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  • 平成11年度|
  • 第3章 個別の検査結果|
  • 第1節 省庁別の検査結果|
  • 第7 農林水産省|
  • 本院の指摘に基づき当局において改善の処置を講じた事項

農業集落排水事業における汚水処理区の設定に当たり、経済性の検討を十分行うことにより、事業の効率的な実施を図るよう改善させたもの


(3)農業集落排水事業における汚水処理区の設定に当たり、経済性の検討を十分行うことにより、事業の効率的な実施を図るよう改善させたもの

会計名及び科目 一般会計 (組織)農林水産本省  (項)農村整備事業費
 (項)沖縄開発事業費
部局等の名称 農林水産本省
補助の根拠 予算補助
補助事業者 県15
間接補助事業者
(事業主体)
市10、町14、村7、計31事業主体
補助事業 農業集落排水事業、農業集落排水緊急整備事業
補助事業の概要 農業用用排水の水質保全、農業用用排水施設の機能維持又は農村生活環境の改善を図り、併せて公共用水域の水質保全に寄与するため、農業集落におけるし尿、生活雑排水の汚水等を処理する施設の整備を行うもの
接続前の汚水処理区数 70処理区
接続した場合の汚水処理区数 33処理区
接続前の推計事業費 1130億円
接続した場合の推計事業費 1059億円
接続した場合の推計事業費の低減額 70億円
上記に対する国庫補助金相当額 36億円

1 事業の概要

(農業集落排水事業の概要)

 農林水産省では、農業用用排水の水質保全、農村生活環境の改善、農業集落におけるし尿、生活雑排水の汚水等の処理等を目的として、農業集落排水施設(集水管、中継ポンプ等の管路施設及び汚水処理施設で構成される。)の整備事業(以下「農業集落排水事業」という。)を実施する市町村に対して、毎年多額の国庫補助金を交付し事業の推進を図っている。同省が、この事業開始時の昭和58年度から平成10年度までの間に、47都道府県管内の1,409市町村が実施した農業集落排水事業(事業費計2兆8389億円)に対して交付した国庫補助金は計1兆4299億円に上っている。
 そして、農業集落排水事業は、〔1〕汚水処理の区域が1集落ないし数集落の単位とされる小規模分散方式であること、〔2〕農業集落排水施設の処理水を農業用水として再利用できること、〔3〕汚水処理施設の維持管理が住民参加型となっているため、農村コミュニティの醸成と生活排水の処理に対する住民意識の向上が期待できることなどがその特質とされている。

(農業集落排水事業の計画)

 農業集落排水事業は、「農業集落排水事業実施要綱」(昭和58年58構改D第271号農林水産事務次官通達)等(以下「実施要綱」という。)に基づき実施されており、事業の計画は、実施要綱により、次のように作成することとされている。
(ア) 事業主体となる市町村は、都道府県と協議して、原則として農業振興地域全域を対象とした整備の基本構想(長期的な農業集落排水施設の整備構想で、これには処理対象となる人口、戸数、集落数、整備量、事業費等が含まれている。)及び整備の計画構想図を定めた農業集落排水整備計画(以下「整備計画」という。)を作成する。
(イ) 市町村は、事業の採択申請に当たり、整備計画に即して、事業の目的、事業計画区域の範囲、工事計画、費用の総額等を定めた農業集落排水事業計画等(以下「事業計画」という。)を作成する。

(農業集落排水事業の実施)

 都道府県及び市町村は、実施要綱により、農業集落排水事業の実施に当たって次のことを行うこととされている。
(ア) 都道府県は、市町村に対し、整備計画及び事業計画の作成並びに事業の適切かつ円滑な実施のための技術的な助言、指導等を行うこと
(イ) 市町村は、事業計画の作成及び事業の実施に際し、その円滑な推進を図るため、関係行政機関、農業団体等と密接な連携を保つとともに、集落懇談会を随時開催することにより健全な集落地域社会の形成を促進するよう努めること
(ウ) 市町村は、事業計画を作成する際、汚水処理区に係る農業集落排水施設の建設費や維持管理費に対する住民の負担額、管理方法等について住民に説明し、受益者負担等に関する地域住民の同意を得なければならないこと

(マニュアルの制定)

 農林水産省では、事業主体において、農業集落排水事業の特質を踏まえ、長期的な展望に立って、合理的かつ効率的な汚水処理区を設定した整備計画が作成されるよう、6年10月に、実施要綱の内容を具体化した農業集落排水整備計画策定マニュアル(案)(以下「マニュアル」という。)を制定している。

(汚水処理区の設定)

