ア 国会決議
この項目に関する参議院行政監視委員会の決議は次のとおりである。
イ 検査の内容
本院では、国会決議において、(ア)事業を重点的に実施すること、(イ)ソフト面の援助を充実すること、(ウ)援助事業間の連携を一層強化することが求められていることを踏まえ、それぞれの項目について次のとおり検査した。
(ア)事業の重点化
本院では、援助対象地域の重点化(以下「地域の重点化」という。)と援助対象分野の重点化(以下「分野の重点化」という。)とを取り上げて分析した。
特に「分野の重点化」に関しては、極めて特定された分野、例えば「教育」に援助を集中することを主張する見解もあるが、本院では、被援助国ごとに、重点的に援助すべき分野が明らかにされているかについて検査するとともに、これらの分野等に集中して「投入」を行うためにどのようなシステムが構築されているか検査した。
(イ)援助のソフト化
援助のソフト化については様々な見解があり、定義も区々となっている。例えば、「ハード」すなわち被援助国における「インフラストラクチャーの整備」(以下「インフラ整備」という。)ではないものを「ソフト化」の範疇に属するものとする見解がある一方、援助の目的・効果に着目し、人材育成や制度造りに寄与する援助であれば、「インフラ整備」であっても「ソフト化」に属するとする見解もある。
本院では、ソフト化について、人材育成・制度造りといった「ソフト分野」とハードの運用等を補強する「ソフト面」とに区分して分析することとした。
そして、「ソフト分野」の強化に関しては、これが援助案件の形成、採択の指針となる各種計画においてどのように位置付けられ、どのようなシステムにより実現されるようになっているか検査した。
一方、「ソフト面」の強化については、主としてハード面を対象として援助を実施してきた無償資金協力事業と円借款事業において、「ソフト面」を強化するための各種の取組みがなされるようになってきているので、その結果を可能な限り定量的に示すこととした。
なお、「ソフト面」の強化の方法として、技術協力事業との連携強化を図ることが有効であると考えられるが、これについては、次の「援助事業間の連携強化」において取り上げることとした。
(ウ)援助事業間の連携強化
援助事業間の連携を進めるためには、案件形成の早期の段階からこれに向けて各種の調整を行う必要がある。そこで、本院では、外務省等においで、どのような調整のための枠組みを設けることにより各事業間の連携を進めるよう取り組んでいるのか検査した。
また、無償資金協力事業や円借款事業と技術協力事業の連携は、(イ)で述べたとおり、「ソフト面」の強化に資するものと考えられることから、近年の連携状況等について検査した。
(2)事業の重点化
我が国のODAについては、従来から、多数の地域や分野にわたる総花的な援助となっており、効率的・効果的な援助となっていないのではないかという批判があった。一方、いわゆるバブルの崩壊後、我が国の経済が停滞する中、ODAの実施につき量から質の向上に目を向け、限られた予算の中で事業を重点的に行い援助を効率的・効果的に実施すべきことが求められるようになった。
外務大臣の懇談会である「21世紀に向けてのODA改革懇談会」は、10年1月、最終報告書を発表し、その中で、過去の我が国のODAについて、「日本のODAは、開発における自助努力の重要性を強調し、成果を上げてきた。かつてアジア重視、経済インフラ中心であった日本のODAは地域的にも分野にも広がりを見せている」とし、「日本のODAは、様々な分野をバランス良く実施してきた」との評価を与える一方、今後については「援助予算の制約の中で、今後は重点分野をより明確にするべきである」としている。
また、経済企画庁調整局長の私的懇談会である経済協力政策研究会は、10年1月、「経済協力の一層の改革にむけて」と題する報告書を公表し、レベルや次元の違う複数の援助の方針があることを指摘しつつ、「総花的に重点対象分野や重点地域を多数設定するのではなく、我が国として経済協力に重点を置くべき分野や地域はどこにあるか、そしてなぜそれらを重点対象分野や重点地域とするのか、ということをはっきりさせる必要があると考えられる」としている。
(ア)地域の重点化
ODA大綱では、我が国の実施するODAについて、「引き続きアジア地域に重点を置く」とともに、「アフリカ、中近東、中南米、東欧及び大洋州等の地域に対しても我が国の国力に相応しい協力を行っていく」としている。そして、ODA大綱の理念・原則等に基づき11年8月に策定された「政府開発援助に関する中期政策」(以下「中期政策」という。)では、「III 地域別の援助のあり方」において、地域的重点化の方針に関し、「我が国の援助は、・・・(中略)・・・今後ともアジア地域に重点を置いていく」としつつ、「アジア以外の地域への取り組みも進めていく」としている。しかし、地域や国について援助の配分の数値目標は定められていない。
また、銀行は、海外経済協力業務実施方針において、「アジア地域」に引き続き重点を置き円借款業務を実施するとしている。
(イ)分野の重点化
〔1〕 外務省の取組み
(従来からの取組み)
外務省では、従来からODA大綱や国別援助方針(以下「援助方針」という。)において「援助の重点分野」を定めるとともに、DAC新開発戦略で定められた目標についても考慮し、これらを援助の具体的案件の形成や採択の指針とすることにより援助の重点化を図ってきたとしている。
このうち、ODA大綱やDAC新開発戦略は、すべての被援助国を対象とした基本的方針としての性格を有するものであるから、事業の重点化に向けた個別具体的な案件の形成、採択に関しては援助方針が直接の指針になるものと考えられる。
そして、援助方針においては、国ごとに4ないし5項目程度の重点分野が定められており、その例は「1 被援助国の実情に即した国別援助計画の作成」において示したとおりである。
(国別援助計画による重点化)
また、外務省では、11年度から主要な被援助国について国別援助計画(以下「援助計画」という。)を作成・公表している。この援助計画においては、ODA大綱、DAC新開発戦略及び中期政策の重点方針を踏まえ、「今後5年間の援助の方向性」や「重点分野・課題別援助方針」において重点分野を定めている。
そして、これらの重点分野については、援助方針、援助計画のいずれにおいてもそれぞれ説明が記述されている。援助計画においては、分野をさらに細分化したり、より詳細な説明記述をしたりなどして、重点的に援助を実施する分野がより明確になるようにしており、案件の形成、採択が援助計画に沿って行われることにより援助の重点化が図られるようになるとしている。
(統一・課題別要望調査の実施による重点化)
外務省では、事業の重点化を図るため、援助計画の作成など計画レベルでの対応のほか、「統一・課題別要望調査」を行っている。
この要望調査は、毎年度、主として翌々年度に開始する無償資金協力事業と、翌年度に開始する各種の技術協力事業について、具体的な案件に関する被援助国側の要望を調査するものである。従来、無償資金協力事業、研修員受入、個別専門家派遣、プロジェクト方式技術協力等の技術協力事業及び技術協力の一形態である開発調査については、外務省経済協力局の各担当課がそれぞれの事業の形態ごとに要望調査を行っており、その時期も区々となっていた。この調査の時期については、相互の連携を強化する観点から統一的に実施することが求められていたが、外務省では、10年度に実施した要望調査から、同じ時期に統一して実施している。
