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  • 平成11年度|
  • 第3章 個別の検査結果|
  • 第1節 省庁別の検査結果|
  • 第7 農林水産省|
  • 本院の指摘に基づき当局において改善の処置を講じた事項

指定野菜価格安定対策事業の運営が適切に行われるよう改善させたもの


(2)指定野菜価格安定対策事業の運営が適切に行われるよう改善させたもの

会計名及び科目 一般会計 (組織)農林水産本省 (項)食品流通等対策費
部局等の名称 農林水産本省、東北、関東、北陸、東海、近畿、中国四国、九州各農政局
補助の根拠 予算補助
<共通業務資金に係る分>
補助事業者 野菜供給安定基金
(事業主体)  
<助成業務資金に係る分>
補助事業者 北海道ほか29県
間接補助事業者 野菜供給安定基金
(事業主体)  
事業 指定野菜価格安定対策事業
事業の概要 指定野菜の価格が著しく低落した場合に、生産者に生産者補給金を交付するために、野菜供給安定基金が、登録出荷団体に対し生産者補給交付金を交付するもの
(1)   資金造成額 平成11年度  740億1835万余円    
(国庫補助金相当額 465億8658万余円 )
上記のうち産地要件を満たしていない産地に係る資金造成額 平成11年度 29億9411万余円  
(国庫補助金相当額 18億9267万余円 )
(2)   生産者補給交付金交付額 平成9年度〜11年度 260億6235万余円  
(国庫補助金相当額 161億1919万余円 )
過大に交付されていた生産者補給交付金交付額 平成9年度〜11年度 3667万円  
(国庫補助金相当額 2408万円 )
交付予約の基礎となる数量を申し出ていない農協に対する生産者補給金交付額 平成9年度〜11年度 5279万円  
(国庫補助金相当額 3241万円 )
適切に交付されていなかった生産者補給交付額 平成9年度〜11年度 3752万円  
(国庫補助金相当額 2374万円 )

1 事業の概要

(指定野菜価格安定対策事業の概要)

 農林水産省では、主要な野菜についての生産及び出荷の安定等を図り、もって野菜農業の健全な発展と国民消費生活の安定に資することを目的として野菜価格安定対策を実施している。そして、その一環として、野菜生産出荷安定法(昭和41年法律第103号)に基づき、野菜供給安定基金(以下「基金」という。)に指定野菜価格安定対策事業(以下「価格安定事業」という。)を実施させている。
 この事業は、指定消費地域(注1) における指定野菜(注2) の価格が著しく低落した場合に、その低落が生産者に及ぼす影響を緩和するための補給金(生産者補給金)を生産者に交付するため、生産者が当該指定野菜の出荷を委託した登録出荷団体(基金に登録された各道府県の農業協同組合連合会等の出荷団体)に対し生産者補給交付金を交付するものである。
 生産者補給交付金に充てる資金は、基金においてあらかじめ造成することとなっており、国は指定野菜の種類・時期等によりその造成資金の60%又は65%を負担し、道府県及び登録出荷団体はそれぞれ20%又は17.5%を負担している。
 そして、基金では、国の負担分として農林水産省から交付される補助金のうち、基金に直接交付されるものは共通業務資金として、道府県を経由して交付されるものは道府県の負担分と合わせて助成業務資金として、また、登録出荷団体の負担分は業務資金として管理している。

(野菜指定産地の指定)

 農林水産大臣は、都道府県知事の申出を受けて、指定野菜の集団産地として形成する必要があると認められる一定の生産地域を野菜指定産地として指定することができる(平成12年6月末現在1,188産地)。
 野菜指定産地の指定は、次の要件(以下「産地要件」という。)をすべて備える場合にできることとなっており、この要件の全部又は一部を欠いたときには、都道府県知事の申出を受けて、農林水産大臣が指定の解除を行うこととなっている。
ア その区域内の指定野菜の作付面積が、原則として10〜25haに達しているか、又はこれに達する見込みが確実であること
イ その区域内で生産される当該指定野菜について、指定消費地域向け出荷数量の全出荷数量に対する割合(以下「指定消費地域向け出荷割合」という。)が2分の1に達しているか、又はこれに達する見込みが確実であること
ウ その区域内で生産される当該指定野菜について、農業協同組合(以下「農協」という。)等の共同出荷組織による出荷数量の全出荷数量に対する割合(以下「共同出荷割合」という。)が原則として3分の2を超えているか、又はこれを超える見込みが確実であること
 上記のように、野菜指定産地の産地要件を定めているのは、指定消費地域に対して野菜の計画的、安定的供給を図るためには、安定的生産・出荷が見込まれる産地からの相当量の入荷が必要となることなどによる。

(対象野菜)

 価格安定事業は、指定野菜のうち次の要件を備えているものを対象としている(以下「対象野菜」という。)。
ア 野菜指定産地の区域内で生産されたものであること
イ 登録出荷団体が、生産者の委託を受けて一定の期間(以下「対象出荷期間」という。)内に、対象となる指定消費地域の対象市場へ出荷したものであること
ウ 基金の定める共同計算方式(注3) により出荷されたものであること
エ 品質、重量等が基金の定める規格に適合したものであること

