ページトップ
  • 国会からの検査要請事項に関する報告(検査要請)|
  • 会計検査院法第30条の3の規定に基づく報告書|
  • 平成12年11月

「政府開発援助に関する決議」の実施状況に関する会計検査の結果について


(1)国会決議と検査の内容

ア 国会決議

 この項目に関する参議院行政監視委員会の決議は次のとおりである。

 援助を効果的、効率的かつ重点的に行うとともに、統一的な運用を確保するため、他の援助国及び国際機関の計画も勘案しつつ、外務省がイニシアティブをとって、被援助国の実情に即した国別援助計画を作成すること。その際、民間企業、NGOなど現地の事情に精通している人材を活用するとともに、現地住民の声を計画に十分反映させること。
 なお、軍事支出の多い国に対するODAは、軍事費の肩代わりにならないようにすること。

イ 検査の内容

 政府では、被援助国ごとの援助の基本方針や重点分野を示すものとして、従来から「国別援助方針」を作成している。そこで、本院では、この国別援助方針と新たに作成される「国別援助計画」をそれぞれの作成経緯、作成方法等の面から比較することとした。その際、国別援助計画の作成については、国会決議において、他の援助国及び国際機関の計画を勘案することや人材の活用等が求められているので、外務本省や在外公館における取組状況も検査した。
 また、作成された国別援助計画が国会決議等の要請を踏まえたものとなっているかについて、銀行及び事業団における各種計画の作成状況も検討しつつ分析を行った。

(2)国別援助方針と国別援助計画

ア 国別援助方針

(作成の経緯)

 国別援助方針(以下「援助方針」という。)については、昭和63年度から平成4年度までの期間における経済運営の指針とされた「世界とともに生きる日本−経済運営5カ年計画」(昭和63年5月閣議決定)において、途上国の多様な援助の需要に対応するとともに、その援助需要を国ごとの経済発展の実情に応じ適切に取り上げる仕組みを充実するなどのため、相手国の実情及び我が国との二国間関係を十分勘案して、援助の方針を明確に定めることとされている。
また、総務庁が昭和62年度及び63年度に実施した経済協力に関する行政監察(第1次及び第2次)において、被援助国との十分な政策対話等に基づいて政府全体としての整合性のとれた国別の方針を作成すべきことが勧告されたほか、臨時行政改革推進審議会も、平成3年7月、「国際化対応・国民生活重視の行政改革に関する第1次答申」において、援助研究と被援助国との十分な対話に基づいて政府全体としての援助の方針を早期に策定すべきことを政府に求めている。

(作成の状況)

 政府は、上記の閣議決定等を踏まえ6年6月に閣議報告された「我が国の政府開発援助の実施状況に関する年次報告」(以下「年次報告」という。)において、我が国の主要な援助対象国10箇国(インドネシア、タイ、中国、フィリピン、マレイシア、インド、パキスタン、エジプト、ケニア、ブラジル)について援助方針を取りまとめ公表している。そして、10年9月に閣議報告された年次報告においては24箇国について援助方針が作成、公表されており、これを地域別に区分して示すと次表のとおりである。

地域 国数 国名
東アジア 8 インドネシア、ヴィエトナム、タイ、中国、フィリピン マレイシア、モンゴル、ラオス
南西アジア 5 インド、スリ・ランカ、ネパール、パキスタン、バングラデシュ
中近東 2 エジプト、ジョルダン
アフリカ 5 ガーナ、ケニア、ジンバブエ、セネガル、タンザニア
中南米 4 エル・サルヴァドル、ニカラグア、ブラジル、ペルー
24  

(国別援助方針の項目)

 この援助方針は、経済協力総合調査団(注1) (以下「調査団」という。)により被援助国との間で協議された中・長期的な援助の方針を踏まえて、外務省及び経済企画庁がODA関係省庁と協議のうえ取りまとめたものであり、その項目を示すと次のとおりである。

