ア 国会決議
イ 検査の内容
本院では、国会決議を踏まえ、債務救済対象国の範囲及びこれらの国々の債務の状況について調査した。そして、我が国は、これらの国々に対し、国際的な枠組みによる債務の繰延べを行うとともに、債務救済無償資金協力という方式による債務救済措置を執っているので、これらの措置の概要を調査し、併せて外務省において、債務救済措置について国民の理解及び協力を得るためどのような取組みを行っているか検査した。
また、債務救済措置により債務国に生ずる返済の要のない資金については、国際的な枠組みにより使途が監視されているばかりでなく、我が国も債務救済無償資金協力の仕組みを通じて監視を行うこととしている。本院では、これらの資金使途の監視方法について調査するとともに、近年供与された債務救済無償資金協力において十分な監視が行われているか検査した。
ア 重債務貧困国の概念
重債務貧困国(Heavily Indebted Poor Countries。HIPC)とは、世界で最も貧しく重い債務を負っている開発途上国のことをいい、貧困度及び債務の深刻度に関する基準に従い、世界銀行及び国際通貨基金(International Monetary Fund。IMF。以下、世界銀行とIMFを併せて「世銀等」という。)により認定される。
世銀等は、以下の要件を満たす国を重債務貧困国と認定している。
〔1〕 世界銀行を構成する国際復興開発銀行と国際開発協会のうち、国際開発協会からの融資のみ受けられる国
〔2〕 債務残高の現在価値が年間輸出額の1.5倍以上であるなど、既存の債務救済措置を実行しても債務の返済を継続して行っていくことが困難な国
重債務貧困国と認定された国は、平成8年においては41箇国であった。その後、このうち2箇国が上記の基準に該当しないこととなる一方、新たに2箇国が該当することとなったため、12年9月現在41箇国となっている。
これを地域別に示すと次のとおりである。
●中近東アフリカ地域:34箇国
イエメン アンゴラ ウガンダ エティオピア ガーナ カメルーン
ガンビア ギニア ギニア・ビサオ ケニア コンゴー
コンゴー民主共和国 サントメ・プリンシペ ザンビア シエラ・レオーネ
スーダン セネガル 象牙海岸 ソマリア タンザニア チャード
中央アフリカ トーゴー ニジェール ブルキナ・ファソ ブルンディ
ベナン マダガスカル マラウイ マリ モーリタニア モザンビーク
リベリア ルワンダ
●中南米地域:4箇国
ガイアナ ニカラグァ ボリヴィア ホンデュラス
●アジア地域:3箇国
ヴィエトナム ミャンマー ラオス
イ 重債務貧困国の債務
(債務状況全般)
重債務貧困国が負っている債務の総額は、8年時点で約1690億ドルであり、うち公的債務は約1490億ドル、民間債務は約200億ドルとなっている。
公的債務の内訳は、国際機関に対して負っている債務が約550億ドル、二国間関係において負っている債務が約940億ドルである。そして、公的債務のうちODAである有償資金協力による債務(以下「ODA債務」という。)は、国際機関に対して負っているものが約450億ドル、二国間関係において負っているものが約680億ドルである。
また、二国間関係において負っているODA債務のうち、G7諸国(主要先進7箇国)の占める額は、10年末において計約203億ドルとなっていて、約30%を占めている。その国別金額は、日本、フランス、ドイツ、アメリカ合衆国の順となっており、日本は約90億ドルでG7諸国全体の約44%である。
このように我が国に対するODA債務が多いのは、他のG7諸国が昭和60年代以降開発途上国に対する有償資金協力の大部分を無償資金協力に切り替えたのに対し、我が国は、世銀等と協調して構造調整プログラム(注1) を支援する低利融資を行うことなどにより、引き続き有償資金協力を行ってきたためである。
(我が国に対する債務の状況)
重債務貧困国が我が国に対して負うODA債務には、次の2種類がある。
〔1〕 銀行が、経済・社会開発又は経済安定のために必要な資金を長期かつ低利で融資した資金の返済に係るもの(以下「円借款債権」という。)
〔2〕 政府が、食糧援助の一環として、外国政府等に対する米穀の売渡しに関する暫定措置法(昭和45年法律第106号)に基づき、米穀を延払いの方法により売り渡した代金の支払に係るもの(以下「コメ延払債権」という。)
