ページトップ
  • 平成11年度|
  • 第4章 国会からの検査要請事項及び特定検査対象に関する検査状況|
  • 第2節 特定検査対象に関する検査状況

日本鉄道建設公団が建設し第3セクター等に譲渡した民鉄線に係る譲渡代金の償還状況等について


第5 日本鉄道建設公団が建設し第3セクター等に譲渡した民鉄線に係る譲渡代金の償還状況等について

検査対象 運輸省、日本鉄道建設公団
民鉄線制度の概要 東京、名古屋及び大阪の大都市圏において、輸送力増強工事を行う民間鉄道事業者の申出を受けた運輸大臣の指示により、日本鉄道建設公団が新線の建設又は複々線化等の大改良を行い、完成した鉄道施設を当該鉄道事業者に譲渡するもの
第3セクター等が鉄道事業者となっている民鉄線 7線(延長計68.5km)
上記に係る譲渡価格 8598億円

1 事業の概要

(鉄道建設の手続)

 鉄道事業は、鉄道事業法(昭和61年法律第92号)により許可制(平成12年2月までは免許制)となっており、鉄道施設の建設までの手続は次のとおりとなっている。

鉄道事業は、鉄道事業法(昭和61年法律第92号)により許可制(平成12年2月までは免許制)となっており、鉄道施設の建設までの手続は次のとおりとなっている。

〔1〕 鉄道事業の許可を受けようとする者は、施設の概要、計画供給輸送力等の事業基本計画等を記載した申請書に、事業収支見積書、建設費概算書、事業の開始に要する資金、土地等の調達方法を記載した書類等を添付して運輸大臣に提出する。
〔2〕 運輸大臣は、その事業の計画が経営上適切なものであるかなどを審査して許可を行う。
〔3〕 鉄道事業の許可を受けた者(以下「鉄道事業者」という。)は、工事計画を定め、鉄道施設の種類ごとに作成した図面、建設費予算書等の書類を添付して、工事施行認可を申請する。
〔4〕 運輸大臣は、上記の工事計画が事業基本計画等に適合すると認めるときは工事施行認可を行う。
 また、既設線の複々線化等を行うなど鉄道事業者が鉄道施設を変更しようとするときは、変更に係る工事計画を定め、上記に準じた手続により運輸大臣の認可を受けなければならないこととなっている。

(日本鉄道建設公団による建設及び譲渡)

 日本鉄道建設公団(以下「公団」という。)では、日本鉄道建設公団法(昭和39年法律第3号)により、鉄道事業者が経営しようとする新線の建設や複々線化等の鉄道施設の大規模な改良(以下「大改良」という。)に必要となる資金を調達して当該工事を実施し、その完成後鉄道事業者に譲渡する業務(以下「公団工事」という。)を行っている。そして、この業務に関する手続は次のとおりとなっている。

日本鉄道建設公団が建設し第3セクター等に譲渡した民鉄線に係る譲渡代金の償還状況等についての図1

〔1〕 公団工事を希望する鉄道事業者は、工事施行認可を受けた後、運輸大臣に対して当該鉄道施設の建設又は大改良を公団が行うよう申し出る。
〔2〕 運輸大臣は、当該鉄道施設の建設又は大改良が東京、名古屋、大阪の大都市及びその周辺の地域における輸送力の増強のために緊急に必要であるなどの場合で、かつ、公団が工事を実施することが適当であると認めるときは、工事実施計画を定めてこれを公団に指示する。
〔3〕 公団は資金を調達して当該工事を実施する。
〔4〕 公団は、完成した鉄道施設を鉄道事業者に譲渡する。
 そして、公団が完成した鉄道施設を譲渡する価格(以下「譲渡価格」という。)は、建設又は大改良に要した費用のうち公団が負担した額とされている。
 すなわち、譲渡価格は〔1〕建設費、〔2〕管理費(公団の人件費及び物件費)、〔3〕債券及び借入金に係る利子(以下「建設利息」という。)等の合計額から、〔4〕ニュータウン開発者が負担する開発者負担金の額、〔5〕鉄道事業者が出資金等として受け入れた資金を建設資金に充当した額などを控除した額とされている。
 また、鉄道事業者が公団に対し譲渡代金を償還する期間及び利率については、日本鉄道建設公団法施行令(昭和39年政令第23号)により運輸大臣が指定することとなっている。

(助成措置)

