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  • 意見を表示し又は処置を要求した事項

大学病院における診療報酬請求に係る事務処理体制について、その整備を図るよう改善の意見を表示したもの


(1)大学病院における診療報酬請求に係る事務処理体制について、その整備を図るよう改善の意見を表示したもの

会計名及び科目 国立学校特別会計 (款)附属病院収入 (項)附属病院収入
部局等の名称 北海道大学ほか11大学(12大学病院)
請求不足となっていた診療報酬 手術料、麻酔料、入院料等など
請求不足額 7081万円(平成12年度)

【改善の意見表示の全文】

   大学病院における診療報酬請求に係る事務処理体制について

(平成13年11月22日付け 文部科学大臣あて)

 標記について、会計検査院法第36条の規定により、下記のとおり改善の意見を表示する。

1 診療報酬請求事務の概要等

(診療報酬の概要)

 貴省では、国立学校設置法(昭和24年法律第150号)等に基づき、国立大学の医学部等に附属する病院(以下「大学病院」という。)を設置している。大学病院では、臨床医学の教育・研究を行うほか、保険医療機関として患者の診療を行っている。
 保険医療機関は、「健康保険法の規定による療養に要する費用の額の算定方法」(平成6年厚生省告示第54号。以下「厚生省告示」という。)等により、診療報酬として医療に要する費用を所定の診療点数に単価(10円)を乗ずるなどして算定することとなっている。そして健康保険法(大正11年法律第70号)等により、診療報酬のうち患者負担分を患者に請求し、残りの診療報酬については、診療報酬請求書に診療報酬の明細を明らかにした診療報酬明細書(以下「レセプト」という。)を添付して社会保険診療報酬支払基金等に対して請求することとなっている。
 診療報酬は、厚生省告示により定められていて、基本診療料と特掲診療料から構成されている。そして、基本診療料については、初・再診料のほか、入院基本料、患者の状態等に応じて定められた所定の診療点数に、入院日数を乗ずるなどして得られる入院基本料加算等の入院料等を算定することとなっている。また、特掲診療料については、具体的な診療行為ごとに定められた所定の点数、手術、麻酔等の実施時間、使用した器材等に応じて定められている加算項目に係る所定の点数、使用した特定保険医療材料等(注1) について、購入価格等に基づく点数を合算するなどして算定することとなっている。
 そして、保険医療機関では、毎月、患者ごとに、診療行為、加算項目及び特定保険医療材料等並びにこれらの診療点数等を記載したレセプトを作成し、診療報酬を請求している。

特定保険医療材料 手術等の所定点数に併せてその費用を算定することができるものとして厚生大臣が定めている保険医療材料

(大学病院における診療報酬の請求事務)

 大学病院では、これらの診療報酬請求事務をそれぞれのコンピュータシステムにより処理している。すなわち、次のようにして診療報酬請求事務が行われる。
〔1〕 保険医療材料を購入する調達部門において、診療報酬の請求に必要な特定保険医療材料等の価格等のデータを価格改定時等に料金算定部門に送付する。そして、料金算定部門においては、これを各診療行為、加算項目、特定保険医療材料等のデータにコード番号を付与したデータファイル(以下「医事マスタ」という。)に登録する。
〔2〕 診療部門において、実施した検査、手術等の診療行為の名称、加算項目の名称、使用した特定保険医療材料名等を各大学病院が作成している所定の用紙(以下「伝票」という。)に記載するなどして料金算定部門に送付する。
〔3〕 料金算定部門において、傷病名、入院日数等の患者の基礎的データをコンピュータに入力するとともに、〔2〕により送付された伝票の記載内容等を、各診療行為、加算項目、特定保険医療材料等については、そのコード番号により入力する。
〔4〕 料金算定部門において、〔3〕で入力された伝票の記載内容等及びこれに対応する点数等が記載されたレセプトを出力する。
〔5〕 診療部門及び料金算定部門において、〔4〕により出力されたレセプトを点検し、必要に応じて修正を行う。
〔6〕 診療報酬請求書にレセプトを添付し、社会保険診療報酬支払基金等に対して請求する。

(診療報酬請求不足の状況)

 大学病院における入院患者に係る診療報酬の請求内容は多岐にわたっており、その額も多額に上っている。そして、これに係る請求不足の事態については平成6年度決算検査報告に掲記して以降、毎年次の大学病院の検査に当たって、新たな項目を加えつつ多様な項目に着眼して継続的に検査を実施しているが、請求不足額は減少する傾向にあるものの、なお多額となっており、また、大学病院間でその額に相当の開差を生じている。本年次においても、12年度の診療報酬の請求について検査した結果、北海道大学ほか11大学の12大学病院(注2) において、診療報酬請求額が不足していたものが3,746件、7081万余円見受けられたところである。
 上記の本院の検査結果において、これまでの主な請求不足は、手術における手技料・加算、使用した特定保険医療材料、麻酔における加算及び入院基本料加算の算定漏れ、算定誤りなどであった。また、その発生原因は、主に診療部門における伝票への記載漏れや記載誤り、料金算定部門におけるコンピュータヘの入力漏れや入力誤り、特定保険医療材料の医事マスタの登録内容の誤り、診療・料金算定部門間の連絡体制の不備であった。

2 本院の検査結果

(検査の着眼点)

