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  • 平成12年度|
  • 第4章 特定検査対象に関する検査状況

政府開発援助について


第4 政府開発援助について

検査対象 (1) 外務本省
(2) 国際協力銀行(平成11年9月30日以前は海外経済協力基金)
(3) 国際協力事業団
政府開発援助の内容 (1) 無償資金協力
(2) 円借款
(3) プロジェクト方式技術協力
平成12年度実績 (1) 2380億4978万余円
(2) 7792億6060万余円
(3) 352億1321万余円
現地調査実施国数並びに事業数及び対象事業費 10箇国
(1) 54事業 726億2957万余円
(2) 17事業 1683億6677万余円
(3) 10事業 103億3159万余円
援助の効果が十分発現していないと認められた事業数 無償資金協力 1事業
円借款 3事業

1 政府開発援助の概要

 我が国は、開発途上国の健全な経済発展を実現することを目的として、その自助努力を支援するため、政府開発援助を実施している。その援助の状況は、地域別にみるとアジア、アフリカ、中南米、中近東等の地域に対して供与されており、特にアジア地域に重点が置かれている。また、分野別にみると運輸・貯蔵、水供給・衛生、教育、農林水産、エネルギー、環境保護等の各分野となっている。
 そして、我が国の政府開発援助は毎年度多額に上っており、平成12年度の実績は、無償資金協力(注1) 2380億4978万余円、円借款(注2) 7792億6060万余円(注3) 、プロジェクト方式技術協力(注4) 352億1321万余円などとなっている。

(注1) 無償資金協力 相手国の経済・社会の発展のための事業に必要な施設の建設、資機材の調達等のために必要な資金を返済の義務を課さないで供与するもので、外務省が実施している。
(注2) 円借款 相手国における経済・社会の開発のための基盤造りに貢献する事業等に係る費用を対象として、相手国に対し長期かつ低利の資金を貸し付けるもので、国際協力銀行が実施している。
(注3) 債務繰延べを行った額839億2520万余円を含む。
(注4) プロジェクト方式技術協力 相手国の経済・社会の開発に役立つ技術・技能・知識を移転し、技術水準の向上に寄与することを目的として、研修員の受入、専門家派遣及び機材供与の3形態を一つのプロジェクトとして有機的に統合し、その計画の立案から実施、評価までを一貫して行うもので、国際協力事業団が実施している。

2 検査の範囲及び着眼点

 本院は、無償資金協力、円借款、プロジェクト方式技術協力等(以下「援助」という。)の実施及び経理の適否を検査するとともに、援助が効果を発現し、援助の相手となる開発途上国(以下「相手国」という。)の経済開発及び福祉の向上などに寄与しているか、援助の制度や方法に改善すべき点はないかなどについて検査している。この検査の範囲及び着眼点について、我が国の援助実施機関に対する検査及び相手国において行う現地調査の別に具体的に示すと、次のとおりである。

(1)我が国援助実施機関に対する検査

 本院は、国内において、援助実施機関である外務省、国際協力銀行(11年9月30日以前は海外経済協力基金。以下「銀行」という。)及び国際協力事業団に対して検査を行うとともに、海外において、在外公館、銀行の駐在員事務所及び国際協力事業団の在外事務所に対して検査を行っている。
 これら我が国援助実施機関に対する検査に当たっては、次のとおり、多角的な着眼点から検査を実施している。
(ア)我が国援助実施機関は、事前の調査、審査等において、事業が相手国の実情に適応したものであることを十分検討しているか。
(イ)援助は交換公文、借款契約等に則したものになっているか、また、資金の供与などは法令、予算等に従って適正に行われているか。
(ウ)我が国援助実施機関は、援助対象事業を含む事業全体の進ちょく状況を的確に把握し、援助の効果が早期に発現するよう適切な措置を執っているか。
(エ)我が国援助実施機関は、援助実施後、事業全体の状況を的確に把握、評価し、必要に応じて援助効果発現のために追加的な措置を執っているか。