 公団工事として実施される新線建設又は大改良のうち、民間の鉄道事業者が実施する輸送力増強工事で、ニュータウン線建設工事、既設線の複々線化及び複線化工事、地下鉄線及び地下鉄直通都心乗入れ線建設工事であって緊急を要するものについては、次表のとおり助成措置(以下「民鉄線制度」という。)が設けられている。

建設資金 財政投融資資金、公団債の発行による資金を充当
償還期間及び方法 25年元利均等償還
利子補給金の交付 借入金の利率が5%を超える分について交付(25年間、但しニュータウン線建設工事については15年間)
償還利率 建設資金の借入れに係る利率(但し、5%を超える分については控除する)に0.1%を加えた率
(注)
 償還利率は、平成10年度までは一律5%となっていた。
 上記の0.1%の加算は、公団の財務体質の強化のために行われているもので、経過措置として11年度は0.1%の3分の1、12年度は0.1%の3分の2となっている。

(採算性等の審査)

 鉄道事業者は、鉄道施設の譲渡を受けた後、当該路線の運賃収入を基に譲渡代金を公団に償還することとなり、運賃収入、金利水準等が公団に対する譲渡代金の償還に影響を与えることとなる。そして、公団に対する償還が滞る場合には、公団が建設資金として調達した財政投融資資金等の償還にも影響する懸念がある。
 このため、運輸省では、鉄道事業の許可を受けようとする者が公団工事を希望する場合には、許可の申請の際に民鉄線制度による助成措置を前提にした建設費予算、輸送需要の予測、収支見込みなどの資料を提出させ、これに基づいて採算性等の審査を行っている。そして、許可の後に、建設費、開業時期等が変更された場合にも、鉄道事業者が工事計画等の変更の認可申請を行う際に上記と同様の書類を提出させるなどして審査を行っている。

(収支見込みの作成)

 鉄道事業の許可を受けようとする者は、鉄道事業の許可及び工事施行認可の申請に当たり、必要な用地費を見積るとともに、建設する全区間について、現地の地質や路線が交差する他の鉄道事業者の構造物、河川等の状況を勘案して構造物の概略設計を行い、これを基に、橋りょう、高架橋、トンネル、停車場等の構造物の種類ごとに、同種の構造物の施工実績を参考にするなどして建設費を見積っている。
 また、開業後の収入の基礎となる輸送需要の予測は、一般に以下のような手法を用いて行われている。
 すなわち、国勢調査等の人口データ及び沿線の開発により見込まれる人口増から将来人口を推計する。そして、建設省を中心に実施している交通実態の調査で用いられたゾーン区分を基本として沿線地域のゾーンを細分化したうえ、各ゾーンの人口から発生・集中する交通量を基にして交通機関別の分担交通量を推計し、そのうちの鉄道を利用する交通量から路線別の輸送需要を予測している。
 そして、上記の建設費の見積、開業時期、輸送需要の予測データを基に損益及び資金収支の見込みを作成している。この際、建設費に建設利息等を加えて算定される鉄道施設の譲渡価格及び償還利率については、過去の金利の推移や民鉄線制度による利子補給金の交付を勘案して推定し、運賃収入については乗客数の増加や定期的な運賃の値上げによる増収を見込んでいる。
 このようにして作成された収支見込みは、通常、鉄道施設の譲渡代金及び借入金に係る金利負担が多額に上ることから、開業当初は運賃収入でこれらの資金を返済することができず、損失を計上するものとなっている。そして、乗客の増加及び運賃の値上げによる収入の増加と、譲渡代金の償還による利払の減少、減価償却費の減少等により収支が改善し、開業後20年から30年程度で累積ベースの損益及び資金収支が黒字に転換するものとなっている。

(譲渡の実績)

 公団では、平成12年6月までに、民鉄線制度の適用を受けたもの(以下「民鉄線」という。)については、多摩線(1)ほか24線(16鉄道事業者、延長計173.8km、一部譲渡したもの4線を含む。)を総額1兆5826億円で鉄道事業者に譲渡している。

2 検査の背景及び対象

(検査の背景)

