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  • 平成11年度|
  • 第3章 個別の検査結果|
  • 第1節 省庁別の検査結果|
  • 第7 農林水産省|
  • 本院の指摘に基づき当局において改善の処置を講じた事項

地域農業経営確率総合対策において推進事業と支援事業を有機的に連携させることなどにより事業効果の発現を図るよう改善させたもの


(1)地域農業経営確立総合対策において推進事業と支援事業を有機的に連携させることなどにより事業効果の発現を図るよう改善させたもの

会計名及び科目 一般会計 (組織)農林水産本省  (項)農業振興費
 (項)農業構造改善対策費
部局等の名称 農林水産本省、東北、北陸、近畿、九州各農政局
補助の根拠 予算補助
補助事業者 府県7
間接補助事業者
(事業主体)
市町村16、農業協同組合等15、計31事業主体
補助事業 (1) 地域農業経営確立推進
(2) 地域農業経営確立支援
補助事業の概要 担い手の育成と担い手への農用地利用の集積を図るため、(1)担い手による農作業の受託等を促進するための実践計画を作成し、(2)その実践計画の達成を支援するための土地基盤、農業近代化施設等を整備するもの
事業の効果が十分発現されていない地区数 19地区
上記に係る事業費 (1) 1797万円 (平成9年度〜11年度)
(2) 20億7185万円 (平成9年度〜11年度)
20億8983万円
上記に対する国庫補助金相当額 (1) 894万円 (平成9年度〜11年度)
(2) 10億2238万円 (平成9年度〜11年度)
10億3133万円

1 事業の概要

(地域農業経営確立総合対策)

 農林水産省では、近年における農村社会の高齢化、兼業化の進行、耕作放棄地の増加等農業者と土地利用の各般にわたる問題に対処するため、経営感覚に優れた効率的かつ安定的な経営体を育成し、これら経営体が農業生産の相当部分を担うような農業構造を確立することが現下の農政の緊急の課題としている。
 そして、このような観点から、各種の事業を通じて農業の担い手の育成と担い手への農用地利用の集積を図ることとしており、これを加速するためには、農作業の受委託等を通じて農用地の利用関係の調整等を行う農用地利用改善団体等の自主的な調整機能を最大限に活用すること、及び補助労働力を安定的に確保する体制の整備を推進することが重要であるとしている。
 このため、農林水産省では、農用地利用改善団体等の統合・再編強化を推進し、担い手の育成、担い手や高齢農家等の農作業を受託し補完的作業を行うファームサービスグループ(以下「サービスグループ」という。)の育成等を図ることにより、地域全体での合理的な役割や作業の分担に基づく農業経営を確立することを目的として、平成9年度から11年度までの間に、地域農業経営確立総合対策を実施している。
 この総合対策は、地域農業経営確立総合対策要綱(平成9年9構改B第366号農林水産事務次官依命通達)に基づき、上記目的の早期実現を図る観点から、いわゆるソフト事業としての地域農業経営確立推進事業(以下「推進事業」という。)とハード事業としての地域農業経営確立支援事業(以下「支援事業」という。また、「推進事業」と「支援事業」を合わせて「経営確立事業」という。)を一体として有機的に実施することにより事業効果の発現を図ることとしている。
 そして、9年度から11年度までに、40道府県の178地区において、推進事業が1億9598万余円(国庫補助金9724万余円)、支援事業が141億9185万余円(国庫補助金70億5019万余円)、計143億8783万余円(国庫補助金71億4743万余円)で実施されている。

(地域農業経営確立推進事業)

 推進事業では、次の活動を行うこととしている。

〔1〕 農用地利用改善団体等の統合・再編強化等活動

 市町村は、農業者の代表、農業協同組合(以下「農協」という。)等を構成員として設置した協議会による会議を開催するなどして、地域の農用地及び労働力の調査を踏まえて、地域の実態及び課題の把握、農用地利用改善団体等の活動内容及び活動範囲の分析・評価等を行い、地域農業の組織化と担い手の育成確保などについて検討する。
 そして、これらの分析・検討等を踏まえて、地域農業の将来の方向、農用地利用改善団体等の統合・連携・活動区域等の見直し、担い手の現状と見通し、担い手への農用地利用の集積、サービスグループの育成活用、支援事業で整備する小規模土地基盤・農業近代化施設等について、現状及び目標を具体的に盛り込んだ「地域農業経営確立実践計画」(以下「実践計画」という。)を作成する。