(2)現地調査

 相手国に対しては、我が国援助実施機関に対する検査の場合とは異なり本院の検査権限は及ばない。しかし、援助は相手国が主体となって実施する事業に必要な資金を供与するなど、相手国の自助努力を支援するものであり、その効果が十分発現しているか、事業が計画どおりに進ちょくしているかなどを確認するためには、我が国援助実施機関に対する検査のみでは必ずしも十分ではない。このため、本院では、相手国に赴いて、我が国援助実施機関の職員等の立会いの下に相手国の協力が得られた範囲内で、次の着眼点から、事業の実施状況を中心に現地調査を実施している。
(ア)事業は計画どおり順調に進ちょくしているか。
(イ)援助対象事業が相手国等が行う他の事業と密接に関連している場合、その関連事業の実施と、は行等が生じないよう調整されているか。
(ウ)援助の対象となった施設、機材、移転された技術等は十分利用されているか。
(エ)事業は所期の目的を達成し、効果を上げているか。
(オ)事業は援助実施後においても相手国によって順調に運営されているか。
 そして、毎年数箇国を選定して職員を派遣し、調査を要すると認めた事業について、相手国の事業実施責任者等から説明を受けたり、事業現場の状況の確認を行ったりなどし、また、相手国の保有している資料で調査上必要なものがある場合、相手国の同意が得られた範囲内で我が国援助実施機関を通じて入手している。

3 検査の状況及び本院の所見

(1)現地調査の対象

 本院は、13年中において上記の検査の範囲及び着眼点で検査を実施した。そして、その一環として、10箇国において次の81事業について現地調査を実施した。
〔1〕 無償資金協力の対象となっている事業のうち54事業(贈与額計726億2957万余円)
〔2〕 円借款の対象となっている事業のうち17事業(12年度末までの貸付実行累計額1683億6677万余円)
〔3〕 プロジェクト方式技術協力事業のうち10事業(12年度末までの経費累計額103億3159万余円)
 上記の81事業を、分野別にみると、農林水産19事業、水供給・衛生13事業、運輸10事業、保健9事業、通信8事業、教育7事業などとなっており、その国別の現地調査実施状況は、次表のとおりである。

国別現地調査実施状況表
国名 調査
事業数
(事業)
援助形態別内訳
無償資金協力 円借款 プロジェクト
方式技術協力
事業数
(事業)
援助額
(億円)
事業数
(事業)
援助額
(億円)
事業数
(事業)
援助額
(億円)
バングラデシュ 14 7 232 6 472 1 14
グァテマラ 6 4 41 2 100
ジョルダン 7 7 44
ケニア 9 5 89 2 125 2 30
マレイシア 9 3 1 4 708 2 12
マリ 5 5 68
モーリタニア 6 6 36
パラグアイ 6 4 30 1 32 1 10
ヴィエトナム 10 6 66 2 244 2 11
ザンビア 9 7 114 2 24
81 54 726 17 1,683 10 103