 民鉄線制度は昭和47年に創設されたが、当初は、既存の鉄道事業者が既存線の大改良やニュータウン新線等の建設を公団工事により実施し、譲渡を受けるものが中心であった。そして、その譲渡代金の償還については、大改良の場合は元来輸送需要の多い路線が対象となっており、新線建設の場合は既存路線の収益を充当することが可能であることから、現在まで問題が生じていない。
 しかし、50年代以降、事業の採算性等を考慮して民間鉄道事業者が積極的には参入しない路線について、地域住民の交通利便の向上や沿線地域の発展のため、地方公共団体が出資して設立した第3セクターなど既存路線を持たない会社(以下「第3セクター等」という。)が鉄道事業者となって譲渡を受ける事例が見受けられ、平成12年6月までに7線が譲渡されている。そして、近年、これらの鉄道事業者の中で経営が破綻したり、公団に対する譲渡代金の償還ができず公団から償還条件の変更を受けたりするなどの事態が発生している。
 また、公団では、現在第3セクターが鉄道事業者となっている4線の新線建設を行っており、その完成後は当該鉄道事業者に譲渡し、その譲渡代金の償還を受けることとなる。

(検査の対象)

 本院としては、上記の状況を踏まえ、次のとおり検査を実施した。
〔1〕 第3セクター等が鉄道事業者となって譲渡を受けた北総線(1)ほか6線(注) (6鉄道事業者)に係る建設費の増こう及び建設期間の延伸の状況、鉄道事業者の経営状況及び譲渡代金の償還状況等について
〔2〕 公団から譲渡を受けた鉄道事業者の経営の破綻や公団に対する償還条件の変更に係る公団の財務処理の状況及び国の財政負担について

北総線(1)ほか6線 北総線(1)、北総線(2)(北総開発鉄道株式会社)、北神線(北神急行電鉄株式会社)、千葉急行線(千葉急行電鉄株式会社)、東葉高速線(東葉高速鉄道株式会社)、片福連絡線(関西高速鉄道株式会社)及び東西線(京都高速鉄道株式会社)

3 検査の状況

(1) 各線の概況

 第3セクター等が譲渡を受けた7線(6鉄道事業者、延長計68.5km、譲渡価格の合計8598億円)について検査したところ、鉄道事業者の経営が破綻したもの1線(1鉄道事業者)、公団から償還条件の変更を受けたもの3線(2鉄道事業者)及び公団から償還条件の変更を受けるには至っていないが出資者等から経営支援を受けているもの1線(1鉄道事業者)が見受けられた。これら各線及び鉄道事業者の概要は次表のとおりとなっている。

線名 区間 鉄道事業者
ア 鉄道事業者の経営が破綻したもの(1線)
千葉急行線 千葉中央・ちはら台(11.1km) 千葉急行電鉄株式会社
(京成電鉄株式会社、千葉市、千葉県、都市基盤整備公団等が出資)
イ 公団から償還条件の変更を受けたもの(3線)
東葉高速線 西船橋・東葉勝田台(16.1km) 東葉高速鉄道株式会社
(千葉県、船橋市、八千代市、帝都高速度交通営団、京成電鉄株式会社等が出資)
北総線(1)及び北総線(2) 北初富・小室(1期、7.9km)、京成高砂・新鎌ケ谷(2期、11.7km) 北総開発鉄道株式会社
(京成電鉄株式会社、千葉県、都市基盤整備公団等が出資)
ウ 公団から償還条件の変更を受けるには至っていないが出資者等から経営支援を受けているもの
(1線)
北神線 谷上・新神戸(7.9km) 北神急行電鉄株式会社
(地方公共団体は出資していない)

 また、上記各線の開業時期、建設費等に係る計画及び実績については、次表のとおりとなっている。

  計画 実績(対計画比)
千葉急行線 開業時期 58年4月全線開業 7年4月全線開業
(単線、12年遅れ)
建設費 334億円(複線) 399億円(単線、複線化対応の線路用地等(未譲渡)を含む)
譲渡価格 320億円
東葉高速線 開業時期 5年4月全線開業 8年4月全線開業(3年遅れ)
建設費 1760億円 1988億円(112%)
譲渡価格 2290億円 2948億円(128%)
北総線(1)及び北総線(2) 開業時期 50年5月(1)
63年3月(2)
54年3月(1)(4年遅れ)
3年3月(2)(3年遅れ)
建設費 131億円(1)、579億円(2)
合計710億円
180億円(1)、916億円(2)
合計1096億円(154%)
譲渡価格 157億円(1)、1140億円(2)
合計1298億円
北神線 開業時期 62年4月 63年4月(1年遅れ)
建設費 480億円 513億円(106%)
譲渡価格 582億円 663億円(113%)

