会計名及び科目 | 一般会計 | (組織)防衛本庁 | (項)武器車両等購入費 (項)装備品等整備諸費 (項)南極地域観測事業費 |
平成10年度国庫債務負担行為 | |||
(組織)防衛本庁 | (事項)武器購入 (事項)通信機器購入 (事項)装備品等整備 |
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部局等の名称 | 海上自衛隊横須賀地方総監部ほか4地方総監部 | ||
契約名 | 「はやしお」定期検査ほか102件 | ||
契約の概要 | 自衛艦の定期検査、年次検査及びこれら検査と併せ施行する修理工事 | ||
契約の相手方 | 三菱重工業株式会社神戸造船所ほか16造船所 | ||
契約 | 平成10年4月〜11年3月 随意契約 | ||
契約金額 | 506億1565万余円 |
(平成11年11月22日付け 防衛庁長官あて)
標記について、会計検査院法第36条の規定により、下記のとおり改善の処置を要求する。
記
1 契約の概要
貴庁海上自衛隊横須賀地方総監部ほか4地方総監部では、自衛艦及び支援船(以下「艦船」という。)の安全性等を確保するため、定期及び年次の検査・修理(以下「修理等」という。)を造船会社に請け負わせ実施している。
この修理等は、「船舶の造修等に関する訓令」(昭和32年防衛庁訓令第43号)に基づき、定期修理等については、鋼船は4年ごとに、鋼船以外の船舶及び潜水艦は3年ごとに実施され、年次修理等については、定期修理等が実施される年度を除いて毎年度1回実施されている。
このため、修理等の契約額は毎年多額に上っており、平成10年度についてみると、艦船の主力をなす自衛艦の修理等の契約103件を、それぞれの艦船が在籍する地方総監部において、三菱重工業株式会社神戸造船所ほか16造船所(注1)
と締結しており、その契約総額は506億1565万余円に上っている。
上記103件の修理等の契約に当たり、各地方総監部では、艦船本体の修理等は建造した造船所以外の造船所でも実施可能であることから、修理等を請け負わせるに足りる資力、技術力等の信用力がある造船所を対象に指名競争入札に付して契約を締結することとしている。
なお、このほか、修理等に特殊な施設が必要であるなどのために特定の業者に請け負わせる必要がある8件については随意契約を締結している。
上記の修理等契約の入札までの手順は、「艦船の修理、定期検査等に関する達」(昭和45年海上自衛隊達第45号)等に基づき、以下のとおりとされている。
〔1〕 各艦船の長は、当該艦船が在籍する各地方総監部の所在地に設置されている造修補給所(平成10年12月7日以前は「造修所」。以下同じ。)の長に対し、修理等開始期日の45日前までに工事請求書を提出する。
〔2〕 造修補給所長は、工事請求書の内容について現場調査を行うなどしたうえで、修理等を要する箇所、希望する造船所(指名業者)等を決定し、仕様書及び積算内訳書の参考資料を作成して、分任支出負担行為担当官である地方総監部経理部長に対し工事等役務調達要求書を提出する。
〔3〕 同経理部長は、造修補給所からの希望を参考にするなどして指名業者を選定し、海上自衛隊契約規則(昭和43年海上自衛隊達第17号。以下「契約規則」という。)に基づく「調達要求及び契約審査会」での審査を経た後、指名業者を決定し入札通知書を発送する。
〔4〕 各地方総監部では、入札通知書を発送した後、仕様説明会を修理等開始期日の10日から20日前までに行い、その後入札を実施する。
指名業者の選定に当たっては、競争による経済性を確保するため、契約規則に基づき作成している有資格者名簿に登載されている造船所の中から、海上自衛隊が考慮している次の点などを踏まえて、原則として各地方総監部の警備区域内に所在するすべての造船所を指名することとしている。
(ア) 自衛艦が損傷し又は故障した場合の復旧に当たっては、即応態勢を維持する観点から、定係港の近傍に修理可能な造船所を確保すること
