科目 | (項)高速道路建設費 |
部局等の名称 | 中部支社(平成13年1月31日以前は名古屋建設局)、関西支社(11年6月30日以前は大阪建設局)、静岡建設局 |
工事名 | 第二名神高速道路鈴鹿トンネル下り線工事ほか14工事 |
工事の概要 | 高速道路の建設工事の一環として、トンネル等を新設する工事 |
工事費 | 1375億3754万余円 |
請負人 | 鹿島建設株式会社・東急建設株式会社・不動建設株式会社第二名神高速道路鈴鹿トンネル下り線工事共同企業体ほか13共同企業体 |
契約 | 平成10年3月〜13年2月 一般競争契約、随意契約 |
給排水設備費の積算額 | 8972万余円 |
ずり処理費の積算額 | 4億8551万余円 |
合計 | 5億7523万余円 |
低減できた給排水設備費の積算額 | 4410万円 |
低減できたずり処理費の積算額 | 3390万円 |
合計 | 7800万円 |
1 工事の概要
日本道路公団(以下「公団」という。)では、平成12年度に、高速道路の建設工事の一環として、TBM(注1) で導坑(径4.5m及び5m)を掘削(以下「TBM工事」という。参考図参照)した後、所定の断面に切り広げて施工するトンネル工事を15工事(工事費総額1375億3754万余円)施行している。
TBMは、地山の岩盤を掘削する際に発生する摩擦熱の冷却等のために多量の水が必要となる。このため、本件各工事では、坑外からTBMまで送水するための給水設備として給水管と、TBMでの使用水及び地山の湧水を坑外へ排出するための排水設備として排水管(以下、給水管及び排水管を「給排水管」、これらに係る費用を「給排水設備費」という。)を導坑の下部等に並行して設置している。
また、TBMによる掘削に伴って生じるずりは、ベルトコンベア等によって坑外へ搬出してずり置場に仮置きし、これをバックホウでダンプトラックに積み込み、所定の盛土箇所等に運搬するなどして処理されている。
TBM工事(注2) に係る工事費の積算については、NATMによるトンネル工事(以下「NATM工事」という。参考図参照 )等を基に公団が作成したTBMに関する積算要領によることとしている。そして、本件各工事の給排水設備費及びずり処理費はこの要領に基づいて積算しており、給排水管の損料率及びずり積込作業の施工能力については、いずれもNATM工事の給排水管の損料率及びずり積込作業の歩掛かりを適用し、次のとおり算定していた。
(ア) 給排水管の損料率について
NATM工事の給排水管の損料率については、資材及びずりを運搬するための車両の行き違いの際の接触、給排水管の当該現場への運搬、設置及び工事完了後の撤去の際の落下等による損傷時に、給排水管をその都度交換することとしていることから、公団では実態調査に基づき、損傷による給排水管の交換間隔を16.7箇月とするなどして設定している。そして、本件各工事については、給排水管の損料率を0.122から1.0と算定していた。
(イ)ずり積込作業の施工能力について
ずり処理費の積算に適用する歩掛かりは、掘削する地山を固いものから順にB、C及びD地質(注3)
の3区分に分類していて、このB、C及びD地質のずりは、いずれも岩塊が相当混入している状態としている。
ずり置場におけるずり積込作業の施工能力については、バックホウでずりをすくってからダンプトラックへ積み込み、続けてずりをすくうまでの一連の作業時間(以下「サイクルタイム」という。)で、バケットにすくう1回当たりのずりの量を除して算定することとなっている。この1回当たりのずり積込量は、バケットにずりの入る割合(以下「バケット係数」という。)をバケット容量に乗じるなどして算出する。
そして、B及びC地質については、バケット係数を0.8、サイクルタイムを23秒などとし、D地質については、バケット係数を0.85、サイクルタイムを20秒などとしている。
上記に基づき、ずり積込作業の施工能力は、B地質では44m3
/h、C地質では47m3
/h、D地質では61m3
/hと算定している。
そして、本件各工事の積算に当たって、給排水設備費については、給排水管の材料価格に前記の損料率を乗じて算出した損料単価に各々の給排水管延長を乗じるなどして8972万余円と積算し、また、ずり処理費については、上記の施工能力を基にして算出した各々のずり積込単価に地質ごとの積込量を乗じるなどして4億8551万余円と積算し、給排水設備費及びずり処理費を総額5億7523万余円と積算していた。