 そして、開業後の輸送需要及び沿線開発に係る計画及び実績については、次表のとおりとなっている。

  計画 実績(対計画比)
千葉急行線 輸送需要 111,436人/日(全線開業時) 12,138人/日(10年度、10%)
沿線開発 (千葉市原ニュータウンの事業計画)
3万6590戸
13万1650人
(10年度末)
1万3222戸(36%)
3万9392人(29%)
東葉高速線 輸送需要 5281万人/年(8年度)
5668万人/年(11年度)
2522万人/年(8年度、47%)
3748万人/年(11年度、66%)
沿線開発 (都市基盤整備公団施行の土地区画整理事業2地区の合計)
5100戸
1万9200人
(11年度末)
2549戸(49%)
6817人(35%)
北総線(1)及び北総線(2) 輸送需要 5139万人/年(全線開業時)
1億0631万人/年(開業21年目)
1655万人/年(3年度、32%)
3019万人/年(11年度、28%)
沿線開発 (千葉ニュータウンの事業計画)
5万0220戸
19万4000人
(11年度末)
2万4756戸(49%)
7万7556人(39%)
北神線 輸送需要 1111万人/年(63年度)
2524万人/年(11年度)
488万人/年(63年度、43%)
945万人/年(11年度、37%)
沿線開発
(沿線の開発計画)
6万9020戸
(11年度末)
4万6942戸(68%)

(譲渡代金の償還等の状況)

 上記5線(4鉄道事業者)に係る建設費の増こう及び建設期間の延伸の要因、開業後の鉄道事業者の経営、譲渡代金の償還等の状況は以下のとおりとなっている。

ア 鉄道事業者の経営が破綻したもの(1線)

<千葉急行線(千葉急行電鉄株式会社)>

 千葉急行線は、用地買収の難航、沿線の千葉市原ニュータウン建設工事の遅れにより工事期間が延伸され、また、ニュータウン開発が遅れたことから当初単線で開業させ、沿線の人口増加による輸送需要の増加に応じて順次複線化するよう工事計画が変更された。このため、計画における全線開業時期から12年遅れて7年4月に全線が単線で開業(4年4月に一部区間開業)した。
 そして、開業後は、千葉市原ニュータウンの入居が10年度末において計画戸数及び人口のそれぞれ36%及び29%と低迷しているほか、競合する東日本旅客鉄道株式会社外房線と比較して運賃水準が高いことや都心への直通列車がないことなどから、乗客数は10年度の実績で計画に比べて10%と低迷していた。このため、千葉急行電鉄株式会社(以下「千葉急行電鉄」という。)の累積損失額は106億円(9年度末)に達し債務超過の状態にあった。そして、民間金融機関等からの新規借入金による資金調達が不可能となり、9年度下期分から公団に対する譲渡代金の償還が延滞した。このような事態を打開するため、主な株主に対し支援を要請したが合意に至らず、10年10月には経営が破綻し、所有していた資産を譲渡代金債務の代物弁済として公団に引き渡して解散した。
 なお、千葉急行線の営業は京成電鉄株式会社(以下「京成電鉄」という。)に引き継がれている。

イ 公団から償還条件の変更を受けたもの(3線(2鉄道事業者))

(ア) 東葉高速線(東葉高速鉄道株式会社)

 東葉高速線は、地元協議が整わなかったこと及び一部地権者の用地買収が鉄道施設の完成間近になっても難航していたことにより、計画における全線開業時期より3年遅れて8年4月に開業した。
 また、地価の高騰や建設期間の長期化に伴う建設機械及び仮設材の損料の増加などにより建設費が計画に比べて12%増こうし、建設期間の長期化に伴って建設利息の額も増加したため、譲渡価格は計画に比べて28%増こうして2948億円となった。
 そして、開業後は、沿線開発や駅前広場の整備の遅れに伴うバス路線の整備の遅れ、割高な運賃設定、利便性に欠けるダイヤなどの理由から、乗客数は開業初年度の8年度で計画の47%となっていた。このため、開業当初から公団に対して25年元利均等による償還ができず、8年12月に償還条件の変更を含めた支援策(1次支援策)が策定されたが、これによっても事態の改善がみられないことから、11年3月には2次支援策が策定された。
 このうち、公団に対する償還条件の変更の内容は以下のとおりとなっている。
 すなわち、1次支援策では、償還期間を25年間から30年間に延長するとともに元本の償還を8年度下期から13年度下期まで5.5年間猶予することとした。また、2次支援策では、1次支援策において30年間に延長した償還期間を73年度までの66年間に再度延長し、元本については1次支援策の措置を継続することとし、利子については、10、11両年度分の全額及び12年度から20年度までの利率の1%相当分の支払を猶予してこれを元本化し、支払を繰り延べることとした。そして、上記の措置により元本化した利子から新たに発生する利子の一部については、国が3分の1、沿線の地方公共団体が3分の2の割合で利子補給金を交付することとなり、11年度に行った試算によれば、利子補給金の総額は合計272億円に上ることとなる。
 また、1次支援策及び2次支援策を通じて、出資者である沿線の地方公共団体及び帝都高速度交通営団が28年度までに総額520億円(うち80億円は無利子貸付を償還時に出資へ振り替えるもの)を順次追加出資して経営を支援していくこととなっている。
 なお、10年度からは営業利益を計上しているものの、11年度の乗客数は計画の66%となっており、累積ベースの資金不足解消は2次支援策の策定時の試算では開業後69年目となっているなど、今後も厳しい経営が継続すると考えられる。

