会計名及び科目 | 一般会計 (組織)厚生本省 (項)厚生本省 |
部局等の名称 | 厚生本省 |
補助の根拠 | 予算補助 |
事業主体 | 府1、県6、計7事業主体 |
補助事業 | 看護婦等養成所運営事業 |
補助事業の概要 | 看護婦等養成所の教育内容の向上を図るため、養成所の運営事業に対して補助する都道府県に補助金を交付するもの |
上記に対する国庫補助金交付額の合計 | 4億7473万余円 | (平成8、9両年度) |
過大に交付された国庫補助金 | 2億4509万円 | (平成8、9両年度) |
(平成11年6月28日付け 厚生大臣あて)
標記について、会計検査院法第34条の規定により、下記のとおり是正改善の処置を要求する。
記
1 事業の概要
貴省では、学校法人、医療法人等が設置した看護婦養成所、准看護婦養成所等(以下「養成所」という。)の教育内容の向上を図るため、養成所の運営に必要な経費を都道府県が補助する場合に、当該都道府県に看護職員確保対策費等補助金(看護婦等養成所運営事業分)(以下「補助金」という。)を交付している。
この補助金は、予算の範囲内において交付されており、その交付額は、平成8年度68億6308万余円、9年度70億6954万余円となっている。
都道府県に交付する補助金の額は、医療関係者養成確保対策費等補助金交付要綱(昭和61年厚生省発健政第86号厚生事務次官通知。 10年度以降は医療関係者養成確保対策費等補助金及び医療関係者研修費等補助金交付要綱(平成10年厚生省発健政第194号厚生事務次官通知)。以下「交付要綱」という。)により、次のように算定することとなっている。
〔1〕 所定の基準額と国庫補助の対象となる経費(以下「対象経費」という。)の実支出額とを、養成所ごとに比較して、少ない方の額を選定する。
〔2〕 〔1〕 により選定された額と総事業費から寄付金その他の収入額を控除して算出した額(以下「収支差額」という。)と都道府県が当該養成所に補助した額とを、養成所ごとに比較して最も少ない方の額(以下「国庫補助基本額」という。)を選定し、これに2分の1を乗じた額(千円未満の端数が生じた場合には端数を切り捨てた額)を算定する。
〔3〕 〔2〕 により養成所ごとに算定した額の合計額を都道府県に対する交付額とする。
上記の基準額、対象経費の実支出額及び収支差額は、養成所における看護婦(士)養成、准看護婦(士)養成等の別及び修業年限等の別に応じた教育課程ごとに算出することとされており、そのうち、基準額及び対象経費の実支出額は、交付要綱により次の額とされている。
(ア) 基準額は、専任教員の給与費や事業用教材費などから積算された教育課程別の定額(年額)と、在籍生徒数又は総定員のいずれか少ない方の人数に生徒教材費などから積算された1被と当たりの定額(同)を乗じて得た額等との合計額
(イ) 対象経費の実支出額は、教員経費(専任教員給与費、専任教員人当庁費、部外講師謝金)、事務職員経費(専任事務職員給与費)、生徒経費(生徒教材費、事業用教材費、臨床実習経費)及び実習施設謝金(報償費)並びにこれらの経費に該当する委託料の年間の合計額
貴省では、本件補助金が養成所の運営に必要な経費を補助するものであることから、収支差額の算出における総事業費と寄付金その他の収入額の範囲については、次の取扱いとしている。
〔1〕 総事業費は、基準額や対象経費の実支出額の算出内訳に照応して、養成所の運営に要した当該年度の経常的な経費を合算した額であり、土地の取得・校舎の建設等の施設整備に伴う経費及びこれらに充てるための積立金に繰り入れた額等は含まない。
〔2〕 寄付金その他の収入額は、〔1〕 に対応して、経常的な経費に充てる生徒納付金等の収入を合算した額であり、施設整備に充てるための収入は含まない。また、設置者の自己負担分を軽減するため、都道府県等が別途補助した額も含まない。
養成所の設置者は、当該年度の運営事業が完了したときは、収入支出決算書等の関係書類を添えて、実績報告書を都道府県に提出することとされている。そして、都道府県では、これらの書類の審査・確認を行い、国庫補助基本額を算定し、都道府県の実績報告書を貴省に提出することとされている。
