会計名及び科目 | 国立学校特別会計 (項)大学附属病院 (目)患者食糧費 |
部局等の名称 | 文部本省、北海道大学ほか21大学(22大学病院) |
患者給食業務の概要 | 入院患者に食事を提供するために、直営又は委託により給食材料の調達、調理等を行う業務 |
患者給食業務に要する経費の額 | 77億1564万余円 | (平成11年度 22大学病院) |
節減できた経費の額 | 1億3150万円 | (平成11年度 19大学病院) |
外部委託の契約方式を改める要があると認められる経費の額 | 48億7239万円 | (平成11年度 10大学病院) |
【是正改善の処置要求及び改善の意見表示の全文】
国立大学附属病院における患者給食業務について
(平成12年11月20日付け 文部大臣あて)
標記について、下記のとおり、会計検査院法第34条の規定により是正改善の処置を要求し、及び同法第36条の規定により改善の意見を表示する。
記
1 業務の概要
貴省では、国立学校設置法(昭和24年法律第150号)等に基づき、国立大学の医学部等に附属する病院(以下「大学病院」という。)を設置している。大学病院では、臨床医学の教育・研究を行うほか、保険医療機関として患者の診療を行っており、その診療業務の一環として入院患者に食事を提供する患者給食業務を実施している。
この患者給食業務の実施に当たっては、病院内に必要な施設・設備を設置して行っているが、給食材料の調達、調理等については、これを大学病院の職員が自ら行う直営方式、病院給食業者に全面的に委託して行う全面委託方式及び食種の一部を委託して行う一部委託方式がある。
そして、北海道大学ほか41大学の60大学病院における患者給食業務に要する経費は、平成11年度で計130億3675万余円となっている。
ア 委託料及び給食材料の調達額の算定方法
大学病院では、患者給食業務を委託して実施する場合、その委託料を次のように算定することとしている。
〔1〕大学病院において患者に提供する食事をその食種により、常食等の一般食と糖尿食、肝臓食、腎臓食等の特別食とに区分する。
〔2〕一般食及び特別食の区分ごとに材料費、人件費等を積み上げて積算単価を算出し、この単価と、貴省が「平成11年度患者給食費等の単価について」(平成11年文部省大臣官房会計課長通知文会三第84号。以下「本省通知」という。)に定めた委託単価を比較し、いずれか低い方の価格を予定価格とする。
〔3〕予定価格に基づき委託業者から見積りを徴するなどして、一般食、特別食の別に1食当たりの契約価格を決定し、これに提供食数を乗じて委託料の額を算定する。
また、患者給食業務を直営で実施する場合、その給食材料の調達額を、本省通知の一般食、特別食の別に設定された材料費単価に提供人数を乗じて算定している。
イ 本省通知の単価の設定根拠
委託料及び給食材料の調達額の算定に使用する本省通知の単価は、一般食に比べて特別食の単価が、委託単価で332円、直営の材料費単価で176円高く設定されている。これは、保険医療機関としての大学病院が患者に提供した食事の対価を診療報酬として請求する場合、健康保険法(大正11年法律第70号)に基づく「入院時食事療養費に係る食事療養の費用の額の算定に関する基準」(平成6年厚生省告示第237号)において、食事療養の費用が定められており、その額が、特別食は一般食に比べ1人1日当たり350円高く請求できるものとなっていることによるものである(表1参照) 。
<表1>本省通知の委託単価と食事療養の費用の額(平成11年度) | |||||||||||||||||||||||
(1人1日当たり 単位:円) | |||||||||||||||||||||||
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注(1) | 直営の場合の材料費単価は、委託単価の材料費単価と同額である。 |
注(2) | ( )書きの数値は、複数の献立による食事を提供し、診療報酬として選択食加算を請求する場合の単価である。 |
ウ 特別食の範囲
上記の基準に基づき定められた「入院時食事療養の基準等」(平成6年厚生省告示第238号。以下「食事療養基準」という。)によれば、特別食とは、医師の発行する食事箋に基づいて提供される適切な栄養量等を有する治療食等に限定されており、腎臓食、肝臓食、糖尿食等の16食種が示されているが、これらの中には離乳食、幼児食、高血圧食等の食種は含まれていない。