平成11年度末におけるこれらの債権残高を示すと次表のとおりである。
(単位:百万円) | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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(銀行及び農林水産省の資料による) |
これらのうち、11年度末において弁済期限を1年以上経過して延滞となっているものは、円借款債権では14箇国、計107件1610億余円、コメ延払債権では4箇国、計11件78億余円となっている。
ア パリ・クラブにおける従来の債務救済措置
被援助国に返済義務を課す長期低利借款は、被援助国の自助努力を支援するという我が国の援助の理念に合致するものであり、これまで多くの国がこうした借款を利用してきた。しかし、貧困に苦しむ開発途上国の中には、経済政策の失敗や政治的不安定、自然災害などが原因で深刻な債務問題に直面している国もある。これら開発途上国の債務問題については、従来から、国際連合や主要先進国首脳会議(サミット)の場において取り上げられ、国際的に相当規模の債務救済措置が実施されている。
特にODA債務を含む公的債務については、その繰延交渉を行う債権国会議(パリ・クラブ)の場において、昭和31年から、その返済の繰延べ(リスケジューリング)、再融資(リファイナンス)等につき、対外債務の返済が困難となった開発途上国と債権国との交渉が行われている。
このパリ・クラブにおける債務救済交渉では、初期の頃は各債務国の状況に応じて個別に債務救済策を検討していたが、債務国の債務救済要請が増加してきたこと、従来の債務救済策では構造的な資金ギャップを改善することが困難になってきたことなどから、債務救済のモデルスキームを作成し、対象となる債務国にそのスキームをどのように適用するかについて検討するようになってきた。
そして、63年9月に合意された「トロントスキーム」以降は、債務削減を伴う債務救済スキーム(注2)
が採られるようになっている。
ODA債務に関し、パリ・クラブで採られてきた主な債務救済スキームの概要は次表のとおりである。
スキーム名 | パリ・クラブでの合意年 | 債務 削減率 |
繰延期間 (うち据置期間) |
繰延べの対象となる債務 |
トロントスキーム | 昭和63年 | 33% | 25年 (14年) |
マチュリティベースの債務 |
ロンドンスキーム (新トロントスキーム) |
平成3年 | 50% | 30年 (12年) |
マチュリティベースの債務 (債務国の経済改革が順調に進ちょくしていれば、ストックベースの債務とすることを検討) |
ナポリスキーム | 平成6年 | 50% | 30年 (12年) |
マチュリティベースの債務 (債務国の経済改革が順調に進ちょくしていれば、ストックベースの債務とすることを検討) |
67% | 40年 (16年) |
<注1> | マチュリティベースの債務 債務国が構造調整プログラムを実施している期間(原則3年)に返済期限が到来する債務 |
<注2> | ストックベースの債務 一定時点において債務国が負っているすべての債務 |
<注3> | ナポリスキームにおいては、平成8年における一人当たり国民総生産が500ドル以下の国又は債務残高の現在価値を年間輸出額で除した値が3.5以上である国については、67%の削減となる措置を講ずることとしている。 |
イ 重債務貧困国を対象とするHIPCイニシアティブの下での措置
(ア)リヨンスキーム
世銀等は、重債務貧困国に係る債務救済措置に関して、平成7年から8年にかけて、これらの国々の債務を持続可能な水準(継続して返済していくことが可能な水準)まで引き下げるための枠組み(以下「HIPCイニシアティブ」という。)を検討していたが、8年6月にリヨンで行われたサミットにおける合意を受け、同年9月HIPCイニシアティブを承認した。そして、同年11月のパリ・クラブ会合において、これに基づく債務救済スキームが合意された(リヨンスキーム)。
リヨンスキームにおいては、国際機関に対する債務と二国間の非ODA債務についての債務救済措置が強化された。すなわち、国際機関に対する債務の救済については、先進援助国は、これを目的として設立された債務救済基金に対し拠出を行うこととされ、また、二国間の非ODA債務については、80%を上限として削減することとされた。そして、二国間のODA債務については、引き続きナポリスキームと同様67%の削減となる措置を講ずることとされた。
