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  • 平成11年度|
  • 第3章 個別の検査結果|
  • 第1節 省庁別の検査結果|
  • 第9 運輸省|
  • 本院の指摘に基づき当局において改善の処置を講じた事項

自動車事故対策費補助金(救急医療設備整備事業)の交付に当たり、補助対象施設の要件を適切なものとするよう改善させたもの


(2)自動車事故対策費補助金(救急医療設備整備事業)の交付に当たり、補助対象施設の要件を適切なものとするよう改善させたもの

会計名及び科目 自動車損害賠償責任再保険特別会計(保障勘定) (項)保障費
部局等の名称 運輸本省
補助の根拠 予算補助
補助事業者
(事業主体)
県立病院5、市町立病院等34、日本赤十字社等が開設する病院10、計49病院
補助事業 救急医療設備整備事業
補助事業の概要 公的医療機関等に対して、救急医療機器の整備に要する経費の一部を補助する事業
補助対象事業費 142億6663万余円 (平成9年度〜11年度)
上記に対する国庫補助金交付額 22億4304万余円
補助対象施設の要件の見直しを考慮すべき補助事業の事業費 52億1997万余円 (平成9年度〜11年度)
上記に対する国庫補助金相当額 7億9329万円

1 補助事業の概要

(救急医療設備整備事業の概要)

 運輸省では、自動車事故の発生の防止に資するとともに、被害者の保護を増進することを目的として、自動車の運行の安全の確保に関する事業、自動車事故による被害者の援護に関する事業等に対し、自動車損害賠償責任再保険特別会計から自動車事故対策費補助金を交付している。この補助金は、自動車損害賠償責任保険及び責任共済(以下「自賠責保険」という。)に対し政府が行う自動車損害賠償責任再保険事業及び責任共済保険事業(以下「政府再保険事業」という。)で発生した運用益が財源として充てられている。
 上記の補助金のうち、自動車事故による被害者の援護に関する事業の一部として実施している救急医療設備整備事業(以下、これを「補助事業」という。)は、市町村立病院などの公的医療機関等(以下「公的病院」という。)が救急医療機器の整備を行う場合、その経費の3分の1を補助するものである。ただし、1病院当たりの補助金額は、平成9、10両年度は1000万円(特に認める施設は2000万円)、11年度は2000万円(同5000万円)が限度とされている。そして、9年度から11年度までの間に交付された国庫補助金は、計22億4304万余円となっている。

(補助事業の要件)

 運輸省では、本件補助事業の実施に当たっては、都道府県の交通事故発生件数等を勘案しつつ、対象とする公的病院を選定することとしている。そして、毎年度、都道府県の医療担当部局等を通じて、補助事業の実施を希望する公的病院から希望調書を提出させることとし、その際、補助事業の対象とする公的病院の要件を示しており、11年度では次のとおりとしている。
〔1〕 自動車事故救急患者数の多い施設であること
〔2〕 自由診療単価が概ね20円以下であること
〔3〕 経常収支率(支出に対する収入の割合)が概ね100%未満であること
〔4〕 地域の基幹的医療機関であること
〔5〕 前年度を含む過去3箇年連続して補助金の交付を受けている施設以外の施設であること

(自由診療単価)

 上記のうち、〔2〕の「自由診療単価が概ね20円以下」という要件は、昭和55年度から設けられているものであるが、この自由診療単価については次のような経緯がある。
 自賠責保険から支払われる保険金には、自動車事故の被害者に治療を行った医療機関から請求される医療費が含まれており、この医療費の診療報酬単価は、治療に緊急性を求められることなどから、健康保険における診療報酬単価(1点10円)等とは別に、いわゆる自由診療単価として扱われている。
 自賠責保険から支払われる保険金の6割は政府再保険事業によって負担することとなっているが、この自由診療単価による医療費が高額になり、また、自賠責保険では、傷害による損害(医療費、休業損害、慰謝料等)に対し支払われる保険金の総額には限度額が設けられていることから、被害者の保護のためにも医療費支払の適正化が求められていた。
 このような状況の中、59年の自動車損害賠償責任保険審議会において、自賠責保険についての診療報酬基準案を作成することなどの答申が行われ、その後運輸省でも指導を行うなどした結果、平成元年6月に、自動車保険料率算定会(以下「自算会」という。)、日本損害保険協会及び日本医師会の三者間で、診療報酬基準案についての合意が得られた(以下、合意した診療報酬基準案を「基準案」という。)。
 この合意によると、診療報酬単価は労働者災害補償保険に準拠し、同保険における診療報酬単価(1点12円)の20%増しを上限とするなどとされており、各都道府県の地区医師会等で基準案の合意を得た上で、個々の医療機関が合意に基づく医療費の請求を行うこととなっている。
 その後も、運輸省では、上記の基準案が早急に実施されるよう自算会等に指導を行うなどしてきたが、いまだに地区医師会等の合意が得られていない府県があることから、11年10月に、被害者の保護及び政府再保険事業の健全な経営のために必要かつ緊急の問題であるとして関係団体に対し改めて指導を行うなどしている。

2 検査の結果

(検査の着眼点)

 本件補助事業は、自動車事故の被害者の保護・救済を図るための施策の一環として、政府再保険事業で発生した運用益を財源として実施されている。そこで、補助事業について、上記のような医療費支払の適正化を図るという趣旨に整合して効率的に実施されているかなどに着眼して検査した。

(検査の対象)

 北海道ほか44都府県に所在する公的病院132病院において9年度から11年度までに実施された補助事業(補助対象事業費計142億6663万余円、補助金額計22億4304万余円)を対象として検査した。

(検査の結果)

 検査したところ、本件補助事業について次のような状況が見受けられた。
 補助事業を実施した132病院における自由診療単価についてみると、表1のとおり、基準案と同程度の単価である15円(注) (以下、この単価を「基準案単価」という。)を超えている公的病院が49病院あった(これらの病院に係る補助対象事業費52億1997万余円、補助金交付額7億9329万余円)。そして、これらの中には、基準案についての地区医師会等の合意が得られているのに、これを実施していない公的病院も見受けられた。

(表1)
自由診療単価 病院数
15円以下  83
15円を超え20円未満   2
20円  47
合計 132
(注)  12円×1.2=14.4円の小数点以下を切り上げて15円

 一方、当該年度中に補助事業の実施を希望したものの補助金の交付対象とならなかった公的病院が、264病院あり、これらの公的病院における自由診療単価についてみると、表2のとおり、基準案単価以下となっている公的病院が129病院あった。

(表2)
自由診療単価 病院数
15円以下 129
15円を超え20円未満   3
20円 132
合計 264

 そして、これら補助事業の対象とならなかった129病院について、補助事業の他の要件となっている自動車事故救急患者数等の状況をみると、基準案単価を超えている前記の49病院と比べて特段の差は見受けられない状況であった。
 前記のように、運輸省では、医療費支払の適正化を図るために基準案の実施の促進を図ろうとしている。しかし、上記のように、自由診療単価が基準案単価を超えている病院に対し補助金が交付されている一方で、基準案単価以下で補助事業の実施を希望している病院に対し補助金が交付されていない事態は、施策の整合性及び補助事業の効率性の観点からみて改善の要があると認められた。

(発生原因)

 このような事態が生じていたのは、運輸省において、基準案の実施の促進を図ろうとしているのに、本件補助事業における要件の見直しの検討が十分でなかったことによると認められた。

3 当局が講じた改善の処置

 上記についての本院の指摘に基づき、運輸省では12年5月に、補助対象とする公的病院の要件のうち自由診療単価について15円以下とし、都道府県等に通知する処置を講じた。