患者給食業務は、厚生省の指導により、原則として直営方式で行うこととされていたが、「病院における給食業務の一部委託について」(昭和61年厚生省健康政策局長通知健政発第226号)により厚生省の方針が変更され、昭和61年度以降、一定の基準を満たす給食業者に当該業務の外部委託を行うことができることとなった。
また、医療法(昭和23年法律第205号)等によれば、患者給食業務を適正に行う能力のある者の基準は、〔1〕病院から食事内容に関し改善を求められた場合に対応できるよう医師等の指導助言者を有すること、〔2〕受託業務を継続的かつ安定的に遂行できる能力を有すること、などとなっている。
そして、全国の病院における患者給食業務の外部委託率は、厚生省の統計によると、昭和62年度に13%であったものが、平成8年度には32%まで増加しており、これとともに病院給食業者の数は、病院給食事業関係の協会に加盟している企業の数でみても、元年3月時点で82社であったものが10年3月時点で130社に増加している。
2 本院の検査結果
近年、病院の患者給食業務については、その質的向上と患者サービスの改善を求める動きや外部委託の進展など環境が大きく変化している。一方、大学病院の管理運営に係る経理を行う国立学校特別会計においては、一般会計からの繰入額等が毎年度多額に上っている。そこで、これらの状況を踏まえ、大学病院が保険医療機関として行った診療業務のうち患者給食業務において、収入面も考慮して経費が経済的・効率的に使用されているか、また、外部委託を行っている場合の契約事務は適切に行われているかなどに着眼して検査した。
附属病院が設置されている42大学の60大学病院のうち、北海道大学ほか29大学の30大学病院(注1) における11年度の患者給食業務の経理(委託料計74億4241万余円、給食材料の調達額計24億5986万余円、合計99億0227万余円)について検査した。
検査したところ、北海道大学ほか21大学の22大学病院(注2) の患者給食業務の経理(委託料計58億5719万余円、給食材料の調達額計18億5845万余円、合計77億1564万余円)において、次のような事態が見受けられた。
(1)食事療養基準で特別食に該当しない食種を特別食として取り扱い、これにより委託料等を算定していて適切と認められない事態
大学病院における委託料及び給食材料の調達額の算定方法が不適切となっているものが次のとおり見受けられた。
ア 委託料について
全面委託方式を採用している8大学病院(注3)
(委託料計38億9519万余円)では、委託料の算定に当たり、特別食の提供食数を計210万3千食とし、これに1食当たりの契約価格を乗じて特別食の委託料を算定していた。しかし、このうち計90万3千食(全体の43%)は食事療養基準に定める特別食に該当しない離乳食、幼児食、高血圧食等(以下「離乳食等」という。)であった。
上記の8大学病院における特別食の委託業者との契約価格は、本省通知の特別食の委託単価2,342円と同額か又はほぼ同額となっていた。このため、これらの大学病院では、離乳食等を提供した場合、診療収入として得られる金額は一般食の1人1日当たり2,120円に過ぎないのに、特別食の委託料としてこれを上回る金額を委託業者に支払う結果となっていた。
イ 給食材料の調達額について
直営方式又は一部委託方式を採用している11大学病院(注4)
(委託料及び給食材料の調達額計24億5862万余円)では、給食材料の調達額の算定に当たり、特別食の提供人数を計77万3千人日として、これに材料費単価を乗じて特別食の調達額を算定していた。しかし、このうち計26万8千人日(全体の35%)は食事療養基準に定める特別食に該当しない離乳食等を提供していたものであった。
上記の11大学病院では、離乳食等を提供した場合、一般食としての診療収入しか得られないのに、その給食材料の調達額は、一般食の863円ではなく特別食の1,039円で算定していた。
国立学校特別会計の財政状況等を踏まえ、大学病院においては、一層の経営改善に努めることが求められている。そして、大学病院が保険医療機関として入院患者に提供した食事の対価は、食事療養の費用として診療報酬により回収するものであるから、経費の支出は診療報酬に見合ったものとする必要があると認められる。
したがって、前記の19大学病院において、食事療養基準で特別食に該当しない食種を特別食として取り扱い、これにより委託料及び給食材料の調達額を算定している事態は適切とは認められず、是正改善の必要があると認められる。
