科目 | (款)鉄道事業固定資産 (款)鉄道事業(新幹線)固定資産 (款)各事業関連固定資産 |
部局等の名称 | 西日本旅客鉄道株式会社 |
第三者占有地の概要 | 線路、駅等の用地の一部を、第三者が正規の手続を経ずに住居用敷地、材料置場、耕作地等として占有しているもの |
第三者占有地の件数 | 6,743件(平成12年度末現在) |
上記に係る面積 | 348,206m2 |
上記に係る帳簿価格 | 10億6708万円 |
(平成13年11月21日付け 西日本旅客鉄道株式会社代表取締役社長あて)
標記について、会計検査院法第36条の規定により、下記のとおり改善の意見を表示する。
記
1 土地の管理の概要
貴会社では、昭和62年4月に、旧日本国有鉄道(以下「国鉄」という。)から鉄道事業用地、関連事業用地等の土地(以下「鉄道事業用地等」という。)を承継している。これらの土地は、線路、駅等の用地であって、貴会社の重要な経営資源となっているが、その一部には、第三者が正規の手続を経ずに住居用敷地、材料置場、耕作地、通路等として占有しているもの(以下「第三者占有地」という。)がある。
第三者占有地の処理方針については、国鉄では、事業上占有により支障がある土地の場合は建物等の撤去及び土地の明渡し(以下「撤去」という。)を求め、事業上占有による支障はないが所有することが必要な土地の場合は使用の対価を有償とする貸付けの承認(以下「使用承認」という。)を行い、事業上不必要な土地の場合は売却することとしていた。
そして、国鉄から土地を承継した貴会社では、第三者占有地が事業上必要な土地の場合は撤去を求め、事業上不必要な土地の場合は承継時の経緯(注1)
から売却しないこととしていた。
しかし、撤去のみでは第三者占有地の処理が進展しないことなどから、平成12年3月、新たに「第三者占有の処理促進について」の通達を発し、事業上不必要な土地である場合は撤去に加えて売却による処理を、資産価値の高いものなどから順次行うこととしている。ただし、従前と同様、貸付けについては、第三者占有地の処理としては行わないこととしている。
貴会社では、土地の管理に関し、権利の維持・保守の手続、用地台帳等の取扱いなどについては本社開発事業本部が所掌し、これらの業務の実施については鉄道軌道の維持・保守を行う保線区等の現業機関が行っている。そして、現業機関では、土地の所在地、地積等が用地台帳等の記載内容と符合することを確認し、土地の境界を標示するための用地諸標を建植するとともに、第三者占有地の発生の防止、発見などを行っている。
2 本院の検査結果
貴会社は、鉄道事業等の経営内容の充実を目指しており、そのために、鉄道事業の経営の効率化はもとより、所有している土地等の資産の適切な管理及び利用に努めている。しかし、第三者占有地の存在は、土地を適切に管理していく上で支障となっている。そこで、第三者占有地の解消のための処理が適切に行われているかなどについて検査した。
第三者占有地を管理している金沢支社ほか9支社(注2) 、及びその管内の保線区等の現業機関62箇所において第三者占有地の処理の状況について検査した。
検査したところ、次のような状況となっていた。
(1)第三者占有地の状況
ア 占有の形態
第三者占有地の占有の形態をみると、表1のとおり、住居、事務所店舗等の建物敷地として使用されていたり、庭や軒などが境界を越えていたり、企業等の材料置場として使用されていたり、家庭菜園等の耕作敷として使用されていたり、不特定多数の者などが往来する通路として使用されたりしていた。
表1 | (単位:件、m2 、千円) | ||||||||||||||||||||||||||||
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(注)
帳簿価額は12年度末現在、各支社が管理している固定資産原簿に登録されている土地ごとに、帳簿価額を面積で除した単価に占有面積を乗じて算出した。
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イ 占有期間
第三者占有地の占有期間をみると、表2のとおり、全件数の95%が10年以上の長期にわたって占有されていた。特に、住居、事務所店舗等の建物敷地として占有されているものは、その38%が20年以上占有されていた。
表2 | (単位:件、m2 ) | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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(注)
占有期間は、占有の開始日が判明しているものについては開始日から、占有の開始日が不明のものについては占有の発見日から、それぞれ12年度末までの期間としている。
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(2)処理の状況
