会計名及び科目 | 一般会計 (組織)厚生本省 (項)国民健康保険助成費 |
部局等の名称 | 厚生本省(交付決定庁) 北海道ほか22府県(支出庁) |
交付の根拠 | 国民健康保険法(昭和33年法律第192号) |
交付先 | 248市、896町、187村、1一部事務組合 計1,332市町村等(保険者) |
特別調整交付金の概要 | 市町村等の国民健康保険に係る財政力の不均衡を調整するために交付する財政調整交付金のうち、診療報酬明細書の点検調査に積極的に取り組んでいると認められる場合に交付するもの |
上記の市町村等に交付した特別交付金の交付額 | 32億0099万余円 | (平成9、10両年度) |
効果的な配分をする要があると認められた交付金の交付額 | 1,298市町村等 28億3865万円 |
(保険者) (平成9、10両年度) |
1 交付金の概要
厚生省では、国民健康保険について各種の国庫助成を行っており、その一つとして市町村に対して財政調整交付金(前掲「国民健康保険の財政調整交付金の交付が不当と認められるもの」
参照)を交付している。
財政調整交付金は、市町村の国民健康保険に係る財政力の不均衡を調整するために交付するもので、一定の基準により財政力を測定してその程度に応じて交付する普通調整交付金と、特別の事情を考慮して交付する特別調整交付金がある。
そして、特別調整交付金の一つとして、診療報酬明細書の点検(以下「レセプト点検」という。)に積極的に取り組んでいると認められる場合に交付されるもの(以下「レセプト点検特別交付金」という。)がある。
レセプト点検は、医療機関から請求のあった診療報酬について、保険者がその支払の適否を点検するものであり、医療費適正化のための重要施策の一つとして位置付けられている。
そして、レセプト点検の結果、保険者が負担する要がないと認められた診療報酬は、翌月以後の診療報酬の支払から減額(過誤調整)したり、被保険者等から返納金として受け入れたりすることとなっている。なお、返納金として受け入れるものの中には、被保険者の交通事故等で保険者が支払った診療報酬に係る額を、加害者等から収納する第三者納付金がある。
レセプト点検特別交付金は、上記のレセプト点検に積極的に取り組んでいる保険者に交付することによって、レセプト点検に対する意識の向上を図り、ひいては医療費の適正化を図ることを目的として交付されるものである。
そして、その交付要件等については、厚生省が「国民健康保険の調整交付金の交付額の算定に関する省令」(昭和38年厚生省令第10号)に基づいて特別調整交付金交付基準を定めており、次のような種類がある。
(1) 被保険者(老人保健医療給付対象者を除く。以下同じ。)1人当たりのレセプトの内容点検による過誤調整額(以下「内容点検評価額」という。)が、保険者が所在する各都道府県の平均額以上である場合に交付されるもの(以下「内容点検評価分」という。)
(2) 被保険者1人当たりの返納金に係る額(以下「返納金評価額」という。)が、各都道府県の平均額以上である場合に交付されるもの(以下「返納金評価分」という。)
(3) 上記(1)、(2)の内容点検評価額と返納金評価額の合計額を保険者負担総額で除した率(以下「評価率」という。)が前年を上回っている場合に交付されるもの(以下「評価率向上分」という。)
(4) 上記(1)から(3)には該当しないが、レセプト点検の充実強化を実施した保険者であり、都道府県が推薦する場合に交付されるもの(以下「都道府県推薦分」という。)
そして、レセプト点検特別交付金の交付額は、〔1〕 内容点検評価分及び返納金評価分についてはそれぞれ内容点検評価額及び返納金評価額の10分の1に相当する額、〔2〕 評価率向上分及び都道府県推薦分についてはそれぞれ全被保険者数の規模に応じた定額(50万円から500万円)とされている。
2 検査の結果
国民健康保険は、近年の医療費の増こう等により厳しい財政運営を強いられており、従来にも増して保険者の経営努力が求められているところであり、財政調整交付金の交付に当たっても、医療費の適正化に資するよう、適切かつ効果的な配分が肝要となっている。そこで、レセプト点検特別交付金が、保険者のレセプト点検に対する取組を的確に反映して交付され、効果的なものとなっているかに着眼して検査を実施した。