 マニュアルにおいては、汚水の処理が1つの汚水処理施設により行われる区域である汚水処理区の設定について次のように定められている。
 すなわち、マニュアルでは、汚水処理区は、対象とする地域における農業振興地域整備計画や都市計画等の諸計画、自然的・地理的な立地条件、地縁関係等の社会的条件などを考慮しながら、事業の経済性、効果等を総合的に評価して設定することとされている。
 そして、その設定の手順は、〔1〕市町村の農業振興地域全域を対象として、1集落ないし数集落を単位とする基本的な処理区を設定する。〔2〕設定した複数の基本的な処理区が隣接しているときは、これらの基本的な処理区を接続した場合の事業効果等の検討を行い、〔3〕経済性の検討を行うか否かの判断をした上で、〔4〕経済性の検討を行う場合は接続に関する経済比較を行い、〔5〕事業効果等と経済性を総合的に評価して汚水処理区を設定することとされている。
 なお、上記〔3〕の経済性の検討を行うか否かの判断を行う際には、事業効果等の事項について十分検討するものとし、その結果、複数の基本的な処理区を接続することについての実現の可能性がない場合は、経済性の検討を行わなくてもよいこととされている。そして、実現の可能性がない場合とは、例えば、次のような場合とされている。
(ア) 地域特性、水質規制、水質汚濁の状況等から、1つの基本的な処理区の事業として緊急に事業を実施する要がある場合
(イ) 生活環境の改善に対する地元要望等から、事業実施予定時期が大きく異なる区域どうしを接続することになる場合
(ウ) 集落又は集落圏どうしのつながり等地域住民の意見を踏まえる必要がある場合
 また、経済性の検討を行う際には、マニュアルの参考資料で定める費用関数(注1) 等を用いて、複数の基本的な処理区を接続する場合と接続しない場合のそれぞれの農業集落排水施設に係る建設費等を算出するなどして経済比較することとなっている。これは、複数の基本的な処理区を接続すると、必要とされる汚水処理施設が1つで済むことになるため、汚水処理施設に係る建設費等が低減することになるが、この低減分と接続することに伴い必要となる管路施設の建設費等の増加分を比較することによって、より経済的な汚水処理区の設定が可能となるからである(参考図参照)

費用関数 処理対象人口など代表的な計画数値を変数として、建設費や維持管理費を算出する方法。費用関数は、マニュアル制定時までに実施した農業集落排水施設の整備に係る実績データ等を取りまとめ、統計的に処理して求められている。

2 検査の結果

(検査の着眼点)

 農業集落排水事業により、10年度までに農業集落排水施設を完成又は整備している汚水処理区は全国で約3,800あり、このうち処理対象人口が1,000人未満の小規模な汚水処理区が約2,300と多数に上っており、事業の伸展に伴い、近年、汚水処理区が隣接して設定される事例が増えてきている。
 このように汚水処理区が隣接して設定される場合、前記のとおり、それらの汚水処理区を接続すれば経済性が発揮され、事業の効率的な実施が図られることがある。そこで、このような観点から、汚水処理区の接続について、マニュアルを活用した検討が十分なされ、事業の効率的な実施が図られているかに着眼して検査した。

(検査の対象)

 マニュアルが制定された翌年度(7年度)以降に事業に着手し又は事業を予定している岩手県ほか19県(注2) 管内の102市町村を対象として、同一市町村管内に複数の汚水処理区が隣接して設定されている場合における当該市町村の整備計画の内容等について検査した。

(検査の結果)

 検査したところ、茨城県ほか14県(注3) 管内の31市町村において、〔1〕7年度以降に事業に着手した汚水処理区と、〔2〕この事業の着手後5年以内に着手した又は着手予定の汚水処理区について、経済性の観点からみて、隣接した汚水処理区を接続したり、接続する計画としたりすることにより事業費の低減が見込まれるものが70汚水処理区見受けられた。
 そして、これらの汚水処理区について、上記市町村においては、これらを接続した場合の経済性について十分検討を行っていなかったり、地域住民に対し、接続した場合の経済性について十分な説明を行っていなかったりなどしていた。
 これらの汚水処理区について、隣接した汚水処理区を接続したとすれば、上記70汚水処理区は33汚水処理区とすることが見込まれ、概算グラフ等を用いて事業費(注4) を推計すると、接続した場合の事業費は1059億円となり、上記70汚水処理区の推計事業費1130億円に比べて事業費で70億円(これに対する国庫補助金相当額36億円)低減できる計算となる。

(発生原因)

 このような事態が生じていたのは、農業集落排水事業における施設の整備が、地域住民の意向を尊重して進められる必要があることや、この事業が1集落ないし数集落単位の小規模分散方式となっていることなどの特質を有していることに起因していた面もあるが、主として、次のようなことなどによると認められた。
(1) 農林水産省が制定したマニュアルの内容が、事業効果等の検討を行い、その結果、接続することについての実現の可能性がない場合は経済性の検討を行わなくてもよいこととするなど、経済性の検討の重要性を十分認識させるものとなっていなかったこと
(2) 県において、事業の採択申請時における整備計画及び事業計画の作成について、市町村に対する助言、指導等が十分行われていなかったこと
(3) 市町村において、地域住民の要望や事業の特質である小規模分散方式等を重視したため、隣接する汚水処理区との接続を検討する際に、経済性の検討を十分行っていなかったこと

(注2) 岩手県ほか19県 岩手、山形、茨城、群馬、埼玉、千葉、静岡、富山、石川、岐阜、愛知、鳥取、岡山、広島、愛媛、高知、長崎、大分、宮崎、沖縄各県
(注3) 茨城県ほか14県 茨城、群馬、埼玉、千葉、静岡、富山、石川、岐阜、愛知、鳥取、愛媛、高知、大分、宮崎、沖縄各県
(注4) 事業費 汚水処理施設については「平成6年度農業集落排水整備検討調査報告書(汚水処理施設概算グラフ)」に基づき、また、管路施設については10年度単価に置き換えたものにより、それぞれ算出している。

3 当局が講じた改善の処置

 上記についての本院の指摘に基づき、農林水産省では、12年10月に、汚水処理区の設定に当たっては常に経済性の検討を行うこととするようマニュアルの改訂を行い、また、同月、通知を発するなどして、都道府県及び市町村に対してマニュアルの改訂内容の周知徹底を図り、整備計画を作成する際には経済性の検討を十分行って汚水処理区を設定するよう指導を行い、さらに、整備計画を作成しているすべての市町村にその見直しを行わせることとする処置を講じた。
 なお、一部の市町の汚水処理区においては、当該汚水処理区を隣接する汚水処理区に接続するよう整備計画を見直して、既にこれにより事業を実施している。

(参考図)

(参考図)