科目 | (一般勘定) (項)業務費 |
部局等の名称 | 簡易保険福祉事業団 |
労働保険の保険料の納付額 | 5億8519万余円 | (平成9、10両年度) |
上記のうち労災保険料の納付額 | 1億9905万余円 | |
節減できた労災保険料の納付額 | 5813万円 |
1 労災保険の概要
簡易保険福祉事業団(以下「事業団」という。)は、簡易生命保険の加入者の健康の増進と福祉の充実を図るため、全国120箇所に保養センター、加入者ホーム等の加入者福祉施設(注1)
を設置している。そして、これらの施設の運営に従事する職員及び臨時職員(以下「職員等」という。)として、平成10年度年間平均で合計3,334人(事業団本部に勤務する職員等187人を含む。)を使用している。
事業団では、これらの職員等に係る労働保険(労働者災害補償保険(以下「労災保険」という。)及び雇用保険の総称)については、労働保険の保険料の徴収等に関する法律(昭和44年法律第84号。以下「徴収法」という。)第4条の2の規定に基づき、各施設に、それぞれ所轄の労働基準監督署長に対して保険関係の成立等の届出(注2)
や毎年度の保険料の申告及び納付の手続を行わせている。そして、上記の120施設のうち運営を休止している施設等を除いた113施設及び事業団本部で納付した労働保険料の総額は、9、10両年度分で5億8519万余円となっている。このうち労災保険料は1億9905万余円(9年度分9916万余円、10年度分9988万余円)である。
(注1) 加入者福祉施設 保養センター80(施設数。以下同じ)、加入者ホーム14、レクリエーションセンター10、診療所9、総合健診センター5、会館2
(注2) 保険関係の成立等の届出 保険関係は保険者である政府と保険加入者である事業主との間で成立し、事業主は事業の開始又は事業所の改廃等の都度、これを届け出ることとなっている。
労働保険の保険関係は個々の事業ごとに成立するが、事務処理の簡素化のため、徴収法第9条等の規定により、事業主が同一人である二以上の事業であって、それぞれ事業の種類を同じくする一元適用事業(注3)
であるなど一定の要件を満たす継続事業(注4)
については、事業主が、個々の事業を一括して一の保険関係とする申請ができることとなっている。
そして、事業主がこの申請をし、労働大臣の認可があったときは、二以上の事業に使用されるすべての労働者は、そのうちいずれか一の事業に使用される労働者とみなすこととなっている。
(注3) 一元適用事業 労災保険の保険関係と雇用保険の保険関係との双方を一の事業についての保険関係として取り扱い、労働保険料の申告・納付等を両保険につき一元的に処理することができる事業
(注4) 継続事業 土木建築等の請負事業のように一定の期間を定めて行われる有期事業に対し、あらかじめ事業の終了時期が予定されていないものをいい、大部分の事業はこれに該当する。
労働保険のうち労災保険の保険料は、事業主が全額負担するもので、労働者に支払った賃金総額に、各事業の種類ごとに定められた労災保険率を乗じて算定することとなっている。この労災保険率は、過去3年間の全国における業務災害及び通勤災害に係る災害率等を考慮して毎年度労働大臣が定めており、10年度では、事業の種類によって、それぞれ1000分の6(「その他の各種事業」等)から1000分の134(「木材伐出業」等)までと定められている。
しかし、事業の種類が同一でも、業務災害の発生率には事業所によってかなりの違いが認められる。そこで、労災保険においては、保険料負担の公平を図り、かつ、事業主の自主的な災害防止努力を促進するため、一定の要件を満たす継続事業について、業務災害の状況に応じて上記の労災保険率を引き上げ又は引き下げるいわゆるメリット制が設けられている。
すなわち、徴収法第12条では、過去3年間において、100人以上の労働者を使用するなど一定の規模以上の事業で、労災保険の収支率(注5)
が85%を超える場合には労災保険率(通勤災害に係る分1000分の1を差し引いた率)を最大40%の範囲内で引き上げ、75%以下となる場合にはこれを同様に引き下げることとなっている。
(注5) 労災保険の収支率 過去3年間における業務災害に係る保険給付等の額を事業主が納付した保険料額(通勤災害に係る分を除く。)で除するなどして得た割合
事業団における本件114施設に適用されている労災保険率についてみると、各施設の事業の種類は、いずれも「その他の各種事業」に該当し、その標準の労災保険率は1000分の6となっている。そして、本部ほか4施設(注6)
では、職員等の数が100人以上であるなど事業規模が一定以上で、かつ、業務災害もほとんどなかったことから、従前からメリット制の適用を受けていて、上記の率を1000分の4(1施設では1000分の4.5)に引き下げた率となっている。
しかし、他の109施設においては、職員等の数がおおむね20人から50人程度と事業規模が小さいことから、メリット制の適用を受けることができず、労災保険率は1000分の6となっている。
(注6)
本部ほか4施設 本部、東京、京都両簡易保険会館、大阪簡易保険総合健診センター及び伊豆高原簡易保険保養センター
2 検査の結果
事業団の各施設では、従来から労働災害の防止について職員等の教育や施設利用者へのPRに努めており、業務災害の認定を受けた事故はほとんど発生していないと思料されるのに、大部分の施設において、事業規模が小さいことからメリット制の適用を受けていない。
そこで、各施設の事業を本部事業に一括して一の事業とすることを申請し、メリット制の適用を受けることにより保険料の節減を図ることができないか検査した。
検査したところ、次のような状況となっていた。
ア 事業の一括について
事業団の各施設における事業は、次のとおり、継続事業の一括の要件を満たしており、所定の手続をとることにより、各施設の事業について成立している保険関係につき、一括して徴収法の適用を受け、労働保険料の申告及び納付等を行うことができると認められた。
(ア) 施設の種類及び設置場所は異なっているが、事業主は同一人である。
(イ) 各施設の事業は、すべて継続事業である。
(ウ) 労災保険及び雇用保険の双方を一元的に処理する一元適用事業である。
(エ) 徴収法上、事業の種類が同一である。
イ メリット制の適用について
事業の一括が認められ本部事業に保険関係がまとめられた場合には、事業団の労災保険率は全体の収支率に基づいて算定されることになるが、これまでの各施設における業務災害の発生状況等からみると、将来にわたって労災保険の保険料について相当の節減を図ることができると認められた。
したがって、事業団本部において各施設の労働保険の申告及び納付手続を行うこととし、継続事業の一括申請をしてメリット制の適用が受けられる体制を整えることにより、業務災害の実態に見合った労災保険率の適用を受ける要があると認められた。
各施設の事業を本部の継続事業に一括することについて認可を受けていたとして、本部で適用を受けていた1000分の4で事業団全体の労災保険の保険料を計算すると、9年度7028万余円、10年度7062万余円、計1億4091万余円となり、労災保険の保険料は、9年度2888万余円、10年度2925万余円、計5813万余円が節減できたと認められた。
このような事態が生じていたのは、事業団において、労災保険の労災保険率について、継続事業の一括やメリット制の適用の可否についての検討が十分でなかったことなどによると認められた。
3 当局が講じた改善の処置
上記についての本院の指摘に基づき、事業団では、各施設でそれぞれ行ってきた労働保険の申告及び納付手続を本部で行うこととする体制を整え、11年4月に継続事業一括申請書を東京労働基準局長に提出した。そして、同年8月に認可を受け、本部事業について適用されている労災保険率1000分の4に基づいて算定した11年度分の労働保険料の納付を行い、労災保険の保険料の節減を図る処置を講じた。