〔2〕 ファームサービス促進活動

 市町村又は農協等は、市町村、農業者、農協等を構成員とする協議会を設置し、実践計画に沿って、農業労働力の需給調整の在り方、農作業の受委託の意向等の把握等について協議するとともに、サービスグループを育成し、サービスグループに対し生産管理、機械操作等に関する技術習得のための研修会を開催するなどする。
 上記の実践計画の作成やサービスグループの育成に当たり、市町村等は、推進事業の中で、農業者の意向を集約し、また、活動を円滑に推進し普及させるなどのため、農業者等を対象とした説明会を実施することとなっている。
 また、実践計画については、市町村長がこれを都道府県知事に提出し、都道府県知事はこれを承認した上で地方農政局長等に提出して承認を受けることとなっている。
 そして、市町村長等は、推進事業を実施した後に、各種活動の内容等をまとめた実績報告書を作成して都道府県知事に提出し、都道府県知事はこれを地方農政局長等に提出して承認を受けることとなっている。

(地域農業経営確立支援事業)

 支援事業は、推進事業における実践計画の達成を支援するために実施されるものである。このため、市町村又は農協等は、実践計画に基づいて、農道、ほ場等を整備する小規模土地基盤整備事業、地力増進施設、農業機械等を設置・導入する農業近代化施設整備事業等を行う。
 そして、支援事業が完了したときは、市町村長等は都道府県知事に対して事業完了報告を提出し、事業が完了した年度の翌年度から目標年度(実践計画が承認された日から4年を経過した日の属する年度)までの毎年度、実践計画の達成状況を調査し、同様にその結果を報告することとなっている。そして、上記の報告を受けた都道府県知事は、これらを地方農政局長等に報告するほか、実践計画の進ちょく状況を調査し、助言、指導等を行うこととなっている。

(12年度からの集落営農経営確立支援事業)

 経営確立事業は11年度をもって終了したが、農林水産省では、農業の担い手が不足する中で、地域農業における効率的な農業生産を確保するためには、引き続き多様な担い手を確保・育成することが重要であるとしている。このため、12年度から、経営確立事業を引き継いで、集落を基本単位とした営農システムの構築を支援するとともに、効率的かつ安定的な経営体への発展を促進することを目的として、実践計画と同様の集落営農経営確立支援事業実施計画(以下「実施計画」という。)を作成し、これに基づき必要な営農対策支援施設や土地基盤等の整備等を行う集落営農経営確立支援事業(以下「後継事業」という。)を実施している。
 上記の実施計画については、市町村が作成して都道府県知事に提出し、都道府県知事は地方農政局長等と協議して、当該実施計画の承認を行うこととなっている。
 そして、事業が完了したときは、市町村長等は、経営確立事業と同様に、事業完了報告及び達成状況報告を行うこととなっている。

2 検査の結果

(検査の着眼点)

 経営確立事業は、いわゆるソフト面の推進事業とハード面の支援事業を一体として有機的に連携させて実施することにより、事業効果の発現を図ることとされていることから、両事業が有機的に連携して実施されているかなどに着眼して検査した。

(検査の対象)

 北海道ほか17府県(注1) において、9年度から11年度までに実施された75地区、推進事業費7256万余円(国庫補助金3604万円)、支援事業費66億1264万余円(国庫補助金32億4953万円)、計66億8520万余円(国庫補助金32億8557万円)を対象に検査した。

(検査の結果)

 検査したところ、京都府ほか6県(注2) の19地区(推進事業費1797万余円(国庫補助金894万余円)、支援事業費20億7185万余円(国庫補助金10億2238万余円)、計20億8983万余円(国庫補助金10億3133万円))において、次のように、両事業が有機的に連携して実施されておらず、事業の効果が発現されていない事態が見受けられた。

(ア) 農用地利用改善団体等が統合・再編されていなかったもの

5地区

 これらは、実践計画では、複数の農用地利用改善団体等において、統合、連携又は活動区域の見直しを行うことによりその活動区域を広域化し、広範囲の農用地について農作業の受委託を推進することにより、担い手への農用地利用の集積を実現するなどとしていた。そして、これを支援するため、米の乾燥調製施設等を整備していた。
 しかし、農用地利用改善団体等の間で協議が整わなかったため、これらの統合、連携又は活動区域の見直しができておらず、計画どおりの担い手による農作業の受託が進んでいなかった。このため、米の乾燥調製施設等の利用も、計画のように規模拡大を図る担い手が中心とはなっていないなどしていた。