(注1) | TBM Tunnel Boring Machine(トンネルボーリングマシン)の略でティービーエムと呼ばれる。ローラーカッターにより岩盤を圧砕しながら掘削する円筒形のトンネル掘削機械 |
(注2) | NATM New Austrian Tunnelling Methodの略でナトムと呼ばれる。トンネルを掘削し、支保工を建て込んだ後、コンクリート吹付け、ロックボルトなどを適宜組み合わせ施工することにより、地山の持っている支持力を最大限に生かす工法 |
(注3) | B、C及びD地質 地山の地質を固いものから順にA地質からE地質まで分類したもので、TBM工事においては、B、C及びD地質を対象としている。 |
2 検査の結果
近年、第二東名高速道路等の建設工事において、従来に比べてTBM工事が多数施工されていることから、その工事費の積算が施工の実態に適合した適切なものになっているかという点に着眼して検査した。
検査したところ、給排水設備費及びずり処理費の積算について、次のような事態が見受けられた。
(ア) 給排水管の損料率について
TBM工事においては、資材の運搬等は坑内にレールを敷設して機関車により行うこと、ずりの運搬はベルトコンベア等により行うことから、NATM工事のように車両が坑内を行き来することはない。このように、給排水管を設置する現場の環境がNATM工事とは相違していて、前記の損料率を適用するのは適切でないと認められた。そこで、本院において既往年度施工分の2工事を含む13工事の給排水管の交換状況について調査し た。
調査の結果、設置期間中には給排水管の損傷はほとんど生じておらず、給排水管を交換した実績はない状況であった。また、給排水管の当該現場への運搬、設置及び工事完了後の撤去の際の落下等による損傷のために交換した給排水管もわずかなものしかなく、これらにより交換間隔を算定すると70箇月となる。
そして、これを基にTBM工事における給排水管の損料率を算定すると、給排水管の損料率は0.035から0.503となり、NATM工事の場合に比べて大幅に低減している状況となっていた。
(イ)ずり積込作業の施工能力について
TBM工事においては、ローラーカッターで岩盤を圧砕するため、ずりの粒径がNATM工事に比べて小さくなり、バケット内により空隙なく積み込まれ、また、バケットですくう作業がより円滑に行われる。このため、NATM工事のバケット係数及びサイクルタイムによりずり積込作業の施工能力を定めているのは適切でないと認められた。そこで、4工事についてずり置場におけるずりの状態及びバックホウのダンプトラックへのずり積込作業の施工能力を調査した。
調査の結果、B及びC地質のずりは岩塊が一部混入している程度に、D地質のずりは岩塊がほぼ破砕されている状況であった。そして、各地質のずりの積込作業を計測したところ、B及びC地質については、ずりがバケットの中でやや空隙を生じる状態であったためバケット係数は0.85、サイクルタイムは平均20秒となっていた。また、D地質については、ずりがほぼバケット一杯に積み込めた状態であったためバケット係数は1.0、サイクルタイムは平均17秒であった。
上記に基づき、TBM工事におけるずり置場でのずり積込作業の施工能力を算定すると、B地質では54m3
/h、C地質では57m3
/h、D地質では84m3
/hとなり、NATM工事の場合に比べて効率的な状況となっていた。
したがって、公団では、近年、TBM工事が多数施工されている状況であることから、給排水設備費及びずり処理費の積算に当たっては、TBM工事における給排水管の損料率及びずり積込作業の歩掛かりを早急に設定して、施工の実態に適合した適切な積算を行う要があると認められた。
上記により、本件各工事における給排水設備費及びずり処理費を修正計算すると、給排水設備費の積算額は4560万余円、ずり処理費の積算額は4億5160万余円、計4億9721万余円となり、前記の積算額を給排水設備費で約4410万円、ずり処理費で約3390万円、計約7800万円低減できたと認められた。
このような事態が生じていたのは、給排水設備費及びずり処理費の積算に当たり、NATM工事における給排水管の損料率及びずり積込作業の歩掛かりを適用していて、TBM工事の場合の施工実態を反映させる配慮が十分でなかったことによると認められた。
3 当局が講じた改善の処置
上記についての本院の指摘に基づき、公団では、13年10月に、TBM工事における給排水設備費及びずり処理費の積算が施工の実態に適合したものとなるようTBMに関する積算要領を改正し、同年12月以降契約を締結する工事から適用することとする処置を講じた。