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  • 平成12年度|
  • 第3章 個別の検査結果|
  • 第1節 省庁別の検査結果|
  • 第8 厚生労働省|
  • 意見を表示し又は処置を要求した事項

雇用保険の求職者給付等の支給に当たり、労働者災害補償保険の休業補償給付等の情報を活用することにより、支給の適正化を図るよう是正改善の処置を要求したもの


(1)雇用保険の求職者給付等の支給に当たり、労働者災害補償保険の休業補償給付等の情報を活用することにより、支給の適正化を図るよう是正改善の処置を要求したもの

会計名及び科目 労働保険特別会計(雇用勘定) (項)失業等給付費
部局等の名称 千葉労働局ほか5労働局(平成12年度以降の支給庁)
東京都ほか7府県(平成11年度以前の支給庁)
三沢公共職業安定所ほか12公共職業安定所(支給決定庁)
支給の根拠 雇用保険法(昭和49年法律第116号)
求職者給付等の内容 労働の意思及び能力を有するにもかかわらず、職業に就くことができない状態にある者などに対して支給される求職者給付及び就職促進給付
支給の相手方 19人
求職者給付等の支給額の合計 1950万余円 (平成10年度〜12年度)
不適正支給額 1591万円 (平成10年度〜12年度)

【是正改善の処置要求の全文】

   休業補償給付等の受給者に係る求職者給付等の支給について

(平成13年11月20日付け 厚生労働大臣あて)

 標記について、会計検査院法第34条の規定により、下記のとおり是正改善の処置を要求する。

1 制度の概要

(雇用保険及び労働者災害補償保険)

 貴省では、雇用保険法(昭和49年法律第116号)に基づき、労働者が失業した場合に必要な給付などを行う雇用保険、及び労働者災害補償保険法(昭和22年法律第50号)に基づき、業務上の事由又は通勤による労働者の負傷、疾病等に対して必要な保険給付などを行う労働者災害補償保険(以下「労災保険」という。)を管掌している。

(雇用保険における失業等給付金)

 雇用保険における失業等給付金の中には、被保険者が離職し、労働の意思及び能力を有するにもかかわらず、職業に就くことができない状態にある者などに対して支給される基本手当、傷病手当、高年齢求職者給付金、特例一時金等の求職者給付及び再就職手当等の就職促進給付(以下「求職者給付等」という。)がある。
 求職者給付等は、公共職業安定所において、その受給資格があると決定された者(以下「受給資格者」という。)から提出された失業認定申告書等に記載されている就職の有無などの事実について確認し、受給資格者が実際に失業している日について失業の認定を行うなどして支給決定し、都道府県労働局(平成11年度以前は都道府県。以下同じ。)が支給することとなっている。
 12年度における求職者給付等の受給者数は約300万人、支給実績額は2兆3402億余円に上っている。

(労災保険における保険給付)

 労災保険における保険給付の中には、労働者が負傷又は疾病による療養のため労働することができないとして、保険給付を受ける権利がある者(以下「受給権者」という。)に対して支給される休業補償給付及び休業給付(以下「休業補償給付等」という。)がある。
 休業補償給付等は、労働基準監督署において、受給権者から提出された休業補償給付支給請求書等に記載されている傷病年月日、雇入年月日、療養のため労働することができなかった期間等について確認するなどして、受給権者が実際に賃金を受けていない日について支給することとなっている。
 12年度における休業補償給付等の受給者数は約21万人、支給実績額は1276億余円に上っている。

(雇用保険における給付の制限)

 公共職業安定所では、求職者給付等の受給資格の決定及び失業の認定などに当たり、次のように、労災保険の休業補償給付等の受給の有無を確認し、取り扱うこととしている。

ア 受給資格決定及び失業の認定

 求職者給付等の受給資格者から提出された離職票の離職理由欄、賃金欄等への記載内容や本人への質問等により休業補償給付等の受給の有無を確認する。そして、休業補償給付等を受けていることが判明した場合には、一般に就労できる状態にないことから、その間の受給資格の決定及び失業の認定を行わない。

イ 給付金の回収等

 労災保険の休業補償給付等を受けている者に対して求職者給付等を重複して支給している事実を発見した場合には、求職者給付等の給付金を回収するとともに、受給者による不正の事実に基づくものであれば、不正受給処分を行う。

2 本院の検査結果

(検査の着眼点)

 雇用保険の求職者給付等について、貴省が所管する都道府県労働局、公共職業安定所、労働基準監督署等の各機関が連携し、労災保険の休業補償給付等の状況や休業補償給付支給請求書等に記載された雇入年月日を確認するなどして適正な支給を行っているかに着眼して検査した。

(検査の対象及び方法)