また、外務省では、この要望調査の中で、技術協力事業における各種形態のうち研修員受入(集団・一般特設研修、第三国研修及び現地国内研修を除く)、個別専門家派遣(個別専門家チーム派遣及び研究協力を含む)及びプロジェクト方式技術協力については、援助方針や援助計画における援助の重点分野ごとに「開発課題」を設定し、この課題の解決のため上記各スキームを効率的・効果的に連携させて具体的プログラムを形成する課題別の要望調査を実施している。
外務省によれば、この開発課題は、被援助国に所在する我が国在外公館が、事業団の現地事務所と協力し、被援助国側との協議を経て設定するものであり、援助の重点分野ごとにその現状を分析し、その結果明らかとなった問題点及び原因を解決するための課題を整理したものである。なお、事業団が作成する後記「国別事業実施計画」においても原則として同一の開発課題が用いられている。
重点分野の類型別に、設定されている開発課題の例を示すと次表のとおりである。
重点分野 | 開発課題 |
教育 | 初等・中等教育を中心とする教育行政の強化 初等教員の再訓練・養成 初等・中等教育・基礎的技術訓練の拡充 |
農業・農村開発 | 適正技術導入、普及に係る技術支援 モデル的な農村開発の実施 小農支援 限られた水資源の有効利用 ポストハーベスト分野の改善・育成 |
また、課題別の要望調査においては、各重点分野において設定された複数の課題について、在外公館、事業団の現地事務所及び被援助国の協議により優先順位を付すこととしている。
この課題別の要望調査は、10年度において当時援助計画を作成することとしていた11箇国について試行的に行われ、11年度及び12年度には、前記の研修員受入、個別専門家派遣及びプロジェクト方式技術協力のほか、開発調査、無償資金協力(一般プロジェクト無償及び水産無償)等を可能な限り取り込むこととしたうえ、事業団の現地事務所が所在する46箇国に拡大して実施された。
そして、外務省では、前記のようにして設定され、優先順位が付された開発・課題の下に、無償資金協力や技術協力のスキームが連携をとりつつ投入されるシステムが構築され、事業の重点化が図られるようになったとしている。
〔2〕 銀行の取組み
(従来からの取組み)
銀行では、従来からODA大綱や援助方針における援助の重点分野を踏まえ、被援助国ごとに銀行としての重点分野を明らかにした「カントリー・ペーパー」を作成し、これによって案件選定を行ってきたとしている。そして、「カントリー・ペーパー」において銀行としての重点分野を定めることにより重点化が図られてきたとしている。
(海外経済協力業務実施方針による重点化)
銀行は、「1 被援助国の実情に即した国別援助計画の作成」において述べたとおり、11年12月、海外経済協力業務実施方針を公表し、分野別方針及び地域・国別方針を明らかにしている。
すなわち、分野別方針によると、「特別円借款を通じた支援(物流の効率化、生産基盤強化、大規模災害対策)」、「経済構造改革支援」、「環境保全対策支援」、「人材育成支援」、「中小企業育成支援」及び「制度造り支援」の6分野を重視するとしている。
また、地域・国別方針では、東アジア及び大洋州地域等7地域並びに主要な円借款の供与国14箇国について、重視して支援すべき事項を定めている。
(国別業務実施方針による重点化)
銀行は、「1 被援助国の実情に即した国別援助計画の作成」において述べたとおり、主要な被援助国について、重点的に支援すべき分野の現状、開発課題等に関する調査及び検討並びに銀行が行った案件事前調査の結果を取りまとめた国別業務実施方針を作成している。
そして、この国別業務実施方針において、援助計画や海外経済協力業務実施方針に定められている重点分野につき可能な範囲で優先順位を付すとともに、各重点分野に係る主要な事業分野につき銀行としての支援の方向を示すことにより、円借款事業がより重点的に行われるようにしている。
〔3〕 事業団の取組み
(従来からの取組み)
事業団では、従来、ODA大綱、援助方針等を踏まえ、国別援助実施指針及び国別事業基本計画を作成していた。
そして、事業団では、これらにより援助方針に定められた重点分野ごとに課題を明らかにし、この課題ごとに投入される具体的な技術協力案件を整理してきたとしている。
(国別事業実施計画による重点化)
事業団は、援助計画が作成されることになったのを受け、上記の国別援助実施指針等に代えて国別事業実施計画を作成している。
この国別事業実施計画は、「1 被援助国の実情に即した国別援助計画の作成」においても述べたとおり、政府レベルの政策対話などを通じて設定された重点分野・課題などを確認して被援助国の開発課題を整理し、これに対する事業団の協力方針を明らかにした上で、目標を達成するために必要な援助の投入計画を体系的に取りまとめたものである。
そして、この国別事業実施計画では、その中の「開発課題マトリックス」において、援助計画の重点分野ごとに被援助国の開発課題が整理され、事業団の協力目的及びこれを達成するための手段としての事業団のプログラムが明らかにされている。事業団では、この「開発課題マトリックス」において体系的に整理されている「重点分野-開発課題-事業団プログラム」の流れの中で、効率的・効果的に各種の技術協力事業を投入することとしている。
(ア)地域の重点化
我が国の二国間援助の実施状況の推移を地域別に示すと次表のとおりとなっている。
(支出純額ベース、単位:百万ドル) | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
(1999年版ODA白書による) | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
<注>
( )内は総額に占める割合(%)を示す。
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これをみると、年によって総額に占める割合に変動があるものの、ODA大綱や中期政策において明らかにされているアジア重視という方向性は、実際の援助に反映されていると認められる。
(イ)分野の重点化
(国別援助方針による重点化)
12年3月に援助計画が公表されたタイ及びバングラデシュ並びに12年5月以降に本院がODA事業の現地調査を実施したニカラグァ、エジプト、ガーナ及びインドネシアの計6箇国において、7年度から11年度までの5年間に実施された援助案件(技術協力事業についてはプロジェクト方式技術協力に限る)を、外務省及び事業団において援助方針における重点分野別に整理したものによると次表のとおりである。
(単位:件) | |||||||||||||||||||||||||||||||||||
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(外務省及び事業団の資料による) |