2 本院の検査結果
貴省では、補助金算定の基礎となる基準額及び対象経費の実支出額については、前記のとおり、それらの算出方法や範囲を具体的に交付要綱に示しているが、これらの額と比較する収支差額については、これを算出する際の総事業費及び寄付金その他の収入額の範囲は前記のような取扱いとしているものの、それを具体的に交付要綱等に示していない。
そこで、収支差額が適切に算出され、国庫補助基本額、ひいては補助金が適正に算定されているかに着眼して検査した。
茨城県ほか9府県(注1) に交付された133養成所に係る補助金のうち、60養成所に係る補助金、8年度83教育課程分8億2873万余円及び9年度81教育課程分8億4481万円を対象として検査した。
検査したところ、10府県の54養成所において、総事業費に、土地の取得費、校舎等の建設費や、これらに充てた借入金の返済金及び利息などが計上されていたり(8県の22養成所)、将来の施設整備等に充てるための積立金に繰り入れた額が計上されていたり(10府県の34養成所)などしていた。
また、10府県の50養成所において、寄付金その他の収入額に、養成所の経常的な経費に充てる生徒納付金や生徒養成のための協力金などの収入が計上漏れとなっていたり(8県の22養成所)、逆に、計上を要しない都道府県等が設置者の自己負担分を軽減するために別途補助した額や施設整備等に充てるため徴収した生徒納付金などが計上されていたり(10府県の45養成所)していた。
このため、10府県の58養成所において、収支差額が適切に算出されておらず、このうち10府県の43養成所については、収支差額が過大に算出されていることになる教育課程があり、適切を欠いていると認められた。
上記43養成所の教育課程について、収支差額を適切に算出し、これと、基準額、対象経費の実支出額及び府県が補助した額とを比較したところ、愛知県ほか6府県(注2)
において、8年度16養成所21教育課程(これらに係る補助金交付額2億4160万余円)、9年度15養成所19教育課程(同2億3312万余円)の国庫補助基本額が過大になっていると認められる。これらの教育課程に係る補助金の交付額を修正計算すると、8年度1億2268万余円、9年度1億0695万余円となり、交付済額との差額、8年度1億1891万余円、9年度1億2617万余円、計2億4509万余円が過大に交付されていると認められる。
上記の事態について事例を挙げると、次のとおりである。
A県B市に所在する医療法人Cは、同県に提出した9年度の実績報告書において、D看護専門学校の看護婦(士)3年課程全日制(総定員120人)について、基準額は19,563,000円、対象経費の実支出額は84,303,887円であるとしていた。また、収支差額は、総事業費131,477,145円から寄付金その他の収入額87,664,008円を控除して43,813,137円と算出していた。
そして、同県では、基準額と対象経費の実支出額とを比較し、さらに収支差額と比較したうえで、同県の補助金額を19,563,000円とし、これと同額を国庫補助基本額として、補助金9,781,000円の交付を受けていた。
しかし、同医療法人が実績報告書に添付した同専門学校の9年度の収入支出決算書等によると、上記の収支差額の算出に当たり、総事業費の中に、施設整備に充てた借入金の利息や施設整備等に充てるための積立金に繰り入れた額計24,383,425円が計上されていた。
一方、寄付金その他の収入額には、運営事業に充てる入学金のうち入学辞退者に係る分や生徒養成のため受け入れた協力金計28,010,000円が計上漏れとなっていたり、同県及び同市が設置者の自己負担分を軽減するため別途補助した額など計4,857,600円が計上されていたりしていた。
したがって、収支差額を適切に算出すると、寄付金その他の収入額が総事業費を上回ることとなり、同専門学校のこの教育課程に係る補助金9,781,000円は交付の要がなかったと認められる。
