検査対象 | 大蔵省 |
会計名 | 一般会計 |
物納不動産の管理及び処分の概要 | 金銭納付に代えて税務署等に納付された不動産を財務局等が引き受け、一元的に管理及び処分するもの |
平成4年度以降引き受けた物納不動産の価格の合計額 | 3兆2859億余円 |
平成10年度末の物納不動産の台帳価格の合計額 | 1兆9000億余円 |
1 制度の概要
国税は、金銭で納付することが原則であるが、相続税法(昭和25年法律第73号)により、金銭納付に代え金銭以外の財産をもって納付すること(以下「物納」という。)が認められている。
物納に充てられる財産は、主として不動産、社債、株式であり、税務署等に物納された後、財務局、財務支局、沖縄総合事務局、財務事務所等(以下「財務局等」という。)がこれを引き受け、一元的に管理及び処分を行うこととなっている。
財務局等は、引き受けた財産のうち不動産(以下「物納不動産」という。)の処分に当たり、借地権等の権利の目的となっていない不動産(以下「未利用財産」という。)については、まず、公用、公共用の利用を優先することとし、この利用が見込まれないものは、財政収入の確保を図るなどのために早期に処分することとしている。また、借地権等の権利の目的となっている不動産(以下「権利付財産」という。)については、権利者に対し処分の促進を図ることとしている。
そして、処分するまでの間は、暫定的な利用及び貸付けの継続を行うなど適切な管理に努めるものとされている。
未利用財産の処分に当たっては、前記のように、公用、公共用の利用を優先するため、取得要望のある地方公共団体等に対して随意契約による処分等を行っている。この利用が見込まれないものについては、原則として一般競争入札による処分を行っている。未利用財産は小規模なものが多いことから、平成6年6月からは、300m2
以下の土地又は延べ面積200m2
以下の建物について、あらかじめ価格を公示して買受希望者を募集し、希望者が多数の場合には抽選で契約者を決定して売却する制度(以下「価格公示売却」という。)を創設するなどして早期処分を図っている。
また、権利付財産の処分に当たっては、賃貸借契約の締結時又は3年ごとの貸付料改定時などに権利者に対して買受勧奨を行うなどして、随意契約による処分を図っている。
2 検査の着眼点及び対象
バブル経済の破綻により、地価が下落し、経済環境が悪化し、金銭納付が困難な納税者が増えたことから、4年度以降、財務局等における物納不動産の引受件数が増加している。そして、この物納不動産は、金銭納付に代えて納付されたものであることから、適切な管理に努めるとともに速やかな処分を図るべきものとされている。
そこで、財務局等が4年度から10年度までに引き受けた物納不動産を対象とし、取扱件数等が多い関東財務局ほか2財務局(注1)
並びに横浜財務事務所ほか5財務事務所(注2)
及び立川出張所(以下「関東財務局等」という。)において、物納不動産の管理及び処分が適切に行われているかに着眼して検査した。
3 検査の状況
関東財務局等において、4年度から10年度までに引き受けた物納不動産を検査したところ、引き受けた件数は28,031件、その価格の合計額は3兆2859億余円にも上り、これらのうち10年度末現在において保有しているものは21,440件、台帳価格1兆9000億余円となっていた。
(1) 未利用財産について
ア 未利用財産の引受け及び処分状況
関東財務局等が税務署等から引き受けた未利用財産の件数及び台帳価格は、表1のとおり、4年度225件、690億余円であったものが、5年度以降高水準となり、件数では7年度の3,291件、台帳価格では6年度の6393億余円を最高に、その後も高水準に推移している。そして、10年度の引受件数1,434件、台帳価格1992億余円は、4年度に比べ件数では約6倍、台帳価格では約2倍となっている。
一方、未利用財産の処分については、一般競争入札によるほか、6年度から価格公示売却により処分を行っている。そして、7年度からは、引受時には300m2
を超えていた土地を300m2
以下に分割して価格公示売却による処分等を行い、その結果、処分実績は、表1のとおり、8年度には1,666件、台帳価格2130億余円と最高となった。処分に当たっては市場調査を行うなどして需要の多いものを優先的に処分の対象としてきたが、処分が進むにつれてこのような物件が減少したことなどから、9年度以降は低下し、10年度では993件、台帳価格1034億余円となっている。