(イ) 自衛艦が定係港に停泊している日数は年間の半分にも満たないことから、修理等の実施期間中は乗組員に家族と接するなどの機会を与えて休養をとらせること
また、選定に当たって、警備区域内に指名可能な造船所が1箇所しか存在しなかったり又は全く存在しない場合は、他の地方総監部の警備区域に所在する造船所を含めて複数の造船所を指名することとしている。
修理等の予定価格は、入札日までに、地方総監部経理部で造修補給所長から提出された積算内訳書等の参考資料の査定等を行ったうえで、「予定価格算定要領について」(平成元年海幕経第2779号海上幕僚監部監理部長名)に基づき、次のとおり算定し、予定価格調書を作成することとなっている。
(ア) 計算価格の主たる要素である加工費は、「標準工数の適用について」(平成元年海幕艦船第3706号海上幕僚監部装備部長名)に定める標準工数等により、当該自衛艦の修理等に要する総所要工数(時間)を算定し、その総所要工数に加工費率(1時間当たりの労務費と製造間接費の合計)を乗じて算定する。
(イ) 予定価格は、この加工費に直接材料費及び直接経費を加えた製造原価に、総利益率(一般管理費及び販売費、支払利子、利益の所定の率)を乗ずるなどして算定する。
2 本院の検査結果
修理等に係る契約は、前記のとおり指名競争入札により実施することとしているが、その際、競争性が十分確保されているか、また、予定価格の算定は適切に行われているかに着眼して検査した。
検査に当たっては、前記の103件の契約(護衛艦45件、潜水艦12件、掃海艦(艇)24件、その他の自衛艦22件)を対象にその入札状況及び予定価格の算定について検査した。
検査したところ、次のとおりとなっていた。
(1) 入札の状況について
本件103件の契約において指名した業者数についてみると、2社を指名したものが55件、また、3社、4社、5社を指名したものがそれぞれ33件、10件、5件となっていて、いずれも複数の業者を指名していた。しかし、すべての入札において、契約業者以外の指名業者はすべて入札を辞退していた。
これらの入札辞退に至った経緯及び辞退後の事務処理は次のとおりとなっていた。
ア 入札辞退の時期
指名業者は、入札を辞退するに当たって、いずれも書面(入札書様式)に入札を辞退する旨を記して各地方総監部に提出しているが、辞退した日は、その書面によれば表1のとおりとなっていた。
<表1> 辞退日別の入札辞退業者数
地方総監部 | 辞退日別の入札辞退業者数 | 辞退した指名業者延数 | |||
入札通知日〜仕様説明会前日 | 仕様説明会当日 | 仕様説明会後〜入札日前日 | 入札日当日 | ||
横須賀 | 58 | 1 | 59 | ||
呉 | 46 | 3 | 49 | ||
佐世保 | 11 | 9 | 20 | ||
舞鶴 | 20 | 20 | |||
大湊 | 4 | 19 | 23 | ||
計 | 62 | 97 | 9 | 3 | 171 |
すなわち、各地方総監部で指名した業者のうち大半は、仕様説明会までの早い時期や当日に辞退していた。また、仕様説明会の翌日以降に辞退した業者はすべて仕様説明会に参加していなかった。
そして、本院が、修理等の契約を締結した造船所のうち4造船所(3社)に赴き、入札辞退の場合の状況について聴取したところ、入札を辞退する場合は入札通知と同時に送られてくる仕様書についての検討は行っておらず、入札のための見積りも作成していないとのことであった。
これらのことから、入札を辞退した各指名業者は、指名通知を受けた段階で辞退の意思が固まっていたものと推測できる。
イ 入札辞退の態様
前記のとおり、警備区域内に指名可能な業者が複数存在する場合と1社しか存在しなかったり又は全く存在しない場合とでは指名業者の選定方法が異なっている。そこで、それぞれの場合ごとの入札辞退の態様を調査したところ、次のとおりとなっていた。
(ア) 警備区域内に指名可能な業者が複数存在する場合
<表2−1> 警備区域内に指名可能な業者が複数存在する場合の指名状況
地方総監部 | 艦種 | 隻数 | 指名業者 | |