<注1> | 「無償」・・・無償資金協力事業案件 「プロ技」・・プロジェクト方式技術協力案件 「有償」・・・円借款事業案件 |
<注2> | 円借款事業において、小数点以下の数字を含む件数となっているのは、複数の分野に属すると判断された案件があるためである。 |
これによると、重点分野から明らかに外れている案件は、インドネシアにおける無償資金協力事業1件のみとなっている。この事業は、11年度に実施された「南南技術協力センター機材整備計画」であり、同国に建設される途上国間技術協力を推進するためのセンターで使用する視聴覚訓練機材等を整備するものである。事業団によれば、この事業は援助方針のいずれの重点分野にも該当するものではないが、インドネシアが南南協力の推進に力を入れている事情を考慮して採択されたものである。
また、ガーナにおける無償資金協力事業で重点分野「農業」に該当するとされているもの及びエジプトにおける無償資金協力事業で重点分野「農業生産の拡大」に該当するとされているものの中には、援助方針における記述からみて同分野に該当するかが必ずしも明らかではないものがそれぞれ1件ずつある。これら事業はガーナの「セコンディ漁港建設計画」及びエジプトの「マーディア漁港開発計画」という、いずれも漁港施設の建設等に係る案件である。ガーナの援助方針をみると、農業分野について「小規模農家がガーナの農業の主体であり、天候不順、土壌劣化等により生産性が低下していることから、生産性向上のための食糧増産援助、小規模灌漑技術の移転と施設のリハビリ・拡充、ポスト・ハーベスト(貯蔵・流通、加工)部門の強化・充実等への支援を実施する」とされており、上記の案件が直ちに農業分野に該当するとは認められず、また、エジプトの援助方針をみても同様であった。しかし、事業団によれば、ガーナの案件については、水産の振興開発が同国の「中期農業開発計画(1991-2000年)」において農業開発を構成する一分野と位置付けられていること、良質な食料の生産と供給という農業分野の開発に資するものであることから、重点分野の主旨から外れるものではないとしている。また、エジプトの案件についても、事業団は、安定的な食料供給の確保につながることから、重点分野から外れるものではないとしている。
また、分類結果をみると、多数の案件が実施されている重点分野がある一方、全く実績のない重点分野もある。このことについて外務省では、個別具体的な案件の採択を、必要性、緊急性、案件の成熟度等を考慮して行ったことによるものであり、特に目標を定めるなどして案件を誘導したことによるものではないとしている。
このほか、インドネシアの重点分野「公平性の確保」のように、重点分野そのものが幅広く設定されていて、医療施設建設から道路建設に至るまで多岐にわたる案件を包含するものも見受けられる。
重点 分野の 記述 |
(イ)公平性の確保(国全体の均衡ある開発を目指す) 〔1〕貧困撲滅(貧困層の生活環境の改善)、〔2〕基礎生活分野に対する支援(居住環境の整備、保健医療)、〔3〕人口・家族計画及びエイズ対策、〔4〕東部インドネシアの開発(地域間格差是正) |
「公平 性の確 保」に 属する 案件 |
(無償資金協力) ・食糧増産援助 ・大豆優良種子増産配布計画 ・東部地域灌漑機材整備計画 ・灌漑機材整備計画 ・東部地域灌漑施設整備事業 ・スマラン漁業訓練センター整備 ・スラウェシ地域保健所強化計画 ・アイルランガ大学熱帯病センター建設計画 ・南北スラウェシ地域医療従事者訓練センター改善計画 ・新生児破傷風・はしか予防接種拡大計画 ・都市防災計画II ・東ヌサトゥンガラ地域貯水池開発計画 ・障害者職業リハビリセンター建設計画 |
(プロジェクト方式技術協力) ・集合住宅適正技術開発 ・スラウェシ貧困対策支援村落開発計画 ・南東スラウェシ州農業農村総合開発計画 ・ソロ身体障害者リハビリテーションセンター ・国立障害者職業リハビリテーションセンター ・生ワクチン製造基盤技術 ・労働安全衛生教育拡充計画 ・南スラウェシ地域保健強化 ・母と子の健康手帳 |
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(円借款) ・居住環境改善事業(II) ・地方電化事業(II) ・地方道路整備事業(III) ・園芸作物開発事業 ・バタンハリ灌漑事業 ・ビリビリ灌漑事業 ・バタンクム灌漑事業(E/S) ・スラウェシ地域保健医療強化計画 ・ハサンサディキン病院改善事業 ・東部インドネシア中小港湾開発事業 ・ワイスカンポン灌漑事業(III) ・小規模灌漑管理事業(III) ・ギリラン灌漑事業(E/S) ・地方インフラ整備事業(II) ・法定計量制度振興事業(E/S) |
(国別援助計画による重点化)
援助計画の公表は12年3月からとなっており、これに沿った案件の形成・採択が行われるのは12年度以降と考えられるから、現時点では援助計画の作成により事業の重点化が図られたかどうかを検証する段階にはない。
そこで、本院では、12年6月までに援助計画が公表されたタイ、バングラデシュ・エジプト及びガーナについて、その援助計画が重点化を図るようなものとなっているか分析することとした。
重点分野を援助方針と比較して示すと次表のとおりである。
国 | 援助方針 | 援助計画 |
タ イ |
○社会セクター支援(教育、エイズ対策を中心として) ○環境保全 ○地方・農村開発 ○経済基盤整備 ○地域協力支援 |
○社会セクター支援(教育、エイズ対策を中心として) ○環境保全 ○地方・農村開発 ○経済基盤整備 ○地域協力支援 |
バ ン グ ラ デ シ ュ |
○農業・農村開発と農業生産性向上 ○社会分野(基礎的生活分野、人的資源開発)の改善 ○投資促進・輸出振興のための基盤整備 ○災害対策 |
○農業・農村開発と農業生産性向上 ○社会分野(基礎生活、保健医療等)の改善 ○投資促進・輸出振興のための基盤整備 ○災害対策 |
エ ジ プ ト |
○農業生産の拡大 ○保健・医僚 ○人材育成 ○経済基盤 ○環境改善・保全及び公衆衛生の改善 |
○貧困対策<注1>
○人材育成、教育の充実 ○経済・社会基盤の整備、産業の振興 ○環境の保全、生活環境の向上 〇三角協力(南南協力)の推進 |
ガ ー ナ |
○基礎的生活基盤の改善(生活用水:教育:人口・エイズ、子供の健康) ○農業 ○道路・電力 |
○基礎的生活基盤の改善(基礎教育:保健・医療:安全な水の供給)<注2>
○農業開発 ○経済インフラ整備 ○経済構造改革 ○産業育成 |
(援助方針、援助計画により本院において作成) | ||||
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これをみると、重点分野とされているものの数は、援助方針と援助計画とでほぼ同数となっており、また、分野についてもほぼ同様となっていて、この面からみると重点化が図られたとみることは困難である。しかし、外務省では、事業の重点化のため重点分野の数を絞り込むことについて、被援助国に対する援助政策の一貫性等からみて困難であり、また、開発途上国で5項目程度の重点分野を設定すれば、網羅的・総花的な印象になるのもやむを得ない面があるとしている。