このようなことから、引受けと処分の件数についてみると、6年度には両者の開差は2,941件と大きくなっていたが、9年度には119件となった。しかし、前記のように需要の多いものが減少したことなどから10年度には441件と開差は拡大している。
そして、各年度において処分件数が引受件数を下回っている状況である。
このような状況が今後も継続すると、未利用財産は年々累増することが見込まれる。
表1 未利用財産の引受け及び処分状況表
区分・年度 | 4年度 | 5年度 | 6年度 | 7年度 | 8年度 | 9年度 | 10年度 | |
引受 | 件数(件) (A) |
225 | 2,021 | 3,078 | 3,291 | 2,356 | 1,694 | 1,434 |
台帳価格 (億円) |
690 | 4,269 | 6,393 | 6,015 | 4,013 | 2,768 | 1,992 | |
処分 | 件数(件) (B) |
− | 10 | 137 | 1,284 | 1,666 | 1,575 | 993 |
台帳価格 (億円) |
− | 6 | 117 | 1,696 | 2,130 | 1,739 | 1,034 | |
(A)−(B) | 225 | 2,011 | 2,941 | 2,007 | 690 | 119 | 441 |
関東財務局等が10年度末現在保有している未利用財産は9,539件(土地9,345件、建物194件)、面積7,939千m2 (土地7,885千m2 、建物54千m2 )、台帳価格1兆4487億余円(土地1兆4360億余円、建物126億余円)である。これらの未利用財産について、価格公示売却が本格的に実施された7年度以降10年度までの年度平均の処分件数1,380件を基に、今後の処分に要する年数を算出したとすると約6年となり、今後の処分には多くの年数を要すると認められる。
イ 未利用財産の保有状況
10年度末現在保有している未利用財産(このうち、地方公共団体等に処分することとしているものが264件、面積355千m2
、台帳価格865億余円ある。)の中には、一部において、次のように処分が相当困難であるなどと認められるものが見受けられた。
(ア) 利用に対し、法の規制を受ける地域内にあるもの
〔1〕 都市計画法(昭和43年法律第100号)に基づく都市計画区域のうち、市街化を抑制すべき市街化調整区域に所在するもの
459件 | 面積1,061千m2 | 台帳価格263億余円 |
〔2〕 都市計画法に基づく用途地域で、工業の利便を増進するための工業専用地域内に所在し、住宅、一般店舗等の建築が制限されるもの
23件 | 面積47千m2 | 台帳価格54億余円 |
(イ) 建築基準法(昭和25年法律第201号)において無道路地となっていることから、建物敷地としての処分が困難なもの
66件 | 面積53千m2 | 台帳価格78億余円 |
(ウ) 現況が山林で、当分処分が見込めないもの
79件 | 面積525千m2 | 台帳価格249億余円 |
(エ) 土地区画整理法(昭和29年法律第119号)による土地区画整理事業の施行地区内にあるため、将来において清算金の債権・債務が発生するおそれがあるなどとして、換地処分が行われるまでは原則として売払処分をしないとしていることから、処分可能時まで相当長期になると認められるもの
857件 | 面積726千m2 | 台帳価格954億余円 |
(2) 権利付財産について
ア 権利付財産の引受け及び処分状況
関東財務局等が税務署等から引き受けた権利付財産の件数及び台帳価格は、表2のとおり、4年度443件、199億余円であったものが、5年度以降高水準となり、7年度に件数で3,039件、台帳価格で1649億余円と最高となり、その後も高水準に推移している。そして、10年度の引受件数1,930件、台帳価格781億余円は、4年度に比べ件数では約4倍、台帳価格では約3倍となっている。
一方、権利付財産の処分については、権利者に買受勧奨等を行い随意契約による処分を実施しており、5年度の5件から10年度の531件と処分件数は徐々に増加する傾向にあるが、権利者の老齢化による購入意欲の低下等により処分が進展していない。
このようなことから、引受けと処分の件数についてみると、7年度には両者の開差は2,725件生じていたが、10年度には1,399件となった。しかし、前記のように処分が進展しないことから、10年度において、引受件数は処分件数の約3倍となっている状況である。
