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  • 平成10年度|
  • 第3章 個別の検査結果|
  • 第1節 省庁別の検査結果|
  • 第7 農林水産省|
  • 本院の指摘に基づき当局において改善の処置を講じた事項

糖業振興臨時助成金の交付に当たり、事業者の実際の損益額に応じて精算するよう改善させたもの


(2) 糖業振興臨時助成金の交付に当たり、事業者の実際の損益額に応じて精算するよう改善させたもの

会計名及び科目 一般会計 (組織)農林水産本省 (項)沖縄農業振興費
部局等の名称 農林水産本省
助成の根拠 予算補助
事業主体 沖縄県
事業の概要 分みつ糖の製造コストが農畜産業振興事業団による買入れ価格では償えない事業者に対して、その差額を補てんするもの
助成金の交付額 13億円
過大になっていた助成金の額 9355万円
上記に対する国庫助成金の額 9355万円

1 事業の概要

(糖業振興臨時助成金の交付)

 農林水産省では、沖縄経済において重要な地位を占めている分みつ糖(注) 製造事業の安定を図り、もってさとうきびに係る農業所得の確保と沖縄経済の発展に資することを目的として、糖業振興臨時助成事業実施要領(昭和48年48食流第3066号農林事務次官依命通達。以下「要領」という。)等に基づき、沖縄県に対し、糖業振興臨時助成金(以下「国庫助成金」という。)を交付している。そして、沖縄県では、同県内の分みつ糖製造事業者(以下「事業者」という。)に対して、国庫助成金を原資として糖業振興臨時助成金(以下「助成金」という。)を交付している。

(助成金の交付の趣旨)

 事業者は、政府の告示する最低生産者価格を下らない価格で生産者から買い入れたさとうきびを原料として分みつ糖を製造した場合、その分みつ糖を政府の告示する価格で農畜産業振興事業団(以下「事業団」という。)に売り渡すことができることとなっている。
 そして、この助成金は、事業者によっては製造コスト(原料価格を含む。)が著しく高い状況となっていることから、事業団による買入れ価格では製造コストを償えない事業者に対し、その差額を助成するために交付されるものである。

(注)  分みつ糖  さとうきびを搾り、これを煮詰めた液を遠心分離器等にかけ、結晶のみを取り出して製造する砂糖

(助成金の額の算定)

 助成金の額については、毎年、当該年産の分みつ糖の製造が終了する5月ごろを目途に、農林水産省が次の方法により算定している。

〔1〕  分みつ糖の製造に要する目標生産費に対する当該年産糖の目標達成率、物価修正、操業度修正等に基づいて算定した事業者ごとの理論製造コストと事業団買入れ価格との差により補てん額を算出する(目標生産費アプローチ方式)。

〔2〕  事業者の経営改善に向けた企業内合理化の度合い、工場の稼働率、収穫の機械化の度合い等に基づいて算定した事業者ごとの理論製造コストと事業団買入れ価格との差により補てん額を算出する(インセンティブ方式)。

〔3〕  〔1〕 及び〔2〕 の補てん額の平均を算出し、これを当期要補てん額とする。

〔4〕  前期繰越損益額(損失については1/2、利益については全額)と当期損益見込額を合計して損失額を算出し、これを当期補てん限度額とする。

〔5〕  〔3〕 の当期要補てん額と〔4〕 の当期補てん限度額のうち、いずれか低い方の額を補てん額とする。

〔6〕  事業者ごとの補てん額の合計が助成金の予算額を上回った場合、各事業者に一律の割合を乗じて予算額まで補てん額を圧縮する。

 そして、事業者は、このようにして算定された額により、沖縄県に対し助成金の交付申請を行い、これに基づき、同県では、農林水産省から国庫助成金の交付を受け、これを原資として同額の助成金を事業者に対して交付している。

2 検査の結果

(検査の着眼点)

 さとうきびは、沖縄県の約7割の農家で作付けされているなど、沖縄県農業における重要な地位を占めており、また、事業者の実施する分みつ糖製造事業も同県における基幹産業として位置付けられている。助成金は、こうした事業者の経営の安定に重要な役割を果たしており、また、その額が多額となっていることから、助成金が事業者ごとに適正に交付されているかという点に着眼して検査を実施した。

(検査の対象)

 農林水産省が平成10年度に沖縄県に対して交付した国庫助成金13億円、及びこれに基づき同県が助成金を交付した5事業者を対象として検査を実施した。

(検査の結果)

 検査したところ、助成金の額の算定について、次のような事態が見受けられた。
 農林水産省では、事業者への10年度の助成金の額の算定に当たり、10年5月に事業者から聴き取り等によって把握した9年産の分みつ糖製造に係る損益の見込額を「当期損益見込額」としていた。そして、「当期要補てん額」と当期損益見込額に基づいて算出した「当期補てん限度額」を比較し低い方の額を事業者の欠損額とし、これに基づき算出した助成金の額を事業者に通知していた。事業者は、沖縄県に対し、同年9月にこの欠損額及び助成金の額を記載した助成金の交付申請書を提出し、同年10月に申請書の額をそのまま記載した実績報告書を提出していた。農林水産省及び沖縄県では、この実績報告書に基づき額の確定を行っていた。
 また、沖縄県では、農林水産省から同年11月に国庫助成金の交付を受け、事業者に対し、農林水産省が定めた額のとおりに助成金を交付していた。
 しかし、全事業者の分みつ糖製造に係る実際の損益額は毎年10月までに確定しており、実際の欠損額と見込額が同額となっている事業者が2事業者、実際の欠損額が見込額を大幅に下回っている事業者が3事業者見受けられた。これら3事業者の実際の当期損益額の合計は6億0808万余円の損失となっていて、当期損益見込額の合計額8億3474万余円の損失に対し、差引き2億2666万余円下回っていた。
 本来、この助成金は、事業団による買入れ価格をもっては製造コストを償えない事業者に対し、その差額を助成するためのものである。そして、事業者の実際の当期損益額は、毎年10月までに確定しているのであるから、上記のように実際の欠損額が見込額を大幅に下回っているのに、農林水産省及び沖縄県において、実際の損益額に基づくことなく助成金の額を確定していたのは適切とは認められない。なお、実際の欠損額によらず見込額により助成金の額を確定していた事態は、従来から見受けられた。

(過大になっていた助成金の額)

 上記の事態に基づき、前記の5事業者及び当初欠損が生じないと見込んだため助成金の交付を受けていなかった1事業者を併せた6事業者について、実際の損益額により修正計算すると、助成金の額が3事業者について計1億4822万円過大に、3事業者について計5466万余円過小になっていた。したがって、助成金が差引き9355万余円過大になっており、ひいては国庫助成金9355万余円が過大になっていた。

(発生原因)

 このような事態が生じていたのは、農林水産省において、助成金の算定方法を要領等に明確に定めていなかったことから、実際の損益額によらず見込額により助成金の額を確定していたことなどによると認められた。

3 当局が講じた改善の処置

 上記についての本院の指摘に基づき、農林水産省では、11年10月に通達を発し、沖縄県が助成金の交付額を定めるに際し、その算定方法を明らかにするとともに、事業者の実際の損益額に応じて精算することを明記し、11年度の助成金から適用することとする処置を講じた。