前記の19大学病院において、特別食として取り扱っていた離乳食等の食種を一般食として、委託料及び給食材料の調達額を算定すると62億2228万余円となり、前記の委託料及び給食材料の調達額計63億5381万余円に比べ、約1億3150万円が節減できたと認められる。
このような事態が生じているのは、主として次のことによると認められる。
(ア) 各大学病院において、委託料及び給食材料の調達額の算定に当たり、保険医療機関として、診療報酬に見合った経費を支出するという意識が十分でないこと
(イ) 貴省において、本省通知で特別食として取り扱う食種を明確に定めていないこと
(2) 患者給食業務を外部委託するに当たり、随意契約を採用しているものについて、一般競争契約の導入を図る要があると認められる事態
検査の対象とした前記30大学病院について、患者給食業務を外部委託した大学病院数の推移をみると、昭和55年度以降平成元年度までは、外部委託を実施していたものは10大学病院となっていたが、その後、国の定員抑制の事情により、次第に増加し、11年度では19大学病院で患者給食業務の外部委託を実施していた。この19大学病院(委託料計74億4241万余円)における契約方式、予定価格及び契約価格は、表2のとおりとなっていた。
<表2>契約方式別の予定価格及び契約価格 | (1人1日当たり 単位:円) | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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(注)( )書きの数値は、平均値である。 |
患者給食業務を外部委託するに当たり、上記19大学病院が採用した契約方式についてみると、このうち9大学病院(委託料計25億7002万余円)では、厚生省が給食業務の外部委託に係る方針を変更した昭和61年度以降に委託を開始しており、一般競争契約を採用していた。これに対し、60年度以前から例外的に委託を行っていた10大学病院(注5)
(委託料計48億7239万余円)では随意契約を採用していた。
そして、一般競争契約を採用した9大学病院の契約の相手方はすべて株式会社であるのに対し、随意契約を採用した10大学病院の契約相手方は、そのほとんどが、病院業務の支援等を目的として各大学病院ごとに設立された財団法人であった。
予定価格の設定状況についてみると、各大学病院では、委託契約を締結するに当たり、前述のとおり、材料費と人件費等を積み上げて算出した積算単価と本省通知の委託単価とを比較し、いずれか低い方の価格を予定価格としている。
そして、一般競争契約を採用した9大学病院のうち8大学病院では、積算単価が本省通知の委託単価を下回っていたため、積算単価を予定価格としていた。しかし、随意契約を採用した10大学病院では、積算単価が本省通知の委託単価を上回っていたため委託単価を予定価格としていた。このように積算単価が委託単価を上回っているのは、10大学病院において給食の質の確保等に必要であると判断した人員等に基づき算出した人件費が、上記の8大学病院に比べ高額となっていることなどによると認められた。
その結果、一般競争契約を採用した9大学病院の契約価格は、一般食の場合で、予定価格を4円から491円(平均91円)下回っていて1,417円から2,000円(平均1,860円)となっていた。これに対し、随意契約を採用した10大学病院の契約価格は、すべての大学病院で予定価格と同額の2,010円となっていて、一般競争契約を採用した大学病院より割高な契約価格となっていた。
国の契約については、会計法(昭和22年法律第35号)の規定により、原則として一般競争契約によらなければならないとされているが、契約の性質又は目的が競争を許さない場合などには随意契約によることとされている。
前記の10大学病院では、患者給食業務の委託契約については、当該業務が会計法上の契約の性質又は目的が競争を許さない場合に該当するとして随意契約により締結している。そして、その理由を、随意契約理由書等で概ね次のように説明している。
(ア)一般競争契約では、患者給食業務を継続的、安定的に遂行できる能力などの点で不安のある業者が入札に参加し、受注するおそれがある。
(イ)一般競争契約では、毎年、受託業者が変わる可能性があり、業務に習熟するまでに時間を要したり、食事内容の質や食味が低下したりするなど業務の円滑な実施に支障を来すおそれがある。
