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  • 平成10年度|
  • 第4章 特定検査対象に関する検査状況

政府開発援助について


第2 政府開発援助について

検査対象 (1) 外務本省
(2) 国際協力事業団
(3) 海外経済協力基金(平成11年10月1日以降は「国際協力銀行」)
政府開発援助の内容 (1) 無償資金協力
(2) プロジェクト方式技術協力
(3) 円借款
平成10年度実績 (1) 2679億0411万余円
(2) 405億3786万余円
(3) 9150億9183万余円
<現地調査を実施したもの>
現地調査実施国数並びに事業数及び対象事業費 8箇国
(1) 72事業 1188億7735万余円
(2) 15事業 146億2014万余円
(3) 14事業 627億2991万余円
援助の効果が十分発現していないと認めた事業数 無償資金協力 2事業
プロジェクト方式技術協力 1事業
円借款 1事業
<国内において検査を実施したもの>
援助の実施が適切とは認められない事業 無償資金協力 1事業

1 政府開発援助の概要

 我が国は、開発途上国の健全な経済発展を実現することを目的として、その自助努力を支援するため、政府開発援助を実施している。その援助の状況は、地域別にみるとアジア、アフリカ、中南米、中近東等の地域に対して供与されており、特にアジア地域に重点が置かれている。また、分野別にみると運輸、エネルギー、水供給・衛生、農林水産、教育、鉱工業・建設等の各分野となっている。
 そして、我が国の二国間政府開発援助は毎年度多額に上っており、平成10年度の実績は、無償資金協力(注1) 2679億0411万余円、プロジェクト方式技術協力(注2) 405億3786万余円、円借款(注3) 9150億9183万余円(注4) などとなっている。

(注1)  無償資金協力 相手国の経済・社会の発展のための事業に必要な施設の建設、資機材の調達等のために必要な資金を返済の義務を課さないで供与するもので、外務省が実施している。

(注2)  プロジェクト方式技術協力 相手国の経済・社会の開発に役立つ技術・技能・知識を移転し、技術水準の向上に寄与することを目的として、研修員の受入、専門家派遣及び機材供与の3形態を一つのプロジェクトとして有機的に統合し、その計画の立案から実施、評価までを一貫して行うもので、国際協力事業団が実施している。

(注3)  円借款 相手国における経済・社会の開発のための基盤造りに貢献する事業等に係る費用を対象として、相手国に対し長期かつ低利の資金を貸し付けるもので、海外経済協力基金が実施している。

(注4)  債務繰延べを行った額120億1492万余円を含む。

2 検査の範囲及び着眼点

 本院は、無償資金協力、プロジェクト方式技術協力、円借款等(以下「援助」という。)の実施及び経理の適否を検査するとともに、援助が効果を発現し、援助の相手となる開発途上国(以下「相手国」という。)の経済開発及び福祉の向上などに寄与しているか、援助の制度や方法に改善すべき点はないかなどについて検査している。この検査の範囲及び着眼点について、我が国の援助実施機関に対する検査及び相手国において行う現地調査の別に具体的に示すと、次のとおりである。

(1) 我が国援助実施機関に対する検査
 本院は、国内において、援助実施機関である外務省、国際協力事業団(以下「事業団」という。)及び海外経済協力基金(11年10月1日以降は国際協力銀行。以下「基金」という。)に対して検査を行うとともに、海外においても、在外公館、事業団の在外事務所及び基金の駐在員事務所に対して検査を行っている。
 これら我が国援助実施機関に対する検査に当たっては、次のとおり、多角的な着眼点から検査を実施している。

