会計名及び科目 | 一般会計 (組織)水産庁 | (項)沿岸漁場整備開発事業費 (項)北海道沿岸漁場整備開発事業費 (項)沖縄開発事業費 |
部局等の名称 | 水産庁 | |
補助の根拠 | 予算補助 | |
事業主体 | 市33、町43、村8、漁業協同組合8、漁業協同組合連合会1、計93事業主体 | |
補助事業 | 並型魚礁設置事業 | |
事業の内容 | 沿岸海域に存在する天然礁の周辺に小規模な魚礁漁場を造成するため、魚礁としてコンクリートブロック等を海底に設置するもの | |
事業計画の策定及び魚礁の管理・活用が適切を欠いている事業 | 204事業 | |
事業費 | 27億6672万円(平成4年度〜8年度) | |
上記に対する国庫補助金交付額 | 13億8336万円 |
【改善の処置要求の全文 】
(平成11年11月22日付け 水産庁長官あて)
標記について、会計検査院法第36条の規定により、下記のとおり改善の処置を要求する。
記
1 事業の概要
貴庁では、沿岸漁場整備開発法(昭和49年法律第49号)等に基づき、沿岸漁業の基盤たる沿岸漁場の整備及び開発を図り、もって沿岸漁業の安定的な発展と水産物の供給の増大に寄与するため、沿岸漁場整備開発事業(以下「沿整事業」という。)を推進することとしている。そして、農林水産大臣が作成し閣議決定された沿整事業に関する計画(以下「沿整計画」という。)に基づき、都道府県、市町村等が事業主体となって、魚礁設置事業、水産動植物の増殖及び養殖場の造成事業、沿岸漁場保全事業等を補助事業により実施している。沿整計画は、昭和51年に第1次沿整計画が策定されて以来数次の改定を経て、現在、第4次沿整計画(平成6年度から13年度まで)に至っている。
近年の我が国水産業をめぐる状況は、国際的な200海里体制の定着等により、遠洋漁業は縮小を余儀なくされ、また、マイワシ資源等を対象としている沖合漁業も資源の変動により不安定な状況にある。このような状況の下、沿岸漁業の重要性は一層高まっており、貴庁においても、水産物の安定的確保を図るため、地域の漁業や資源の状況に応じた禁漁区の設定、漁具・漁法の制限等を実施して漁業経営の安定化を図る資源管理型漁業やふ化放流事業等を取り込んだつくり育てる漁業を推進しており、その結果、沿岸漁業の生産量及び生産額は、安定的に推移してきている。
沿整事業のうち魚礁設置事業は、海底の岩礁域などに魚類が集まり良好な漁場が形成されることにならい、天然礁に準ずる礁を造成するため、コンクリートブロック等の耐久性構造物を海底に設置して良好な生産性の高い魚礁漁場を造成し、既存の一本釣り、はえなわ等の漁場を拡大して、漁船漁業の生産量の増大を図るものである。
魚礁設置事業には、「沿岸漁場整備開発事業の運用について」(昭和51年水産庁長官通達51水漁第4460号。以下「運用通達」という。)等により、(ア)1箇所当たりの事業量が1,200空m3
(注1)
以上(6年度以前は400空m3
以上)、受益戸数が20戸以上で、原則として共同漁業権内(注2)
に魚礁を設置する並型魚礁設置事業、(イ)1箇所当たりの事業量が2,500空m3
以上、受益者数が500人以上で、共同漁業権外に魚礁を設置する大型魚礁設置事業等がある。このうち並型魚礁設置事業に対し、国は都道府県を通じてその費用の2分の1を補助し、その残りについては都道府県、市町村等がそれぞれ原則として3分の1、6分の1の割合で負担している。
そして、第4次沿整計画に基づいて6年度から10年度までに実施された並型魚礁設置事業の事業費は、総額209億0309万余円(国庫補助金104億6481万余円)に上っている。
魚礁設置事業のうち並型魚礁設置事業は、次のような手続により実施されることになっている。
(1) 都道府県は、事業主体である市町村等が毎年度策定し貴庁の承認を受けた事業計画に基づき、毎年度事業実施計画を作成し、これに基づき、貴庁に対し補助金の交付を申請する。
この交付申請書には、事業実施計画の作成時における当該漁場の一本釣り、はえなわ漁法等による漁獲量に、魚礁を設置することによる増加見込分(注3)
を加えた漁獲量(以下「生産効果期待量」という。)等を記載した書類を添付する。