1.基本方針
(1)我が国の援助対象国としての位置付け
(2)我が国の援助の重点分野
(3)留意点
(4)ODA大綱の運用状況<注>
2.援助対象国経済の現状と課題
(1)主要経済指標
(2)現状
(3)課題
3.開発計画
4.援助実績
(1)我が国の実績
(2)DAC諸国からの実績
(3)国際機関のODA実績
<注>
 この項目は、中国、インド、スリ・ランカ、パキスタン、ケニア及びペルーに対する国別援助方針において記載されている。


経済協力総合調査団 外務省が中心となりその他のODA関係省庁や銀行、事業団等の援助実施機関も参加した政府全体としての政策対話のための調査団。被援助国の関係閣僚などとの対話を通じ、援助実施上の問題点を整理し改善を図ること、及び被援助国の経済・社会開発計画と我が国の援助の方針との調整を行いつつ、援助の重点分野を含む中長期の援助の方針について被援助国と協議し合意を得ることをその主な目的としており、62年度以降派遣されている。

イ 国別援助計画

(ア)作成の経緯

(各種答申等)

 ODAを巡る内外の状況の変化に対応して、近年、各種審議会等において重要な提言が相次いでなされた。
外務大臣の懇談会である「21世紀に向けたODA改革懇談会」(以下、「改革懇談会」という。)は、10年1月、最終報告書を発表し、その中で、政府において、ODAの一層の効率的・効果的実施に全力を挙げて取り組むよう主張し、現地のニーズを的確に反映した成果重視型の国別援助計画(以下「援助計画」という。)の策定を目指すべきとしている。
また、対外経済協力審議会は、10年6月、その答申「今後の経済協力の推進方策について」において、援助方針を発展・充実させ、より具体的な援助計画の作成を進めるべきであるとしている。

(政府における検討)

 政府においても、上記の答申等を踏まえ、国民の支持と理解を得るため、ODAの実情を国民の前に明らかにし、その透明性を高めるとともに、被援助国の実情・ニーズに即した弾力的・機動的な対応を行い、援助の効率性を高めていく必要があるとして、10年11月、対外経済協力関係閣僚会議幹事会において、ODAの透明性・効率性の向上についての申合せ(以下「幹事会申合せ」という。)を行った。
この幹事会申合せにおいては、ODAの透明性の向上のため、〔1〕5年程度の期間を念頭に置いたODAの基本的方向性、重点分野・課題等を明確にする「政府開発援助に関する中期政策」(以下「中期政策」という。)の作成、〔2〕被援助国に対する援助の重点課題・分野等を明確化し、案件選定に際しての指針となる援助計画の作成等の措置を講じることとされた。また、ODAの効率性の向上のため、中期政策や援助計画に即して重点課題・分野、地域に対して重点的に援助を実施するなどして効率的・効果的な援助を実現することとされた。
一方、援助方針は、前記のとおり、調査団と被援助国との間の協議結果を踏まえて取りまとめられるものであり、外務省によれば、援助の重点分野等ODAを実施する上で指針とされるべき部分はその後の状況変化に必ずしも対応できるものとはなっておらず、また、調査団の派遣前にその対処方針として関係省庁により作成されたものを基礎としていることから、ある程度抽象的なものとならざるを得ず、実際にODAを実施するための具体的な方針としての性格は希薄であったとしている。
これらの認識を踏まえ、幹事会申合せにおいては、援助計画について、5年程度の期間を念頭に置き、相手国の経済社会状況に応じた現地のニーズや優先順位を的確に反映した上で、他の援助国・援助機関との協調・連携や民間セクターとの連携も視野に入れながら、当該国の経済社会状況に関する認識、援助の重点課題・分野、活用すべき援助手法等を明確にし、案件選定に当たっての指針となるものとするとされた。
また、「我が国の政府開発援助 ODA白書(1999年版)」においても、「従来の援助の投入量重視型から成果重視型に考え方を転換しつつ、多様な援助形態を駆使して援助を効果的・効率的なものとしていくこと、その手法として、在外公館や実施機関の現地事務所など現場の知見や経験をこれまで以上に尊重・活用し、・・(中略)・・援助方針を一歩進め、重点的に取り組むべき分野・事項における達成目標を確認し、この目標達成のために必要な様々な形態の援助を有効に組み合わせた中期的な援助計画の策定作業が進められている」とされている。