重点分野相互の優先度に関しては、援助方針と同様、目標額や配分率を定めて優先的に実施することとしているものはないが、援助計画の「今後5年間の援助の方向性」において、特定の重点分野を優先的に実施することを述べているものがある。それは、ガーナの重点分野「基礎的生活基盤の改善」であり、「特に、貧困削減がガーナにおける最大の課題であることを踏まえ、貧困層に直接裨益する基礎的生活基盤の改善に関する援助を優先的に実施していく」としている。計画の段階で目標額や配分率など優先度を定めることについて、外務省では、案件の要請及び採択に係る被援助国、我が国双方のフレキシビリティを阻害し、我が国援助の基本原則である「援助国の要請主義」の精神や、我が国援助の「量から質への転換」を図った方針にも反するおそれがあり、ガーナの例は同国に対する主要援助機関である世界銀行や旧宗主国であるイギリスが貧困対策に力を入れていることを配慮したもので、特別なケースであるとしている。
次に、それぞれの重点分野に関する記述について、バングラデシュの「教育分野」を例として示すと次表のとおりである。
援助方針 | 援助計画 |
(ロ)社会分野(基礎的生活分野、人的資源開発)の改善 貧困層に裨益するとの観点から、他のドナー国やNGOとの連携を図り、草の根無償資金協力を積極的に活用しつつ、基礎的な衛生、医療事情の改善のため「子供の健康」、「母子保健」、「安全な飲料水の確保」に取り組むとともに、「初等教育」、特に「女子教育」等に関するDAC新開発戦略の目標達成に向け支援する。 また、我が国は、社会サービスの効率的な実施のための人材教育・訓練への支援等を重視する。 |
(ロ)社会分野(基礎生活、保健医療等)の改善 我が国は、上水道施設、保健・医僚分野の施設・機材の供与のための無償資金協力や青年海外協力隊による貧困層を対象にした基礎医療分野への協力をこれまでも実施してきたが、バングラデシュの厳しい福祉状況に鑑み、本分野への協力を一層強化していく必要がある。 具体的には、他の援助国やNGOと連携して、〔1〕基礎的な衛生・医療事情の改善や子供の健康、母子保健・人口家族計画を含むリプロダクティブ・ヘルス、〔2〕教育事情の改善として初等教育、特に女子教育などの分野において、DAC新開発戦略の目標達成に向けて支援していく。 (a)略 (b)教育に関しては、初等教育の改善に力を入れていく。重点課題とされている理数科教育の拡充を重視し、教育行政、カリキュラム開発・教員養成における質の向上を目指す。あわせて、小学校の建設等についても引き続き協力を行い、総合的な基礎教育向上を支援していく。 また、教育分野における我が国援助人材を育成する観点から、特に本分野で経験豊富なUNICEFと連携して協力を実施し、人的交流を含めこの分野における我が国の人材開発を進めていくことも必要である。 (c)略 |
(援助方針、援助計画により本院において作成) |
<注>
アンダーラインは本院において付した。
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これをみると、援助計画は援助方針と比較して詳細なものとなっており、重点的に実施すべき事業の方向性が看取できるものになっている。
このように、外務省では、当該被援助国に対する援助の大枠を定める援助計画に基づいて援助の重点化を図ることとしており、銀行及び事業団においても、援助計画に基づいて事業を実施していくために、国別業務実施方針、国別事業実施計画などのシステムを整備し、政府の定めた方針に沿って援助の重点的な実施を行うこととしている。
援助を重点的に実施するためには、重点的に支援すべき対象をあらかじめ明らかにしたうえ、当該分野に集中的に「投入」を行う必要があると考えられる。今回、7年度から11年度までに実施された援助を本院が検査した限りでは、そのほとんどが援助方針に定められた重点分野に投入されていたと認められた。
そして、新たに作成されることとなった援助計画については、「1 被援助国の実情に即した国別援助計画の作成」で述べたとおり、重点的に支援すべき対象分野を細分化したり、絞り込んだりなどしていて、重点化を指向するものとなっている。
しかし、各被援助国ごとに、援助方針とほぼ同数の、内容的にもほとんど違いのない重点分野を定め、重点分野相互の優先度を原則として定めない援助計画のみでは、一層の重点化を図るには必ずしも十分ではない。
したがって、今後、外務省においては、被援助国の実情や、我が国の援助実施体制等を考慮しつつ、援助計画における重点分野の絞り込みを可能な限り行い、また、銀行及び事業団においても、政府の定めた方針に沿って、それぞれの方針、計画等により、より優先して解決すべき開発課題を明らかにしていく要があると認められる。
(3)事業のソフト化
本院では、前記「検査の内容」において述べたとおり、ソフト化について、人材育成・制度造りといった「ソフト分野」とハードの運用等を補強する「ソフト面」とに区分して分析することとした。
このうち、人材育成などソフト分野への支援の強化に関しては、例えば、開発途上国におけるインフラ整備を主として担ってきた円借款について、外務省経済協力局長の私的懇談会である「円借款制度に関する懇談会」は、12年8月、その討議の結果を次のとおり取りまとめ提言した。すなわち、「円借款は、ハードである経済・社会インフラ支援を中心に・・(中略)・・諸課題の解決のために貢献してきた」としつつ、「途上国のオーナーシップを強化するための人材育成、政策・制度造りなどソフトの分野での援助の比重が一層増大する等の環境変化に伴い、円借款のあり方についても不断の見直し・改革の努力が迫られている」としている。また、近年は、被援助国の政策や制度造りへの支援など高度な「知的支援」の実施も強調されるようになっている。
また、ソフト面の強化の必要性については、例えば外務省の経済協力評価報告書(11年7月)において、「施設・設備といったハードだけを供給しても、それを上手に利用するソフトがなければ効果は発現しない。日本のこれまでの援助はハードに偏重しており、ソフトに対する援助が少なかった」(英国国際開発省との合同評価)とされており、外務省等において、建設された施設や供与された機材の運用など「ソフト面」に対する支援の強化の必要性が認識されていると考えられる。
(ア)政策面での取組み
我が国では、人造り、制度造りといったソフト分野に対する支援は、主として事業団の技術協力事業によって担われてきている。政府全体のODA予算が大きく削減された10年度予算においても、事業団を含む技術協力事業の予算については削減率が他と比較して小さく、ソフト分野重視の姿勢がうかがえるものとなっている。
(事業予算:億円、( )内は対前年度伸び率:%) | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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(外務省「ODA白書」等による) |
また、前記のようにハード中心のODAに対する批判があることを考慮して、我が国は、ODA大綱、中期政策において、ソフト分野の援助にも力を注ぐことを明らかにし、さらに、援助方針、援助計画においても、ソフト分野を重点分野とすることなどにより、ソフト分野を強化することとしている。