(生産者補給交付金の交付手続と生産者補給金の交付)

 登録出荷団体に対する生産者補給交付金については、基金の定める業務方法書等により、交付までの手続が次のように定められている。
〔1〕 登録出荷団体は、対象野菜の種類等の区分(以下「業務区分」という。)ごとに、その出荷予定数量のうち生産者補給交付金の交付を受けようとする数量(以下「交付予約数量」という。)を決めて、基金に対しその交付の予約の申込みを所定の日までに行う。
〔2〕 基金は、これを承諾したときは、その旨を当該登録出荷団体に通知する。
〔3〕 登録出荷団体は対象出荷期間の開始の日の前日の10日前までに基金に対して交付予約数量に基づいて算定された負担金を納入する。
〔4〕 登録出荷団体は、野菜の価格が低落し、生産者補給交付金の交付を受けようとするときは、基金に対し対象野菜の出荷数量及び販売価額を証明する書類等を添えて交付を申請する。この交付の額は、交付予約数量又は出荷数量のどちらか少ない方を基礎として算定される。
〔5〕 基金は、交付申請書を審査し、当該登録出荷団体に対して生産者補給交付金を交付する。
 そして、登録出荷団体は、上記の生産者補給交付金を、構成会員である農協等を通じるなどして、生産者に対し生産者補給金として交付する。

(注1) 指定消費地域 野菜の消費上重要であり、かつ、相当の人口を有する都市及びその周辺の地域であって、野菜生産出荷安定法施行令(昭和41年政令第224号)で定めた地域
(注2) 指定野菜 消費量が相対的に多いか、又は多くなることが見込まれる野菜であって、その種類、出荷時期等により定められた種別に属するものであり、具体的には、キャベツ、だいこん等の14種類の野菜を春キャベツ、秋冬だいこん等の30種別に分けている。
(注3) 共同計算方式 共同出荷において、対象野菜の販売代金の総額を全出荷数量で割り戻した単価を基に、出荷した各生産者へ支払われる販売代金の額を計算する方式
指定野菜価格安定対策事業の運営が適切に行われるよう改善させたものの図1
<資金造成に係る負担割合>
負担者区分
指定野菜の種類
負担金 補助金
登録出荷団体 道府県
道府県を通じる間接補助金 基金への直接補助金
重要野菜 17.5% 17.5% 32.5% 32.5% 65.0%
一般野菜 20.0% 20.0% 30.0% 30.0% 60.0%
造成される資金の種類 業務資金 助成業務資金 共通業務資金
(注)  重要野菜は、春キャベツ、夏秋キャベツ、冬キャベツ、秋冬だいこん、たまねぎ及び秋冬はくさいで、一般野菜は、その他の指定野菜である。

2 検査の結果

(検査の着眼点)

 近年、野菜産地の再編及び産地間の格差の拡大、農協合併の進展、野菜の出荷形態の変化等、野菜農業を取り巻く状況が変化してきている。
 そこで、このような状況の下で、野菜指定産地での野菜の生産出荷の安定及び指定消費地域での野菜価格の安定を目的とする本件価格安定事業が適切に運営されているかなどに着眼して検査した。

(検査の対象)

 北海道ほか29県(注4) 管内における価格安定事業の実施状況について、基金を検査するとともに、34登録出荷団体(11年度資金造成額計740億1835万余円(うち国庫補助金相当額465億8658万余円)、9年度から11年度生産者補給交付金交付額260億6235万余円(うち国庫補助金相当額161億1919万余円))及びその構成会員のうち248農協を調査した。

(検査の結果)

 検査したところ、北海道ほか27県(注5) において、野菜指定産地の産地要件及び生産者補給交付金等の交付について次のような事態が見受けられた。

(1) 野菜指定産地の産地要件を満たしていないのに適切な処置が執られていなかったもの

24道県 105産地 産地要件を満たしていない産地に係る資金造成額
29億9411万余円
(上記に対する国庫補助金相当額 18億9267万余円

 上記の産地については、野菜指定産地の産地要件である対象野菜の作付面積、指定消費地域向け出荷割合又は共同出荷割合のいずれかを連続して3年間も下回っていたのに、野菜指定産地の指定の解除など適切な処置が執られることなく、引き続き価格安定事業の対象となっていた。

(2) 生産者補給交付金又は生産者補給金の交付が適切でなく、これに係る国庫補助金が交付の趣旨に沿わなくなっていたもの

(ア) 登録出荷団体から基金に対する生産者補給交付金の交付申請に当たり、交付対象にならない野菜を出荷数量に含めていたもの

13登録出荷団体 20農協 過大に交付されていた生産者補給交付金交付額
3667万余円
(上記に対する国庫補助金相当額 2408万余円

 上記の登録出荷団体では、基金の定める共同計算方式によらないで、生産者ごとの販売単価に基づいて各生産者の販売代金を計算する方式により出荷された野菜、野菜指定産地の区域外で生産された野菜又は基金の定める規格に適合しない野菜を出荷数量に含めていたため、生産者補給交付金が過大に交付されていた。