(イ)作成の状況

 外務省では、11年度からの5年間で主要援助対象国について、援助方針に代えて援助計画を作成し公表していくこととしている。そして、具体的な作成対象国については、主要援助対象国について援助方針を作成していたことを踏まえつつ、援助実績、大使館の体制及び地域バランスなどを考慮して選定しており、それを地域別、年度別に区分して示すと次表のとおりである。

年度

地域
11 12(予定)
東アジア ヴィエトナム、タイ、フィリピン インドネシア、カンボディア、中国、マレイシア
南西アジア バングラデシュ  
中央アジア、コーカサス   カザフスタン
中近東 エジプト チュニジア
アフリカ ガーナ、ケニア、タンザニア ザンビア
中南米 ペルー ニカラグア
9箇国 8箇国

 このうち、11年度に援助計画を作成するとされていた9箇国については、タイ及びバングラデシュが12年3月に、ヴィエトナム、エジプト、ガーナ及びタンザニアが同年6月に、フィリピン、ケニア及びペルーが同年8月にそれぞれ作成、公表された。
また、12年度において作成する予定となっているカンボディア、カザフスタン及びザンビアは、援助方針は作成されていないが、近年、これらの国に対する我が国の援助が拡大傾向にあるほか、国際的な援助協調が活発化しつつあることから作成することとしたものであり、他方、インド及びパキスタンについては、新規の資金協力が原則として中断されているため、主要援助対象国であるものの、11、12両年度における作成は見送っている。

(ウ)国別援助計画の項目

 作成された援助計画の項目を示すと次のとおりである。

1 最近の政治・経済・社会情勢
(1)政治情勢
(2)経済情勢
(3)社会情勢<注1>
(4)治安状況<注2>
2 開発上の課題
(1)援助対象国の開発計画
(2)開発上の主要課題
(3)主要国際機関との関係、他の援助国、NGOの取組み<注3>
3 我が国の援助政策
(1)援助の意義
(2)ODA大綱原則との関係
(3)我が国援助の目指すべき方向性
(4)重点分野・課題別援助方針
(5)援助実施上の留意点
【注釈】
【統計】主要経済指標、主要社会開発指標、我が国ODA実績
<注1>  フィリピンの計画では、「社会情勢等」とされており、「地理的条件と自然災害の多発」についても記述している。
<注2>  ペルーの計画のみの項目である。
<注3>  ヴィエトナム及びペルーの計画では、「主要国際機関との関係、他の援助国の取組み」となっていて、NGOの取組みについては記述がない。また、ケニアの計画では、「NGOの取組み」に関し具体的な記述はない。

 援助計画の項目を援助方針の項目と比較すると、援助方針では援助対象国としての位置付け、重点分野等を記載している「1 基本方針」と「2 援助対象国経済の現状と課題」及び「3 開発計画」との関連が、必ずしも明瞭ではなかったのに対して、援助計画では援助対象国の政治、経済、社会情勢等及び開発上の課題についての分析を踏まえた上で、我が国の援助政策のあり方を援助対象国に対する援助の意義、ODA大綱等と関連付けて記述している。
また、援助方針の「4 援助実績」において、金額及びその順位のみが記述されていた国際機関や他の援助国の動向を、援助計画では、「2 開発上の課題」において「(3)主要国際機関との関係、他の援助国、NGOの取組み」という項目を設けて重点分野等を記述している。

(エ)国別援助計画の作成過程

 援助計画の作成過程は、おおむね次のとおりとなっている。

〔1〕 外務本省の指示により、在外公館において、随時行われる被援助国との政策対話や銀行・事業団の現地事務所等の現場の知見を活用し、また、他の援助国やNGOとの協議の結果等も考慮して、援助計画(案)を作成する。
〔2〕 外務本省は、銀行・事業団の意見も踏まえながら〔1〕の案を基に経済企画庁と協議を行い、外務省及び経済企画庁としての援助計画(案)を作成する。
〔3〕 外務本省は、〔2〕の案について、ODA関係省庁と協議を行うとともに、在外公館を通じて相手国政府の意見を聴取する。また、民間企業、NGOの意見も併せ聴取する。
〔4〕 外務本省は、〔3〕の協議及び意見聴取の結果を踏まえ、政府開発援助関係省庁連絡協議会における意見交換を経た援助計画を公表する。