このリヨンスキームにおける二国間の債務救済の流れを、簡略化して図示すると次のとおりである。
(イ)ケルンスキーム
11年6月にケルンで行われたサミットにおいて、重債務貧困国の深刻な経済状況にかんがみ、リヨンスキームを、より早く、深く、広範な救済を行うために見直すこと、債務救済措置を重債務貧困国における貧困削減に資するものとしていくこと、及びG7諸国は自主的にこれらの国に対するODA債務の100%を削減することが合意された。そして、この合意を受け、同年9月、世銀等の年次総会において、HIPCイニシアティブが拡大され(拡大HIPCイニシアティブ。以下、特に必要な場合以外は単にHIPCイニシアティブという。)、同年11月のパリ・クラブ会合においてその詳細が合意された(ケルンスキーム)。
ケルンスキームにおいても、基本的な流れはリヨンスキームと同様であるが、より早く、深く、広範な救済を行うため、次のような変更が行われた。
○「より早い」救済
・構造調整改革が順調に行われている債務国については第2段階を短縮
○「より深く、広範な」救済
・G7諸国は様々な選択肢を通じてODA債務を100%削減
・非ODA債務の削減率を90%(必要に応じてそれ以上)に引き上げ
・債務の持続可能性の判断基準を引き下げ、債務救済措置の適用対象国を拡大
また、債務救済措置を「貧困削減」に資するものとするため、重債務貧困国に対し、「貧困削減戦略文書」(Poverty Reduction Strategy Paper。以下「PRSP」という。)と呼ばれるプログラムの作成・実施が要請されるようになった。そして、拡大HIPCイニシアティブによる債務救済措置を求めるすべての国が、原則として「決定時点」までに少なくともPRSPの骨子を作成し、「完了時点」までにPRSPを完成させる必要があるとされている。
(ウ)HIPCイニシアティブの進ちょく状況
「決定時点」及び「完了時点」に到達した重債務貧困国は、12年9月現在、次表のとおりとなっている。
\ | 決定時点に到達した国 | 完了時点に到達した国 |
リヨンスキーム | セネガル、象牙海岸、ベナン | ウガンダ、ブルキナ・ファソ、マリ、モザンビーク、ガイアナ、ボリヴィア |
ケルンスキーム | セネガル、タンザニア、ブルキナ・ファソ、ベナン、マリ、モーリタニア、モザンビーク、ボリヴィア、ホンデュラス | ウガンダ |
我が国では、パリ・クラブの枠組みの下で、又は無償資金協力により、円借款債権に係る債務救済措置を行ったり、重債務貧困国が世銀等に対して負う債務の救済を目的として設立された債務救済基金に対する拠出を行ったりしている。
ア パリ・クラブの枠組みによる債務救済措置
我が国は、パリ・クララの枠組みに基づき10年度までに計9530億余円の債務繰延べを実施しており、このうち重債務貧困国に対するものは計1732億余円となっている。
そして、11年度には、次表のとおり7箇国について債務繰延べに係る交換公文を締結している。
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<注> *は重債務貧困国に該当する国である。 |
このうち重債務貧困国に係るものは5箇国、計70億8115万余円となっているが、HIPCイニシアティブの下での措置を執ったのは、リヨンスキームにおける「決定時点」に到達した象牙海岸のみとなっている。
イ 債務救済無償資金協力による債務救済措置
我が国は、自助努力の支援を旨とする従来からの援助理念を踏まえ、債務救済に当たっては、被援助国側の主体的責任と自助努力を基本とするとの立場を採っている。そして、いわゆる債務の帳消し(棒引き)は行わないこととし、債務国に返済を求める一方、返済がなされた場合には原則として返済額と同額の無償資金を供与する債務救済無償資金協力を行っている。
この債務救済無償資金協力の概要は次のとおりである。
(ア)TDB無償
国際連合貿易開発会議(UNCTAD)の貿易開発理事会(TDB)において、昭和53年3月、後発開発途上国(Least among Less Developed Countries。LLDC)に対し先進援助国が過去の二国間政府援助の条件の調整又はその他同等の措置を執るよう努力するとの決議がなされた。