(2)現地調査対象事業に関する検査の概況

 上記の81事業について、前記のとおり、相手国に対しては検査権限は及ばないことなどの制約の下で現地調査を実施した。このうち、本院調査時においておおむね順調に推移していると認められたものとして、ヴィエトナム社会主義共和国の国道1号線橋梁リハビリ事業(円借款)がある。
 この事業は、同国の重要幹線道路である国道1号線(全長2,100km)の道路輸送の改善に資するため、優先度の高い3区間(ハノイ〜ヴィン間/約279km、ニャチャン〜ホーチミン間/約400km、ホーチミン〜カントー間/約151km)における橋梁のうち46橋を対象に改修等を行うものである。これらの橋梁は、その多くが老朽化したり戦争中に爆撃を受けたりしたものの、その後架け替え等がなされなかったため、円滑な交通の妨げとなっていた。
 一方、上記3区間のうち、道路及び円借款の対象となっていない小規模な橋梁の改修等については、ハノイ〜ヴィン間及びホーチミン〜カントー間は国際開発協会(以下「IDA」という。)が、ニャチャン〜ホーチミン間はアジア開発銀行(以下「ADB」という。)が、それぞれ借款を供与している。銀行では、IDA及びADBと共同歩調をとって本件事業を進めることとしている。
 銀行では、本件事業に必要な資金として、7年3月から13年3月までの間に計117億0941万余円を貸し付け、今後も貸付けを行う予定である。
 今回、13年5月に現地を調査したところ、本件事業は、計画に沿って橋梁の改修等が行われており、IDA及びADB融資に係る事業も含めて全体の改修事業がおおむね完了していた。このため、1日当たりの交通量(13年3月)は、ハノイ〜ヴィン間が計画6,206台に対し実績8,201台、ニャチャン〜ホーチミン間が計画3,768台に対し実績4,256台、ホーチミン〜カントー間が計画21,488台に対し実績22,515台となっているなど、いずれの区間も既に交通量の実績値が計画交通量を上回っていて、道路輸送の改善に貢献していると認められた。
 このように本件事業が円滑に推移している理由としては、我が国の援助対象事業と国際機関による関連事業の分担について適切な計画が定められたこと、双方の事業が計画どおりに進ちょくしたことなどが挙げられる。
 上記のことから、本件事業は本院調査時における事業現場の状況等から判断した限りでは、我が国の援助が効果を発現していると認められた。
 一方、現地調査を実施した事業のうち、次のバングラデシュ人民共和国における4事業については、援助の効果が十分発現していないと認められた。これらの事態を分類すると次のとおりである。

〔1〕 無償資金協力の援助の効果が十分発現していないもの

1事業
(下水道網整備事業)

〔2〕 円借款事業の対象となった発電施設、工場において援助の効果が十分発現していないもの

3事業
発電船改修事業
苛性ソーダ工場修復事業
肥料工場改修事業

(3)援助の効果が十分発現していない事業

 上記援助の効果が十分発現していないと認められた4事業について、事態の大要及びこれに対する本院の所見を示すと次のとおりである。

ア 無償資金協力事業として援助を実施した下水道網整備事業の効果が、関連事業が進ちょくしていないため、十分発現していないもの

(事態の大要)

 この事業は、首都ダッカにおいて、人口増加に伴う下水処理場への汚水流入量の増加によって下水処理場から河川への放流水の水質が悪化したことに対処するなどのため、下水処理場の拡張、老朽化した中継ポンプ場の改修等を実施するものである。
 外務省では、これらに必要な資金として、昭和63年から平成4年までの間に計51億9703万円を贈与している。
 そして、下水処理場の拡張等は4年3月に完了し、供用が開始されている。
 本件事業の計画によると、下水処理場の1日当たりの処理能力を50,000m3 から120,000m3 に拡大するとともに、4箇所の中継ポンプ場に設置されたポンプのうち正常に稼働していない12台のポンプの取替え等を行い、中継ポンプ場の機能の回復を図ることとしていた。一方、同国の実施機関においては、本件事業に関連して、汚水を下水処理場へ送り込むために、下水処理場へ通じる下水管きょの破損箇所を補修し、マンホールや下水管きょを清掃し、雨水溝から下水管きょに入り込んだゴミや土砂を取り除くこととしていた。
 しかし、実際には、財政状況が厳しく、予算の手当てが困難となり、同国の実施機関が行うこととしていた下水管きょの破損箇所の補修や下水管きょ等の清掃が十分実施されていなかった。
 このため、本件事業実施後の1日当たりの下水処理量は、10年46,844m3 (処理能力の39.1%)、11年40,995m3 (同34.2%)、12年40,977m3 (同34.2%)となっていて、処理能力を大幅に下回っている状況であった。
 上記のとおり、無償資金協力により建設された下水処理場は、十分活用されておらず、援助の効果が十分発現していない状況になっている。

(上記の事態に対する本院の所見)

 我が国の援助対象となった下水処理場が十分効果を発現するためには、同国の実施機関が行う下水管きょ等の整備が必要不可欠である。上記の援助対象事業については、この関連事業が計画どおり行われるとの判断に基づき実施されているが、その事業が進ちょくしていないため、援助対象事業の効果が十分発現していない状況となっている。
 援助対象事業と関連事業との間では行が生じている事態は過去の決算検査報告でも多数取り上げられており、我が国援助実施機関としても同種事態の防止のために問題意識をもって対処してきているところであるが、今後の援助の実施に当たっては、援助の対象となる相手国等が行う関連事業の実現可能性について一層注意して見極め、必要に応じて適時適切な助言を相手国に行うなどの処置を講じる必要があると認められる。