 援助計画と援助方針についてその作成過程を比較すると、援助方針は前記のようにODA関係省庁が調査団の対処方針として作成したものを基礎として作成されているのに対し、援助計画は、被援助国との政策対話を随時行っている在外公館がその案を作成することとしたり、公表までの過程において民間企業やNGOの意見を聴取したりすることとしている。また、援助方針は調査団の対処方針を基礎としていることから、その大幅な見直しには被援助国との協議のために調査団の派遣が必要となるのに対し、援助計画の見直しについては、調査団の派遣とはかかわりなく行うことになっている。
なお、幹事会申合せによれば、援助計画の見直しは毎年行うことになっているが、12年9月現在、その手順については決まっていない。

(3)国別援助計画作成に際しての外務省の取組状況

 国会決議においては、〔1〕他の援助国及び国際機関の計画を勘案すること、〔2〕外務省がイニシアティブをとること、〔3〕被援助国の実情に即した援助計画を作成すること、〔4〕現地の実情に精通している人材を活用すること、〔5〕現地住民の声を援助計画に十分反映させることが求められている。
外務省では、〔2〕及び〔3〕については、被援助国との政策対話を随時行い、現地の事情に精通した在外公館が援助計画(案)を作成することにより、国会決議の要請に応えるようにしており、また、〔5〕については、在外公館において直接現地住民の意見を聴取することは、対象者の選定基準をどのように定めるかなど困難な点が多いとしている。
そこで、本院では、〔1〕及び〔4〕に関する外務省の取組状況を、外務本省及び本院が本年検査を実施した在外公館(在エジプト大使館及び在ガーナ大使館)において検査した。その結果は次のとおりである。

ア 外務本省の取組状況

 外務本省では、他の援助国及び国際機関の計画については、次項イのように在外公館が援助計画(案)を作成する段階で十分勘案しているとしている。
そして、外務本省では、現地の実情に精通している人材の活用に関し、11年度に作成するとしていた9箇国の援助計画について、社団法人経済団体連合会国際本部及びODAに関心を有する傘下の企業との間で意見を交換している。この意見交換は経済基盤の整備や貿易、投資関係の環境整備、資源開発等に関するもので、タイ及びバングラデシュについては11年12月に、他の7箇国については12年2月に、いずれも同連合会本部において行われている。
また、11年12月から12年5月までの間、三度にわたり、ヴィエトナム、タイ、バングラデシュ、エジプト、ガーナ、ケニア及びタンザニアの援助計画について現地で活動する我が国NGOとの間で意見を交換したほか、フィリピンについては現地で活動するNGOから文書により意見を聴取している。
なお、ペルーについてはNGO側の関心が低く意見交換を辞退したいとの連絡があったとしている。

イ 在外公館の取組状況

 在外公館の取組状況について、本院が在外公館の担当者から説明を聴取した内容は次のとおりである。

(ア)在エジプト大使館

(他の援助国等の計画の勘案)

 在エジプト大使館では、同国に対する援助国会合等の機会をとらえて、随時他の援助国等の状況を把握するように努めており、援助計画ではこの結果を踏まえ、「主要国際機関との関係、他の援助国、NGOの取組み」において、近年、経済・社会インフラ整備分野の援助の減少が顕著であること、アメリカ合衆国のエジプト援助が削減される方向にあることを記述している。
また、「重点分野・課題別援助方針」においても、他の援助国等の動向を踏まえて記述しており、例えば、「貧困対策」分野における「農業生産の拡大」については、アメリカ合衆国、世界銀行による灌漑改善支援、ドイツ、フランスによる基幹施設整備、アメリカ合衆国による農業生産性向上支援、カナダの土壌改善支援等の取組みを踏まえ、我が国として、「農業・農村開発、農業生産技術の向上、農産物加工・流通の改善」の分野において支援を検討するとしている。

(人材の活用)