(イ) 北総線(1)及び北総線(2)(北総開発鉄道株式会社)

 北総線は、地元協議や用地買収の難航などにより、1期線が計画より4年遅れて昭和54年3月に、2期線が3年遅れて平成3年3月に開業した。
 また、計画になかった地元の要請による駅の新設や物価の高騰等により、建設費は計画に比べて54%増こうし、譲渡価格は1期線、2期線を併せて1298億円となった。
 そして、沿線の千葉ニュータウンは、当初の事業計画に比べて大幅に縮小されており、11年度末現在の入居実績は現行の計画戸数及び人口のそれぞれ49%及び39%と低迷しており、乗客数は11年度実績で計画の28%にとどまっている。
 このため、同社では毎年度経常損失を計上しており、1期線、2期線とも公団に対する償還期間の延長は行われていないものの、以下のとおり償還条件の変更を受けている。
 すなわち、1期線については、昭和60年度下期から平成2年度下期までの5.5年間の元本及び利子の支払を猶予して、猶予した利子に相当する金額を元本化し(元本化した利子の総額42億円)、2期線についても元本の償還を6年度上期から11年度下期まで6年間猶予して償還を繰り延べる措置が執られている。
 また、出資者である京成電鉄、千葉県及び都市基盤整備公団がこれまでに総額171億円の追加出資を行っているほか、これら3者及び金融機関が資金の貸付け、貸付金の元本及び利子の償還を猶予して経営を支援している。
 なお、同社では5年度からは営業利益を計上しているものの、12年度以降は償還を猶予されていた2期線分の元本償還が始まることにより11年度に比較して償還額が年額約41億円増加するため、今後も厳しい経営状況が継続すると考えられる。

ウ 公団から償還条件の変更を受けるには至っていないが出資者等から経営支援を受けているもの(1線(1鉄道事業者))

<北神線(北神急行電鉄株式会社)>

 北神線は、地元協議及び用地買収が難航したことにより、計画から1年遅れて昭和63年4月に開業した。
 また、地価高騰や設備の見直しにより、計画に比べて建設費は6%増こうし、譲渡価格は13%増こうして663億円となった。
 そして、開業後の乗客数は以下の要因などにより平成11年度実績で計画の37%にとどまっている。
〔1〕 沿線のニュータウン開発が11年度末現在で計画の68%と遅れていること
〔2〕 神戸市内へ向かう通勤通学者の利用を見込んでいたが、同線の開業より2年早く新三田まで複線電化された西日本旅客鉄道株式会社福知山線を利用して大阪方面に通勤通学する入居者が予想以上に多かったこと
〔3〕 鉄道と並行する道路が整備されバスとの競合が生じたこと
 このため、同社では毎年度経常損失を計上しており、以下のとおり出資者等からの特別な措置による経営支援を受け、資金不足への対応を図っている。
 すなわち、4年度には出資者から120億円の無利子融資を受けて借入金の返済に充当し、4年度及び6年度には駅施設を出資者に売却して当該施設を無償で借り受けることにより、実質的に債務の一部肩代わりを受けた。また、9年度には、近年の金融市場における低金利状態の下で、出資者から受けた低利融資の資金で公団に対して80億円の繰上償還を実施している。
 そして、11年度以降、兵庫県及び神戸市から交付されることとなった毎年度5億円の補助金を原資として運賃の値下げを行い、乗客数の増加を図っている。

