会計名及び科目 | 厚生保険特別会計(業務勘定) | (項)福祉施設事業費 |
船員保険特別会計 | (項)福祉事業費 |
部局等の名称 | 社会保険庁 |
委託契約の概要 | 国が実施する福祉施設事業の経営委託 |
契約の相手方 | 4公益法人 |
経営を委託している福祉施設 | 256施設 |
上記の施設に係る国有財産台帳価格 | 1兆1481億8390万余円 |
適切を欠いていた経理処理に係る金額 | 59億4222万円 |
1 事業の概要
社会保険庁では、健康保険法(大正11年法律第70号)、厚生年金保険法(昭和29年法律第115号)及び船員保険法(昭和14年法律第73号)に基づき福祉施設事業を実施している。
この事業は、被保険者等の福祉を増進するため、健康保険等の保険料を財源とした国費により病院、保養所等の福祉施設を設置し、経営するものである。
同庁は平成11年度までに462の福祉施設を設置しており、このうち256施設(11年度末現在の国有財産台帳価格1兆1481億8390万余円)については、公益法人4団体と契約を締結してその経営を委託し、施設を無償で使用させている(以下、公益法人4団体を「受託団体」という。)。
委託契約では、福祉施設の経営に係る経理について次のように定めている。
(ア) 受託団体は、個別の福祉施設ごとに又は病院、保養所等の種類ごとに特別会計を設け、診療報酬や宿泊料等の収入をもってその支出に充てること
(イ) 委託契約が解除された場合は、特別会計を清算し、剰余の資産を国に引き渡すこと
(ウ) 毎会計年度の特別会計の決算上生じた利益金は、利益剰余金として積み立てること。また、決算上損失が生じた場合は利益剰余金から減額し、なお不足があるときは繰越欠損金として処理すること
(エ) 受託団体は、毎年度、特別会計の経理計画を作成し、社会保険庁の承認を受けるものとし、決算書についても同庁に提出すること
(オ) 受託団体が、経理に関する規程を制定し又は改正しようとする場合は、社会保険庁の承認を受けること
また、社会保険庁が定めた取扱要領によれば、受託団体が特別会計の負担により不動産等を取得するときはあらかじめ同庁に届け出ることとなっている。
受託団体が経営している福祉施設に係る特別会計の11年度の決算についてみると、収益総額は診療報酬収入、宿泊料収入等4347億6654万余円、費用総額は人件費、物件費等4307億2054万余円となっている。その結果、利益金40億4599万余円が生じており、11年度末の利益剰余金は721億6529万余円に上っている。
上記の費用総額には、福祉施設の職員の人件費及び物件費並びに受託団体の人件費、事務費等の経費に充てるための負担金のほかに、福祉施設の整備を効率的に行うなどのためとして、特別会計から一般会計など受託団体の他会計へ繰り入れた82億6441万余円が含まれている。
2 検査の結果
福祉施設の利益金は、受託団体が国有財産である土地、建物等を無償で使用して、国が実施する事業として経営を行ったことにより得られたものである。
そこで、利益金や他会計へ繰り入れていた資金が福祉施設事業以外の事業に使用されていないか、また、受託団体自らの事業と明確に区分して経理されているかなどに着眼して検査することとした。
受託団体が経営している256施設に係る11年度の特別会計の経理内容、及び受託団体が11年度に特別会計から他会計へ繰り入れた資金に係る他会計における経理処理などについて検査した。
検査したところ、次のように適切を欠く経理処理が見受けられた。
(1) A団体では、団体及び福祉施設の自主整備の財源に充てるため、特別会計等から繰り入れた資金により施設整備基金を設けている。
この基金の設置については、委託契約に定めがないことから、社会保険庁の承認を受けておらず、また、経理計画の承認及び決算報告の対象としていなかった。
そして、この基金に係る経理についてみると、特別会計の利益剰余金が8年度末で66億9826万余円と多額に上っていることから、これを減額するため、9年度に特別損失39億2451万余円を計上し、同額を施設整備基金へ繰り入れていた。