そして、外務省等では、これらのODA大綱等において重点的に支援することが明らかにされたソフト分野は、援助の重点化において記述したような仕組みにより、強化されていくことになるとしている。
〔1〕 外務省の取組み
(ODA大綱)
ODA大綱においては、ODAの実施は開発途上国における資源配分の効率と公正や「良い統治」の確保を図り、健全な経済発展を実現することを目的とし、その実現のため、我が国は「広範な人造り・国内の諸制度を含む インフラストラクチャー(経済社会基盤)及び基礎生活分野の整備等」(アンダーラインは本院において付した)を行うとしている。この「国内の諸制度を含むインフラストラクチャー・・」という表現は、インフラ整備につきハード面のみが強調されがちであることを考慮し、「国内の諸制度を含む」とすることで、ソフト化重視の姿勢を表明したものと考えられる。そして、ODA大綱では、5つの重点事項の一項目として、「人造り及び研究協力等技術の向上・普及をもたらす努力」を挙げている。
(政府開発援助に関する中期政策)
中期政策においては、ソフト分野に対する支援である「人材育成・知的支援」が7項目の重点課題の一つとされている。そして、人造りを国造りの基本ととらえ、開発途上国の自助努力への支援を援助の基本理念とする我が国は、引き続き途上国の経済・社会開発に必要とされる人材育成を格別に重視すること、経済の急速なグローバル化が進む中で経済発展を進めてきた途上国が、状況の変化に経済・社会体制を適応させるためのソフト面での支援の重要性が高まってきていることなどを指摘し、各種支援を行うことを明らかにしている。また、「地域別の援助のあり方」の項においても、人材育成や制度造りなどソフト分野を支援するとしている。
(国別援助方針、国別援助計画によるソフト化)
また、ODA大綱、中期政策といったすべての被援助国を対象とした基本的方針においてソフト分野を重視していくことを定めるほか、国別に定められた援助方針や援助計画においても、ソフト分野を重視して支援することとなっている。
バングラデシュの援助方針及び援助計画では、明らかにソフト分野と認められる人材育成や教育に係る重点分野として、「社会分野」(援助方針)、「社会分野の改善」(援助計画)があり、このほか、いずれの国においても少なくとも1つはソフト分野が重点分野とされているが、援助の重点化においても述べたとおり、特に優先的に実施することとされていたり、配分率を定めたりはしていない。その理由についても、援助の重点化において述べたとおりである。
〔2〕 銀行の取組み
ハード中心のODAに対する批判は、主として開発途上国におけるインフラ整備を担ってきた円借款事業に向けられることが多かった。これに対して、銀行は、ODA大綱や援助方針の企図するところに従い、かつ、時々の政府の方針に沿ってソフト化への指向を明らかにしてきたとしている。そして、11年12月、海外経済協力業務実施方針において特に重視して支援する6分野を明らかにしているが、その中には「人材育成支援」及び「制度造り支援」といったソフト分野も含まれている。また、地域・国別方針においても人材育成を支援することを明らかにするなどしている。
(イ)制度面での取組み
従来、主としてハードを対象として援助を実施してきた無償資金協力事業、円借款事業において、近時、ソフト分野の支援を強化するため、各種の制度が設けられている。その主なものを挙げると次のとおりである。
〔1〕 留学生支援無償資金協力
留学生支援無償資金協力は、途上国政府による組織的・計画的な我が国への留学生派遣事業に対し、留学生の途上国における事前教育費、渡航費・滞在費、学費等に要する資金を無償で供与する事業であり、11年度から実施されている。
この無償資金協力については、11年度において40人分の留学生に係る2億5千万円の予算額となっていたが、12年度については8億円となっており、その伸び率は320%となっている。
〔2〕 留学生借款
円借款事業においては、昭和63年度以降、途上国からの留学生派遣事業を支援する留学生借款が行われており、過去5年間の承諾額を示すと次表のとおりとなっている。
(単位:百万円) | ||||||||||||
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(銀行の資料による) |
これらのほか、ソフト分野の支援の中でも被援助国の各種政策・制度の創設や改善を目的とする政策支援型の案件については、従来、この支援を担うこととなる日本人コンサルタントの不足等から我が国において取組みが必ずしも十分でなく、その育成・強化が必要となっていることから、外務省では、11年12月、外部の有識者や銀行、事業団の職員も交えた「政策支援分野における開発調査の在り方に関する研究会」を設置するなどして、その支援を強化するための体制整備を図っている。
(ア)無償資金協力事業におけるソフト面の強化
主としてハード面での支援を行ってきた無償資金協力事業においても、ハード面での支援を行う本体事業と併せソフト面の強化を図るための事業を行ってきた例が見受けられる。このようなソフト面の強化を図るための事業の例としては、簡易井戸を供与する事業において、施工業者が井戸掘削技術の移転を行ったり、井戸の供用初期の管理運営指導を行ったりするものなどがあるが、統計的な整理等はされてきていないので、その全般的状況について把握することは困難である。
また、外務省では、12年度からソフト支援無償資金協力を実施することとしている。このソフト支援無償資金協力は、施設建設、機材供与などのいわゆるハードの支援に係る事業の実施のために必要な経費と併せて、その事業と並行して又は実施後2ないし3年までの期間において、実施される事業の運営、技術指導等のソフトの支援に係る事業の実施のために必要な経費を無償で供与するものである。具体的には、機材供与のハード面と機材据付け後の運転操作指導や施設の運営・維持管理指導といったソフト面を併せて支援するような事例を想定しており、12年度における予算額は80億円で、12年9月までに交換公文が締結されたものは、3件、計25億余円となっている。
(イ)円借款事業におけるソフト面の強化
〔1〕 円借款事業におけるコンサルタントの雇用
ダム、道路の建設等ハード面の支援を行う円借款事業においては、被援助国政府との契約により、被援助国側が行う調達手続の支援、事業施行の監理、完了検査等を行うコンサルタントが雇用されることが多い。銀行では、コンサルタント雇用に係る経費について金利を優遇するなどして、被援助国側によるコンサルタントの雇用を奨励、支援しているが、このような金利の優遇等の制度は、円借款事業においてソフト面を強化する機能を果たしている。
コンサルタント雇用に係る経費の額及びプロジェクト型の円借款の承諾額総額に占める割合を年度ごとに示すと次表のとおりとなっている。
(単位:百万円) | ||||||||||||||||||
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(銀行の資料による) |
