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  • 平成10年度|
  • 第3章 個別の検査結果|
  • 第3節 特に掲記を要すると認めた事項

不動産の所有権の移転の登記に係る登録免許税について


第1 不動産の所有権の移転の登記に係る登録免許税について

関係省庁 法務省、大蔵省
会計名及び科目 一般会計 国税収納金整理資金 (款)歳入組入資金受入
(項)各税受入金
郵政事業特別会計 (款)業務収入
(款)業務外収入
(項)雑収入
(項)業務外収入
部局等の名称 東京法務局ほか31法務局等
根拠法 登録免許税法(昭和42年法律第35号)
不動産登記に係る登録免許税の概要 不動産の所有権の移転等の登記の際に課税されるもので、共有物の分割を登記原因とする場合、売買等に比べて低い税率が適用されるもの
検査した登記申請の件数 2,131件
低い税率により納税している登記申請の件数 655件
売買等による所有権の移転の登記をした場合との開差額
14億4456万円

1 制度の概要

(不動産登記に係る登録免許税)

 不動産登記を受ける者は、登録免許税法(昭和42年法律第35号)に基づき、登録免許税を納付することとなっている。 そして、この登録免許税の税額の認定、納付の確認等の事務は、不動産登記の際に登記所(法務局若しくは地方法務局又はその支局若しくは出張所をいう。以下同じ。)の登記官が行うこととなっている。
 このため、この不動産登記に係る登録免許税には、その徴収について次のような特徴がある。

(ア) 不動産の権利に関する登記の審査は書面審査により行われるため、税額の認定も書面審査によって行われる。

(イ) 登録免許税を納付しない時は登記申請を却下することとされているので、原則として徴収漏れが生じない。

(ウ) 登記後において登録免許税の納付不足等の事態が判明したなどの場合は、登記官から税務署にその旨を通知し、税務署において徴収等を行うこととなっているが、登録免許税法上は税務署の職員が納税者に対して税額等の調査を行うこととはされていない。

(所有権の移転の登記に係る登録免許税)

 不動産登記に係る登録免許税は、所有権の保存、所有権の移転、抵当権の設定等に係る登記を受ける場合に課税されており、それぞれに課税標準及び税率が定められている。そして、このうち所有権の移転の登記に係る登録免許税については、当該不動産の価額(注1) を課税標準とし、次に示す登記原因別に税率が定められている。

(ア) 相続又は法人の合併によるもの 1000分の6

(イ) 遺贈、贈与その他無償名義によるもの 1000分の25

(ウ) 共有物の分割によるもの 1000分の6

(エ) その他の原因(売買、代物弁済、交換等)によるもの 1000分の50

 そして、登記官は、申請書に記載された登記原因と他の提出書面等に記載の関連事項とを照合して所有権の移転の登記原因を確認することとなっている。

(共有物の分割)

 上記の所有権の移転の登記原因のうち共有物の分割は、主として次のような方法によって行われる。
(ア) 共有物を共有者各人の持分に応じて分割した上、分割したそれぞれを各人の単独所有とする方法(以下「持分に応じた現物分割」という。)

(イ) 共有物を現物分割することなく、共有者の一人が、他の共有者にその持分を金銭等で補償することにより、単独所有とする方法(以下「補償分割」という。)

 そして、共有物の分割を登記原因とする場合に税率が低くなっているのは、共有者の各人が共有不動産について持分に応じた現物分割をする場合には、既に当該不動産を取得して登記をした際に登録免許税を負担していることから、二重課税とならないようにすることを主たる目的として執られた措置とされている。

2 検査の結果

(検査の着眼点)

 本院のこれまでの検査の過程において、不動産の所有権の移転の登記の中に、低い税率の共有物の分割を利用することによって、登録免許税の納付額が少なくなっている事例が一部の登記所において見受けられた。
 すなわち、不動産の所有権を甲から乙に移転する場合に、当初に当該不動産のわずかな持分(例えば100分の1)を売買で移転して甲乙の共有状態とした後、残りの持分を補償分割として移転すると、当初の売買には税率1000分の50が適用されるが、これに引き続く補償分割には税率1000分の6が適用されることになる。したがって、全体の持分について売買を登記原因として所有権を移転する通常の場合に比べて登録免許税が少額で済むことになる。このようなことは、売買と同じ税率の代物弁済等や税率1000分の25が適用される贈与等を登記原因とする場合にも生じる(以下、売買にこれらの登記原因を含めて「売買等」という。)。
 そこで、本年の会計検査において、このような登記がどの程度あるか全国的に検査を行うこととした。

(検査の対象)

 平成10年度に全国で納付された土地建物の所有権の移転の登記に係る登録免許税の件数、税額は256万6千余件、5569億2百万余円となっており、このうち、今回検査を実施した東京法務局ほか31登記所(注2) における件数、税額は18万2千余件、1062億1千7百万余円となっている。
 上記の32登記所において、10年度中に受け付けた土地建物の登記申請(注3) のうち共有物の分割を登記原因とした所有権の移転の登記申請2,131件(土地延べ2,813個、建物延べ925個)を検査の対象とした。

(検査の結果)