北海道ほか22府県(注1) において、平成9年度又は10年度にレセプト点検特別交付金のうち内容点検評価分、返納金評価分及び評価率向上分の交付を受けている1,332保険者(注2) (交付額計32億0099万余円)を対象として検査するとともに、その算定内容を比較するため、これらの交付を受けていない176保険者についても検査した。
検査の結果、次のような事態が見受けられた。
(1) 内容点検評価分について
内容点検評価分は、1,332保険者のうち719保険者に対して9、10両年度に計6億0719万余円交付されている。
しかし、これらの保険者の内容点検評価額についてみると、その集計項目が保険者及び所在道府県ごとに区々となっていて、323保険者においては、道府県の指導監査や医療機関からのレセブト返戻依頼により診療報酬が減額になったもので、保険者自身の経営努力によるものとは認められないものを集計項目に含めていた。
したがって、これらの集計項目が含まれている323保険者に係る内容点検評価分の交付額計2億4485万余円は、保険者のレセプト点検に対する取組を的確に反映した効果的な配分となっていないと認められた。
上記の事態について、その一例を示すと次のとおりである。
A市では、平成10年度の交付申請及び事業実績報告において、内容点検評価額を17,032,502円とし、これを被保険者数11,185人で除した被保険者1人当たりの内容点検評価額は1,523円であり、県の平均額933円を上回るとして、内容点検評価分1,703,000円の交付を受けていた。
しかし、上記の内容点検評価額には医療機関からのレセプト返戻依頼により診療報酬が減額になったもの4,692,568円及び県の指導監査により診療報酬が減額になったもの152,192円が含まれており、これらを控除して計算すれば、内容点検評価額は12,187,742円となり、内容点検評価分に係る交付額は1,219,000円となる。
(2) 返納金評価分について
返納金評価分は、1,332保険者のうち795保険者に対して9、10両年度に計6億7729万余円交付されている。
今回、返納金評価分の交付を受けていない保険者を含めた1,508保険者について検査したところ、返納金の金額の約9割は交通事故による第三者納付金となっており、これらの第三者納付金の中には1件当たり100万円を超える高額なものが相当数見受けられた。また、これらの保険者のうち1人当たり返納金評価額がそれぞれの道府県で上位1割以内の140保険者について返納金の件数と金額の比率をみると、1件の返納金が年間総額の50%以上を占めている状況となっていた保険者が、9年度91保険者、10年度79保険者と約6割になっていた。
そして、交通事故等による第三者納付金の場合、保険者における業務は、主として該当するレセプトの抽出とその後の関係者との折衝であり、これらはその医療費の金額によって大きく増加するものではないことから、その返納金の額自体は必ずしも保険者の経営努力を計るものとは認められない。
したがって、返納金の大部分がこのような第三者納付金によって占められている現状において、返納金の金額によって評価する現行の方法は、保険者のレセプト点検に対する取組を的確に反映していないものとなっており、これを基礎として795保険者に交付された交付金計6億7729万余円は、効果的な配分となっていないと認められた。
上記の事態について、その一例を示すと次のとおりである。
B町では、平成9年度の交付申請及び事業実績報告において、返納金評価額を3,330,911円とし、これを被保険者数1,972人で除した被保険者1人当たりの返納金評価額は1,689円であり、県の平均額467円を上回るとして、返納金評価分333,000円の交付を受けていた。
しかし、上記の返納金評価額の内容は、すべて1件の交通事故による第三者納付金によるものであり、被保険者数の少ない同町においては、高額の第三者納付金が1件あっただけで、被保険者1人当たりの返納金評価額が著しく高く評価されていた。