(ア) 我が国援助実施機関は、事前の調査、審査等において、事業が相手国の実情に適応したものであることを十分検討しているか。

(イ) 援助は交換公文、借款契約等に則したものになっているか、また、支払、貸付けなどは法令、予算等に従って適正に行われているか。

(ウ) 我が国援助実施機関は、援助対象事業を含む事業全体の進ちょく状況を的確に把握し、援助の効果が早期に発現するよう適切な措置を執っているか。

(エ) 我が国援助実施機関は、援助実施後、事業全体の状況を的確に把握、評価し、必要に応じて追加的な措置を適切に執っているか。

(2) 現地調査

 相手国に対しては、我が国援助実施機関に対する検査の場合とは異なり本院の検査権限は及ばない。しかし、援助は相手国が主体となって実施する事業に必要な資金を供与するなど、相手国の自助努力を支援するものであり、その効果が十分発現しているか否かなどを確認するためには、我が国援助実施機関に対する検査のみでは必ずしも十分ではない。このため、本院では、相手国に赴いて、我が国援助実施機関の職員等の立会いの下に相手国の協力が得られた範囲内で、次の着眼点から、事業の実施状況を中心に現地調査を実施している。

(ア) 事業は計画どおり順調に進ちょくしているか。

(イ) 援助対象事業が、他の開発事業と密接に関連している場合、その関連事業の実施とは行等が生じないよう調整されているか。

(ウ) 援助の対象となった施設、機材、移転された技術等は十分利用されているか。

(エ) 事業は所期の目的を達成し、効果を上げているか。

(オ) 事業は援助実施後においても相手国によって順調に運営されているか。
 そして、毎年数箇国を選定して職員を派遣し、調査を要すると認めた事業について、相手国の事業実施責任者等から説明を受けたり、事業現場の状況の確認を行ったりなどし、また、相手国の保有している資料で調査上必要なものがある場合、相手国の同意が得られた範囲内で我が国援助実施機関を通じて入手している。

3 検査の状況

(1) 現地調査を実施したもの

ア 現地調査の対象

 本院は、11年中において上記の検査の範囲及び着眼点で検査を実施し、その一環として、8箇国において現地調査を実施した。現地調査は、1箇国につき3名から7名の職員を派遣し1週間ないし2週間実施した。そして、相手国において、治安、交通、衛生、言語、事業現場の点在等の制約がある中で、次の101事業について調査した。

〔1〕  無償資金協力の対象となっている事業のうち72事業(贈与額計1188億7735万余円)

〔2〕  プロジェクト方式技術協力事業のうち15事業(10年度末までの経費累計額146億2014万余円)

〔3〕  円借款の対象となっている事業のうち14事業(10年度末までの貸付実行累計額627億2991万余円)上記の101事業を、分野別にみると、農林水産34事業、運輸17事業、水供給・衛生9事業、保健8事業、教育6事業、通信6事業、エネルギー5事業などとなっており、その国別の現地調査実施状況は、次表のとおりである。

国別現地調査実施状況表

国名 海外出張延人日数

(人日)

調査事業数

(事業)

援助形態別内訳 調査した事業に係る援助の実績額

(億円)

援助形態別内訳
無償資金協力

(事業)

プロジェクト方式技術協力

(事業)

円借款

(事業)

無償資金協力

(億円)

プロジェクト方式技術協力

(億円)

円借款

(億円)

エクアドル 68 12 8 1 3 280 68 6 205
フィジー 33 5 3 2 51 29 21
ラオス 64 14 13 1 214 202 11
マダガスカル 60 10 10 112 112
モンゴル 60 15 13 1 1 243 170 7 65
フィリピン 87 23 10 5 8 685 353 37 294
タンザニア 68 16 10 4 2 315 198 54 62
トンガ 15 6 5 1 59 52 7
455 101 72 15 14 1,962 1,188 146 627

イ 現地調査対象事業に関する検査の概況

 前記のとおり、相手国に対しては検査権限は及ばないこと、現地調査は国内とは状況の異なる海外で実施されることなどの制約の下で検査した。現地調査を実施した事業のうち、おおむね順調に推移していると認められたものの例を示すと次のとおりである。

<事例>  首都圏廃棄物処理改善事業(無償資金協力)

 この事業は、ラオス人民民主共和国の首都ヴィエンチャン市市街地で発生するごみを速やかに、かつ衛生的に処理するために廃棄物処理システムを構築するものである。
 外務省では、これに必要な資金として、平成8、9両年度に計6億7882万余円を贈与している。
 本件事業計画によると、ヴィエンチャン市当局では、ごみ収集率の目標を住居地域は48%、商業地域は60%と定め、これを達成するために、次のような施設の建設及び機材の調達を実施することとしていた。