これをみると、金額についても、割合についても、増加傾向が見られるわけではないが、銀行によれば、近年、コンサルタントの業務内容が質的に変化しており、従来の案件監理ばかりでなく、組織運営等事業の初期段階における経営についての指導など人材育成や制度造りに関する業務も行うようになっているとしている。
〔2〕 有償資金協力促進調査
銀行では、円借款事業の案件形成、実施、完成案件の事業効果の持続又は一層の効果発現のため、有償資金協力促進調査(Special Assistance Facility。以下「SAF」という。)を実施している。
このSAFは、資金両、技術面における制約により被援助国側では実施することができない調査を、銀行がコンサルタントなど専門家を雇用して実施するものであり、次のような種類がある。
○案件形成促進調査(SAPROF)
円借款事業の案件形成段階で、開発途上国から円借款の要請又は打診のあった事業について、円借款対象事業等として取り上げ可能となるようにプロジェクト形成を支援するもの
○案件実施支援調査(SAPI)
円借款事業の準備段階で、前堤条件の変化等により当初計画どおり事業が進ちょくしない場合などに、現況の調査や分析を行い、改善や解決を図るもの
○援助効果促進調査(SAPS)
円借款事業の完成後の運営・維持管理段階で、事業効果を維持あるいは一層高めていく上で支障となる問題を調査し、具体的な改善・解決策を提案するもの
○調達実施支援調査
円借款のうち、アジア経済危機によって経済困難に直面しているアジア諸国等の経済回復を図るなどのために導入された特別円借款の案件を対象に、公正、透明かつ迅速な調達手続を図るための入札書類作成、入札評価等を支援するもの
SAFの実績を、その実施年度、種類ごとに件数と金額により示すと次表のとおりとなっており、件数、金額いずれについても増加傾向を示している。
(上段:件数、下段:金額 百万円) | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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(銀行の資料による) |
〔3〕 開発政策・事業支援調査
また、知的支援として8年度から、開発途上国に政策や実施能力支援策等を提言することを目的とした「開発政策・事業支援調査」(SADEP)を実施している。その実績を件数と金額により示すと次表のとおりとなっており、金額については増加している。
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(銀行の資料による) |
事業のソフト化について、本院で「ソフト分野」と「ソフト面」に区分して分析したところ、上記のとおり、「ソフト分野」を重視すべきことが中期政策や援助計画において意識的に記述されていたり、「ソフト面」の強化を図るための各種スキームが設けられるなど、ソフト化に向けた取組みが行われていると認められた。
しかし、そもそもソフト化については様々な見解が考えられるところであり、また、その結果を定量的に示すことには困難な面もある。
したがって、今後は、どのような分野に、どのような態様で援助を実施すればソフト化が図られたことになるのかを明らかにするとともに、その達成状況を確認できるようにしていくことが望まれる。
(4)事業間の連携強化
事業間の連携強化の必要性については、従来から様々な場において繰り返し指摘されている。
本院では、外務省等に対する検査及び被援助国において行うODA事業の現地調査の結果を、昭和63年度決算検査報告に「特に掲記を要すると認めた事項」として掲記し、また、平成2年度以降は毎年度の決算検査報告に「特定検査対象に関する検査状況」として掲記し、事業間の緊密な連携強化を求めている。平成10年度決算検査報告においては、「援助の実施に当たっては、無償資金協力・技術協力・円借款間の緊密な連携を図るとともに、援助対象事業に対する監理機能を強化するなど援助実施体制のなお一層の整備・拡充を図る」ことが重要であるとしている。
また、総務庁は、昭和62年度から平成8年度までの間、4回にわたって実施した行政監察の結果に基づき、事業の効率的、効果的な実施のため、無償資金協力と技術協力及び円借款と技術協力の連携を一層推進することを勧告している。そして、対外経済協力審議会も、10年6月、「今後の経済協力の推進方策について」において、「ODAの中においても有償資金協力、無償資金協力及び技術協力の各援助形態の特性を最大限生かし、それらの有機的な連携を一層促進することが重要である」としている。
(ア)取組みへの基本的姿勢
外務省等では、上記のような経緯を踏まえ、事業間の連携強化について取り組むこととしている。
すなわち、ODA大綱では、ODAの効果的実施のため「開発途上国の多様な発展段階及び援助需要に的確に対応するよう、有償資金協力、無償資金協力及び技術協力の各援助形態並びにその外の協力の特性を最大限生かし、その有機的連携・調整を図る」とされている。
また、中期政策では、「IV.援助手法」において、各種連携を積極的に推進すべきこととしており、〔1〕各種協力形態・機関間の連携、〔2〕ODA以外の政府資金(OOF)及び民間部門との連携、〔3〕NGO等との連携のほか、〔4〕他の援助国及び国際機関との協調等により、ODAの効率的・効果的実施を図ることとしている。そして、特に各種協力形態・機関間の連携については、〔1〕ODAに関係する省庁間の連絡の場を拡充させるなど関係省庁間の情報の共有化、相互の意思疎通の円滑化を進めつつ、政府全体を通じた効果的・効率的な連携及び調整のシステムの確立を図ること、〔2〕ODAの資金・技術協力の各種協力形態の特性を最大限活かし、これらの有機的な連携を一層促進すること、〔3〕技術協力については、関係省庁が有する知見やノウハウ及び人材を十分活用しつつ、事業団及び各省庁の効果的・効率的な連携・調整に努めることとしている。
このほか、銀行では、11年12月に公表した海外経済協力業務実施方針において、「海外投融資・その他公的資金(OOF)、無償資金協力、技術協力、国際機関を通ずる協力等、他の援助手段との有機的連携」に留意して円借款業務を行うこととしている。
(イ)連携強化のための制度的枠組み
事業間の連携を強化するには実施機関相互の緊密な連絡調整が必要となるが、これを目的として、外務省等において採ることとした制度的枠組みの主なものは次のとおりである。
(政府開発援助関係省庁連絡協議会)
ODAの効率的・効果的実施に資するものとするため、中央省庁等改革基本法(平成10年法律第103号)及び11年11月の閣議口頭了解を踏まえ、関係省庁の連携・調整を強化し、援助の政策及びその実施について外務省と関係省庁の間で審議や意見交換を行う「政府開発援助関係省庁連絡協議会」が設置されている。
外務省では、このような協議会等を通じ、13年1月に実施される省庁再編成に向け技術協力をよりシステム化した形で連携していく方法を検討している。
(事業団の組織改編)
