会計名及び科目 | 一般会計 (組織)水産庁 | (項)漁港漁村整備費 (項)漁港施設災害復旧事業費 (項)離島振興事業費 |
部局等の名称 | 水産庁 |
補助の根拠 | (1) | 漁港法(昭和25年法律第137号) 公共土木施設災害復旧事業費国庫負担法(昭和26年法律第97号) |
(2) | 予算補助 |
事業主体 | 県11、市7、町25、村1、計44事業主体 |
補助事業 | 漁港修築、漁港改修、漁港局部改良等 |
補助事業の概要 | 漁船の航路、泊地を確保するなどのため、海底地盤を浚渫するなどの工事を行うもの |
工事費 | 141億6990万余円 | (平成9、10両年度) |
上記に対する国庫補助金 | 84億9954万余円 | |
運搬費の積算額 | 6億2460万余円 | (平成9、10両年度) |
低減できた積算額 | 1億7240万円 | (平成9、10両年度) |
上記に対する国庫補助金相当額 | 1億0070万円 |
1 事業の概要
水産庁では、漁港法(昭和25年法律第137号)等に基づき、都道府県、市町村が事業主体となって、漁港の整備のために実施している漁港修築事業、漁港改修事業及び漁港局部改良事業等(以下、これらを「漁港整備事業」という。)に対し、毎年度補助金を交付している。
漁港整備事業では、漁船の航路、泊地を確保するなどのため、海底地盤を掘削する浚渫工が多数実施されている。浚渫工は、海底地盤の浚渫作業を行う浚渫船及びその揚錨船、浚渫した土砂等を土捨場所まで運搬するための土運船及び土運船をえい航する引船などにより施工されている(参考図参照)
。
事業主体では、土運船による浚渫土砂等の運搬に要する経費(以下「運搬費」という。)を、水産庁制定の「漁港関係工事標準歩掛」(以下「標準歩掛」という。)により積算している。浚渫工のうち最も多く施工されているグラブ浚渫船(注1) による浚渫に使用する船舶及び機械の規格選定については、標準歩掛により次のように定められている。
(ア) グラブ浚渫船のグラブ容量については、施工水深(20m未満から45m以上の5区分)、施工土厚(1m未満から4m以上の4区分)、施工土量(10,000m3 未満から30,000m3 以上の4区分)により、2.5m3 から23m3 の9区分の規格から選定する。
(イ) 土運船については、上記(ア)により選定されたグラブ容量、土質区分(「粘性土及び砂質土」と「レキ混り土砂及び岩盤」の2区分)、運搬距離(2区分又は3区分)により、300m3 積、650m3 積、1,300m3 積の3区分の規格から選定する。また、これに基づき引船の規格(500馬力から1500馬力の3区分)が決定されることとなる。
(ウ) 土運船の1日当たり所要隻数は、引船にえい航された土運船が浚渫場所と土捨場所を往復している間も、浚渫場所で浚渫土砂等の積込作業が連続して行われるよう、往復している土運船の隻数に1隻を加算して算出することとなっている。また、引船の1日当たり所要隻数は、往復している土運船の隻数と同じ隻数となる。したがって、最小単位の船団でも土運船2隻、引船1隻の構成となる。
(エ) 上記(イ)及び(ウ)により決定された船団の1日当たりの運転費を1日当たり浚渫量で除して浚渫土砂等1m3 当たりの運搬単価を算出し、これに運搬数量を乗じたものが浚渫土砂等の運搬費となる。
2 検査の結果
浚渫土砂等の運搬費の積算に当たって、土運船の規格が浚渫能力、運搬距離等により決定される浚渫量に見合った規格となっているかに着眼して検査した。
平成9、10両年度に北海道ほか11県(注2) 、及び岩手県ほか6県管内(注3) の53市町村、計65地方公共団体が事業主体として実施している漁港整備事業のうち、浚渫土砂等の運搬費の積算額が100万円以上の190工事(工事費総額263億1385万余円、運搬費積算額合計13億4575万余円)を対象として検査を実施した。
検査したところ、上記190工事のうち、青森県ほか10県(注4) 、及び新潟県ほか3県管内(注5) の33市町村、計44地方公共団体が事業主体として実施した96工事(工事費総額141億6990万余円、国庫補助金84億9954万余円)の運搬費の積算額6億2460万余円について、次のような事態が見受けられた。