〔1〕  既存のごみの最終処分場において、フェンス、搬入路、排水施設等を新設し、埋立て、整地等の整備を行い、管理棟を建設する。

〔2〕  トラック、コンテナ等のごみ収集・運搬用機材(93台)、ブルドーザ等の埋立処分用機材(5台)等を調達する。

〔3〕  ごみ収集・運搬用機材、埋立処分用機材等を適切に維持管理するために、整備場を建設する。

 そして、本件事業により整備された施設及び機材は、10年1月より供用が開始されている。
 本件事業において調達された機材は良好に稼働しており、同市におけるごみ収集率の実績をみると、住居地域は7年に12%であったものが10年には48%、商業地域は7年に22%であったものが10年には60%となり、いずれの地域も目標を達成している。
 そして、ごみ収集・運搬用機材等の維持管理について、事業実施前は民間の修理工場等に依頼していたため修理に時間を要していたが、予定どおり整備場が建設されたことにより、事業実施後は定期点検や軽微な補修が独力で行えるようになり、機材等が良好に管理できる状況になっている。
 また、ごみの最終処分場における処理状況について、処分場及び埋立処分用機材の整備により、搬入されたごみには当日中に覆土が施され、ごみの散乱や悪臭の発生などが防止されている。
 そして、本院調査時(11年3月)においても、本件事業の実施前にはごみの散乱、悪臭、はえの発生などにより劣悪であった衛生状態が改善されていた。
 このように、無償資金協力の対象となった本件事業は、同国により、ごみの最終処分場、管理棟、ごみ収集・運搬用機材、埋立処分用機材、整備場等が、適時適切に建設又は調達されていること、管理運営も適切に行われていることなどにより、本院調査時における事業現場の状況等から判断した限りでは、我が国の援助が効果を発現しているものと認められた。
 一方、現地調査を実施した事業のうち次の4事業については、援助の効果が十分発現していないと認められた。これらの事態の内容は次項に示すとおりであるが、援助の形態別に分類すると次のとおりである。

(ア) 無償資金協力の効果が十分発現していないもの

2事業
乳製品加工施設整備事業
マイクロフィルム機材整備事業

(イ)プロジェクト方式技術協力の効果が十分発現していないもの

1事業
(稲作研究開発技術協力事業)

(ウ)円借款の効果が十分発現していないもの

1事業
(国鉄南線活性化事業)

ウ 援助の効果が十分発現していない事業

(ア) 無償資金協力の効果が十分発現していないもの

〔1〕  無償資金協力の対象となった工場が、原料の調達が困難となったため生産量が著しく低くなっていて、十分稼働していないもの

<乳製品加工施設整備事業>

 この事業は、モンゴル国の首都ウランバートル市において、市民に乳製品を安定的に供給するため、冷凍設備機器を更新するなどして、既設の乳製品加工工場の機能回復を図るものである。
 外務省では、これに必要な資金として、平成7年度に8億7800万円を贈与している。
 本件工場は、旧ソビエト連邦の援助により昭和60年に建設されたもので、平成元年に4.4万tあった乳製品の生産量が、冷凍設備の能力の低下や集乳輸送車両の故障の多発などにより4年には1.8万tまで減少していた。
 本件事業計画によると、冷凍設備や計量設備を更新し、輸送用車両を整備することにより、本件工場の乳製品の生産能力を建設当初の生産能力である6.6万tまで回復させることとしていた。
 そして、冷凍設備等の据付け及び輸送用車両の整備は7年10月に完了し、供用が開始されている。
 しかし、本件工場の深刻な資金不足により原料乳の調達が困難な状況となったこと、農場の民営化により中央集権的な原料供給システムが崩壊したことなどから、乳製品の生産量は7年562.3t、8年1,139.2t、9年1,499.3tとなっていて、回復した生産能力を大幅に下回っている状況であった。
 上記のとおり、無償資金協力により機能回復が図られた乳製品加工工場は、生産量が著しく低くなっていて十分稼働しておらず、援助の効果が十分発現していない状況になっている。