これを受け我が国では、52年度までに円借款の交換公文を締結していたLLDC11箇国及びオイル・ショックにより最も深刻な影響を受けた国(Most Seriously Affected Countries。以下「MSAC」という。)7箇国に対し、53年度から、各年度ごとに返済額を確認したうえ、LLDCについては元利合計額、MSACについては金利の調整額(53年当時に、約定利息を債務国にとってより有利な円借款供与条件で調整した場合の利差相当分)を上限としつつ、原則として返済額と同額の資金を無償で供与している(以下「TDB無償」という。)。
その後、平成元年度からは、昭和53年度以降62年度までに交換公文を締結した円借款についてもTDB無償の対象とされ、また、平成10年度にも対象債務や対象国が拡大されたため、11年度までにTDB無償の供与を受けた国は累計で29箇国、供与額は計3732億余円となっている。これを国別に示すと次表のとおりである。
(単位:百万円) | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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<注1> | *は重債務貧困国に該当する国である。 |
<注2> | ミャンマーは昭和62年度までMSACに該当していたが、63年度以降LLDCに該当する。 |
<注3> | ウガンダ、ギニア、タンザニア、マラウイ及びモーリタニアについては、平成10年度から、昭和63年度以降平成9年度までに交換公文が締結された円借款についてもTDB無償の対象となっている。 |
<注4> | マリ及びザンビアについては、平成10年度から新たにTDB無償の対象国となり、昭和63年度以降平成9年度までに交換公文が締結された円借款がTDB無償の対象となっている。 |
(イ)HIPCs無償
HIPCイニシアティブの下での債務救済措置については、前記のとおり、リヨンスキームにおいてODA債務につき引き続き現在価値に換算して67%の削減となる措置を講ずることとされたが、我が国は追加的な措置を講じている。
具体的には、「完了時点」に到達して繰延措置が執られた債務について、16年間の据置期間中は支払のあった利子と同額の資金を、また、据置期間経過後は返済のあった元利合計額の80%の資金を債務国に対し無償で供与することとしている(以下「HIPCs無償」という。)。
その後、HIPCイニシアティブが拡大され(ケルンスキーム)、ODA債務につき100%の削減を講ずることが合意されているが、我が国ではHIPCs無償を拡大して、据置期間経過後の資金供与額を返済のあった元利合計額と同額とすることにより、この合意に対応することとしている。
HIPCs無償については12年9月まで実績はないが、その理由は、重債務貧困国が我が国に対して負担するODA債務について、HIPCイニシアティブの「完了時点」に到達して繰延措置が執られた後に元利金の返済が開始されたものがないことによるものである。
ウ 債務救済基金に対する拠出
HIPCイニシアティブにおいては、世銀等を含む国際機関に対する債務についても救済措置が執られることとされており、世銀等には、これを実施するための債務救済基金が設置されている。この基金には、我が国のほかアメリカ合衆国、イギリス、フランスなど計23箇国が拠出しており、我が国は11年度までに計112億余円を拠出している。
(ODA白書等による取組み)
外務省では、開発途上国の債務問題に関し、「我が国の政府開発援助の実施状況に関する年次報告」、「我が国の政府開発援助 ODA白書」(以下「白書」という。)をはじめとする各種資料に記述することにより、国民の理解と協力を得るための説明を行っているとしている。
このうち、白書は、外務省において、我が国のODAに関する国民の理解と関心を深めることを目的として毎年発行しているものである。白書において重債務貧困国に対する債務問題がどのように取り上げられているか調査したところ次のとおりとなっていた。
すなわち、白書においては、10年以上前から、現在重債務貧困国と認定されている国を含めた開発途上国の累積債務問題に関する我が国の基本的考え方や取組み等が説明されている。また、重債務貧困国の債務救済に関しては、8年に世銀等により重債務貧困国の認定がなされたことから、8年版の白書において初めて取り上げられている。