(ア) 上記工事では、施工水深が20m以上のものはなく、6m未満のものが約3分の2を占め、施工土厚についても2m未満が半数を占め、また、施工土量も30,000m3
を超えるようなものは少なく平均5,200m3
程度であった。このような漁港整備事業における浚渫工の実態から、標準歩掛によりグラブ容量2.5m3
、5m3
等の小規格のグラブ浚渫船が多く選定されていた。そして、これらのグラブ浚渫船に見合った土運船としては、標準歩掛では300m3
積が最小規格であるため、これを適用しているものが多数あった。
しかし、土運船の規格は標準歩掛で最小規格としている300m3
積より更に小規格の100m3
積等のものが広く普及しており、小規格のグラブ浚渫船に対応した土運船としては、これら小規格のものを適用できるようにする必要があると認められた。
(イ) また、標準歩掛において、土運船の規格については、グラブ浚渫船のグラブ容量ごとに「粘性土及び砂質土」と「レキ混り土砂及び岩盤」の2区分の土質区分により分類し、さらに、実際の運搬距離を「20km未満」と「20km以上」の2区分とするなどした運搬距離区分に当てはめて選定することになっている。
しかし、この標準歩掛の方法では、グラブ容量が同一でも土質、N値(地盤強度)等により浚渫能力が大きく異なるということが考慮されておらず、また、運搬距離についても土運船の規格を選定するのに重要な要素となるにもかかわらず実際の運搬距離が用いられていない。そのため、上記工事では、300m3
積の土運船で十分であったものに対して650m3
積のものが選定されるなど過大な規格の土運船が選定されているものがあった。
そこで、前記の96工事において選定されたグラブ浚渫船の浚渫能力等により、土運船の往復時間内にもう1隻の土運船に積み込まれる土砂等の量(以下「浚渫積込量」という。)を算出し、これを土運船の容量等で除した積込率を計算すると平均16%程度となっていた。すなわち、土運船の規格選定は、その容量の平均16%程度しか積み込まないうちに、運搬作業を終えた土運船が浚渫場所に戻ることになる非効率なものとなっていた。
したがって、標準歩掛に基づき選定された上記各工事の土運船の規格は過大なものとなっていると認められ、運搬費の積算に当たってはグラブ浚渫船の浚渫能力、運搬距離等から計算される浚渫積込量に見合った規格により積算すべきであると認められた。
上記により、96工事の運搬費について、浚渫積込量に見合った土運船及び引船の規格を選定し修正計算すると、計4億5213万余円となり、前記積算額6億2460万余円を約1億7240万円(国庫補助金相当額約1億0070万円)低減できたと認められた。
このような事態が生じていたのは、事業主体において経済的な積算に努めるという配慮が十分でなかったことにもよるが、水産庁において次のようになっていたことによると認められた。
(ア) 漁港整備事業におけるグラブ浚渫船による浚渫工の実態から小規格のグラブ浚渫船が選定されることが多いことを確認していなかったため、一般に広く普反している100m3 積等の小規格の土運船を標準歩掛において考慮していなかったこと
(イ) 標準歩掛における土運船の規格選定において、浚渫積込量に見合った選定が行われるようになっていなかったこと
3 当局が講じた改善の処置
上記についての本院の指摘に基づき、水産庁では、11年10月に、グラブ浚渫船による浚渫工の積算においては、100m3 積の土運船を選定規格に加え、土運船の規格は、浚渫積込量を考慮して選定することとする通達を発し、同年12月以降契約を締結する工事から適用することとする処置を講じた。
(注1) グラブ浚渫船 土砂等を浚渫するためのグラブバケットを備えた作業船
(注2) 北海道ほか11県 北海道、青森、宮城、山形、福島、新潟、兵庫、島根、山口、長崎、宮崎、鹿児島各県
(注3) 岩手県ほか6県 岩手、新潟、兵庫、島根、山口、長崎、鹿児島各県
(注4) 青森県ほか10県 青森、宮城、山形、福島、新潟、兵庫、島根、山口、長崎、宮崎、鹿児島各県
(注5) 新潟県ほか3県 新潟、山口、長崎、鹿児島各県