〔2〕  文化無償協力(注5) により購入された機材が、使用期限の経過などのため、十分活用されていないもの

<マイクロフィルム機材整備事業>

 この事業は、エクアドル共和国において、国立図書館が保管している傷みが進み一般閲覧に適さない古文書6,675冊を撮影してマイクロフィルム化するため、マイクロフィルムカメラ、マイクロフィルム、現像機、現像液等の機材の整備を行うものである。
 外務省では、これに必要な資金として、平成5年度に3000万円を贈与している。そして、これらの機材は6年8月に同図書館への引渡しが完了している。
 しかし、同図書館では、7年1月から撮影を開始したものの、同図書館の予算が削減され専任の職員が配置されなかったことから、7年中に120冊をマイクロフィルム化しただけで、その後は本院調査時(11年4月)まで全くマイクロフィルム化は行われていなかった。
 また、購入されたマイクロフィルムについては、7年中に使用された50本を除く2,350本(購入価額6,345,000円)は使用期限が経過していた。現像液についても、7年中に使用された7本を除く233本(購入価額2,796,000円)は使用期限が経過していた。
 上記のとおり、マイクロフィルム化はほとんど進ちょくしておらず、これに伴い文化無償協力により購入されたマイクロフィルムカメラ等もほとんど活用されておらず、援助の効果が十分発現していない状況になっている。

(注5)  文化無償協力 無償資金協力のうち、開発途上国における文化、教育及び研究の振興、文化財及び文化遺産の保存活用等のために使用される資機材の購入に必要な資金を供与するもの

(イ) プロジェクト方式技術協力の効果が十分発現していないもの
 相手国政府の政策が変更されたため、移転された稲作技術が十分活用されていないもの

<稲作研究開発技術協力事業>

 この技術協力事業は、米の国内消費の半分程度を輸入に頼っているフィジー共和国において、米の増産を図り自給率を向上させることなどのため、稲作に係る技術の移転を行うものである。
 事業団では、昭和60年4月から平成5年8月までの間に、専門家計48名の派遣による現地指導、研修員計23名の受入れ及び所要機材の供与等を実施している(経費累計額13億3500万余円)。
 本件事業では、2年4月までは、同国における稲作研究の中心機関であるコロニビア農業試験場の職員等に対する栽培、普及等に関する技術の移転及びナウソリモデル農場ほか3モデル農場におけるほ場の整備を行うこととしていた。また、2年4月以降は、技術の移転を受けた職員等が、整備されたほ場において、移転された技術を地域の自然条件等に適合するような技術に改良し、モデル農場において農民にその技術を用いて稲作をさせるなどして、モデル農場周辺の農民に普及させることとしていた。

 そして、事業の期間中、上記4モデル農場のほ場において、改良技術を用いた作付けが行われ、単位当たり収穫量が2.9t/haから4.3t/haに増加していた。また、モデル農場周辺の農民に対する稲作技術の普及も行われていた。
 しかし、同国の農業政策の変更により、6年から稲作に関する補助金が打ち切られ、輸入米に対する関税の税率も下げられた。このため、本件事業の終了後、ナウソリモデル農場においては稲作が全く行われておらず、また、他の3モデル農場では従来の方法による作付けが行われたため単位当たり収穫量が2.7t/haまで減少し、事業実施前の水準(2.9t/ha)に戻っている状況であった。

 上記のとおり、モデル農場において改良された技術を用いた作付けが行われていないため、農民に対する稲作技術の普及を行える状況になく、技術協力により移転された技術が十分活用されておらず、援助の効果が十分発現していない状況になっている。