 これまでの請求不足の発生原因を踏まえると、伝票の記載内容、コンピュータヘの入力内容、医事マスタの登録内容の正確性を確保するため、審査体制を整備し、部門間の連絡体制を充実させることが請求不足の事態を防ぐうえで重要であると認められた。そこで、診療報酬請求に係る事務処理体制を改善できないかに着眼して、前記12大学病院における伝票記載内容、コンピュータヘの入力内容及び医事マスタの登録内容の審査体制並びに部門間の連絡体制を中心に、各大学病院間で比較するなどの方法により検査した。

(検査の結果)

 検査したところ、前記診療報酬請求額の不足が見受けられた12大学病院において、事務処理体制が十分でない事態が次のとおり見受けられた。

(1)伝票の記載内容の審査について

 診療部門で作成された伝票の記載内容の正確性を確保するためには、その審査が重要である。そのために、料金算定部門において、伝票に記載された手術の方式、加算項目、特定保険医療材料名等と、診療部門において手術中に記載された看護記録、麻酔記録等との照合を行っている大学病院もある。しかし、前記12大学病院のうち5大学病院(注3) では、このような照合を行っていなかった。

(2)コンピュータヘの入力内容の審査について

 診療部門から送付された伝票の記載内容に基づき、料金算定部門でコンピュータに入力された入力内容の正確性を確保するためには、その審査が重要である。そのために、料金算定部門において、入力担当者以外の者が伝票類と入力内容との照合を行っている大学病院もある。しかし、前記12大学病院のうち4大学病院(注4) では、このような照合を行っていなかった。

(3)特定保険医療材料に係る医事マスタの登録内容の審査について

 レセプトの作成に当たっては、コード番号を伝票の記載内容に基づいてコンピュータに入力することから、調達部門からデータの送付を受け、料金算定部門で登録した特定保険医療材料に係る医事マスタの登録内容が、使用時の価格、規格等に対応したものとなっていることが重要である。そのために、医事マスタの特定保険医療材料の価格、規格等について、その改定時等必要に応じて点検を行っている大学病院もある。しかし、前記12大学病院のうち7大学病院(注5) では、このような点検を行っていなかった。

(4)入院基本料加算に係る診療・料金算定部門間の連絡体制について

 入院基本料加算は、患者の主病名、状態等が算定要件を満たした場合に加算が可能になるものである。この加算については、患者の状態について料金算定部門で把握しにくいことから、それを把握している診療部門から料金算定部門への連絡体制が特に重要である。そのために、処置伝票等に事前に加算項目名を印刷するなどし、加算すべき患者についての連絡が料金算定部門に確実に行われる体制を整備している大学病院もある。しかし、前記12大学病院のうち6大学病院(注6) では、このような体制を整備していなかった。

(改善を必要とする事態)

 貴省においては、これまでの本院の請求不足の指摘を踏まえ、毎年、各大学病院の料金算定部門等の職員の資質の向上を図ることを目的として国立大学病院医療保険事務研修会等の研修を大学に実施させたり、注意喚起の通達を発して各大学病院に対する指導を行っているところである。また、各大学病院においても、診療部門、料金算定部門等で研修等を実施したり、各大学病院それぞれの方法で診療報酬請求事務に関して改善を図るなどの見直しを行ってきており、事務処理体制が比較的整っている大学病院がある。
 しかし、その事務処理体制が十分でないと認められる大学病院も少なからず見受けられ、これがひいては多額の請求不足の事態が続く原因にもなっていると認められることから、改善の必要があると認められる。

(発生原因)

 このような事態が生じているのは、診療報酬の内容が複雑になっていることなどにもよるが、各大学病院において、診療報酬請求に係る事務処理体制の整備についての検討が十分でなかったことなどによると認められる。

3 本院が表示する改善の意見

 大学病院は、地域医療の中核として医療供給の中心的役割を果たしており、診療報酬請求は今後とも継続して行われ、その内容は多岐にわたり、その額も多額に上ると見込まれる。
 また、国立学校特別会計においては、一般会計からの繰人額等が毎年度多額に上っていることから、大学病院における適正な収入の確保も強く求められており、診療報酬請求事務をより適切に行う必要がある。他方、各大学病院においては、その規模等の状況が異なることから、それぞれの大学における事情に即して事務処理体制を整備せざるを得ない面もある。
 ついては、診療報酬請求に係る事務処理体制の整備が十分図られるよう、貴省において、参考となる多様な事例を各大学病院に示すなどして、各大学病院において、適切かつ有効な事務処理体制を検討させるため、より一層の指導を行い、もって診療報酬請求の適正を期する要があると認められる。

(注2) 北海道大学ほか11大学の12大学病院 北海道、群馬、東京、新潟、山梨医科、名古屋、滋賀医科、大阪、広島、九州、佐賀医科、大分医科各大学医学部附属病院
(注3) 5大学病院 新潟、山梨医科、滋賀医科、広島、大分医科各大学医学部附属病院
(注4) 4大学病院 北海道、群馬、山梨医科、広島各大学医学部附属病院
(注5) 7大学病院 東京、新潟、山梨医科、大阪、広島、九州、佐賀医科各大学医学部附属病院
(注6) 6大学病院 群馬、新潟、山梨医科、名古屋、九州、大分医科各大学医学部附属病院