そして、11年版の白書においては、「重債務貧困国問題への取組み」という節が設けられ、重債務貧困国の債務問題に関する我が国の基本的考え方について、次のように従来よりも具体的な説明がされている。
〔1〕 債務問題に関する我が国のこれまでの取組みとして、国際的枠組みの下での措置やTDB無償の供与のほか、世銀等国際機関に設置されている債務救済基金への拠出等の債務救済措置について説明されている。
〔2〕 HIPCイニシアティブに関する我が国の立場、すなわち重債務貧困国の主体的責任と自助努力を基本とし、安易な救済措置の適用は行わないこと、また、債務の帳消しは行わず債務救済無償資金協力を行うことなどが説明されている。
〔3〕 モラルハザードの問題に留意し、債務救済措置を行った後は新規借款の供与は原則として行わないこと、債務救済により債務国において利用可能となる資金は貧困緩和や教育、保健等の社会開発に活用されるべきこと、債務救済に係る債権国間の負担の公平性の確保が重要であることなどについても言及されている。
(その他の取組み)
外務省では、白書等の各種資料による取組みのほか、ホームページ、新聞、テレビ等の媒体を通じた広報を行っている。また、NGOとの協議会等において重債務貧困国の債務問題の現状や政府の立場などについての講演・説明を行っている。
ア 資金使途の監視の仕組み
(ア)国際機関を通じた監視
債務救済措置を講ずることにより、債務国側は、返済に充てることとされていた資金の一部を他の用途に充てることができるようになる。そして、この資金については、軍事費に充てられたりせず、貧困対策、教育、保健等の社会開発分野に投入されるのが望ましいと一般に考えられており、世銀等の国際機関を通じて、債務国側にそのための努力を促したり、その使途を監視する仕組みが設けられたりしている。
対外債務の返済が困難となった開発途上国が国際的な枠組みによる債務救済措置を受ける場合には、前記のとおり、世銀等の支援による構造調整プログラムに基づく構造調整改革を実施することが必要となっている。
他方、世銀等では、従来から、開発途上国に対し、国際収支の改善等を目的とした融資を行っており、開発途上国がその融資を受ける場合には、同様に構造調整プログラムに基づく構造調整改革を実施することが必要となっている。そして、世銀等は、構造調整改革の実施状況を監視し、その結果に基づいて融資の可否を判断しているが、我が国は国際的な枠組みによる債務救済措置を行うに際し、その対象となる債務の範囲を、世銀等が低利融資の貸付実行を承認することを条件にして決定することにより、世銀等の監視結果を債務救済措置に反映させることとしている。世銀等の監視は債務国の財政状況を含むマクロ経済等全般について行われるものであるから、債務救済措置により債務国側に生じた返済の要のない資金の使途についても監視の対象となっている。
そして、11年6月にケルンで行われたサミット等を通じ、PRSPの作成・実施が拡大HIPCイニシアティブの適用を受ける条件とされ、債務救済措置により債務国側に生じた返済の要のない資金の使途の監視の仕組みは、一層強化されることとなった。
(イ)債務救済無償資金協力における監視
債務救済無償資金協力の実施に当たり我が国と相手国との間で締結される交換公文及び附属文書においては、供与された資金の使途を相手国の経済開発と国民の福祉の向上に寄与するものに限定するとともに、その使途を我が国に報告することが定められている。
すなわち、相手国は、資金が供与されたときから合理的な期間(通常2年)内に、経済開発と国民の福祉の向上に寄与するものとして我が国との間で合意されたリストに記載された物品を調達適格国から輸入し、その代金を我が国から供与された資金及びそれから生ずる利子(以下「贈与金等」という。)により支払うこととされている。そして、贈与金等をすべて使用したとき又は我が国から要請があったときは、年度別に、調達実績(品目、調達相手国、購入金額)を記載した報告書に関係書類を添付して我が国に提出することとされている。
この債務救済無償資金協力による資金の供与及び報告等の手続を図示すると次のとおりであり、債務国側から債務の返済があったことを確認した上で資金を供与することとされている。プロジェクトを対象とした資金協力の場合には、契約の認証の手続により供与された資金の使途を確認することができるが、債務救済無償資金協力の場合には契約の認証手続がないため、上記のとおり報告書を提出させ、資金使途を確認することとなっている。