(ウ) 円借款の効果が十分発現していないもの
 円借款の対象となった国有鉄道において、維持補修が行われていないため、輸送力の向上が図られていないもの

<国鉄南線活性化事業>

 この事業は、フィリピン共和国において、同国の首都マニラ市からナガ市を経てルソン島南部のレガスピ市に至る国有鉄道南線を、高速かつ定刻に運行ができる鉄道とすることを目的として、軌道及び橋梁10箇所の修復等を行い、併せて機関車6両の調達並びに機関車5両及び客車67両の修理用部品の調達などを行うものである。
 基金では、これらに必要な資金として、平成2年5月から8年8月までの間に50億3665万余円を貸し付けている。
 本件事業が計画された元年当時、同線は、国有鉄道の主要な収入源となっていたが、軌道等の状態が悪く、列車の高速運転ができない状況にあった。このため、本件事業を実施することにより、マニラ市とナガ市間の急行列車の所要時間を約10時間から、バスの所要時間(9時間)より短い6時間に短縮し、また、旅客列車の本数を1日4本から10本に増発することとしていた。その結果、旅客数が増加し、貨物輸送量も増大するとしていた。

 そして、本件借款により軌道の修復、機関車の調達等を開始したところ、建設資材費、人件費の高騰などにより経費が大幅に増加したため、事業のすべてを実施することが困難となり、このままでは事業範囲を縮小せざるを得ない状況となった。そこで、軌道等の整備について本件借款で賄えない部分を、豪州輸出金融保険公社からの借款により実施することとし、10年7月までに本件事業を完成させた。
 しかし、国有鉄道の資金不足により、軌道、車両等の日常の維持補修が十分に行われず、同線の運行状況等は次のようになっていた。

〔1〕  旅客数については、事業実施前の元年には約100万人であったが、10年には約58万人に減少していた。

〔2〕  旅客列車本数については、本院調査時(11年6月)で事業実施前と同じ1日4本であった。

〔3〕  マニラ市・ナガ市間の普通列車の所要時間は、15時間から11時間に短縮されていたものの、急行列車については、本院調査時には運行されていなかった。

〔4〕  貨物については、事業実施前には年間6.3万tの輸送量があったが、4年以降その取扱いを中止していた。
 上記のとおり、軌道の修復や機関車の調達などを対象に借款を供与したにもかかわらず、同線の輸送力は増強されておらず、援助の効果が十分発現していない状況になっている。

(2) 国内において検査を実施したもの

ア 検査を実施することとなった経緯

 外務省では、同省が実施したブータン王国の国内通信網整備事業に対する無償資金協力(平成3年度から10年度までの贈与額59億6460万余円)において、無断で調達機材が変更されているなどの情報を入手したことから、その実施状況について調査した。
 この事態は、無償資金協力事業のあり方にも関わる問題であることから、本院は、同省の調査結果について詳細に検査することとし、同省の事後処理及び再発防止策の妥当性について検討することとした。

イ 検査の概況

(ア) 事業の概要

 本件事業は、ブータン国内を東西に横断するデジタル通信回線を整備するとともに、主要都市の電話通信網を整備することを目的として、3年7月から10年12月までの間に総額59億6460万余円で実施された。

(イ) 外務省の調査及びその結果

 外務省では、本件事業が、定められた手続に則って当初計画どおり適正に実施されているかについて、本件事業に係るコンサルタント及び請負業者から事情聴取を行い、入札図書、応札書類、契約書、契約書附属の機材リスト等の関係書類を調査するとともに、ブータンに職員を派遣して当局からの事情聴取、事業実施現場の確認等を行った。そして、完成した電話通信網は計画どおりの機能を備えていることが確認されたとする一方、次のような調査結果をとりまとめ、今後の対応などとともに、10年11月に公表した。
 調査結果によると、本件事業において24項目にわたる変更が我が国政府に無断で行われていた。これらの変更は、事業実施機関である同国通信省の要請に基づいて、同省、コンサルタント及び請負業者の3者が協議の上、同国政府と請負業者が契約書を取り交わす際に行っていたものである。

 そして、外務省では、上記の24項目のうち19項目に係る変更については、技術の進歩等により必要又は適切であったものであり一定の合理性が認められるので、所定の手続を踏んでいれば承認されていたものと考えられるとしている。しかし、残る5項目については、計画ではプレハブ工法とされていた中継所施設の建設を安価なレンガを用いた工法に変更していたり、計画にない車両を調達していたりなど、変更の内容に合理性がなく、所定の手続が踏まれていてもこれを承認しなかったとしている。
 同省では、この5項目に係る金額1億9575万余円については無償資金協力の対象としないと決定した。

