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  • 平成12年度|
  • 第3章 個別の検査結果|
  • 第1節 省庁別の検査結果|
  • 第9 農林水産省|
  • 本院の指摘に基づき当局において改善の処置を講じた事項

特定高性能農業機械の導入に対する農業近代化資金の利子補給に当たって、農業経営の改善に資するものとするよう改善させたもの


(3)特定高性能農業機械の導入に対する農業近代化資金の利子補給に当たって、農業経営の改善に資するものとするよう改善させたもの

会計名及び科目 一般会計 (組織)農林水産本省 (項)農林漁業金融費
部局等の名称 農林水産本省、東北、関東、北陸、東海、近畿、中国四国、九州各農政局、沖縄開発庁沖縄総合事務局(平成13年1月6日以降は内閣府沖縄総合事務局)
補助の根拠 予算補助
補助事業者
(事業主体)
青森県ほか20県
補助金 農業近代化資金利子補給補助金
補助金の概要 農業者等の資本装備の高度化及び経営の近代化を図るため、農業近代化資金を貸し付ける農業協同組合等に利子補給する都道府県に対して交付するもの
事業効果が十分発現されていない利子補給金額 4億0341万円(平成元年〜10年度)
上記に対する国庫補助金相当額 2億0170万円

1 事業の概要

(農業機械化促進法と特定高性能農業機械の導入)

 農林水産省では、農業機械化促進法(昭和28年法律第252号。以下「促進法」という。)に基づき、特定高性能農業機械(注1) (以下「高性能機械」という。)の導入を促進するために資金の確保など必要な措置を講じている。その措置の一環として、高性能機械の導入が農業生産力の増進と農業経営の改善に寄与するものとなるよう、農業者等が高性能機械の導入に当たって目標とすべき標準的な基準を定め、その他の事項と併せて基本方針として公表している。この基準は、高性能機械の種類別に機械の大きさに対応した最小の利用規模(以下「利用面積の下限」という。)を定めたものである。
 基本方針を受けて、都道府県では、促進法に基づき高性能機械の導入に関する計画(以下「導入計画」という。)を定めている。導入計画の策定に当たっては、都道府県は、機械購入費、維持費等により高性能機械導入の損益分岐点(注2) となる面積を算出し、この面積と基本方針が定めた利用面積の下限、地域の事情などを考慮して利用面積の下限をそれぞれ独自に定めている。このように、農林水産省及び都道府県が利用面積の下限を示して一定の広さ以上の利用面積を確保するよう求めているのは、高性能機械の導入が、農業者等に生産性の向上と生産コストの低減をもたらし、もって農業生産力の増進と農業経営の改善に寄与することとなるようにするためである。

(導入に係る助成)

 促進法によると、農林水産省は、都道府県に対して高性能機械の導入に係る経費の補助その他適切な援助を行うよう努めるものとされており、また、援助を行うに当たっては、都道府県が定めた導入計画の達成に資することとなるように努めるものとされている。このことから、農林水産省では、都道府県に対して導入計画の策定内容について指導する際に、都道府県が高性能機械の導入に係る助成を行うに当たっては、高性能機械の利用面積が導入計画が定める利用面積の下限以上を確保するよう配慮することとしている。

(農業近代化資金制度)

 一方、農業機械の導入に係る助成については、補助事業、制度資金等各般の施策が講じられており、それらのうちの一つとして農業近代化資金(以下「近代化資金」という。)の制度がある。この制度は、農業近代化資金助成法(昭和36年法律第202号)に基づき、農業協同組合(以下「農協」という。)等の融資機関が、農業者等の資本装備の高度化及び農業経営の近代化に資するため、農業者等に対して農機具等の取得に必要な資金を貸し付けるものである。
 農林水産省では、その貸付けを円滑に行うため、都道府県が当該融資機関に対して利子補給する額の2分の1に相当する額を農業近代化資金利子補給補助金(以下「利子補給補助金」という。)として交付している。
 そして、都道府県では、農業近代化資金事務取扱要領等(以下「取扱要領等」という。)において貸付けの承認を行う基準として農業機械の利用面積などの条件を定め、これに基づき借入れを希望する農業者等からの利子補給承認申請書等を審査し、利子補給の諾否の決定を行っている。

2 検査の結果

(検査の着眼点)

 高性能機械の導入に係る近代化資金の貸付けは毎年度多額に上っており、それに係る利子補給補助金も毎年度多額に交付されている。このことから、高性能機械に係る近代化資金の貸付けが、都道府県が定めた導入計画に即したものとなっているか、導入に係る利子補給が農業経営の改善に資するものとなっているかなどに着眼して検査を実施した。