そして、各年度において処分件数が引受件数を大きく下回っている状況である。
このような状況が今後も継続すると、権利付財産は未利用財産に比べ更に累増することが見込まれる。
表2 権利付財産の引受け及び処分状況表
区分・年度 | 4年度 | 5年度 | 6年度 | 7年度 | 8年度 | 9年度 | 10年度 | |
引受 | 件数(件) (A) |
443 | 1,402 | 2,484 | 3,039 | 2,372 | 2,262 | 1,930 |
台帳価格 (億円) |
199 | 709 | 1,336 | 1,649 | 1,177 | 862 | 781 | |
処分 | 件数(件) (B) |
− | 5 | 112 | 314 | 479 | 509 | 531 |
処分価格 (億円) |
− | 1 | 22 | 64 | 134 | 126 | 118 | |
(A)−(B) | 443 | 1,397 | 2,372 | 2,725 | 1,893 | 1,753 | 1,399 |
関東財務局等が10年度末現在保有している権利付財産は11,901件(土地11,266件、建物635件)、面積2,561千m2 (土地2,468千m2 、建物92千m2 )、台帳価格4513億余円(土地4123億余円、建物390億余円)である。これらの権利付財産について、7年度以降10年度までの年度平均の処分件数458件を基に、今後の処分に要する年数を算出したとすると約25年となり、今後の処分には相当長期間の年数を要すると認められる。
イ 権利付財産の保有状況
権利付財産のうち、物納後引き続き相続人が居住したり、事業に用いたりする必要のある場合は、国が定める貸付条件に基づき、引受け後直ちに賃貸借契約を締結し貸し付けることになっている。また、物納前から借地権等の権利者が存在する場合は、物納許可後1年以内は、被相続人と権利者との間で契約していた貸付条件で貸し付けることとしていて、物納許可後1年を経過した時点で、国が定める貸付条件に基づき変更契約を締結し貸し付けることとしている。そして、これらの契約締結後は、3年ごとに貸付料改定の契約を締結することとしている。
10年度末現在保有している権利付財産の中には、相続人、借地権者等が国との賃貸借契約書を取り交わしていなかったり、3年ごとの貸付料改定時に契約変更に応じていなかったりしていて、契約関係が不明瞭となっているものなどが1,010件、面積304千m2
、台帳価格472億余円見受けられた。このうち、物納許可後又は貸付料改定時から1年以上経過しても引き続き契約関係が不明瞭なものとなっていて、管理が相当困難であると認められるものが220件あった。
4 本院の所見
大蔵省では、有識者や学識経験者で構成される国有財産中央審議会に諮問するなどして、6年度以降、価格公示売却を導入し、また、処分に付して売れ残った未利用財産の情報ネットワークシステム(注3)
ヘの登録を行うこととした。さらに、その後、未利用財産の処分に当たり郵送による期間入札方式を導入するなどの施策を講じて、国の財政事情を考慮し税外収入の確保等のための処分促進に努めている。
しかし、検査の結果、物納不動産については、その処分が引受けを下回っていることから保有件数等が毎年増加している状況となっていた。そして、これらの中には、利用に対して法的規制を受けたり、権利者の購入意欲が低下していたり、権利者の協力が得られなかったりするものがあることなどから、保有の長期化が懸念されたり、その管理や処分が相当困難であると思料されたりするものが見受けられる状況となっていた。
このように今後の物納不動産の管理及び処分については、昨今の経済環境や不動産市況の推移、さらには権利者の老齢化による購入意欲の低下等から厳しい状況にある。
このような状況にかんがみ、大蔵省において今後ともより一層の物納不動産の処分の促進及び適正な管理に努めていくことが必要であると認められる。
(注1) 関東財務局ほか2財務局 関東、近畿、東海各財務局
(注2) 横浜財務事務所ほか5財務事務所 横浜、千葉、浦和、神戸、京都、岐阜各財務事務所
(注3) 情報ネットワークシステム 不動産物件の情報を迅速に交換し、取引をスムーズにすすめることを目的として構築されたシステムで、建設大臣が指定する不動産流通機構が運営するもの(REINS:Real Estate Information Network System)。