 在エジプト大使館では、草の根無償資金協力の実施を通じて関係を培ってきたNGOから寄せられる情報などにより、援助計画において「NGOの動向」を記述している。また、「重点分野・課題別援助方針」における「環境の保全、生活環境の向上」分野において、「安全な飲料水の安定供給などを含む生活環境の向上及び環境の保全を目指した包括的な支援を検討していく」と記述しているが、これは、同国で活動するNGOとの意見交換の結果を踏まえたものである。

(イ)在ガーナ大使館

(他の援助国等の計画の勘案)

 在ガーナ大使館においても、同国に対する援助国会合等の機会をとらえて、他の援助国等の状況を把握している。同国に対する援助国会合は、開発政策全体に関わるもののほか、保健、教育、道路、農業などの分野別のものも頻繁に開催されているが、在ガーナ大使館では、これらの会合により入手した情報を踏まえ、援助計画における「主要国際機関との関係、他の援助国、NGOの取組み」を記述している。

(人材の活用)

 在ガーナ大使館においても、在エジプト大使館と同様、草の根無償資金協力の実施を通じて関係を培ったNGOとの間で頻繁に意見交換を行っている。
また、援助計画の作成に当たっては、現地で活動している事業団の専門家や青年海外協力隊員からの意見を参考にすることもあり、援助計画における「社会情勢」において、「地方と都市との均整のとれた開発による地域格差の是正が課題」としているのは、上記NGOとの意見交換及び青年海外協力隊員からの情報を踏まえたものである。

(4)国別援助計画の内容の分析等

ア 分析の視点−援助計画作成の目的

 援助計画を作成する目的は、援助を効率的・効果的に実施すること及び援助の透明性を高めることにあると考えられる。そして、「イ(ア)作成の経緯」において記述した各種答申等、幹事会申合せ及びODA白書等においては、援助計画は、成果重視型で(改革懇談会最終報告書)、より具体的な(対外経済協力審議会答申)、援助の重点課題・分野等を明確化し、案件選定に際しての指針となるものであること(幹事会申合せ)、あるいは、重点的に取り組むべき分野・事項における達成目標を確認し、この目標達成のために必要な様々な形態の援助を有効に組み合わせた中期的な計画であること(ODA白書)を目指すべきものとされている。
そこで、本院では、公表された援助計画が上記の目的に即したものになっているか、また、各種答申等により目指すべきとされたものになっているかについて分析した。
これをバングラデシュの援助計画を例に述べると以下のとおりである。

イ 重点分野の比較

 上記のとおり、援助計画は案件選定の指針となるものであること、重点分野における達成目標を確認し、目標達成のための手段を明らかにするものであることが求められていることから、援助計画における「重点分野・課題別援助方針」と援助方針における「我が国の援助の重点分野」を比較することが有用であると考えられる。
次の表は、援助計画と援助方針の重点分野を対応させて比較したものである(表中、実線のアンダーラインを付した部分は達成目標(二重の実線のアンダーラインを付した部分は援助計画において新たに設けられた達成目標)、点線のアンダーラインを付した部分は各重点分野における目標を達成するための手段、また、波線のアンダーラインを付した部分は援助の対象を詳細に記述したり絞り込んで記述したりしたものを示す)。

国会決議と検査の内容の図1

国会決議と検査の内容の図2

 

国会決議と検査の内容の図3

国会決議と検査の内容の図4

(ア)重点分野における達成目標−援助の対象の明確化

 各重点分野における達成目標については、一部において経済協力開発機構(OECD)の開発援助委員会(Development Assistance Committee。DAC)の新開発戦略(注2) を引用し、その目標達成に向けて支援するとあるほかは、特に具体的な数値目標を掲げていない。これについて外務省では、目標の達成は被援助国自身の自助努力に大きく拠るものであること、被援助国に対する援助は我が国のみが行っているものではないことから、具体的な数値目標は援助計画になじまないとしている。そして、達成目標を明らかにしていくことは、具体的な数値目標を設定することによらなくても、援助の対象をより細分化したり、明瞭に記述したりするなどして明確化していくことにより可能となるとしている。
そこで、援助計画において援助の対象が明確化されているかを検討してみると、次のようなことから、援助方針と比較して援助の対象はより明確になったと考えられる。