(イ) サービスグループが組織されていなかったり、サービスグループは組織されているもののその活動実績がなかったりしていたもの

17地区

 これらは、実践計画では、担い手に対する補助労働力として農作業等を行うため、サービスグループを組織し、この活動により担い手による農作業の受託が容易に行われるようにして担い手への農用地利用の集積を図るなどとしていた。そして、これを支援するため、農道や米の乾燥調製施設、農産物加工施設等を整備していた。
 しかし、サービスグループは目標年度までに組織すれば良いものと誤認するなどのため組織されていなかったり、サービスグループは組織されていたものの担い手、兼業農家、高齢農家等がその存在を知らなかったことなどから、補助的な農作業の受託実績がなかったりしていた。また、担い手による農作業の受託も計画どおりに進んでいなかった。このため、米の乾燥調製施設等の利用も実践計画のように規模拡大を図る担い手が中心とはなっていないなどしていた。
 これらのうち、サービスグループが組織されていなかった事例を挙げると次のとおりである。

<事例>
 A市では、B地区において、次のような内容の実践計画を作成していた。すなわち、〔1〕担い手に対する補助労働力として収穫の補助作業等を行うため、9年度中に兼業農家等で構成するサービスグループを組織する、〔2〕サービスグループの活動により担い手による農作業の受託が容易に行われるようにして、担い手への農用地利用の集積を図る、〔3〕収穫した米の籾殻を高品質の堆肥に加工する有機物供給施設をC農協が設置し、生産された堆肥を担い手等が耕作する農地等に還元して地力を増進させ、農作物の品質を向上させるなどして担い手の一層の規模拡大を図る。
 そして、この実践計画を受けて、C農協では農業近代化施設として有機物供給施設を設置していた。
 しかし、A市は上記実践計画を作成したものの、サービスグループの構成員となる予定の兼業農家等に対して十分な説明をしていなかったため、サービスグループは組織されておらず、また、地区内の統一的な受委託料金を設定していなかったことなどから、担い手による農作業の受託が進まず、その面積がほとんど増加していなかった。このため、有機物供給施設により生産された堆肥の担い手による購入実績は、実践計画に対して極めて低いものとなっていた。

(発生原因)

 このような事態が生じていたのは、次のようなことなどによると認められた。
〔1〕 市町村、農協等の事業主体において、経営確立事業に対する理解が十分でなく、農業者を始め関係者に対する説明が十分でなかったり、その意向等を十分踏まえないまま実践計画が作成されたりしていたこと
〔2〕 都道府県において、経営確立事業に対する理解が十分でなく、事業主体に対する指導や実践計画の審査が十分でなかったこと、及び達成状況等の内容を的確に把握していなかったこと
〔3〕 農林水産省において、都道府県及び事業主体に対する指導が十分でなかったこと、また、実践計画が地域の実情を反映したものとなっているか的確に把握できていなかったこと、並びに実践計画書、実績報告書及び達成状況報告書が事業の実態や達成状況を的確に把握できないものとなっていたこと

3 当局が講じた改善の処置

 上記についての本院の指摘に基づき、農林水産省では、12年10月に経営確立事業及び後継事業の運用通達等を改正するなどして、経営確立事業及び後継事業の効果が十分発現されるよう、次のような処置を講じた。
(ア) 前記の事業効果が発現していない地区に係る事業主体及び都道府県に対して、当該経営確立事業の実践計画の目的を達成すべく新たなファームサービス活動計画の作成など具体的な活動を促進させるよう指導した。
(イ) 経営確立事業の達成状況報告書において、地域の実態や実践計画の達成状況が的確に把握できるよう関係書式を改正した。
(ウ) 後継事業については、市町村において農業者等の意向を十分踏まえて実施計画を作成し、また、都道府県においてその審査等を適切に行うよう指導するとともに、達成状況を的確に把握できるよう関係書式を改正した。

(注1) 北海道ほか17府県 北海道、京都府、青森、岩手、秋田、山梨、長野、新潟、三重、奈良、和歌山、徳島、愛媛、福岡、佐賀、大分、熊本、鹿児島各県
(注2) 京都府ほか6県 京都府、青森、岩手、秋田、新潟、熊本、鹿児島各県