会計名及び科目 | 一般会計 (組織)厚生本省 | (項)精神保健費 (項)生活保護費 (項)身体障害者保護費 (項)老人福祉費 (項)児童保護費 (項)国民健康保険助成費 |
厚生保険特別会計(健康勘定) | (項)保険給付費 (項)老人保健拠出金 (項)退職者給付拠出金 |
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船員保険特別会計 | (項)保険給付費 (項)老人保健拠出金 (項)退職者給付拠出金 |
部局等の名称 | 厚生本省、社会保険庁、北海道ほか22都府県 |
国の負担の根拠 | 健康保険法(大正11年法律第70号)、船員保険法(昭和14年法律第73号)、国民健康保険法(昭和33年法律第192号)、老人保健法(昭和57年法律第80号)、生活保護法(昭和25年法律第144号)等 |
医療給付の種類 | 健康保険法、船員保険法、国民健康保険法、老人保健法、生活保護法等に基づく医療給付 |
医療機関 | 225医療機関 |
不適切に支払われた医療費に係る診療報酬 | 処置料等 |
不適切に支払われた医療費の額 | 7億4077万余円 | (平成10年、11両年度) |
上記に対する国の負担額 | 3億9538万円 |
医療用の酸素に係る診療報酬の請求について
(平成12年11月16日付け 厚生大臣あて)
標記について、会計検査院法第34条の規定により、下記のとおり是正改善の処置を要求する。
記
1 制度の概要
貴省では、健康保険法(大正11年法律第70号)等の医療保険各法(注1)
に基づいて保険者が行う医療給付、老人保健法(昭和57年法律第80号)に基づいて市町村長が行う医療給付及び生活保護法(昭和25年法律第144号)等に基づいて都道府県及び市町村が行う医療給付に関し、これらの適正な運用を図るため、医療機関に対する指導を行っている。
そして、これらの医療給付に要する費用については、国が、政府管掌健康保険等の保険者として負担するほか、他の保険者、都道府県及び市町村の負担する費用の一部を負担している。
上記の医療給付においては、被保険者等が医療機関で診療を受けた場合に、保険者、都道府県又は市町村(以下「保険者等」という。)がその費用を医療機関に診療報酬として支払うこととされている。
この診療報酬は、医療機関が、「健康保険法の規定による療養に要する費用の額の算定方法」(平成6年厚生省告示第54号)等(以下、これらを「算定基準」という。)に基づき、所定の診療点数に単価(10円)を乗じるなどして算定することとなっている。
医療機関は、上記の診療報酬から患者負担分を控除した額を「医療費」として保険者等に請求する。この医療費に係る審査及び支払は、保険者等から社会保険診療報酬支払基金又は国民健康保険団体連合会(以下「審査支払機関」という。)に委託されている。医療機関は、診療報酬請求書に診療報酬明細書(以下「レセプト」という。)を添付して、審査支払機関に毎月1回送付する。
審査支払機関はレセプトを審査した後にこれを保険者等に送付し、保険者等はそれぞれの立場から審査点検を行った上、審査支払機関を通じて医療機関に医療費を支払うこととなっている。
そして、貴省及び各都道府県は、審査支払事務の適正な運営が行われるよう審査支払機関に対して指導することとされている。
医療機関が酸素吸入等の処置等に医療用の酸素を使用した場合、その診療報酬は、算定基準によると酸素の購入価格を10円で除して得た点数を処置等の所定点数に加算して請求することとなっている。
この酸素の購入価格の算定方法は、「酸素及び窒素の購入価格」(平成2年厚生省告示第41号)等により、次のように定められている。
(ア) 酸素の購入価格は、医療機関ごとに算出し、当該医療機関における酸素の購入単価に、各患者に使用した酸素の容積及び補正率(注2)
(1.3)を乗じて得た額の1円未満の端数を四捨五入した額とする。
(イ) この酸素の購入単価は、当該医療機関が診療報酬を算定する年度の前年の1月から12月までの間に購入した酸素の対価を酸素(摂氏35度、1気圧)の容積で除して得た額の1銭未満の端数を四捨五入した額とする。そして、この購入単価は、上記の診療報酬算定年度の1年間について適用する。
医療機関は、その所在地の地方社会保険事務局長(平成12年3月31日以前は都道府県知事)に対して、毎年7月1日現在の診療報酬請求に当たって用いる上記(イ)の酸素の購入単価、対価及び容積を、地方社会保険事務局長の定めた様式に従い届け出ることとされている。
そして、医療機関は、診療報酬として使用した酸素の費用を請求する場合、「診療報酬請求書等の記載要領等について」(昭和51年保険発第82号厚生省保険局医療課長・歯科医療管理官連名通知。以下「記載要領」という。)により、地方社会保険事務局長に届け出た酸素の購入単価(以下「届出単価」という。)及びその使用量をレセプトの摘要欄に記載することとなっている。
(注1) | 医療保険各法 健康保険法(大正11年法律第70号)、船員保険法(昭和14年法律第73号)及び国民健康保険法(昭和33年法律第192号) |
(注2) | 補正率 温度、圧力等に起因して生じる酸素の容積のロス分を勘案して設定した率 |
2 本院の検査結果
酸素の価格は購入形態、購入量等により医療機関ごとに大きく異なるため、酸素の使用に係る診療報酬については、前記のとおり所定の診療点数によらずに各医療機関が届け出た単価を基に算定した点数により請求することとなっている。そこで、酸素の購入価格が適正に算定されているか、また、これに対する審査支払機関等の審査が適切なものとなっているかに着眼して検査した。
検査に当たっては酸素の使用量が比較的多い一般病棟を有する病院を対象とし、北海道ほか24都府県(注3) に所在する4,924医療機関における酸素の使用に係る診療報酬請求について検査した。