〔1〕 新規の目標を掲げていること

 「農業・農村開発と農業生産性向上」分野において「農村における生産活動の活性化と所得の向上、ひいては農業経済全体の成長を目指す」としている。

〔2〕 援助の対象分野が細分化されたり、記述が詳細になったりしていること

 「社会分野の改善」分野において、保健・医療、教育及び水問題に細分化して、援助の対象を詳細に記述している。

〔3〕 援助の対象をより絞り込んでいること

 「投資促進・輸出振興のための基盤整備」分野において、「経済インフラの整備(電力、運輸、通信等)」が不可欠とした上で、一定地域(ダッカ〜チッタゴン等)及び特定産業セクターヘの重点的支援の必要性に言及したり、援助方針の「投資環境整備・投資促進の諸政策」支援を、「制度金融機関の育成」に絞り込んだりしている。

新開発戦略 DAC上級会合において、平成8(1996)年5月に採択された「21世紀に向けて:開発協力を通じた貢献」の通称で、「すべての人々の生活の質の向上」を最も重要な目標とし、〔1〕貧困削減や社会的開発・環境の持続可能性の改善と再生(「社会開発と環境改善」)、〔2〕中長期的な視点からの途上国のグローバリゼーションヘの参画を通じた「経済成長」の促進、〔3〕「社会開発と環境改善」、「経済成長」を支える適切な「政府の役割」の構築を重視した開発ビジョンを示したもの。貧困問題、教育、保健医療、環境問題の4分野において、2005年ないし2015年までに達成を目指す目標を掲げている。例えば、貧困問題については、2015年までに貧困人口の割合を半減させるという目標を掲げている。

(イ)目標を達成するための手段

 援助計画における各重点分野の目標を達成するための手段については、次のように整理することができる。

〔1〕 目標を達成するための手段について言及しているもの

 「農業・農村開発と農業生産性向上」分野においては、「食糧自給率の改善」を図るとともに「農村における貧困層の雇用創出・所得向上」を目指すために、「インフラ整備、農業技術の普及、農業研究等による農業生産性向上と耕地の保全」が必要であるとした。また、「貧困層の生活改善」のために「マイクロ・クレジットを活用」し、「経済・社会インフラ整備」の支援に際し「我が国や現地のNGOとの連携により、住民の社会開発への参加を促すこと」とした。
「社会分野の改善」分野においては、保健医療に関して「医療施設の整備、医薬品等機材の供与、保健衛生分野の人材育成」に取り組むとした。
「投資促進・輸出振興のための基盤整備」分野においては、「制度金融機関の育成」に関して「長期継続的な専門家派遣と資金協力を連携」させるとした。
「災害対策」分野においては、「サイクロン対策」に関して「多目的サイクロン・シェルターの建設、気象観測や早期警戒システム等について協力を実施しており、これらの成果を踏まえて情報通信網の一層の利活用」を図るとした。

〔2〕 目標を達成するための手段について言及していないもの

 「農業・農村開発と農業生産性向上」分野において、「農村における生産活動の活性化と所得の向上、ひいては農業経済全体の成長を目指す」とされているものの、特にその手段について言及していない。
「社会分野の改善」分野においては、教育に関し「教育行政、カリキュラム開発・教員養成における質の向上」を目指すとされているものの、その手段については言及していない。また、「水問題」に関しては、「安全な水の供給」を中心に取り組むとされているものの、そのための手段については、地下水への砒素流出問題に関し、国際機関等と連携するとされているほかは特に言及していない。
「投資促進・輸出振興のための基盤整備」分野の「経済インフラの整備」の手段については特に言及していない。

(ウ)案件選定の指針

 案件選定の指針となるものかどうかという視点から見ると、援助計画の記述が援助方針と比較して詳細になっていたり、絞り込まれたりしている部分については、案件選定の指針としての性格が増したと考えられる。例えば「初等教育」についてみると、援助方針では「女子教育等に関するDAC新開発戦略の目標達成に向け支援する」とのみ記述されていたものが、援助計画では、「理数科教育の拡充を重視し、教育行政、カリキュラム開発・教員養成における質の向上を目指す」とされ、これらに資する案件を選定することが求められていると認められる。
他方、援助計画では「農業・農村開発と農業生産性向上」分野において、「農村における生産活動の活性化と所得の向上、ひいては農業経済全体の成長を目指す」と新たに目標が定められているが、その内容が個別具体的でないため、具体的に何を支援すればいいかが判断しづらいものとなっている。そのため、案件選定の指針としての性格にはまだ不十分な面もある。