警備区域内 | 警備区域外 | |||
横須賀 | 護衛艦(DDGを除く)(注2) | 7 | A1 社、B1 社、C1 社 | − |
掃海艦(艇) | 7 | D1 社、E1 社 | − | |
その他 | 10 | A1 社、B1 社、C1 社 D1 社、E1 社 | − | |
呉 | 護衛艦 | 9 | A2 社、E2 社、F1 社 | − |
掃海艇 | 7 | E2 社、C2 社 | − | |
潜水艦 | 7 | G1 社、C3 社 | − | |
その他 | 8 | A2 社、E2 社、F1 社 C2 社、H1 社、I1 社 | − | |
佐世保 | 護衛艦(DDGを除く) | 9 | J1 社、C4 社 | − |
掃海艇 | 5 | J1 社、C5 社 | − | |
その他 | 3 | J1 社、C5 社 | − | |
計 | 72 | 10社(16造船所)延べ187回 | − |
(注) 指名業者のアルファベットは会社、数字は造船所の違いを表す(以下同じ。)。
各地方総監部ごとの指名業者は、上表のとおりすべてその警備区域内に所在する造船所であり、発注者である地方総監部からみれば、いずれの業者が受注しても何ら支障がないと認められるにもかかわらず、72件すべての入札において、契約業者以外の指名業者のすべてが入札を辞退していた。
そして、上記の72件の入札のうち過去4年間引き続き同じ地方総監部に在籍していた自衛艦51隻に係る入札について遡って調査したところ、35隻に係る入札は7年度から10年度まで毎年継続して同じ業者が受注していた。また、残り16隻に係る入札については、受注し続けていた業者が入札を何らかの理由で辞退したことにより、
それまで辞退し続けていた別の業者が辞退せずに受注していた。
(イ) 警備区域内に指名可能な業者が1社しか存在しない場合
<表2−2> 警備区域内に指名可能な業者が1社しか存在しない場合の指名状況
地方総監部 | 艦種 | 隻数 | 指名業者 | |
警備区域内 | 警備区域外 | |||
横須賀 | 護衛艦(DDG) | 2 | A1 社 | C4 社 |
潜水艦(年次修理等) | 3 | B1 社 | G1 社、 C3 社 | |
佐世保 | 護衛艦(DDG) | 3 | C4 社 | A1 社 |
舞鶴 | 護衛艦 | 9 | E3 社 | A2 社、F1 社、C4 社 |
掃海艇 | 2 | E3 社 | C5 社 | |
その他 | 1 | E3 社 | A2 社、F1 社 | |
大湊 | 護衛艦(きりクラスの定期修理等を除く)(注3) | 5 | K1 社 | A1 社、B1 社、E3 社 |
掃海艇 | 3 | K1 社 | D1 社、E1 社 | |
計 | 28 | 5社(5造船所)延べ28回 | 7社(11造船所)延べ52回 |
上表のとおり警備区域内の業者を1社指名するほか、他の警備区域内の業者を1社から3社指名しているが、28件すべての入札において、警備区域外の業者は例外なく辞退していた。
(ウ) 警備区域内に指名可能な業者が存在しない場合
<表2−3> 警備区域内に指名可能な業者が存在しない場合の指名状況
地方総監部 | 艦種 | 隻数 | 指名業者 | |
警備区域内 | 警備区域外 | |||
横須賀 | 潜水艦(定期修理等) | 2 | − | G1 社、C3 社 |
大湊 | 護衛艦(きりクラス定期修理等) | 1 | − | A1 社、B1 社、E3 社 |
計 | 3 | − | 5社(5造船所)延べ7回 |
横須賀地方総監部における2件の潜水艦については、上表のとおり当該艦の建造会社とそれ以外の1社を指名しているが、建造会社以外の会社はその入札を辞退しており、この事態は過去4年間をみても同様となっていた。
また、大湊地方総監部における護衛艦(きりクラス)1件の定期の修理等については、上表のとおり警備区域が隣接する横須賀、舞鶴両地方総監部の業者3社を指名しているが、契約業者以外の指名業者のすべてが入札を辞退していた。