(検査の対象)

 青森県ほか22県(注3) が、平成8年度から10年度までの間に利子補給補助金の交付を受け、利子補給した高性能機械の導入に係る貸付け7,216件(貸付金額計207億9770万余円)について検査した。

(検査の結果)

 検査したところ、次のような事態が見受けられた。
(ア)取扱要領等において、導入計画が定める利用面積の下限に適合するよう配慮するとしているのに、実際は導入計画が定める利用面積の下限に満たないものに対しても貸付けの承認を行っていた県が青森県ほか11県(注4) あった。
(イ)取扱要領等において、導入計画が定める利用面積の下限を下回る面積を貸付けの承認の基準として定めるなど、導入計画が定める基準とは異なるものを設けていた県が秋田県ほか8県(注5) あった。
 これらの結果、上記の計21県における貸付け2,600件、貸付金額計66億8422万余円については、〔1〕導入された高性能機械の利用面積が、8年度から10年度までのいずれの年度においても、各県が定めていた導入計画の利用面積の下限に満たず、かつ、〔2〕利用面積の3年間の平均が、損益分岐点となる面積をも下回るものに対する貸付けとなっていた。
 上記の貸付けに係る利子補給金の元年から10年までの交付済額は4億0341万余円、これに係る利子補給補助金交付済額は2億0170万余円となっており、これらは農業経営の改善に資するものとはなっていなかった。なお、上記の貸付けについて償還期限までの利子補給金の交付予定額は5970万余円、これに係る利子補給補助金は2984万余円と見込まれている。
 上記の事態について、その一例を示すと次のとおりである。
<事例>
 A県では、B市在住の農業者がトラクタ(46馬力)の購入に必要な資金4,356,000円の一部としてC農協から借り入れた近代化資金3,000,000円に対し、農業者が負担する利子の軽減を目的として、7年から10 年までに利子補給金178,194円(利子補給補助金89,097円)をC農協に交付している。
 A県の導入計画によれば、トラクタ(46馬力)の利用面積の下限は15haとされている。
 しかし、農業者は、農業外収入が所得の大半を占める兼業農家であって、8年度から10年度までの3年間のトラクタの利用面積はいずれの年度も1.8haに過ぎず、導入計画が定めたトラクタの利用面積の下限(15ha)を大きく下回っており、損益分岐点となる面積(8.5ha)さえも下回っていた。
 これは、A県が、取扱要領等において、利用面積が1ha以上あれば近代化資金を貸し付けることができるとする導入計画と異なる基準を定めていたことによると認められた。

(発生原因)

 このような事態が生じていたのは、次のことなどによると認められた。
(ア)農林水産省において、都道府県に対して、高性能機械の利用面積が導入計画が定める利用面積の下限以上を確保するよう配慮することについて、周知徹底していなかったこと
(イ)県において、高性能機械に係る近代化資金の利子補給が、高性能機械の導入の目的である農業生産力の増進と農業経営の改善に寄与することとなるように交付していなかったこと

3 当局が講じた改善の処置

 上記についての本院の指摘に基づき、農林水産省では、13年10月に各農政局等に対して通知を発し、都道府県に対して導入計画に即して取扱要領等の見直し又は制定を行い、高性能機械に係る近代化資金の利子補給の承認に当たっては、農業生産力の増進と農業経営の改善を図るという制度の趣旨に即して、適切に運用することとする処置を講じた。

(注1) 特定高性能農業機械 25馬力以上の乗用型トラクタ、乗用型田植機等農業経営の改善のために計画的に導入を促進する必要があり、農業機械化促進法施行令(昭和40年政令第209号)で定める農業機械
(注2) 損益分岐点の面積 単位面積当たりの利用経費(機械の年間固定費及び変動費)が作業を請負にした場合の料金(作業請負料金)以下となる利用面積の最小面積で、次式により計算される。作業面積がこの面積を下回った場合は、機械を導入せず請負にした方が経済的となる。
特定高性能農業機械の導入に対する農業近代化資金の利子補給に当たって、農業経営の改善に資するものとするよう改善させたものの図1
(注3) 青森県ほか22県 青森、岩手、秋田、茨城、栃木、埼玉、新潟、岐阜、愛知、三重、兵庫、奈良、鳥取、広島、山口、徳島、香川、愛媛、高知、福岡、佐賀、宮崎、沖縄各県
(注4) 青森県ほか11県 青森、岩手、栃木、岐阜、愛知、広島、香川、高知、福岡、佐賀、宮崎、沖縄各県
(注5) 秋田県ほか8県 秋田、茨城、埼玉、新潟、三重、奈良、山口、徳島、愛媛各県