イ 円借款事業の援助の効果が十分発現していないもの

(事態の大要)

(ア)発電船改修事業において、円借款事業の対象とした発電船が、火災を起こしたことなどのため、十分に稼働していないもの

 この事業は、同国南西部のクルナに円借款により昭和55年に設置された発電船(1、2号機ともに出力28MW)及び同国南東部のチッタゴンに同じく円借款により61年に設置された発電船(1、2号機ともに出力30MW)が、いずれも故障等により停止を繰り返していたことから、同国における電力需要に対処することを目的として、ガスジェネレータ、発電機等の改修等を行うものである。
 銀行では、これらに必要な資金として、平成7年3月から12年2月までの間に15億6099万余円を貸し付けている。
 本件事業の計画によると、両発電船の計画年間発電量を、電力需要のピーク時である夜間に毎日5〜7時間発電することを前提に、クルナの発電船が1、2号機とも47,450MWh、チッタゴンの発電船が1、2号機とも51,100MWhとしていた。
 調査したところ、チッタゴンの発電船は、1号機が9年11月に、2号機が10年3月にそれぞれ改修工事を完了し、発電を開始しており、計画に沿っておおむね順調に発電している状況であった。
 一方、同国西部地域の電力網に電力を供給するクルナの発電船の2基については次のようになっていた。
 2基のうち、1号機については、8年7月に改修工事を完了し、発電を開始した。
 そして、同地域の電力需給が逼迫したことにより、計画を大きく上回って長時間運転していて、9年の発電量は85,904MWhとなっていた。しかし、10年3月に燃料漏れが原因とみられる火災が発生し、ガスジェネレータ等が損傷したため、修復工事を行う必要が生じたが、入札を実施したところ入札額が高額であったことなどのため不調に終わるなどして工事が実施できず、火災以降発電を停止している。
 また、2号機については、8年8月に改修工事を完了し、発電を開始した。そして、1号機と同様の理由で長時間運転していて、発電量は9年に58,807MWh、10年に92,990MWhとなっていた。しかし、その後、機器に各種の故障や異常が発生したことにより、運転時間が著しく減少したり、運転しても出力を低水準に抑える必要が生じたりしたことなどのため、11年の発電量は17,191MWh、12年の発電量は23,531MWhといずれも計画を大きく下回っている状況となっていた。
 上記のとおり、借款の対象となったクルナの発電船は、発電量が計画を大幅に下回っていて、十分に稼働しておらず、援助の効果が十分発現していない状況になっている。

(イ)苛性ソーダ工場修復事業において、円借款事業の対象とした工場が、安定した電力の供給がなされていないことなどのため、十分に稼働していないもの

 この事業は、諸工業で幅広く用いられる苛性ソーダの製造工程に水銀を使わない新たな方式を導入して環境対策を講じる一方、操業開始後約20年を経過して老朽化しているチッタゴン苛性ソーダ工場の各設備を更新して生産能力の増強を図るものである。
 銀行では、これに必要な資金として、元年9月から9年12月までの間に20億7131万余円を貸し付けている。
 本件事業の計画によると、改修により、同工場の年間計画稼働時間は8,520時間(改修前7年度(6年7月〜7年6月。以下同様)から9年度までの平均)から8,040時間になるものの、苛性ソーダの年間生産能力が4,500tから7,000tに増強され、輸入に頼っている苛性ソーダの供給不足が解消されるとしていた。また、製造工程の副産物の塩素から製造される塩素系製品(塩酸、液化塩素等)の生産能力についても増強することとしていた。
 そして、本件修復事業は9年4月(当初計画では3年9月)に完了し、製造工程に水銀が使用されなくなったことから、環境問題が改善された。
 しかし、本件工場の稼働状況について調査したところ、改修前は年間稼働時間が6,888時間(改修前7年度から9年度までの平均)と計画の80.9%であったものが、改修後は10年度4,691時間(計画の58.4%)、11年度4,943時間(同61.5%)、12年度4,866時間(同60.6%)にとどまっていた。そして、苛性ソーダの生産量は10年度3,909t、11年度4,119t、12年度4,075tといずれの年も生産能力の60%にも満たない状況となっていた。また、これに伴って、塩素系製品全体の生産量も落ち込んでいた。
 これは、主として次のような事情によるものと認められた。
 当初計画では、不安定な電力供給に対処するため工場内にガスタービン発電機を設置して安定した電力を得ることとなっていたが、本件事業の遅れに伴い事業費が増大したため、計画を変更して発電機の設置を取り止め、代わりに変圧器を設置するなどして、従来からの買電方式を継続することとした。しかし、供給されている電力の電圧や周波数が不安定なことから、整流器等の設備が故障して操業を停止したり、設備の故障を防ぐために、受電を停止して操業を一時的に中止せざるを得なかったりする状況が頻繁に発生したことによる。
 上記のとおり、借款の対象となった本件工場は、改修後の年間稼働時間が計画を下回っていて、十分に稼働しておらず、援助の効果が十分発現していない状況になっている。