(2) 公団の財務処理の状況及び国の財政負担

 上記5線(4鉄道事業者)のうち、千葉急行線については鉄道事業者の経営が破綻し、東葉高速線及び北総線については鉄道事業者が公団から償還条件の変更を受けており、公団はこれに対し債務の処理、償還を猶予した利子の元本化等を行っている。また、これに伴って国の負担による利子補給金が公団に対し交付されている。これらの概要は以下のとおりとなっている。

ア 千葉急行線に係る債務の処理について

 千葉急行電鉄の清算に伴い、運輸大臣から公団に対し、千葉急行線に係る公団工事を中止する旨の指示があり、公団は、千葉急行電鉄から代物弁済として受け取った鉄道施設等の資産のほか、将来の複線化のために公団が所有していた線路用地等を処分する必要が生じた。
 このため、公団では、千葉急行線の単線営業に必要な資産については、10年度に京成電鉄に鑑定評価額の300億円で譲渡し、残余の資産については11年度に京成電鉄及び沿線の地方公共団体(千葉県、千葉市及び市原市)に鑑定評価額の200億円で譲渡した。
 一方、千葉急行線の建設に係る10年4月1日現在の公団債等の調達資金の残高は579億円であったが、9、10両年度の千葉急行電鉄に対する未収金及び10、11両年度に発生した利子等の費用が加わって計647億円となり、この金額から上記の売却代金計500億円を差し引いた147億円が11年度末現在の残高となっている。
 そして、公団では、この残高147億円の償還については、国の負担により交付を受けることとなった利子補給金(交付見込額40億円)、公団の自己財源等により行うこととし、11年度に行った試算では、35年度までの25年間で償還することとなる。
 また、公団では、前記の資産売却に伴い11年度決算において147億円の特別損失(固定資産売却損)を計上している。

イ 東葉高速線及び北総線に係る償還条件の変更による影響について

 公団では、東葉高速線及び北総線で償還を猶予して元本化した利子については、長期債権という科目を設けて通常の元本債権と区別して管理しており、11年度末現在の残高は293億円(東葉高速線分277億円及び北総線分16億円)となっている。
 東葉高速線の長期債権については、今後引き続き20年度まで利率の1%相当分の支払を猶予してこれを元本化することとなっており、その総額は、11年度に行った試算では568億円に上ることとなる。
 そして、元本化する568億円から新たに発生する利子の一部については、前記のとおり国及び沿線の地方公共団体が利子補給金を交付することとなり、その交付見込額272億円のうち90億円については国が負担することとなっている。
 なお、北総線の長期債権については、3年度以降は15年度までの予定で1期線の元本と併せて順次償還されている。

4 本院の所見

 第3セクター等に譲渡した7線(6鉄道事業者)のうち、5線(4鉄道事業者)については、建設費が増こうして計画時の見積を上回り、建設期間は計画に比べて延伸されている一方、輸送需要は予測値を下回っており、鉄道事業者は経営不振により資金不足の状態になっている。
 そして、その経営支援等のため、出資者である地方公共団体等のほか、国及び公団においても、計画時には予期しなかった負担を生ずる結果となっている。
 したがって、民鉄線制度の適用を希望する者においては、その経営の安定及び公団への譲渡代金の円滑な償還を図るため、次のような方策について検討することが重要である。
〔1〕 建設費の見積及び輸送需要予測の精度の向上を図る
〔2〕 建設費が増こうしたり輸送需要予測の前提条件が大きく変化したりなどした場合には、地方公共団体等の出資者に対して追加出資を要請するなどして償還を要する資金の増加を抑制する
〔3〕 開業後に、経営が悪化した場合には、経営支援が適切に行われるよう関係者間であらかじめ協議を行う
 そして、鉄道事業の許可を行っている運輸省においては、上記方策の重要性にかんがみ、今後更に第3セクター等に対し適切な指導を行う要がある。
 本院としては、第3セクター等が譲渡を受けたものに係る鉄道事業者の経営状況、公団に対する譲渡代金の償還状況等について引き続き注視していくこととする。また、公団では、現在第3セクターが鉄道事業者となっている新線の建設を行っており、その完成後は当該鉄道事業者に譲渡し、その譲渡代金の償還を受けることとなることから、今後も、工事計画に定められた建設費及び建設期間に照らして適切に工事が実施されているかについて注視していくこととする。