イ 資金使途の監視状況
(ア)国際機関を通じた監視
前記のとおり、我が国は国際的な枠組みによる債務救済措置を行うに際し、その対象となる債務の範囲を、監視結果を考慮してIMFが低利融資の貸付実行を承認することなどを条件にして決定することにより、世銀等の監視の結果を債務救済措置に反映させることとしており、国際機関を通じて資金使途の監視を行っている。
この条件の例として、11年度に実施した債務の繰延べにおけるものを示すと次のとおりである。
外務省告示第488号(平成11年11月30日)抜粋 平成11年6月18日にアビジャンで、債務救済措置に関する次の書簡の交換が象牙海岸共和国政府との間に行われた。
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<注1> | 拡大構造調整措置とは、IMFの低利融資制度の一つで、低開発途上国がマクロ経済調整政策や構造調整政策を実施することと引き替えに国際収支の改善を支援するものである。 |
<注2> | アンダーラインは本院において付したものである。 |
そして、このような条件を付した債務の繰延べは今後とも引き続いて実施されるものであり、債務救済措置により債務国側に生じた返済の必要のない資金が社会開発分野等に適切に投入されることを我が国として間接的に監視するものと認められる。
(イ)債務救済無償資金協力における監視
外務省では、債務救済無償資金協力により供与された資金の使途を限定した上で、その実績を報告させることにより監視を行うこととしている。
この監視の方法は、供与された資金等が債務国の経済開発と国民の福祉の向上のために活用されることを確保する上で有効なものと考えられる。
そこで、本院では、債務救済無償資金協力における資金使途の監視が十分に行われているかについて、交換公文等により相手国が提出することとなっている報告書の提出状況に着眼して検査した。
交換公文等により資金等を使用すべき合理的な期間とされている2年間が既に経過しているもののうち、6年度から9年度までに供与した債務救済無償資金協力(TDB無償)について検査したところ、報告書の提出状況は次表のとおりとなっていた。
年度
\ 態様等
|
6 | 7 | 8 | 9 | |
債務救済無償資金協力供与国数 | 19 | 17 | 16 | 14 | |
報告書の提出があった国数 | 4 | 5 | 5 | 3 | |
うち供与額全額について報告があった国数 | 2 | 2 | 2 | 3 | |
うち中間報告があった国数 | 2 | 3 | 3 | - | |
報告書が提出されていない国数 | 15 | 12 | 11 | 11 |
そして、これらの国の実数は20箇国となっているが、国別にみると、毎回報告書が提出されているのは2箇国にすぎず、一回も提出されていない国が14箇国(うち重債務貧困国に該当する国は10箇国)となっていた。
このような事態は、主として相手国の事情によるものであり、外務省では在外公館を通じて報告書の提出を督促している。
しかし、国会決議において資金使途の監視を強化することが求められていることにかんがみ、報告書の提出が励行されるようにするため、更に督促するなどして監視の実効性を高める要があると認められる。
重債務貧困国に対する債務救済に関しては、従来から国際連合やサミットの場で取り上げられてきており、12年7月に我が国で行われた九州・沖縄サミットにおいても、ケルンスキームの早急な実施を求める合意などがなされている。このような国際的な取組みの下、今後、ケルンスキームの完了時点に到達する国が増加することが見込まれており、我が国は引き続き開発途上国の債務問題に取り組んでいくことが求められている。
今回、本院が検査を行ったところ、外務省において、債務問題に関する国民の理解と協力を得るための一定の取組みが行われており、また、債務救済措置により債務国側に生ずる返済の要のない資金の使途については、その監視を行うための仕組みが設けられていた。
しかしながら、債務救済無償資金協力に係る資金使途の監視の実施状況についてみると、相手国からの報告書が提出されておらず資金の使途が明らかにされていないものが多いことから、外務省においては、資金使途の監視のための取組みを今後より一層強化する要がある。