 検査に当たっては、まず、労災保険について埼玉労働局ほか6労働局(11年度以前は都道府県労働基準局)管内の川口労働基準監督署ほか9労働基準監督署(注1) において、11、12両年度に休業補償給付等を支給した33,322人の中から1,019人を無作為に抽出した。そして、都道府県労働局における求職者給付等の支給実績と突合して支給の有無を調査し、さらに、公共職業安定所において、求職者給付等の支給決定の適否を検査した。

(検査の結果)

 検査したところ、上記の1,019人のうち、求職者給付等を受給したことがある者が179人おり、このうち千葉労働局ほか5労働局及び東京都ほか7府県(注2) (支給決定庁三沢公共職業安定所ほか12公共職業安定所(注3) )が19人に対して支給した求職者給付等19,509,940円のうち15,918,410円が適正に支給されていなかった。
 これを態様別に示すと次のとおりである。

ア 療養のため休業補償給付等を受給していて就労できる状態にないのに、その期間中に求職者給付等を支給していたもの

大宮ほか6公共職業安定所 不適正受給者 10人 不適正支給額 11,343,320円

 これら10人はいずれも業務上の事由又は通勤による負傷又は疾病による療養のために休業補償給付等の支給を受けていて、この期間は就労できる状態になかった。
 したがって、上記の各公共職業安定所は求職者給付等を支給決定すべきではなく、求職者給付等11,343,320円(基本手当9,321,760円、高年齢求職者給付金等2,021,560円)が適正に支給されていなかった。

イ 公共職業安定所に再就職の事実を申告せず求職者給付等を受給していた者が、その後負傷するなどして休業補償給付等を受給する際に労働基準監督署に再就職の事実を届け出ているのに、求職者給付等の返還の措置が執られていないもの

三沢ほか6公共職業安定所 不適正受給者 9人 不適正支給額 4,575,090円

 これら9人は、既に再就職していたのに、公共職業安定所における失業の認定等の際にその事実を申告せず、求職者給付等4,575,090円(基本手当3,958,340円、高年齢求職者給付金等616,750円)を受給していた。その後、9人は、いずれも、再就職先の事業所において発生した業務上の事由による負傷のため労働基準監督署から休業補償給付等を受給していた。
 しかし、労働基準監督署に提出された休業補償給付支給請求書に記載されている雇入年月日等の情報を公共職業安定所で活用する体制がとられていなかったため、求職者給付等を返還させる措置が執られていなかった。

(是正改善を必要とする事態)

 上記のような事態は、求職者給付等の支給が適正に行われていないもので適切とは認められない。そして、休業補償給付等の全体の受給者数から見れば、今回検査対象としたのは極めてわずかな数であり、上記のような事態は相当な件数に上っていると見込まれ、また、今後とも同種事態が発生するおそれがあることから、早急に是正改善を図る必要があると認められる。

(発生原因)

 このような事態が生じているのは、主として次のことによると認められる。
(ア) 公共職業安定所において、受給資格の決定及び失業の認定時における労働能力の有無の確認等の取扱いが徹底されておらず、また、労災保険において休業補償給付等が支給されていることを把握できる体制が整備されていないこと
(イ)労働基準監督署に提出された休業補償給付等の支給請求書に記載されている雇入年月日等の情報を、公共職業安定所において活用できる体制が整備されていないこと

3 本院が要求する是正改善の処置

 労災保険及び雇用保険は、一定の範囲の事業主あるいは労働者を強制的に保険に加入させることにより、被災労働者や失業者を救済しようとする社会的連帯のシステムであり、その執行に当たっては、公正を維持することが極めて重要である。
 ついては、貴省において、前記のような不適正な支給を防止するため、受給資格者に対し制度の周知徹底を図るとともに、支給等の適正化を図るため次のような処置を講じる要があると認められる。
(ア) 公共職業安定所に対し、受給資格の決定及び失業の認定時における取扱いを徹底させること
(イ)都道府県労働局、公共職業安定所及び労働基準監督署間の連携を図り、労働基準監督署が保有する休業補償給付等の給付履歴や請求時の雇入年月日等の情報を公共職業安定所が活用できるよう体制を整備すること

(注1) 川口労働基準監督署ほか9労働基準監督署 川口、千葉、船橋、新宿、池袋、大阪中央、北大阪、姫路、徳島及び福岡中央各労働基準監督署
(注2) 千葉労働局ほか5労働局及び東京都ほか7府県 千葉、東京、大阪、兵庫、徳島及び福岡労働局並びに東京都、大阪府、青森、埼玉、千葉、兵庫、徳島及び福岡各県
(注3) 三沢公共職業安定所ほか12公共職業安定所 三沢、大宮、千葉、市川、船橋、王子、足立、大阪西、枚方、加古川、姫路南、徳島及び福岡南各公共職業安定所