第三者占有地7,028件のうち、不特定多数の者などが往来する通路(285件)の処理については、関係地方公共団体との協議を要することから、これを除く6,743件(348,206m2 、帳簿価額10億6708万余円)についてみると、1,760件は占有者が特定されていない状況となっていた。そして、占有者が特定されている残りの4,983件に対する貴会社の処理状況について次のような状況になっていた。
ア 交渉の状況
表3のとおり、この4,983件のうち、調整がつかず長期間にわたって交渉が行われないまま経過しているものが多数あり、10年以上交渉が中断しているものが67%に上っていた。
表3 | (単位:件) | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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イ 処理計画の作成状況
前記の通達によれば、第三者占有地に対する処理については、事業上必要であるか否かを判断した後、資産価値の高いものなどから順次行うこととされている。しかし、支社において、第三者占有地について処理の優先順位や処理の予定などを決めた処理計画を作成していなかったり、作成していても処理の優先順位などの検討が十分になされていなかった。
ウ 処理方針の状況
これらの第三者占有地の12年度末現在の処理方針は表4のとおりとなっており、処理方針の大半を撤去としていた。
表4 | (単位:件、m2 、千円) | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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しかし、処理方針を撤去としていたもののうち他の方途を検討する要があると認められるものなどがあった。これら処理方針を変更する要があるものなどを態様別に示すと次のとおりである。
(ア)撤去させるとしているが売却の方途を検討する要があるもの
占有者が個人の生活などのため排他的に使用しているものは、表4のとおり住居・事務所店舗467件(11,477m2 )、庭先・軒先1,148件(34,614m2 )、計1,615件(46,092m2 )となっている。これらの中には、事実上、撤去が困難なものがあり、また、占有されていてもこれまで特に事業上支障なく経過してきたと認められることから、従来、撤去を処理方針としているものについて、土地の必要性を検討し、必要がないものについては処理方針の見直しを行い売却の方途を検討する要があると認められる。
<事例1>
(12年度末現在) | ||||||||
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本件第三者占有地は、占有者が、昭和58年5月、国鉄に住居用敷地として使用するための使用願いを提出し住宅を建設したものである。その際、占有者が土地使用料について同意しないため、使用承認がなされないまま、平成5年9月を最後に交渉を中断していた。その後、13年3月に訪問したものの占有者が不在であったため交渉には至らなかった。
貴会社では、本件の処理方針を撤去としているが、当該第三者占有地は住居用敷地として使用されていること、また、線路用地ではあるものの鉄道線路から離れた位置にあることから、売却の方途も検討する要があると認められる。
(イ)撤去させるとしているが賃貸借の方途を検討する要があるもの
材料置場として占有されているものは、表4のとおり1,229件(47,121m2 )となっている。これらの中には、線路の高架下の土地のように、事業上所有の必要はあるが、事業に支障がないように使用させることができるものがある。そして、このような土地については、その適切な利用を図る目的で、土地の管理を貴会社の子会社に委託して土地の賃貸借を行っている。したがって、これと同様に子会社を通じた賃貸借の方途を検討する要があると認められる。
<事例2>
(12年度末現在) | ||||||||
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本件第三者占有地は、個人(14名)及び企業(5社)によって、それぞれ駐車場又は資材置場として新幹線の高架下を占有されているものである。昭和63年12月に占有の事実を発見したときから占有者と交渉を繰り返してきたが、占有者は国鉄当時の口頭による無償使用の約束等を理由にこれに応じず、平成6年4月の交渉を最後に現在に至っている。また、占有者の中には、占有の事実を発見したときからこれまでの間に、交渉が皆無のものも見受けられた。
しかし、当該第三者占有地は、新幹線の高架下に位置していることから、事業上所有の必要はあるが賃貸借を行っても事業上支障があるとは認められない。また、一定の区間に集中していることから、このような場合には、子会社を通じた賃貸借の方途も検討する要があると認められる。