ウ 辞退後の各地方総監部の事務処理
入札を行う前に1社を除いて指名業者のすべてが入札を辞退した場合、地方総監部の事務処理としては、指名業者を追加選定したり、警備区域内の造船所で修理を行うことを前提にすると、辞退した造船所の受注体制が整うまで期限を延期したりするなどして指名競争を実施することが考えられる。
しかし、各地方総監部では、修理等を計画どおり実施して速やかに任務に復帰することを最優先させることが緊要であるとして、本件103件すべてで指名競争手続きを打ち切り、それぞれ辞退しなかった1社と随意契約を締結していた。
(2) 予定価格の算定について
本件103件に係る予定価格の算定についてみると、予定価格調書は、加工費、総利益の欄をいったん空欄としたまま作成し、上記のように契約業者以外の指名業者のすべてが入札を辞退し残った1社と随意契約を締結することとした段階で、その契約予定業者の実績により算定された加工費率、総利益率により予定価格を算定し、予定価格調書を完成させていた。すなわち、本件各契約においては、指名競争入札を前提とした予定価格調書は作成されていなかった。
また、指名競争入札を前提とした予定価格の算定に当たって適用する加工費率については、前記の算定要領により「指名された企業の標準経費率を等質化した指名経費率が設定されている場合は、当該指名経費率を適用する。」と規定されている。しかし、具体的な指名経費率は設定されておらず、さらに総利益率の適用値については何ら規定されていない状況であり、指名競争入札を行うための適切なものとはなっていなかった。
指名競争契約は、契約内容を履行しうる資力、技術力等の信用力を持つ者を競争参加者として指名することにより、契約の申込みの誘引を行い、指名された者相互間で公正な競争を行わせ、国にとって最も有利な相手方と契約することを目的としている。
しかし、本件修理等の指名競争入札においては、すべての入札において長年にわたり契約業者以外の指名業者のすべてが入札を辞退するという事態となっている。このため、本件契約の締結に当たっては競争性が確保されず、国は、競争入札による利益を得られない状況となっていて適切とは認められず、改善の必要があると認められる。
また、本件契約に当たり、指名競争入札を前提とした予定価格が算定されておらず、その算定方法についても明確にされていない事態は改善の必要があると認められる。
このような事態が生じているのは、契約業者以外の指名業者のすべてが入札を辞退する事態が長年にわたりすべての入札で生じているにもかかわらず、海上幕僚監部及び各地方総監部では、辞退原因を究明しその対策を講じるなど事態の改善に向けた有効な対応をとらずに来たことなどによるものと認められる。
3 本院が要求する改善の処置
貴庁では、今後も引き続き毎年度多額の国費を投じて艦船の修理等を実施することが見込まれる。
ついては、上記の事態にかんがみ、次のような処置を講ずることなどにより、指名競争入札制度の機能を十分発揮させる要があると認められる。
(ア) 契約業者以外の指名業者のすべてが入札を辞退する原因を究明するなどして、指名競争入札における競争性の確保を図るように事態打開の方策を検討し実行すること
(イ) 指名競争入札を前提とした予定価格の算定方法を明確にすること
(注1) 三菱重工業株式会社神戸造船所ほか16造船所 三菱重工業株式会社神戸造船所本工場、同神戸造船所鯛尾工場、同長崎造船所、同下関造船所、同横浜製作所、石川島播磨重工業株式会社船舶海洋事業本部呉第一工場、同東京第一工場、日立造船株式会社舞鶴工場、同因島工場、同神奈川工場、川崎重工業株式会社船舶・車両事業本部船舶事業部神戸造船工場、三井造船株式会社玉野事業所、佐世保重工業株式会社佐世保造船所、函館どつく株式会社函館造船所、住友重機械工業株式会社浦賀艦船工場、日本鋼管株式会社船舶・海洋本部鶴見工場、内海造船株式会社
(注2) DDG ミサイル搭載護衛艦
(注3) きりクラス 「あさぎり」など艦名に「きり」にちなむ名称を有する大型の汎用護衛艦