会計名及び科目 | 一般会計 (組織)消防庁 (項)消防防災施設等整備費 |
部局等の名称 | 消防庁 |
補助の根拠 | 消防施設強化促進法(昭和28年法律第87号) |
事業主体 | 町8、村1、計9事業主体 |
補助事業 | 消防施設整備 |
補助事業の概要 | 市町村の消防水利を確保するため、防火水槽を建設するもの |
事業費 | 4億6808万余円 | (平成9、10両年度) |
上記に対する国庫補助金交付額 | 2億1588万円 | |
不適切と認めた事業費 | 1億4534万円 | (平成9、10両年度) |
上記に対する国庫補助金交付額 | 7235万円 |
1 事業の概要
消防庁では、消防施設整備事業の一環として有蓋の防火水槽の整備を行う市町村に対し、市町村消防施設整備費補助金を交付している。
この補助金の交付を受けようとする市町村は、その交付要綱に基づき、交付申請書に防火水槽の設計書、構造図等の関係書類を添付して都道府県に提出し、都道府県はその審査を行い、消防庁に提出することとされている。
補助の対象となる防火水槽は、交付要綱等により貯水容量が40m3 以上の地中構造物で、自動車の進入が予想されない場所に設置するI型と、それ以外の場所に設置するII型の2種類に区分されている。そして、これら防火水槽は設置現場で鉄筋を組み立てコンクリートを打設して建設されるもの(以下「現場打ち防火水槽」という。参考図参照 )と、工場において生産された部材を使用して建設されるもの(以下「二次製品防火水槽」という。)とがある。
現場打ち防火水槽の強度の基準は交付要綱において次のように定められており、市町村はこれらに基づき防火水槽の設計において構造計算を行い、所定の強度を確保することとされている。
〔1〕 上載荷重、自重等に対する強度を有し耐久性があること。上載荷重については、I型にあっては1.0tf/m2 の荷重を、II型にあっては設置場所の状況に応じて総重量14tから25tまで(平成9年度以前は総重量20t)の自動車荷重を、それぞれ考慮すること
〔2〕 主鉄筋及び配力鉄筋は原則として直径13mm以上の異形鉄筋を使用し、1基当たりの鉄筋の使用量は、I型にあっては1,600kg以上、II型にあっては2,000kg以上とすること
また、消防庁では、設計の際の執務の参考とするため技術指針を作成している。この技術指針では、現場打ち防火水槽が地中構造物であり水密性を要する構造物であるので、有害なひび割れが生じないよう鉄筋の常時(注1) の許容引張応力度(注2) を原則として1,200kgf/cm2 と定めている。
2 検査の結果
補助事業で建設される防火水槽のうち二次製品防火水槽は交付要綱で定める強度を有する旨の認定を受けたものを使用することとされている。その際の鉄筋の常時の許容引張応力度は1,200kgf/cm2 となっている。そこで、現場打ち防火水槽についても構造計算を行い交付要綱で定める強度を有したものとなっているかに着眼して検査した。
北海道ほか5県(注3) の27市町村において、9、10両年度に建設された現場打ち防火水槽103基(事業費計4億6808万余円、国庫補助金計2億1588万円)を対象として検査した。
検査したところ、秋田県ほか4県(注4)
の15市町村が建設した現場打ち防火水槽のうち、69基について、その設計に当たり構造計算を行っていないなどの事態が見受けられた。
このため、これらの現場打ち防火水槽について、前記の交付要綱に定められた強度が確保されたものとなっているかを確認するため、I型については1.0tf/m2
の荷重を、II型については設置場所の状況に応じた自動車荷重等をそれぞれ考慮して応力計算を行った。その結果、69基のうちには上記5県の10町村で、底版中央部等の主鉄筋に生じる常時の引張応力度(注2)
が、前記の技術指針で定める許容引張応力度1,200kgf/cm2
を上回るものが37基あった。このうち、9町村で建設した35基(事業費計1億4534万余円、国庫補助金計7235万余円)については、次表のとおり、許容引張応力度1,200kgf/cm2
を大幅に上回る1,800kgf/cm2
を超えるものとなっていた。そして、このなかには、3,000kgf/cm2
を超えているものが10基あった。
区分 | 市町村数 | 防火水槽数 (基) |
事業費 (千円) |
補助金額 (千円) |
|||
検査対象 | 27 | 103 | 468,088 | 215,880 | |||
構造計算を行っていないなどしていたもの | 15 | 69 | 312,509 | 143,403 | |||
引張応力度が技術指針の許容引張応力度1200kgf/cm2 を大幅に上回っているもの | 9 | 35 | 145,343 | 72,358 | |||
内訳 | 引張応力度が1,800kgf/cm2 注(1) を超えて3,000kgf/cm2 以下のもの | 6 | 25 | 105,418 | 54,471 | ||
引張応力度が3,000kgf/cm2 注(2) を超えているもの | 3 | 10 | 39,925 | 17,887 |
注(1) 1,800kgf/cm2 防火水槽と同じ地中構造物で、その構造が類似するボックスカルバートについては、「道路土工−カルバート工指針」(社団法人日本道路協会編)により、通常現場打ち防火水槽に使用される鉄筋SD295Aの場合には、常時の許容引張応力度は1,800kgf/cm2 以下とされている。
注(2) 3,000kgf/cm2 材の外からかかる力を取り去れば、力がかかったときに生ずるひずみが消滅する弾性域から、力を取り去ってもひずみが残る塑性域に移る点を降伏点という。鉄筋SD295Aの降伏点は3,000kgf/cm2 以上となっている。
したがって、上記のように、防火水槽の設計に当たり構造計算を行わなかったなどのため、地中構造物である防火水槽の強度を確保するために定められた技術指針上の許容引張応力度を大幅に上回り、所要の安全度が確保されていない状態となっているのは適切とは認められず、改善の要があると認められた。
このような事態が生じていたのは、次のことなどによると認められた。
(ア) 消防庁において、県及び町村に対して、現場打ち防火水槽の設計に当たり、交付要綱に定める強度を確保するための構造計算の必要性について十分に周知していなかったこと
(イ) 県において、補助金交付申請の審査に際し強度を確認していなかったこと
(ウ) 町村において、交付要綱で定める鉄筋の使用量等を充たせば、構造計算を行わなくても所定の強度が確保されるものと誤解していたこと
3 当局が講じた改善の処置
上記についての本院の指摘に基づき、消防庁では、11年10月に、都道府県に対して通知を発し、現場打ち防火水槽の設計に当たり強度を確保するための構造計算を行う必要があることを市町村に周知徹底させるとともに、交付申請の審査に際し都道府県が構造計算書等によりその強度を確認することとする処置を講じた。
(注1) 常時、地震時などに対応する表現で、土圧など常に作用している荷重及び輪荷重など作用頻度が比較的高い荷重を考慮する場合をいう。
(注2) 許容引張応力度・引張応力度 「引張応力度」とは、材に外から引張力がかかったとき、そのために材の内部に生ずる力の単位面積当たりの大きさをいう。その数値が設計上許される上限を「許容引張応力度」という。
(注3) 北海道ほか5県 北海道、秋田、富山、岡山、広島、長崎各県
(注4) 秋田県ほか4県 秋田、富山、岡山、広島、長崎各県