ページトップ
  • 平成10年度|
  • 第3章 個別の検査結果|
  • 第1節 省庁別の検査結果|
  • 第11労働省|
  • 不当事項|
  • 医療費

労働者災害補償保険の療養の給付に要する診療費の支払が適正でなかったもの


(208) 労働者災害補償保険の療養の給付に要する診療費の支払が適正でなかったもの

会計名及び科目 労働保険特別会計(労災勘定) (項)保険給付費
部局等の名称 労働本省(支出庁)
福島労働基準局ほか12労働基準局(審査庁)
支払の相手方 395医療機関
不適正な支払となっていた労災診療費 手術料、入院料、リハビリテーション料等
不適正支払額 57,384,607円

1 保険給付の概要

(労働者災害補償保険)

 労働者災害補償保険は、工場、事務所、商店等に雇われる労働者の業務上の事由又は通勤による負傷、疾病等に対し療養の給付等の保険給付を行うほか、労働福祉事業を行う保険である。

(療養の給付に要する診療費の支払)

 療養の給付は、保険給付の一環として、都道府県労働基準局長の指定する病院若しくは診療所又は労働福祉事業で設置された病院において、負傷又は発病した労働者(以下「傷病労働者」という。)に対し診察、処置、手術等(以下「診療」という。)を行うものである。そして、診療を行ったこれらの医療機関は、都道府県労働基準局に対して診療に要した費用(以下「労災診療費」という。)を請求することとなっており、都道府県労働基準局では請求の内容を審査し、その結果に基づき、労働本省において労災診療費を支払うこととなっている。
 労災診療費は、労働省労働基準局長が定めた「労災診療費算定基準について」(昭和51年基発第72号。以下「算定基準」という。)に基づき算定することとなっている。この算定基準によれば、労災診療費は、労災診療の特殊性などを考慮して、〔1〕 健康保険法(大正11年法律第70号)に基づく診療報酬点数表の点数(以下「健保点数」という。)に12円(法人税等が非課税となっている公立病院等については11円50銭)を乗じて算定すること、〔2〕 初診料、再診料等特定の診療項目については、健保点数とは異なる点数又は金額を別に定めこれにより算定することとなっている。

2 検査の結果

(検査の対象)

 福島労働基準局ほか12労働基準局において、労災診療費の請求に対する支払の適否について検査した。

(不適正支払の事態)

 検査したところ、上記の13労働基準局において、手術料、入院料、リハビリテーション料、処置料、特定入院料等の労災診療費が不適正に支払われていたものが、395医療機関について57,384,607円あった。これは、医療機関が労災診療費を誤って算定し請求していたのに、13労働基準局において、これに対する審査が十分でないまま支払額を決定していたことによるものである。

(主な態様)

 上記の労災診療費が不適正に支払われていた事態について、その主な態様を診療報酬の別に示すと次のとおりである。

ア 手術料に関するもの

 手術料は、創傷処理、植皮術等の区分ごとの所定点数により算定することとなっている。そして、一回の皮切により手術を行い得る範囲(以下「同一手術野」という。)の手術につき、2以上の手術を同時に行った場合の手術料は、主たる手術の所定点数のみにより算定することとなっている。
 しかし、13労働基準局において、手術料が265医療機関に対し480件、27,518,988円不適正に支払われていた。その主なものは次のとおりである。

(ア) 本来算定すべき区分の所定点数によらず、異なる区分のより高い所定点数により算定していた。

(イ) 同一手術野につき2以上の手術を同時に行っているのに主たる手術の所定点数によらず、それぞれの手術の所定点数により算定していた。

イ 入院料に関するもの

 傷病労働者が、医師又は看護婦の常時監視を要する症状であるなどの算定要件に該当する場合は、入院室料加算を算定できることとなっている。その額は、1日につき個室9,000円(都市部は10,000円)、2人部屋4,500円(同5,000円)を限度(以下、この額を「上限金額」という。)として、各医療機関が表示している金額で算定することとなっている。
 しかし、13労働基準局において、入院料が98医療機関に対し453件、17,168,483円不適正に支払われていた。その主なものは次のとおりである。

(ア) 入院室料加算の算定要件に該当しない傷病労働者について、入院室料加算を算定していた。

(イ) 入院室料加算を医療機関が表示している金額によらず、上限金額により算定していた。

ウ リハビリテーション料に関するもの

 リハビリテーション料は、理学療法等の区分ごとの所定点数により算定することとなっている。そして、特定の施設基準に適合しているものとして届出を行った医療機関において、入院中の患者については入院の日、外来の患者については初診の日、急性発症したせき髄損傷等の患者については発症の日(以下、これらの日を「入院の日等」という。)から起算して6箇月を超えた期間に理学療法等を行った場合、6箇月以内に行った場合の所定点数よりも低い所定点数により算定することとなっている。また、急性発症したせき髄損傷等の患者に対して理学療法等を発症後3箇月以内に行った場合は、1日につき理学療法等の所定点数に一定の点数を加算して算定できることとなっている。
 しかし、9労働基準局において、リハビリテーション料が27医療機関に対し186件、4,287,029円不適正に支払われていた。その主なものは次のとおりである。

(ア) 入院の日等から起算して6箇月を超えた期間に行った理学療法等であるのに、6箇月以内に行った場合の高い所定点数により算定していた。

(イ) 急性発症したせき髄損傷等でない傷病労働者や発症後3箇月を超えている急性発症したせき髄損傷等の傷病労働者に対する理学療法等であるのに、所定点数に一定の点数を加算して算定していた。

(都道府県労働基準局別の内訳)

 上記の不適正支払額を都道府県労働基準局別に示すと次のとおりである。

労働基準局名

医療機関数 不適正支払件数 不適正支払額
福島労働基準局  
18

95
千円
1,180
群馬労働基準局 22 94 2,305
東京労働基準局 72 277 11,202
神奈川労働基準局 29 114 3,249
石川労働基準局 23 76 1,907
愛知労働基準局 22 112 3,959
大阪労働基準局 58 630 11,090
岡山労働基準局 22 160 3,732
広島労働基準局 32 92 4,146
山口労働基準局 26 133 4,558
高知労働基準局 10 59 1,165
福岡労働基準局 43 183 7,534
長崎労働基準局 18 64 1,351
395 2,089 57,384