(2) 貴庁は、補助金の交付申請書及び事業実施計画の内容が関係法令等に適合しているかなどを審査し、魚礁設置の費用対効果を勘案のうえ交付決定を行う。
(3) 補助金の交付を受けた事業主体は、事業完了後、実績報告書を作成し、都道府県を通じて貴庁に提出し、その報告に基づいて、貴庁において事業の実施状況の審査を行う。
(4) 都道府県は、運用通達に基づいて、事業実施後5年間、市町村等からの報告を基に魚礁の管理経費、漁場の利用状況等を把握して施設管理・運営状況報告書を作成し、貴庁に提出する。
なお、魚礁の管理・運営については、事業主体が直接管理を行い難いときなどは、その管理を、受益者が所属する漁業協同組合等(以下「漁協等」という。)に委託することができることになっている。
2 本院の検査結果
魚礁のうち並型魚礁が設置される漁場は、原則として共同漁業権内にあるものであることから、受益者、対象魚種、漁法等が特定でき、また、漁獲物の水揚げも最寄りの漁港においてなされることから当該漁場における漁獲量を把握できる。
そこで、並型魚礁設置事業の実施に当たり事業計画の策定及び魚礁設置後における魚礁の管理・活用が適切に行われ、事業の効果の発現に資するものとなっているかなどに着眼して検査した。
北海道ほか19県(注4) において4年度から8年度までに実施された並型魚礁設置事業927事業 (事業費127億1040万余円、国庫補助金63億5520万余円)のうち、市町村等の163事業主体が実施した556事業(事業費71億1117万余円、国庫補助金35億5558万余円)を対象として検査した。
検査したところ、130事業主体が実施した344事業においては漁獲量が生産効果期待量に達している一方で、97事業主体が実施した212事業においては生産効果期待量に達していなかった。
そして、生産効果期待量に達していなかった212事業について、事業計画の策定及び魚礁設置後の魚礁の管理・活用の状況を検査したところ、93事業主体が実施した204事業(事業費27億6672万余円、国庫補助金13億8336万余円)において、次のとおり適切を欠くと認められる事態が見受けられた。
(1) 事業計画の策定について
(ア) 漁獲量の推移を十分把握していないなどのため、漁獲量が年々減少しているにもかかわらず、その原因を十分調査、検討することなく魚礁設置事業を繰り返し実施していたものが135事業あった。
(イ) 生産効果期待量を算出するに当たり、個々の魚礁の設置場所や近年の漁獲量の実績を考慮せずに、道県等が特定の海域等で調査した魚礁1空m3 当たりの増加見込量の数値を一律に使用しているものがあり、このうちには10年以上前の調査による数値等を使用して算出しているものが71事業あった。
(2) 魚礁の管理・活用について
(ア) 魚礁の管理面では、事業主体である市町村が漁協等に管理を委託するに当たっては、契約書等において、天然礁と人工礁との利用割合や魚礁からの漁獲状況に係る報告を求めたり、網ががり等により魚礁の機能を低下させないよう措置させたりなどすべきであるのに、その文書を交わしていないため漁協等からの報告等が十分行われていないものが56事業あった。
また、市町村等が設置後の魚礁の状況等を調査しておらず、漁協等からも報告を受けていないため、魚礁の現状把握が十分でないものが32事業あった。さらに、県が市町村等から魚礁の利用状況等の報告を受けることなく、農林水産省統計情報部等が作成した統計情報上の数値によって施設管理・運営状況報告書を作成し、貴庁に提出しているものが37事業あった。
(イ) 魚礁の活用面では、魚礁の位置図を作成して漁業者に配布するなど魚礁の位置について周知を図っているものは少なかった。また、魚礁を利用できる者の範囲を定めた上でこれらの者の操業方法を釣り漁業に限定したり、網漁業を認めた場合でもその操業範囲を限定したり、釣り漁業と網漁業のような異なった漁業種類の間の利用調整を図ったりなど、魚礁を資源管理の面から適切かつ効率的に運用するために必要な利用方法を定めていないものが132事業あった。
〔上記(1)、(2)の各事態に掲げた事業には重複しているものがある。〕