(ウ)財団法人等は、長年月、大学病院の患者給食業務を行っていて、その業務内容に精通し信頼性が確保されていることなどから、財団法人等以外には同業務を行うことができる者がいない。
しかし、次のようなことから、前記の10大学病院においても一般競争契約によることが可能であると認められる。
(ア) 業者の能力等についてみると、一般競争契約を行っている9大学病院では、入札参加業者の資格審査に当たり、当該業者について、医療法等に定める基準に該当する者であるかの審査を行い、業務を継続的かつ安定的に遂行できる能力を有するかなどの判断を行っている。そして、これらの大学病院では、これまで患者給食業務に特段の支障を生じていない状況である。
(イ) 食事内容の質、食味等については、仕様書等で所定の品質及び規格を満たす給食材料の使用を義務付けたり、病院職員による検食、患者へのアンケート調査を行ったりして、必要に応じ委託業者を指導して確保することが可能であると認められる。さらに、業務の円滑な実施については、上記のうち8大学病院では、直営方式から外部委託への移行に当たって、食種ごとに順次委託するなど計画的、段階的に行うことで確保している。したがって、業務の円滑な実施に支障を来す懸念があるのであれば、随意契約から一般競争契約への移行に当たっても、同様の方策を講ずることも可能であると認められる。
(ウ) 財団法人等以外の業者の有無について本院が調査したところ、前記の財団法人等に委託している10大学病院の所在地域においても、患者給食業務を適正に行う能力のある者の基準に該当すると認定されている給食業者が、当該財団法人等以外に複数社存在している。
厚生省の患者給食業務に係る方針が変更されたことなどにより、病院給食業者が増加するなど患者給食業務を取り巻く環境が変化してきている。このような中で同業務の外部委託に当たって、業務の経済的な実施という観点からはもとより、契約の透明性、客観性及び競争性を確保するという見地からも一般競争契約の導入を一層推進する要がある。しかし、上記のとおり、一部の大学病院において従前どおり随意契約を採用しその契約単価が割高となっている事態は適切でなく改善の要があると認められる。
このような事態が生じているのは、主として次のことによると認められる。
(ア) 各大学病院において、患者給食業務を取り巻く環境の変化等に対応して、外部委託契約を改善する方策の検討が十分でないこと
(イ) 貴省において、上記についての各大学病院に対する指導が十分でないこと
3 本院が要求する是正改善の処置及び本院が表示する改善の意見
大学病院の患者給食業務は、診療業務の一環として今後とも継続して実施され、その経費は多額に上ると見込まれる。ついては、貴省において次の処置を講ずることなどにより、経済的な経費の使用に努め、かつ、その契約の透明性、客観性及び競争性を確保する要があると認められる。
(ア) 前記の(1)については、本省通知に定める特別食の範囲を、原則として食事療養基準に定める特別食の範囲と同一とすること(会計検査院法第34条による是正改善の処置要求)
(イ) 前記の(2)については、随意契約を採用している大学病院に対し、計画的に一般競争契約に移行するなどの外部委託契約を改善する方策を検討し、適切な措置を講ずるよう指導を行うこと(同法第36条による改善の意見表示)
(注1) | 北海道大学ほか29大学の30大学病院 北海道、旭川医科、弘前、東北、秋田、千葉、東京、東京医科歯科、金沢、岐阜、浜松医科、名古屋、三重、京都、大阪、神戸、鳥取、岡山、広島、山口、徳島、香川医科、愛媛、高知医科、九州、熊本、長崎、琉球各大学医学部附属病院、筑波、富山医科薬科両大学附属病院 |
(注2) | 北海道大学ほか21大学の22大学病院 北海道、旭川医科、東北、秋田、千葉、東京、東京医科歯科、金沢、名古屋、三重、京都、大阪、神戸、岡山、広島、徳島、香川医科、愛媛、高知医科、九州各大学医学部附属病院、筑波、富山医科薬科両大学附属病院 |
(注3) | 全面委託方式を採用している8大学病院 秋田、千葉、東京、東京医科歯科、京都、岡山、広島、九州各大学医学部附属病院 |
(注4) | 直営方式又は一部委託方式を採用している11大学病院 北海道、旭川医科、東北、金沢、神戸、徳島、香川医科、愛媛、高知医科各大学医学部附属病院、筑波、富山医科薬科両大学附属病院 |
(注5) | 10大学病院 千葉、東京、東京医科歯科、名古屋、三重、京都、大阪、岡山、広島、九州各大学医学部附属病院 |