(1) 適正を欠いた請求の事態
検査したところ、北海道ほか22都府県(注4)
に所在する225医療機関では、酸素の購入価格を過大に算定して請求しており、その結果、10、11両年度における医療費が219,366件、740,774,142円(これに対する国の負担額395,382,835円)過大に支払われていた。
これを態様別に示すと次のとおりである。
(ア) 届出単価よりも高い単価を用いていたもの
北海道ほか21都府県 | 128医療機関 | |
過大に支払われた医療費 | 106,304件 | 345,182,328円 |
(上記に対する国の負担額 | 185,535,277円) |
記載要領では、前記のとおり、酸素の使用に係る診療報酬を請求する場合は届出単価等をレセプトに記載することとされている。
しかし、上記の医療機関では、酸素の購入価格を届出単価により算定することについての認識が十分でないことなどから、当該年度に用いるべき届出単価とは異なる高い単価を用いたり、1円未満の端数を切り上げたりして酸素の購入価格を算定し、これにより診療報酬を請求していた。
(イ) 酸素の購入価格の算定過程を誤っていたもの
北海道ほか16都府県 | 97医療機関 | |
過大に支払われた医療費 | 113,062件 | 395,591,814円 |
(上記に対する国の負担額 | 209,847,558円) |
記載要領では補正率をレセプトの摘要欄に記載することとされていないことなどから、上記の医療機関では、酸素の購入価格を算定する際その算定過程を誤り、届出単価に補正率を乗じたものをレセプトに記載し、更にこれに補正率を乗じるなどして酸素の購入価格を算定し、これにより診療報酬を請求していた。
(2) 適切を欠いた審査の状況
上記(1)の事態について、その審査の状況を検査したところ、次のように適切を欠いた点が見受けられた。
ア 前記のとおり、医療機関は酸素の届出単価等を都道府県知事に届け出ることとされている。審査支払機関や市町村等においては、酸素の使用に係る診療報酬請求が適正に行われているかを確認するため、都道府県から届出単価に係る適切な情報の提供を受ける必要がある。
しかし、検査した25都道府県において、この情報の提供について次のような状況であったため、医療機関からの適正を欠いた酸素の使用に係る診療報酬請求に対し、審査支払機関等が審査を十分に行うことができない状況となっていた。
(ア) 19都道府県では、届出単価に係る情報を審査支払機関に提供していなかったため、審査支払機関においてレセプトに記載されている単価が届出単価であるかを確認できていなかった。
(イ) 6府県では、届出単価に係る情報を審査支払機関に提供していたが、酸素の届出単価等を都道府県知事に届け出る時期が7月とされていることから、提供の時期が8月から12月となっていた。このため、審査支払機関では、4月以降当該情報が提供されるまでの間、レセプトに記載されている単価が届出単価であるかを確認できていなかった。
(ウ) 25都道府県では、届出単価に係る情報を市町村等に対して提供していなかった。
イ 検査した25都道府県においては、酸素の届出単価等の届出様式が区々となっており、このなかには、酸素の購入容積と届出単価を記載させるだけで酸素の対価を記載させる様式とはなっていないものなどがあった。このため、これらの都道府県において酸素の届出内容の審査を十分に行うことができない状況となっていた。
上記のように、酸素の購入価格が過大に算定されていたり、これに対する審査を十分行うことができるようになっていなかったりして、酸素の使用に係る診療報酬の請求が適正に行われていない事態は適切とは認められず、是正改善を図る必要があると認められる。
このような事態が生じているのは、主として次のことによると認められる。
(ア) 貴省において、酸素の届出単価等を地方社会保険事務局長に届け出る時期を7月と定めていること、レセプトの摘要欄に補正率を記載する旨を記載要領に示していないこと及び酸素の届出単価等の統一した届出様式を定めていないこと
(イ) 都道府県(12年4月1日以降は地方社会保険事務局)において、酸素の届出単価に関する情報を審査支払機関や市町村等へ適時適切に提供していないこと
(ウ) 医療機関において、酸素の購入価格を届出単価により算定することなど本制度についての認識が十分でないこと
3 本院が要求する是正改善の処置
酸素は各種医療行為を行うに当たり必要不可欠のものであり、医療機関において今後も引き続き使用されるものである。
ついては、貴省において、酸素の使用に係る診療報酬が適正に請求されるよう、次のような処置を講じる要があると認められる。
(ア) 毎年度当初における診療報酬請求の審査に間に合わせるため、地方社会保険事務局長に対する酸素の届出単価等の届出を遅くとも3月までに行うように改めるとともに、レセプトの摘要欄に補正率を記載するよう記載要領を改め、また、届出単価等について統一した届出様式を定めること
(イ) 地方社会保険事務局に対し、酸素の届出単価に関する情報を審査支払機関や市町村等へ適時適切に提供するよう指導すること
(ウ) 医療機関に本制度の周知徹底を図るよう指導すること
(注3) | 北海道ほか24都府県 東京都、北海道、京都、大阪両府、山形、福島、茨城、埼玉、千葉、神奈川、石川、長野、静岡、愛知、滋賀、兵庫、島根、広島、山口、徳島、高知、福岡、大分、鹿児島、沖縄各県 |
(注4) | 北海道ほか22都府県 東京都、北海道、京都、大阪両府、山形、茨城、埼玉、千葉、神奈川、石川、長野、静岡、愛知、滋賀、兵庫、島根、広島、山口、高知、福岡、大分、鹿児島、沖縄各県 |