会計名及び科目 | 農業経営基盤強化措置特別会計 (項)農地保有合理化促進対策費 |
部局等の名称 | 農林水産本省、東北、関東、北陸、東海、近畿、中国四国、九州各農政局 |
補助の根拠 | 予算補助 |
補助事業 | 農用地利用調整特別及び農地流動化地域総合推進 |
補助事業の概要 | 農用地の流動化を推進しその利用集積を図ることを目的として、農用地に関する利用権の設定、農作業の受委託等に関する情報の把握、管理、活用により徹底した農用地の利用調整等を一体的に推進するなどの事業 |
検査実施補助事業者 | 道県17 |
検査実施間接補助事業者 (事業主体) |
市43、町86、村34、計163市町村 |
事業費 | 9億4355万余円(平成11、12両年度) |
上記に対する国庫補助金交付額 | 4億6396万余円 |
目的に添わない事態があった間接補助事業者 | 市43、町85、村34、計162市町村 |
上記事業者における事業費 | 9億4165万余円 | (平成11、12両年度) |
上記に対する国庫補助金交付額 | 4億6302万円 |
農用地の流動化を推進するための事業の実施について
(平成13年11月20日付け 農林水産大臣あて)
標記について、会計検査院法第36条の規定により、下記のとおり改善の意見を表示する。
記
1 施策の概要
貴省では、平成5年12月のウルグァイ・ラウンド農業合意の受入れに伴い、農業経営を取り巻く環境が変化することに対応するため、従来のペースを大幅に上回る農地の流動化を進め、効率的かつ安定的な農業経営を育成し、これらの農業経営が農業生産の相当部分を担うような農業構造を実現することを緊急課題としている。
そして、7年4月に「ウルグァイ・ラウンド農業合意関連農地流動化対策の基本方針」(平成7年7構改B第449号農林水産事務次官依命通達)を定め、ウルグァイ・ラウンド農業合意関連対策の一環として、12年までに効率的かつ安定的な農業経営に農地の過半を集積するため、農用地の流動化の推進体制の強化、各種関連施策の効果的な実施を図り、もって農用地の利用集積をこれまで以上に促進することとしている。
貴省では、上記の基本方針の下、農用地の流動化を推進しその利用集積を図るための各種の事業(以下「農地流動化関連事業」という。)を実施してきている。そして、その一環として、農用地に関する利用権の設定、農作業の受委託等に関する情報の収集・管理、農作業受委託の調整を含めた徹底した農用地の利用調整などを一体的に推進し、農用地の利用集積を図ることを目的として、7年度から12年度までの間に、農用地利用調整特別事業(以下「特別事業」という。)を実施している。
また、食料・農業・農村基本法(平成11年法律第106号)の制定に伴い、12年度から新たに、農用地の流動化に関する情報を共有し、利用集積面積等の目標を設定するとともに当該目標の達成に必要な事業の組合せ等の計画を作成し、それに基づいて農地流動化施策を総合的に実施する仕組みを整備することを目的として、農地流動化地域総合推進事業(以下「推進事業」という。)を実施している。
貴省では、これら両事業を市町村等を事業主体とする国庫補助事業として実施しており、事業の実施に必要な賃金、手当、需用費等を対象として国庫補助金を交付している。その11、12両年度における交付額は、特別事業で11年度29億6863万余円、12年度9億9731万余円、計39億6594万余円、また、推進事業で12年度19億0280万余円、合計58億6875万余円に上っている。
貴省では、特別事業の実施に当たり、農用地利用調整特別事業実施要綱(平成7年7構改B第450号農林水産事務次官依命通達)等を定めている。これによれば、市町村は、農用地に関する利用権の設定等の状況、現在の農用地の利用状況及び今後の農用地の利用計画の意向を把握するために、農業者に対して営農実態・意向調査(以下「意向調査」という。)を行うこととしている。そして、農地流動化情報台帳を作成し、これに農用地の利用調整を行うために必要となる、利用権の設定等による経営面積の拡大又は縮小を希望する農業者の氏名や農用地の所在地、面積などの情報を一元的に集約整理することとしている。