(イ) 登録出荷団体にあらかじめ交付予約の基礎となる数量を申し出ていない農協が出荷した分に対して生産者補給金が交付されていたもの

12登録出荷団体 45農協 交付予約の基礎となる数量を申し出ていない農協に対する生産者補給金交付額
5279万余円
(上記に対する国庫補助金相当額 3241万余円

 上記の登録出荷団体では、上記の農協があらかじめ交付予約の基礎となる数量を登録出荷団体に申し出ておらず負担金を負担していない業務区分について、当該農協の出荷数量を含めて生産者補給交付金の交付申請を行い、交付を受けた生産者補給交付金をこれらの農協に対しても生産者補給金として交付していた。このような事態は、生産者の受益と負担の関係における公平性が確保されていないもので、また、あらかじめ交付予約の基礎となる数量を申し出ていない農協は当該業務区分について価格安定事業に加入する意思がないものであるから、これらの農協が出荷した分に対して生産者補給金を交付していたのは適切とは認められない。

(ウ) 農協から生産者への生産者補給金が適切に交付されていなかったもの

14登録出荷団体 28農協 適切に交付されていなかった生産者補給金交付額
3752万余円
(上記に対する国庫補助金相当額 2374万余円

 上記の農協では、生産者に生産者補給金を交付するに当たり、野菜指定産地の区域外で生産された野菜を生産者補給金の対象に含めていたり、生産者補給金の全部又は一部を個々の生産者に交付していなかったりなどしていた。
 上記(1)、(2)のように、野菜指定産地の産地要件を満たしていないのに適切な処置が執られないまま資金が造成されていたり、交付された生産者補給交付金又は生産者補給金に適切とは認められない事態が見受けられていたりしていることは、本件事業の目的に沿わないものと認められた。

(発生原因)

 このような事態が生じていたのは、主として次のような理由によるものと認められた。

(1) 野菜指定産地の産地要件について

(ア) 道県において、産地要件を満たしていない場合に行うこととされている農林水産省に対する報告に漏れがあったこと、また、改善に向けての取組みも十分でなかったこと
(イ) 農林水産省において、野菜指定産地の実態を十分把握していなかったこと及び指定の解除等の基準を道県に明示していなかったこと

(2) 生産者補給交付金又は生産者補給金の交付について

(ア) 登録出荷団体及び農協において、本件事業の対象野菜について十分理解していなかったこと
(イ) 基金において、事業の対象野菜や生産者補給交付金の交付手続について登録出荷団体に対して周知徹底を図っていなかったこと
(ウ) 農林水産省において、あらかじめ交付予約の基礎となる数量を申し出ていない農協が出荷した分について、交付申請の数量に含めないこととするなどの指導が十分でなかったこと

3 当局が講じた改善の処置

 上記についての本院の指摘に基づき、農林水産省では、12年10月に野菜指定産地の実態調査を実施して、同年11月に各地方農政局、基金等に対して通達を発し、上記(1)及び(2)の事態について次のような改善の処置を講じた。また、基金では、この通達を受け、同年同月に登録出荷団体に対して通知を発し、上記(2)の事態について次のような改善の処置を講じた。

(1) 野菜指定産地の産地要件について

 農林水産省において、産地要件を満たしていない野菜指定産地については、原則としてその指定を解除することとし、ただし、一定期間内に改善が見込まれる場合は、共同出荷体制の整備強化等により改善が図られるよう関係機関を指導することとした。

(2) 生産者補給交付金又は生産者補給金の交付について

(ア) 農林水産省において、登録出荷団体にあらかじめ交付予約の基礎となる数量を申し出ていない農協等がある場合は、当該農協等の出荷数量を生産者補給交付金の交付申請に含めないこととするよう指導した。
(イ) 基金において、登録出荷団体に対して、生産者補給交付金の対象とする野菜が要件に適合していることを十分に確認するよう指導し、価格安定事業の適正な実施を徹底するため、登録出荷団体を通じて農協等に対する指導を強化することとした。

(注4) 北海道ほか29県 北海道、岩手、宮城、秋田、福島、茨城、栃木、群馬、千葉、富山、石川、福井、山梨、長野、岐阜、愛知、滋賀、兵庫、和歌山、鳥取、島根、岡山、山口、徳島、高知、福岡、佐賀、長崎、熊本、大分各県
(注5) 北海道ほか27県 北海道、岩手、宮城、秋田、福島、茨城、栃木、群馬、千葉、富山、石川、福井、山梨、長野、岐阜、愛知、滋賀、兵庫、和歌山、鳥取、岡山、山口、徳島、福岡、佐賀、長崎、熊本、大分各県