ウ 銀行及び事業団の取組み

 バングラデシュの援助計画を見ると、上記のとおり、援助の対象が明確となったことを評価できる一方、目標を達成するための手段については、必ずしも具体的な記述が見受けられなかったり、また、分野によっては案件選定の指針としての性格にまだ不十分な面もあったりする。
しかし、目標を達成するための手段については、銀行及び事業団において行われている援助の効率的・効果的実施のための取組みの中で強化されており、援助計画において必ずしも具体的に言及されていないことなどが補完されている。
これに関する銀行及び事業団の取組みについては、次のとおりである。

(ア)銀行の取組み

(海外経済協力業務実施方針)

 銀行では、11年12月、経済企画庁長官の承認を受けた海外経済協力業務実施方針(以下「業務実施方針」という。)を公表している。
この業務実施方針は、国際協力銀行法(平成11年法律第35号)により、海外経済協力業務について、その業務を効果的かつ効率的に実施するために重点を置くべき分野及び地域その他の事項について定めることとされているものであり、その前文によれば、ODA大綱や中期政策をはじめとするODAに関する基本方針・政策を踏まえたものとされている。
業務実施方針の項目を示すと次のとおりである。

1.全体方針
2.分野別方針
3.地域・国別方針
4.業務実施・運営上の重要事項

 そして、「地域・国別方針」においては、東アジア及び大洋州地域等7地域において重視して支援すべき事項、円借款の年次供与国14箇国について、国別に重視して支援すべき事項が定められている。
南西アジア地域及びバングラデシュの方針を示すと次のとおりである。

3.地域・国別方針

2)南西アジア地域

 5億人を超える貧困人口を抱える同地域の貧困問題への対応を重視し、基礎生活分野への支援を図る。また、貿易・金融・資本の自由化、市場経済化が遅れている同地域に対して、環境保全に配慮しつつ、経済改革、海外からの投資促進に資する人材育成、経済・社会インフラ整備、環境保全対策等への支援を重点とする。

〔4〕バングラデシュ
経済発展による貧困緩和・所得分配改善や経常収支改善のため、債務負担能力に留意しつつ投資・輸出振興に資する基礎インフラ整備、食料自給率向上のための農業生産性の向上等に資する農業・農村開発等支援の重点とする。
実施に当たっては、貧困やジェンダーに起因する弱者に配慮し、NGO等とも連携を図りつつ支援を行う。また、計画策定段階での対話や技術協力等との連携を通じて、実施機関の能力向上を支援する。

 これをみると、援助計画の重点分野と一致していることは当然であるとしても、「投資・輸出振興に資する基礎インフラ整備」、「農業・農村開発」を支援していくとされており、援助計画では必ずしも明らかとなっていなかった目標を達成するための手段として、円借款を用いることが明らかとなっている。

(国別業務実施方針)

 また、銀行では、円借款の年次供与国について、3年ごとの中期方針として定められている業務実施方針を踏まえつつ、単年度の支援方針を明らかにした国別業務実施方針を作成している。
この国別業務実施方針は、当該年度における借款候補案件の選定のほか、中長期的な案件の発掘・選定、相手国や他援助国等との政策対話に資するものとするため、被援助国に対する円借款業務の全般的な業務方針、主要重点分野に対する支援方針等をより具体的にしたものである。
しかし、この国別業務実施方針については、被援助国側からの要請案件がすべて記載されていることなどのため、業務実施方針と異なり公表されていない。

(イ)事業団の取組み

(国別アプローチ)