E県F市に所在する社団法人Gは、同県に提出した9年度の実績報告書において、H看護専門学校の准看護婦(士)課程(総定員300人)について、基準額は29,364,000円、対象経費の実支出額は82,101,412円であるとしていた。また、収支差額は、総事業費164,362,041円から寄付金その他の収入額134,038,760円を控除して30,323,281円と算出していた。
そして、同県では、基準額と対象経費の実支出額とを比較し、さらに収支差額と比較したうえで、同県の補助金額を29,364,000円とし、これと同額を国庫補助基本額として、補助金14,682,000円の交付を受けていた。
しかし、同社団法人が実績報告書に添付した同専門学校の9年度の収入支出決算書等によると、上記の収支差額の算出に当たり、総事業費の中に、施設整備に充てた借入金の返済金、施設整備等に充てるための積立金に繰り入れた額及び翌年度への繰越金計56,743,411円が計上されていた。一方、寄付金その他の収入額には、施設整備等に充てるため徴収した生徒納付金など計44,915,000円が計上されていた。
したがって、収支差額を適切に算出すると18,494,870円となり、これにより、同専門学校のこの教育課程に係る補助金の交付額を修正計算すると9,247,000円となって、交付済額14,682,000円との差額5,435,000円が過大に交付されていると認められる。
上記のように、看護職員確保対策費等補助金(看護婦等養成所運営事業分)の算定において、収支差額の算出が適切を欠き、養成所によっては、国庫補助基本額が過大に算定され、補助金が過大に交付されているのは適正とは認められず、是正改善の必要があると認められる。
このような事態が生じているのは、次のようなことなどによると認められる
(ア) 貴省において、都道府県に対し、収支差額を算出する際の総事業費及び寄付金その他の収入額の範囲について、交付要綱等に示していないこと
(イ) 都道府県において、養成所の設置者から提出された実績報告書等の内容についての審査・確認が十分でないこと
3 本院が要求する是正改善の処置
近年、人口の急速な高齢化、医学・医療の高度化・専門化が進む中で必要な看護婦(士)等を確保するため、養成所における教育内容の向上を図って看護婦(士)等を養成していくことが求められている。
したがって、貴省において、本件補助金の適正な算定が行われるよう、次の処置を執る要があると認められる。
(ア) 都道府県に対し、総事業費に計上する経費の範囲や、総事業費から控除する寄付金その他の収入額に計上する収入の範囲を、交付要綱等において具体的に示し、養成所の運営に要する当該年度の経常的な経費に対して補助するという本件補助金交付の趣旨を含め、その周知徹底を図ること
(イ) 都道府県に対し、養成所の設置者から提出された実績報告書等の内容についての審査・確認の徹底を図るため、貴省に提出する実績報告書等に総事業費及び寄付金その他の収入額の算出の状況などを記載させること
(注1) 茨城県ほか9府県 京都府、茨城、静岡、愛知、兵庫、奈良、広島、徳島、愛媛、沖縄各県
(注2) 愛知県ほか6府県 京都府、愛知、兵庫、奈良、広島、愛媛、沖縄各県
上記のとおり是正改善の処置を要求したところ、厚生省では、本院指摘の趣旨に沿い、平成12年度以降に交付する看護職員確保対策費等補助金(看護婦等養成所運営事業分)の算定が適切に行われるよう、次のような処置を講じた。
(ア) 11年6月に、都道府県に対し、総事業費に計上する経費の範囲や、総事業費から控除する寄付金その他の収入額に計上する収入の範囲を具体的に示し、養成所の運営に要する当該年度の経常的な経費に対して補助するという本件補助金交付の趣旨を含め、その周知徹底を図った。
(イ) 同年10月に交付要綱を改正し、養成所の設置者から都道府県に提出された実績報告書等の内容についての審査・確認が徹底されるよう、都道府県が厚生省に提出する実績報告書等の様式に、総事業費及び寄付金その他の収入額の算出の状況を記載させることとした。