なお、今回、検査の対象とした前記556の並型魚礁設置事業の受益者である漁業者から、事業実施の前後における事業主体等の取組等の状況について郵送による方法で意見を聴取したところ、1,744の漁業者から回答があった。この漁業者からの意見のうち回答数の30%以上あった意見の中には、次のような問題点の指摘が見受けられた。
(ア) 事業計画の策定面では、
・魚礁の設置に当たり、設置場所等について漁業者の意向を十分聴取しておらず、漁業者の意見が反映されていない。
(イ) 管理・活用面では、
・魚礁の設置場所が漁業者に必ずしも十分に周知されていない。
・魚礁に漁具や漁網が引っかかった網ががりの状態になっているため魚が寄り付かず、魚礁の効果が減殺されている。
・魚礁の利用が漁業者と遊漁船等とで競合しており、十分な利用の調整が行われていないため、漁業者が利用しにくくなっている。
・釣り漁業を対象とする魚礁に直接網をかける者がいるなど、魚礁の使用方法についてのトラブルがある。
上記のように並型魚礁設置事業の事業計画の策定及び設置した魚礁の管理・活用が適切を欠いている事態は、漁船漁業の生産量の増大を図るという事業目的の達成に資するものとは認められず、多額の補助金を投入して実施した事業の効果が十分発現できないこととなるもので、改善を図る要があると認められる。
このような事態が生じているのは、次のことなどによると認められる。
(1) 貴庁及び都道府県において
〔1〕 事業主体が事業計画を策定する際に用いる1空m3 当たりの増加見込量の把握方法を示していないため、事業主体において、生産効果期待量が的確に算出されていないこと
〔2〕 魚礁の設置後における漁獲量の把握の方法を十分確立していないこと
〔3〕 異なった漁業種類の間の魚礁の利用方法等について指導方法を確立していないこと
〔4〕 都道府県が魚礁の管理及び利用状況等を的確に把握しないまま施設管理・運営状況報告書を作成し、貴庁に提出していること
(2) 事業主体において
〔1〕 事業の実施に当たり、魚礁の設置場所等について漁業者の意向を十分把握していなこと
〔2〕 魚礁の設置場所等を漁業者に必ずしも十分に周知していないこと
〔3〕 漁協等との連絡協調体制等が十分でないこと
〔4〕 異なった漁業種類の間の魚礁の利用方法についてのトラブルをなくすような管理規程等を定めていないこと
〔5〕 設置後の魚礁の状況を十分把握していないため、網ががり等により魚礁の効果が減殺されている事態に対し適切な処置を講じていないこと
3 本院が要求する改善の処置
並型魚礁設置事業は、今後とも、沿岸漁業の安定的な発展と水産物の供給の増大に寄与するため多額の補助金を投入して実施することが見込まれることから、その事業の実施に当たっては、事業計画の策定及び設置後の魚礁の管理・活用が適切に行われ、事業効果の発現が図られるよう、貴庁において、次のような改善のための処置を講ずる要があると認められる。
(1) 事業計画を策定する際に用いる魚礁1空m3 当たりの増加見込量の把握方法を定めること特に、過去に同海域又は近隣の海域で並型魚礁設置事業を実施した実績がある場合は、可能な限り魚礁設置後における漁獲量の報告値を基に1空m3 当たりの増加見込量を算出するようにすること
(2) 魚礁の設置後における漁獲量の把握の方法を確立すること
(3) 異なった漁業種類の間の魚礁の利用方法等についての指導方法を確立すること
(4) 都道府県に対し、魚礁の管理及び利用状況等を的確に把握して、施設管理・運営状況報告書を貴庁に提出するよう指導すること
(5) 事業主体に対し、魚礁の設置に際し漁業者の意向を十分に把握するとともに、漁協等と十分連絡協調を図り、魚礁の設置後の管理・活用を適切に行うよう指導すること
(注1) 空m3 外接面によって囲まれた内容積で、魚礁の規模を表すための単位
(注2) 共同漁業権 一定の水面において、特定の漁業協同組合の組合員が、水産動植物を目的とする漁業を優先的に営むことができる権利
(注3)
漁獲量の増加見込分は通常、次のような算式により算出されている。
魚礁の設置個数×魚礁1個当たりの空m3
×1空m3
当たりの増加見込量
(注4) 北海道ほか19県 北海道、青森、岩手、宮城、山形、福島、神奈川、新潟、愛知、三重、兵庫、和歌山、島根、山口、高知、福岡、長崎、宮崎、鹿児島、沖縄各県