また、市町村は、当該市町村や農業委員会等の担当職員、集落の代表者等を構成員とする農用地利用調整計画策定会議(以下「策定会議」という。)を設置し、この策定会議において、意向調査の結果等に基づき、担い手(効率的かつ安定的な農業経営を営む、あるいは今後営むことが期待される農業者)に誰の農用地をどのように耕作してもらうかなどを内容とする農用地の利用調整計画(以下「利用調整計画」という。)を策定することとしている。そして、集落などごとに農地流動化推進員(以下「推進員」という。)を委嘱し、利用調整計画に基づいて、戸別訪問等により経営面積を拡大又は縮小する農業者の掘り起こしなどの利用調整活動を行わせ、その活動結果を「掘り起こし活動実績報告書」により報告させることとしている。この報告により、市町村は、推進員による利用調整活動の状況を把握し、その後の利用調整活動の方向付けを行うこととしている。
貴省では、推進事業の実施に当たり、農地流動化地域総合推進事業実施要綱(平成12年12構改B第193号農林水産事務次官依命通知)等を定めている。これによれば、市町村は、農地流動化関連事業を実施する市町村、農業委員会等の実務担当者等で構成する農地流動化対策円滑化プロジェクトチームを設置することとしている。そして、12年度からはこのプロジェクトチームが意向調査を行うこととし、農用地の流動化に関する情報を把握するとともに、今後流動化が予想される農用地の状況を分析し、農地流動化関連事業を実施する市町村等の実施団体がその情報及び分析結果を共有し得るよう、これらを農業者意向台帳(特別事業により作成してきた農地流動化情報台帳はこの台帳に置き換えられた。)により一元的に管理することとしている。
また、プロジェクトチームは、事業の選定や組合せ、実施団体の役割分担等を明確にした事業連携計画を作成し、農地流動化関連事業を総合的に実施することとしている。
なお、上記のように12年度から推進事業において意向調査及びその分析等を行うこととなったことから、12年度の特別事業においては、それ以外のこと、すなわち、意向調査の結果等に基づき利用調整計画を策定すること、推進員による利用調整活動を行わせ、その活動結果を利用調整活動実績報告書(従来の「掘り起こし活動実績報告書」はこの報告書に置き換えられた。)により報告させることを行うものとしている。
2 本院の検査結果
効率的かつ安定的な農業経営を育成し、これらの農業経営への農用地の利用集積を着実かつ加速的に推進していくためには、農業者一人一人の農業経営についての現状と今後の方向性を的確に把握し、この把握した情報等に基づいて利用調整計画を適切に策定するとともに、これを基にした推進員による効果的な利用調整活動が極めて重要である。
貴省では、ウルグァイ・ラウンド農業合意関連対策の中間評価において、農用地の担い手への利用集積の目標面積76万ha(全国の耕地面積の2分の1である 245万haと7年までの担い手への農用地利用集積面積169万haとの差)に対し、11年3月までの4年間の利用集積面積は35万ha(達成率46%)としている。また、12年3月まででは41万haとなっている。
そこで、農用地の流動化に関する情報を把握、管理、活用し、もって農用地の利用集積を図るという目的の達成に資するために実施されている特別事業及び推進事業が、各要綱等に基づいて適切に実施されているか、利用調整活動を実施するための態勢が整備されているか、そして、目的の達成に資するものとなっているかに着眼して検査した。
北海道ほか16県(注) において、11、12両年度に163市町村が事業主体となって実施した特別事業(11年度事業費4億9754万余円、これに係る国庫補助金2億4572万余円、12年度事業費1億6500万余円、これに係る国庫補助金8056万余円)及び推進事業(12年度事業費2億8100万余円、これに係る国庫補助金1億3768万円。特別事業と合わせた事業費計9億4355万余円、これに係る国庫補助金4億6396万余円)を対象に検査した。
検査したところ、上記の163市町村のうち162市町村が実施した両事業(特別事業の事業費6億6149万余円、これに係る国庫補助金3億2576万余円、推進事業の事業費2億8016万余円、これに係る国庫補助金1億3725万余円、計9億4165万余円、これに係る国庫補助金4億6302万余円)において、次のとおり、適切とは認められない事態が見受けられた。
(1)意向調査が適切に行われていないもの
160市町村
(ア)意向調査を行っていなかったり、意向調査は行ったものの、その結果を取りまとめていなかったりしていて、農業者一人一人の農用地に関する利用権の設定等及び今後の利用計画の意向を把握していないもの