 検査に当たっては、上記の2,131件の登記申請に係る土地建物の登記事項証明書又は登記簿謄本で所有権の移転の状況を確認した。
 その結果、売買等によって移転する持分の割合が少なく(全体の10分の1以下)、これに引き続いて短期間(30日以内)で共有物の分割による残りの持分の移転が行われていて、通常の所有権の移転の登記とは認め難い方法をとっている事例が、東京法務局ほか24登記所(注4) において655件(土地延べ1,033個、建物延べ613個)見受けられた。
 そして、これらの655件のうち、当初に移転した持分の大きさが100分の1以下であるものは626件(全体の95%)、当初の持分の移転の登記申請とこれに引き続く残りの持分の登記申請が同日に行われているものは612件(全体の93%)となっていた。
 このような事例は、共有物の分割を登記原因とする場合の税率が売買等に比べて低くされていることを利用し、登録免許税の軽減を目的として登記申請を行っているとみなさざるを得ないものである。そして、このような方法による所有権の移転の登記にまで共有物の分割の低い税率を適用することは、二重課税を防止するという趣旨に合わず、ひいては、税負担の公平を欠く結果を招いていると認められる。
 これらの655件について、売買等を登記原因とする1回の登記申請で所有権の移転の登記が行われたと仮定した場合の納付税額を計算すると計16億5699万余円となり、実際に納付された税額計2億1242万余円との間に、14億4456万余円の開差が生じる。
 このうち一例を示すと、次のとおりである。

<事例>

 A登記所において、甲社及び乙社は、土地5筆(価額1,814,762,960円)及び建物1棟(価額1,144,302,000円)の所有権を甲社から乙社に移転するに当たり、登記申請を次のように行っていた。
 平成10年12月の登記申請において、当該土地及び建物の持分100分の1を甲社から乙社に売買を登記原因として移転し、課税標準(当該土地の価額の40%相当額(注5) と建物の価額の合計額に100分の1を乗じた金額)18,702,000円に税率1000分の50を乗じて算出した税額935,100円を納付していた。
 そして、同日中に上記の登記申請に連続して、当該土地及び建物の残りの持分100分の99を甲社から乙社に共有物の分割を登記原因として移転する登記申請を行い、課税標準(当該土地の価額の40%相当額と建物の価額の合計額に100分の99を乗じた金額)1,851,505,000円に税率1000分の6を乗じて算出した税額11,109,000円を納付していた。
 しかし、売買を登記原因とする1回の登記申請で甲社から乙社に所有権の移転の登記をしたとすれば、課税標準は1,870,207,000円となり、これに税率1000分の50を乗じて算出された税額93,510,300円を納付すべきこととなり、実際に納付された上記の税額計12,044,100円との間に81,466,200円の開差が生じる。

3 本院の所見

 不動産登記に係る登録免許税の課税においては、公平な税負担の観点から真実の登記原因に基づき適正な税率を適用することが重要である。
 しかし、今回東京法務局ほか31登記所において検査を実施した結果、上記のような事例が多数見受けられた。
 本件事態は、基本的には一部の登記申請者の納税意識の欠如に起因するものであるが、法律、制度面における次のような事情にもよると認められる。

(ア) 登録免許税法では、共有物の分割による所有権の移転の登記には税率1000分の6を適用すると規定されているので、前記のような極端な事例であってもこの税率が適用されること

(イ) 不動産の権利に関する登記については、登記官は多数の登記申請を迅速に処理しなければならないことなどから、書面により審査する方法が執られており、登記原因等の実態を調査する制度にはなっていないこと

(ウ) 税務署の職員が登録免許税の納税者に対して調査を行う制度にはなっていないこと
 上記の事情を勘案すると、本件事態を是正し税負担の公平化を図る解決策は容易に見出し得ない状況にある。しかし、適正公平な課税の実現が図られるよう、登録免許税の税額の認定及び納付の確認を行う法務省、租税に関する制度の調査、企画及び立案を所掌する大蔵省等において検討、協議を行い、本件事態の是正に向けた適切な処置が執られることが望まれる。

(注1)  当該不動産の価額 登記の申請日に応じて、その年の1月1日又は前年の12月31日現在において地方税法(昭和25年法律第226号)第341条第9号に掲げる固定資産課税台帳に登録された当該不動産の価格等によっている。

(注2)  東京法務局ほか31登記所 東京、大阪、広島、札幌各法務局、千葉、静岡、甲府、神戸、和歌山、福井、金沢、大分、福島、山形、函館、松山各地方法務局、浜松、尼崎各支局、港、台東、品川、渋谷、新宿、豊島、調布、西、今宮、天王寺、茨木、金沢西、祇園、北各出張所

(注3)  一部の登記所については、平成10年度の一部の期間の登記申請、土地のみに係る登記申請又は管轄区域の一部の区域に所在する土地建物に係る登記申請を検査の対象とした。

(注4)  東京法務局ほか24登記所  東京、大阪、広島、札幌各法務局、千葉、神戸、和歌山、大分、福島、函館、松山各地方法務局、浜松、尼崎各支局、港、台東、品川、渋谷、新宿、豊島、調布、西、今宮、天王寺、茨木、北各出張所

(注5)  租税特別措置法(昭和32年法律第26号)第84条の4の規定により土地に係る課税標準である不動産の価額は、当該不動産の価額に100分の40(平成11年4月以降は3分の1)を乗じた金額とされている。