A団体では、この基金の資金を財源として福祉施設事業のために会館を建設することとし、9年度に土地を購入していた。そして、この土地を団体の一般会計の資産として計上した後、11年度末に、この基金の経理を行うために10年度に新たに設けた施設整備基金特別会計に移し替えていた。また、11年度には、会館の建設に着手し、支払った建設費用を施設整備基金特別会計に建設仮勘定として計上していた。
この会館について、A団体では特に委託契約の定めがないとして、その建設計画を社会保険庁に届け出ておらず、また、会館の一部については、A団体の福祉施設事業に直接使用する予定とはしていなかった。
しかし、委託契約では利益剰余金を減額できるのは決算上損失が発生した場合とされているのであるから、利益剰余金を減額するために特別損失39億2451万余円を計上すべきではないと認められた。また、福祉施設事業に直接使用する予定のない部分の建設に特別会計の資金を財源とすべきではなく、さらに、取得した財産について、清算の対象とならない一般会計や、委託契約に明記されていない施設整備基金特別会計の資産に計上すべきではないと認められた。
(2) B団体及びC団体では、各福祉施設の整備のための資金を、特別会計から団体の一般会計へ繰り入れ積立金として一括管理しており、この資金総額は、11年度末現在、B団体が59億3313万余円、C団体が37億8049万余円となっていた。そして、この資金の運用に係る11年度の利息収入は、B団体で5979万余円、C団体で4574万余円となっており、これら利息収入を全額団体の一般会計の収益として計上していた。
しかし、この資金は、福祉施設整備を行うため、特別会計から一般会計へ繰り入れられたものであるから、利息収入計1億0553万余円についても積立金に計上すべきものであり、一般会計の収益として計上すべきではないと認められた。
(3) D団体では、福祉施設である57病院を全体として管理するために、病院事業特別会計を設け、所定の負担金を各特別会計から病院事業特別会計に繰り入れていた。この会計については、経理計画の承認及び決算報告の対象としていなかった。
そして、D団体では、本部及び研修所を移転、新築することとして、その建設資金は、病院事業特別会計と一般会計とで共同して負担し、施設の完成後に両会計にあん分して資産に計上することとしていた。
この経理処理についてみると、10、11両年度において、病院事業特別会計から計19億1218万余円が一般会計の収益として繰り入れられていた。そして、団体では、取得した土地等をすべて一般会計の資産として計上していた。
しかし、病院事業特別会計の繰入れに係る分は、一般会計において借入金として明確に経理しておくべきであって、これを一般会計の収益とすべきではないと認められた。
上記(1)から(3)の適切を欠く経理処理に係る金額は計59億4222万余円となっており、委託契約に係る経理処理を適切なものとする要があると認められた。
このような事態が生じていたのは、次のことなどによると認められた。
(1) 委託契約では、特別会計について概括的に規定しているものの、特別会計から他会計へ繰り入れられた後の資金の取扱いについて具体的な定めがないため、社会保険庁によるこれら経理処理についての指導及び監査が十分でなかったこと
(2) 国の事業である福祉施設事業と受託団体自らの事業との経理を明確に区分することの重要性の理解が十分でなかったこと
3 当局が講じた改善の処置
上記についての本院の指摘に基づき、社会保険庁では、12年10月に、次のように委託契約に係る経理処理を適切なものとする処置を講じた。
(1) A団体及びD団体との委託契約を変更し、施設整備基金特別会計及び病院事業特別会計についての決算を同庁へ報告させたり、これを監査の対象としたり、この会計を清算対象にしたりなどして特別会計と同様の取扱いとした。
(2) 受託団体に通知を発し、会館等の資産については、その財源元の負担割合に応じて資産計上したり、運用利息については、積立金に計上したりして、福祉施設事業と受託団体自らの事業とを明確に区分経理などするよう周知徹底を図った。