回るとしている。
しかし、開発の途中で事業を中止又は終了させる場合には改めて評価することになり、完成を前提とした分譲価格をもとに算出した上記の担保価額は大幅に下がるものと認められる。
(4) 両工業基地開発を巡る最近の状況
(ア) 苫東工業基地について
苫東工業基地については、公庫と苫東協調融資団等が協調して苫東開発(株)に対する融資を継続してきたところである。しかし、9年11月、北海道拓殖銀行の破綻等を契機として、新規融資に慎重な姿勢を示す金融機関等が顕在化し、協調融資体制の維持が困難となったため、協調融資を原則としている公庫も、新規融資を行うことができない事態となった。この結果、苫東協調融資団等の貸付債権は、同年11月以降順次延滞となっている。
そして、公庫については、10年9月末現在、公庫の貸付金に係る利息30億13百万円が6箇月以上の延滞、15億31百万円が3箇月以上の延滞となっている。
苫東工業基地開発については、政府において決定された「特殊法人等の整理合理化について」に基づき、開発庁、北海道、公庫及び苫東開発(株)の関係4者間で、「苫東問題解決のため早急に抜本的措置を講ずることが必要」との認識の下に協議を進めている。
(イ) むつ工業基地について
むつ工業基地については、公庫及びむつ協調融資団が協調してむつ開発(株)に対する融資を継続してきており、むつ開発(株)及び社団法人経済団体連合会(以下「経団連」という。)ではむつ協調融資団に対し毎年金融説明会を開催し、融資の要請を行うなどしている。
なお、公庫は、10年9月期におけるむつ開発(株)の支払利息12億77百万円については、支払期限を3箇月延長する措置を講じた。
国土庁、県、公庫、むつ開発(株)及び経団連の関係5者は、政府において決定された「特殊法人等の整理合理化について」に基づき、今後のむつ小川原開発の進め方等について協議を開始しているが、同年6月中間とりまとめを行い、協調融資体制の維持、土地取得費補助金制度等の質的拡充等の新たな支援パッケージ構築の方向性を確認し、できるだけ早期に所要の結論を得ることにしている。
一方、県では、10年6月「今後のむつ小川原開発の進め方について−新計画の骨子案−」及び「今後のむつ小川原開発において取り組むべき先導的研究開発プロジェクトの実現に向けての当面の行動計画」を策定した。その内容は、エネルギー、環境及び生活分野に関連したクリーンエネルギーなど8件のブロジェクトの実現を目指し、併行して多角的な産業の立地を図るものとしている。現在、このプロジェクトを中核とする「新むつ小川原開発基本計画」の策定に向けた作業に取り組んでいる。
4 本院の所見
上記の事態にかんがみ、関係省庁、公庫、地方公共団体及び民間団体等関係者間において協議が進められているところであるが、早急に結論が得られるよう、協議の促進を図ることが必要であると認められる。
(注1) 苫小牧東部開発連絡会議 北海道開発、経済企画、科学技術、環境、国土各庁、大蔵、厚生、農林水産、通商産業、運輸、郵政、建設、自治各省
(注2) むつ小川原総合開発会議 防衛、経済企画、科学技術、環境、国土各庁、大蔵、文部、厚生、農林水産、通商産業、運輸、労働、建設、自治各省
(注3) 苫東開発(株)に対する協調融資団
〔1〕 都市銀行 株式会社北海道拓殖、同さくら、同第一勧業、同富士、同住友、同東京三菱、同三和、同東海、同あさひ、同大和各銀行 (10行)
〔2〕 長期信用銀行 株式会社日本興業、同日本長期信用、同日本債券信用各銀行 (3行)
〔3〕 信託銀行 三菱、住友、三井、安田、東洋、中央、日本各信託銀行株式会社 (7行)
〔4〕 地方銀行 株式会社北海道、同北洋、同札幌各銀行(3行)
〔5〕 生命保険会社 日本、明治、住友、第一、朝日、太陽、千代田、安田、三井、東邦、第百、富国、大同、東京各生命保険相互会社、協栄、平和各生命保険株式会社(16社)
(注4) 未成不動産 貸借対照表上の流動資産に属する科目の一つで、分譲のために取得した土地の原価を表す。この原価には、土地の購入代金のほか、付随費用(造成費等)が含まれており、土地の時価又は分譲価格を表すものではない。
(注5) むつ開発(株)に対する協調融資団
〔1〕 都市銀行 株式会社北海道拓殖、同さくら、同第一勧業、同富士、同住友、同東京三菱、同三和、同東海、同あさひ、同大和各銀行(10行)
〔2〕 長期信用銀行 株式会社日本興業、同日本長期信用、同日本債券信用各銀行(3行)
〔3〕 信託銀行 三菱、住友、三井、安田、東洋、中央、日本各信託銀行株式会社(7行)
〔4〕 地方銀行 株式会社みちのく、同青森、同七十七、同岩手、同東北各銀行(5行)
〔5〕 生命保険会社 日本、明治、住友、第一、朝日、千代田、安田、三井、東邦、富国各生命保険相互会社、協栄生命保険株式会社(11社)