(ウ) 事後処理の状況

 本院において、上記の外務省の調査結果及び事後処理の妥当性につき検査を行った。その結果、24項目の変更を確認し、これ以外の変更点は認められなかった。また、無償資金協力の対象としないことと決定した5項目に係る金額1億9575万余円については、支払が行われていなかった1億4218万余円を支払わないこととし、既に支払済みの5357万余円は11年4月に同国政府から返還された。

(エ) 外務省が講じた再発防止策の内容

 外務省は前記の調査結果を踏まえ、無償資金協力の適正実施確保のため、次のような改善策を講じた。

〔1〕  実施段階での計画変更に係る外務省への事前協議の徹底
 交換公文の附属文書に、実施段階での計画変更に当たっては、相手国が我が国政府に必ず事前協議を行い、その承認を得る旨を明記することとした。

〔2〕  抜き打ち的な現場調査の実施等
 無償資金協力の案件においては、外務省から依頼を受けた事業団が契約の履行状況及び進ちょく状況の確認を行うこととなっている。
 事業団に無償資金協力調査員を新たに配置し抜き打ち的な現場調査を実施させるとともに、コンサルタントに、事業団に対する各段階での報告書において、無断変更のない旨を相手国の確認を得た上で明記させる措置を講じた。

ウ 検討の結果

(ア) 事後処理の妥当性

 本院で前記の返還等の金額の算定及びこれらに係る会計処理について検討した結果、妥当性を欠く点は見受けられなかった。

(イ) 外務省が講じた再発防止策の妥当性

 前記の事態を踏まえて、外務省が講じた再発防止策は、事業の関係者がルールに従わずに行動した場合には、これに十分対応できるとは言い難く、また、外務省及び事業団の現在の人員体制では事業の実施状況を十分に確認することは困難であるが、外務省においては、今後とも実施体制の改善策に積極的に取り組み、この種の事態の再発防止に努める要がある。
 本院としても、前記再発防止策の実施状況や有効性について今後関心をもって十分に注視していくこととする。

4 本院の所見

 我が国の援助は、経済・社会基盤がぜい弱で財政的に厳しい状況下に置かれている多くの開発途上国に対して、その自助努力を支援することにより、相手国が実施すべき事業が適切に実施され、その効果が発現することを前提として実施されている。

 上記の各事態が生じているのは、主として相手国の事情によるものであるが、このような効果が十分に発現していない事態にかんがみ、我が国の援助実施機関としては、相手国の自助努力を絶えず促し、相手国が実施する事業に対する支援のため、次のような措置をより一層充実させることが重要である。

ア 援助の計画においては、相手国の置かれている厳しい状況を的確に把握した上で、具体的な目標が設定され、その目標を達成するために合理的な手段が定められているかなど、計画の内容がそれに対応しているか十分検討する。特に、計画している事業が相手国における社会状況等からみて適当なものであるかについて検討し、必要に応じて相手国に助言等を行う。

イ 援助実施中においては、援助の効果が発現するための前提条件が満たされているかどうか確認し、必要に応じて適時適切な助言を行うなどの措置を講ずる。

ウ 援助実施後においては、援助の対象となった施設、機材の利用状況等を的確に把握し、必要に応じて、援助対象事業の効果発現を妨げている要因を取り除くよう相手国に働きかけるなどの措置を速やかに講ずる。

エ 援助の実施に当たっては、無償資金協力・技術協力・円借款間の緊密な連携を図るとともに援助対象事業に対する監理機能を強化するなど援助実施体制のなお一層の整備・拡充を図る。

オ 我が国の援助実施機関では、援助案件の形成が適切であったか、援助が適正に実施されたか、所期の目的・効果を達成しているか、被援助国側にいかなる影響を及ぼしたか、援助した案件は持続して自立発展しているかなどを援助終了後に評価した上で、その結果を案件の運営・監理の改善や将来の援助の実施に活用することとしている。そして、事前評価、中間評価等の導入も考慮しているところである。今後、更にこれらの評価結果を効率的に活用し、援助の実施体制をより一層充実させる。