30市町村
(イ)調査対象を一部の地区に限定していたり、回収率が低かったりなどしていて、意向の把握をしていない農業者が多数に上っているもの
82市町村
(ウ)農用地の貸付け又は借受け等を希望する農業者の氏名や農用地の所在地、面積についての調査項目を設けておらず、農業者一人一人の今後の利用計画に関する具体的な情報を把握していないもの
65市町村
(エ)経営面積の現状維持を希望すると回答した農業者については、将来の利用等に関する意志決定を促した上で、再度今後の経営面積の拡大又は縮小に関する意向を把握するものとされているのに、その意志確認を行っていないもの
140市町村
(2)意向調査の結果が適切に農業者意向台帳等に集約整理されていないもの
133市町村
(ア)農業者意向台帳等を作成しておらず、意向調査により得られる農用地の流動化に関する情報を管理できる態勢になっていないもの
76市町村
(イ)農業者意向台帳等は作成しているものの、農用地の貸付け又は借受け等を希望する旨の回答をした農業者の当該農用地の所在地、面積の記載欄を設けていなかったり、意向調査により得られた情報を記載していなかったりなどしていて、農業者の意向が台帳に反映されていないもの
57市町村
(3)利用調整計画が適切に策定されていないもの
141市町村
(ア)策定会議を設置していないことなどから、利用調整計画が策定されておらず、効果的な利用調整活動を実施する態勢が整備されていないもの
125市町村
(イ)利用調整計画は策定しているものの、意向調査により得られた情報が記載されていないなど、意向調査の結果が計画に十分反映されていないもの
16市町村
(4)推進員による利用調整活動が適切に行われていないもの
120市町村
(ア)推進員に対して利用調整計画が周知されていないなどしていて、利用調整計画に基づく効果的な利用調整活動が実施されていないもの
14市町村
(イ)推進員から利用調整活動実績報告書等を全く提出させておらず、今後の利用調整活動の方向付けを行うために必要となる活動の実態が把握できていないもの
118市町村
なお、検査を実施した163市町村の12年度における推進員4,121人のうち 3,429人(83%)は、市町村に利用調整活動実績報告書を提出していなかった。
上記のように、市町村において、農業者に対する意向調査等が適切に行われていなかったり、農用地の利用調整活動を実施する態勢が十分でなかったりなどしている事態は、農用地の流動化に関する情報を把握、管理、活用し、もって担い手への農用地の利用集積を図るという事業の目的に照らして適切とは認められず、改善の必要があると認められる。
このような事態が生じているのは、次のことなどによると認められる。
ア 市町村(事業主体)において
(ア)利用調整活動を行うための基礎となる農用地の流動化に関する情報を把握、管理、活用することが、農用地の利用集積を図るという目的の実現にとって極めて重要であることの認識が十分でないこと
(イ)利用調整活動の重要な役割を担う推進員に対して、事業の目的等を十分理解させるための指導・周知が図られていないこと
イ 道県において
市町村における事業の実施状況を的確に把握しておらず、また、市町村に対する指導等が十分でないこと
ウ 貴省において
意向調査や利用調整活動の意義、実施方法等についての道県に対する指導等が十分でないこと
3 本院が表示する改善の意見
貴省では、効率的かつ安定的な農業経営の育成を我が国の農業の持続的な発展を図る上での重要な施策として位置付けている。そして、食料・農業・農村基本法に基づく食料・農業・農村基本計画が策定され、農地流動化施策は、同基本法が目指す効率的かつ安定的な農業経営への農用地の利用集積を推進するための重要な施策として、今後ともその重要性は増していくものと思料される。この農地流動化施策を推進するためには、地域の実情等により困難な面があるとはいえ、農用地の流動化に関する情報の把握、管理、活用等の活動を着実に行っていくことが不可欠である。
ついては、前記の事態にかんがみ、貴省において、農用地の流動化を推進するための実施態勢が整備され、担い手への農用地の利用集積を図るという目的に資するものとなるよう、事業実施の在り方を含め、今後実施される事業について、その効果的な実施を期する要があると認められる。