(3) 評価率向上分について
評価率向上分は、1,332保険者のうち1,160保険者に対して9、10両年度に計19億1650万円交付されている。
評価率向上分の評価率は、内容点検評価額と返納金評価額を合算して算定することにより、内容点検に対する取組と返納金に対する取組の両方を評価することとなっている。
しかし、返納金評価額は、上記(2)で述べたように1件当たりの金額が大きく、年度ごとの変動が大きいことから、返納金評価額を含む現行の評価率では、内容点検に係る評価が相対的に減殺されていると認められた。このことから、今回検査した1,508保険者においても、内容点検評価額が減少しているのに返納金評価額が大きく増加したため評価率が上昇しているものや、内容点検評価額が増加しているのに返納金評価額が大きく減少したため評価率が低下しているものが、約3割の保険者で見受けられた。
したがって、返納金評価額によって大きく影響を受ける現行の評価率は、保険者のレセプト点検に対する取組を的確に反映しているとは認められず、これを基礎として1,160保険者に交付された交付金計19億1650万円は、効果的な配分となっていないと認められた。
上記の事態について、その一例を示すと次のとおりである。
C町では、平成10年度の交付申請及び事業実績報告において評価率を0.37%とし、9年度の0.308%から上昇しているとして、評価率向上分1,500,000円の交付を受けていた。
しかし、同町の内容点検評価額等は下表のとおりであり、10年度において内容点検評価額が減少しているのに返納金評価額が大きく増加しているため、評価率が前年に比べて伸びていると算定されていた。
申請 年度 |
内容点検 評価額 |
返納金 評価額 |
内容点検に係る評価率 | 返納金に係る評価率 | 評価率 | 上昇(△下降)ポイント |
8 9 10 |
円 2,466,226 2,455,471 1,376,172 |
円 2,414,104 588,590 2,072,458 |
% 0.253 0.248 0.147 |
% 0.248 0.060 0.223 |
% 0.501 0.308 0.370 |
− △0.193 0.062 |
上記(1)から(3)の事態の保険者には重複しているものがあるので、これを除くと1,298保険者(交付額計28億3865万余円)となる。
このような事態が生じていたのは、主として次のことによると認められた。
(1) 内容点検評価分については、厚生省及び都道府県において、過誤調整の事由の分類、集計等の具体的方法の把握が十分でなかったこと、また、厚生省において、内容点検評価額の集計項目を明確に示していなかったこと
(2) 返納金評価分及び評価率向上分については、厚生省において、保険者の努力の評価に用いる指標の見直しが十分でなかったこと
3 当局が講じた改善の処置
上記についての本院の指摘に基づき、厚生省では、11年10月に各都道府県に対して通知を発し、次のとおり交付基準を改正するとともに、その内容を保険者に対して周知徹底させるなどして、レセプト点検に対する意識の向上を図り医療費の適正化を図る観点から、同交付金の配分を適切かつ効果的に行うための処置を講じた。
(1) 内容点検評価分について、都道府県の指導監査や医療機関からのレセプト返戻依頼により診療報酬が減額になったものを内容点検評価額に含めない旨、交付基準において明確にした。
(2) 返納金評価分について、返納金に係る評価指標を返納金の金額でなく返納金の対象となったレセプトの枚数とするよう交付基準を見直した。
(3) 評価率向上分について、内容点検評価額をもって、評価率算定の基礎とするよう交付基準を見直した。
(注1) 北海道ほか22府県 北海道、京都府、青森、宮城、秋田、山形、栃木、群馬、富山、石川、福井、山梨、愛知、滋賀、和歌山、鳥取、広島、香川、愛媛、福岡、佐賀、熊本、宮崎各県
(注2) 1,332保険者 内容点検評価分、返納金評価分、評価率向上分に係る保険者数の純計である。