事業団では、12年1月、業務及び組織の改編を行い、地域や国単位の総合調整を所管する地域部を創設している。従来、事業団では、国ごとの援助計画の策定、案件形成の促進と各種技術協力事業の採択案件の検討・実施はそれぞれ別個の担当部において行われていたが、地域部の創設により計画から実施まで国別に一貫した事業の計画・管理ができる体制が構築され、技術協力の各種形態や援助の対象分野を超えて事業を横断的に調整する仕組みになった。そして、事業団では、従来から地域別の組織となっていた銀行との調整も容易になったとしている。
(ウ)連携強化のための新たな取組み
事業間の連携を強化するため、外務省等では新たな取組みを行っているが、その概要は次のとおりである。
〔1〕 国別援助計画
援助計画では、主に「今後5年間の援助の方向性」において、援助事業間の連携強化に関する記述が見受けられるほか、重点分野等の記述においても連携を進めていく旨の記述が見受けられる。
その主なものを示すと次のとおりである。
[バングラデシュ] (d)「アドバイザー型専門家や資金協力連携専門家の派遣等により、技術協力と資金協力との連携を引き続き強化していくとともに、セクターワイドな援助方策の導入を検討していく。」 |
[ガーナ] 「ガーナ政府が自助努力による債務返済への意思を国際的に明確に表明していることから、有償資金協力についてはガーナの経済・債務状況などを十分に見極めながら、無償資金協力・技術協力との連携を考慮しつつ検討していく。」 |
〔2〕 統一・課題別要望調査
無償資金協力事業と技術協力事業の要望調査に当たっては、前記のとおり、「統一・課題別要望調査」が実施されている。外務省等では、この統一・課題別要望調査の実施により、無償資金協力及び技術協力の各事業は、被援助国との対話を通じて設定された開発課題の解決に向け有機的、統一的に投入されることが検討されるようになったとしている。
〔3〕 国別事業実施計画
事業団では、被援助国との政策対話などを通じて設定された重点分野・課題などを確認して被援助国の開発課題を整理し、これに対する事業団の協力方針を明らかにした上で、目標を達成するために必要な援助の投入計画を体系的に取りまとめた国別事業実施計画を作成している。そして、その一部をなす事業ローリングプランにおいては、事業団が実施する技術協力事業のほか、事業団が実施促進を行う無償資金協力事業についても、事業団としての投入計画が整理されており、無償資金協力事業と技術協力事業の連携を念頭においたものとなっている。
〔4〕 円借款事業に係るロング・リストの公表
外務省では、12年4月、ヴィエトナムとの間で、11年度から13年度まででの3年間に円借款を供与する可能性のある案件リスト(以下「ロング・リスト」という。)を確定し、公表した。このロング・リストは、中・長期的観点から円借款案件のより効率的・効果的な発掘、形成、採択を目指して策定されるものであり、ODAの実施計画に係る透明性の向上を図るとともに、採択の可能性のある案件を公表することにより、我が国として一貫性のある援助を実施すること、開発調査をはじめとする技術協力事業等との連携を図ることなどを目的としている。
そして、外務省では、今後その他の主要な円借款供与国についても、ロング・リストを公表していくとしている。
(ア)資金協力事業と技術協力事業の連携の意義
無償資金協力事業又は円借款事業と技術協力事業の連携は、案件の形成段階において必要となる技術の移転や、建設した施設、供与した機材の運用に必要となる技術の移転を目的とするものであり、援助のソフト化において述べた「ソフト面」の強化に資するものと考えられる。
外務省等では、従来から無償資金協力事業又は円借款事業と技術協力事業の連携により各種の援助プログラムを実施しているが、近年における実績等を検査した結果は次のとおりである。
(イ)資金協力連携専門家
事業団では、従来から無償資金協力事業及び円借款事業の効率的・効果的実施のため、技術協力事業として被援助国に専門家を派遣しているが、10年度から連携強化のための措置として、これらの専門家を、事業の案件形成に係る支援、事業実施中の案件監理、事業終了後における運営管理に関する技術指導等を行う「資金協力連携専門家」という各称で派遣することとした。
これらの専門家の派遣実績を、各年度ごとの新規派遣人数と当該年度における派遣総数(新規派遣者のほか前年度から継続して派遣されている者を含む)により示すと次表のとおりである。
(上段:人数、下段:全専門家派遣数に占める割合(%)) | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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(事業団の資料による) | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
<注>
「無償」・・無償資金協力事業との連携のため派遣されたもの
「無・有」・・無償資金協力事業及び円借款事業との連携のため派遣されたもの 「有償」・・円借款事業との連携のため派遣されたもの |
これをみると、派遣総数の合計や新規に円借款事業との連携のために派遣された専門家の人数は、年度により変動があるものの増加傾向にあると認められるが、事業団が派遣した全専門家派遣数に占める割合については、増加しているとは認められない。
(ウ)無償資金協力事業と技術協力事業の連携
(基本設計調査における検討状況)
事業団では、前記のとおり、統一・課題別要望調査における在外公館への協力や国別事業実施計画の作成を通じ、無償資金協力事業と技術協力事業の連携の可能性について検討している。
そして、無償資金協力事業の具体的な案件に係る連携の可能性については、個々の案件の最適な実施計画を策定するために行われる基本設計調査において調査し、その結果を外務省に報告することになっている。
そこで、本院では、10年度及び11年度において閣議了解を経た無償資金協力事業案件(一般プロジェクト無償及び水産無償案件に限る)のうち、基本設計調査報告書が公開されている64案件について、技術協力との連携の要否に言及しているか、また、基本設計調査において連携が必要とされた案件については実際に連携がなされているか調査した。
調査したところ、基本設計調査報告書においては、「技術協力・他ドナーとの連携」と題する項目を設け、技術協力との連携についての検討結果を記述するものが多数あったが、このような項目を設けていないもの、項目を設けてはいるものの技術協力との連携については言及していないものが、次のとおり見受けられた。
態様 | 件数 |
〔1〕当該項目があり、技術協力との連携の要否に言及しているもの 〔2〕当該項目はあるが、技術協力との連携の要否に言及していないもの 〔3〕当該項目がないもの |
44 19 1 |
「技術協力・他ドナーとの連携」と題する項目がなかったり(〔3〕)、当該項目があっても技術協力との連携の要否に言及する記述がなかったり(〔2〕)していても、基本設計調査において技術協力との連携の要否について検討はなされているが、その経緯を明らかにするため、今後は報告書の様式等を統一するのが望ましいと考えられる。
次に、上記64案件について、基本設計調査において行われた技術協力との連携の要否に関する検討が、実際の技術協力案件の採択にどのように反映されているかを調査したところ、次表のとおりとなっていた。