(ウ)撤去させるとしているが使用貸借の方途も検討する要があるもの
耕作敷として占有されているものは、表4のとおり3,899件(254,992m2 )となっている。これらの中には、占有者を特定できないものが1,428件と多数に上っている。これらの第三者占有地については、原状回復が図り易いと認められることから、占有者を特定し、使用の対価を無償とする貸付け(以下「使用貸借」という。)の方途も検討する要があると認められる。
<事例3>
(12年度末現在) | ||||||||
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本件第三者占有地は、複線敷の線路用地を単線として使用しているため、以前から、線路用地として使用していない部分が耕作敷として占有され、昭和61年にいったん撤去したにもかかわらず再度占有されたものである。
このほかこの付近では延長約1kmにわたって、複数の者に線路用地2,123m2
を耕作敷として占有されている。
したがって、今後も占有が繰り返されないように、使用貸借の方途も検討する要があると認められる。
(エ)売却するとしているが、その進展が図られていないもの
売却を処理方針としているものは、表4のとおり667件(41,729m2
)となっている。
これらの中には、占有者に対して売却を促進するための適切な交渉が行われていないなど、その処理の進展が図られていないものがあり、売却の処理を進展させるための方策を検討する要があると認められる。
<事例4>
(12年度末現在) | ||||||||
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本件第三者占有地は、占有者の居住する住居用敷地及び経営する賃貸住宅の敷地の一部として占有されているのを53年に発見したものである。占有の事実を発見したときは処理方針を撤去としていたところ、平成12年3月の方針変更を受けて処理方針を売却としたが、占有者にその旨が十分伝わっておずら、具体的な進展がないまま現在に至っている。
第三者占有地の中には、国鉄当時から占有され事実関係や権利関係が明確でないものや占有者の不誠実により占有されているものがある。また、占有開始後10年を超えているものも相当数見受けられる。このような状況であるのに、貴会社において解消のための交渉を計画的・継続的に行っていない事態、土地の必要性についての見直しを行い売却、賃貸借又は使用貸借の方途を十分に検討していない事態及び売却の処理の進展が図られていない事態は、効率的な経営を行う見地から改善を図る要があると認められる。
このような事態が生じているのは、主として次のようなことによると認められる。
(ア)占有されている土地が事業上必要であれば撤去、不必要であれば売却又は撤去としているが、この処理方針を決めるための前提となる土地の必要性を判断する具体的な基準がないこと
(イ)第三者占有地の処理に当たっては資産価値の高いものなどから順次行うこととしているだけで、処理計画の作成に関する明確な基準がないこと
(ウ)第三者占有地の処理に当たって、占有者に対して売却を促進するための適切な交渉などが行われていないこと、また、耕作敷や高架下の材料置場の処理方針を撤去又は売却に限定し、使用貸借等の方途について検討していないこと
(エ)占有者が特定できていない第三者占有地があること
(オ)第三者占有地の処理に関して、主として保線区等の現業機関が交渉等を行っており、支社等と連携して処理に当たる体制が執られていないこと
3 本院が表示する改善の意見
「旅客鉄道株式会社及び日本貨物鉄道株式会社に関する法律の一部を改正する法律」(平成13年法律第61号)が13年6月に成立し、貴会社は、完全民営化が予定されており、民営化後も引き続き効率的な経営を行うことが望まれる。このことから、重要な資産である土地について適切な処分、管理及び利用を図るため、次のような処置を講じる要があると認められる。
(1)本社において、
(ア)第三者占有地が今後の事業に必要であるか否かの判断についての具体的な基準及び占有の形態、資産価値等を考慮し処理の優先順位を付すための処理計画の作成基準を策定すること
(イ)上記の判断基準に基づき見直した結果、事業上不必要な土地となるものについては売却を進展させるための方策を検討すること、また、事業上支障がある土地については撤去するとともに、耕作敷や高架下の土地のように事業上必要であっても事業上支障がない場合には使用貸借又は賃貸借の方途を検討すること、さらに、これらを踏まえ第三者占有の解消を図るために法的措置を執るなどの方策も検討すること
(ウ)本社、支社及び保線区等現業機関が連携して処理に当たる体制を整備すること
(2)支社において、本社が策定する基準により処理方針の見直しを行い、優先順位を付した処理計画を作成するとともに、占有者が不明なものについては、占有者を速やかに特定するよう現業機関を指導すること