 事業団では、従来から、国別援助研究会(注3) の実施などにより、各国の社会開発、経済開発の現状や政策課題を詳しく調査し、解決すべき問題点を的確に把握した上で、優先すべき援助の重点分野と地域を明確にし、効率的で効果的な協力内容と形態を明らかにしていく「国別アプローチ」を導入している。
そして、改革懇談会や幹事会申合せにおいて、国別アプローチ等のため機構改革を行うよう提言されたことを受け、12年1月、国別・課題別アプローチの強化を目指す業務・組織の改編を行い、地域や国単位の総合調整を所管する地域部を新設している。

国別援助研究会 国別アプローチの一環として昭和61年に設置されたもので、学識経験者の参加を得て、主要被援助国・地域についての分析や現地調査などにより、効率的で効果的な国別援助に関わる調査研究を行っている。毎年3ないし4箇国について提言報告書を作成しており、この報告書は経済協力総合調査団派遣の際、重要な参考資料となっている。

(国別事業実施計画)

 また、事業団では、国別アプローチを強化するため、11年度から、事業団の在外事務所が所在する国について国別事業実施計画を作成しており、12年度においては49箇国で作成されている。
この国別事業実施計画は、政府レベルの政策対話などを通じて整理された重点分野・課題などを確認して被援助国の開発課題を整理し、これに対する事業団の協力方針を明らかにした上で、目標を達成するために必要な援助の投入計画を体系的に取りまとめたものである。
バングラデシュを例として、国別事業実施計画の項目を示すと次のとおりである。

主要指標一覧
1 バングラデシュ国における開発の方向性
1−1 バングラデシュ国における開発の方向性と援助重点分野
1−2 JICAの協力の基本的な考え方
2 開発課題と事業計画
2−1 開発課題マトリックス
2−2 事業ローリングプラン

 開発課題マトリックスにおいては、援助計画の重点分野ごとに、現状と問題点、その原因、問題解決のための方針・方向性(開発課題)、被援助国側の取組みの進ちょく状況、他の援助国等の協力状況を整理した上で、事業団の協力目的及びこれを達成するための援助手法を記述している。
また、事業ローリングプランにおいては、上記事業団の協力目的及び援助手法に対応して、援助の投入計画を体系的に整理している。そして、この援助の投入計画においては、事業団が実施する技術協力事業のほか、事業団が実施促進を行う無償資金協力事業についても事業団としての計画を整理している。
この国別事業実施計画は、次年度以降の新規案件の要望を先方政府から聴取する際などに、事業団の内部資料という位置付けで活用しているとしている。
しかし、この国別事業実施計画については、被援助国側の要請見込み案件や被援助国側の要請の有無に関わらず我が国として開発課題の解決のために望ましいとする案件等が記載されていることなどから、現時点では公表されていない。

(5)所見

 援助計画を作成する目的は、前記のとおり、援助を効率的・効果的に実施すること及び援助の透明性を高めることにあると考えられる。
援助計画の公表後、半年足らずしか経過していない現時点では、従来と比較して、我が国のODAが効率的・効果的に実施されるようになったかどうかを判断する段階にはないが、これまでに公表された援助計画は、援助方針と比較して援助の対象がより明確になっており、また、銀行及び事業団において業務実施方針や国別事業実施計画等が新たに作成されるなど、ODAの効率的・効果的実施に向けて援助計画に係る一定の取組みが行われていると認められる。
しかし、援助計画については重点分野における援助の対象が新たに記述された部分があるものの、その内容が個別具体的でないため、案件選定の指針としての性格がまだ不十分な面もある。
したがって、外務省においては、今後、中央省庁等改革基本法等によりODAについて政府全体を通ずる調整の中核としての機能を担うこととなるのであるから、援助計画の記述について、可能な限り重点分野や援助の対象につき一層の絞り込みを行うなどして、より重点的な援助を指向していくことが望まれる。
一方、援助の計画面における透明性に関しては、外務省の援助計画や銀行の業務実施方針等のホームページにおける公表等により、従来と比較して向上していると認められるが、どのような経過・検討を経て援助の目標を達成するための手段が選定されたのかを明らかにするため一層の工夫が必要であると考えられる。
外務省等では、現在、援助の事前・中間・事後の各段階において、その適否、効果等を調査し、これを踏まえて援助案件の選定過程についても事前ないし中間段階で公表することを検討しており、今後、より一層の透明性の向上を目指した取組みが望まれる。