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(事業団の資料により本院において作成) |
これをみると、技術協力事業との連携を要するとされた〔1〕の案件31件のうち、実際に連携が行われたのは27件(87.0%)となっている。連携が行われなかった4件について、事業団では相手国政府から要請されなかったり、要請されたが、重要度が高い別の案件が優先されたり、技術協力事業の実施に必要となる専門家の確保ができなかったりしたことなどによるとしている。
一方、無償資金協力事業において技術移転のために必要となる協力も併せて実施することなどにより、技術協力事業との連携は不要とされた〔2〕の22案件のうち14件(63.6%)については、研修員受入れを中心とした技術協力事業との連携も図られている。これについて、事業団では、実施した方がより望ましいと判断され、かつ、現実に相手国政府からの要請に応えることが可能であったことによるものであるとしている。
また、基本設計調査報告書の記述では技術協力事業との連携の要否が判然としなかった〔3〕の案件11件のうち、連携が行われたものは4件、連携が行われないものは7件となっている。
(エ)円借款事業と技術協力事業の連携
〔1〕 案件形成段階における連携
(連絡会等)
銀行と事業団は、円借款事業の案件形成段階において、事業団が開催する国別・分野別援助研究会や各種の連絡会の場などを通じ意見交換を行っている。また、銀行では、事業団が12年1月に組織改編を行い、地域や国単位の総合調整を所管する地域部を設けたことにより、円借款業務を地域別に担当している銀行の各部と事業団との協議が容易になったとしている。
(フィージビリテイ調査の実施)
円借款事業の中には、従来から、事業団が開発調査として実施するフィージビリティ調査(Feasibility Study。以下「F/S」という。)の結果を踏まえて事業計画等の作成など案件形成がなされたものがある。
プロジェクト型の円借款事業数、そのうち事業団が実施したF/Sの結果により案件形成がなされたものの数及びF/S反映率(プロジェクト型円借款事業のうち事業団のF/Sにより案件形成が行われた案件の割合)の推移を示すと次表のとおりであり、増加傾向は見られない。銀行では、11年度のF/S反映率の減少について、アジア経済危機の影響により、事業団が実施するF/S対象案件の多いインドネシア等のプロジェクト型借款がなくなったことなどによるものであるとしている。
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(銀行の資料による) |
また、事業団の実施する開発調査には、F/Sのほか、被援助国における各種の開発計画の基本計画を策定するための調査であるマスタープラン調査等があるが、これら事業団が実施した開発調査のうち円借款事業として実施されたものの推移は次表のとおりとなっている。
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(事業団の資料による) |
この結果について、事業団では、開発調査は円借款事業の案件形成のみを目的とするものではなく、無償資金協力事業の案件形成を目的として実施されるものや、被援助国が我が国ではなく国際機関等に資金協力を要請する場合があることなどから、連携強化にこれまで以上に取り組んだとしても実施率が急激に増加することはなく、その実施率の向上には自ずから限度があるとしている。また、近年調査したものの中には、現在、案件の実施について検討中のものもあり、また、過去に調査を行ったものの中で、今後実施が決定されるものもあるとしている。
(詳細設計の実施)
事業団では、10年度から、円借款事業のための詳細設計を実施しており、その実績は、10年度においては5件、計18億3千万円、11年度においては4件、計14億5千万円となっている。
事業団では、従来、円借款事業に係る詳細設計は、被援助国側又は第3国の負担により実施されることが多かったが、これを我が国の負担で事業団が実施することにより、被援助国の負担が軽減され、併せて、詳細設計に係る技術の移転と円借款事業の円滑な実施が可能になるとしている。
〔2〕 事業実施段階における連携
事業団では、昭和52年度から被援助国において円借款事業を担当する者を研修員として受け入れる「ODAローンセミナー」を実施しており、平成11年度までに72箇国、計453人の研修員を受け入れている。
研修員の数及び受入国数の推移は次表のとおりである。
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(事業団の資料による) |
また、10年度から連携強化のための措置として、円借款事業において今後多くの要請が見込まれる分野等に関する研修につき、新規に予算が認められた。10年度及び11年度は、「中小企業金融」、「電力設備の効率的運用」、「ODAローン実施促進」、「公害対策融資」の4コースが実施されているが、これらに係る受入国数、研修員数及び研修事業費の実績は次表のとおりである。
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(事業団の資料による) |
なお、円借款事業と技術協力事業のうちプロジェクト方式技術協力との連携については、11年度に実施中のプロジェクト方式技術協力245事業のうち14事業が円借款事業と連携している。
そして、今後についても、外務省においては、政策立案の立場から両者の連携を図っていく方針であり、銀行及び事業団においても、外務省の方針に沿って具体的案件を検討していくとしている。
(オ)円借款事業と無償資金協力事業の連携
外務省では、10年度から事業の実施後長期間を経過したことにより、効果が十分に発現しない状況となったり、追加的な手当てが必要と判断されたりした円借款事業について、その改善のための事業を無償資金協力により行う「リハビリ無償」を実施しており、その実績は、10年度において1件、供与限度額11億円、11年度において2件、同21億円、12年度において3件、同35億円となっている。
事業間の連携については、その強化が従来から求められていたこともあり、中期政策や援助計画において連携強化への積極的な姿勢が明らかにされ、また、統一・課題別要望調査の実施やロング・リストの公表等、連携に向けた新たな取組みが行われていると認められた。
しかし、これらの取組みは開始されて間もないものであり、現段階において、事業間の連携強化にどの程度有効な手法であるか判断することは困難である。
したがって、今後、これらの新たな取組みが有効に機能して被援助国の開発課題の解決に向けた援助事業間の有機的な連携が図られていくことが望まれる。
また、外務省は、中央省庁等改革基本法等により、技術協力に関する企画立案について、政府全体を通ずる一元的な調整の中核としての機能を担うこととされている。
したがって、外務省は、今後、無償資金協力事業、円借款事業と各省庁が実施している技術協力事業との連携のためのシステムを構築していくことが望まれる。