(ウ)肥料工場改修事業において、円借款事業の対象とした工場が、既設の自家発電機の故障などのため、十分に稼働していないもの

 この事業は、昭和45年に完成したゴラサール尿素肥料工場の生産能力の拡大を図り、同国の尿素肥料需給の逼迫に対処することを目的として、アンモニアプラント、尿素プラント等のうち老朽化した一部の設備(水素回収装置、廃熱回収ボイラー等)の改修などを行うものである。
 銀行では、これらに必要な資金として、平成元年2月から6年1月までの間に102億8626万余円を貸し付けている。
 本件事業の計画によると、平成7年までとされていたプラントの寿命を17年まで延ばすとともに、尿素の年間生産能力を34万tから47万tに増大することとしていた。
 しかし、本件事業で改修された設備は、計画した内容どおりに6年1月に完成し、同年2月から運転を開始したものの、既設のものを使う計画となっていた発電機3基のうち2基が5年3月及び10年8月に故障し、使用不能になった。このため、供給が非常に不安定な買電に頼らざるを得なくなり、頻繁に起こる停電や電圧変動のため、7年度13回、8年度29回、9年度32回、10年度47回、11年度28回、12年度35回としばしば操業を停止せざるを得ない状況となっていた。さらに、発電機と同様に、既設のものを使う計画となっていた冷却塔の能力が低下したため、生産性が低下した。
 このような事情から、改修後の尿素生産量は7年度36.2万t、8年度34.6万t、9年度24.2万t、10年度36.8万t、11年度28.8万t、12年度32.2万tとなり、6年間の平均生産量は32.1万tと生産能力47万tを下回っている状況となっていた。
 上記のとおり、借款の対象となった本件工場は、生産量が生産能力を下回っていて、十分に稼働しておらず、援助の効果が十分発現していない状況になっている。

(上記3事業の事態に対する本院の所見)

 我が国では、2年にバングラデシュ人民共和国に派遣した経済協力総合調査団の調査結果及びその後の同国との協議を踏まえて、6年5月に同国に係る援助方針を策定し、また、12年3月には、援助の対象をより明確にした援助計画を策定した。この援助方針及び援助計画では、「投資促進・輸出振興のための基盤整備」が同国に対する援助の重点分野の一つとされ、さらに、援助計画では同国の経済発展等のためには電力等の経済基盤の整備が必要不可欠であると指摘している。
 したがって、援助計画を踏まえると、電力に対しての援助についてはその着実な実施が必要であり、電力を使用する事業においては電力供給が未だ満足すべき状態にないという問題点を踏まえて事業の実施に当たることが必要である。
 上記の3事業は、援助方針及び援助計画の策定以前に事業が開始されていたものであるが、事業実施前の審査において電力が満足すべき状態になく、その対策の必要性が指摘されていた。
 このような点を踏まえれば、バングラデシュ人民共和国のように国民一人当たりの国内総生産(GDP)が極めて低くなっているなど特に社会経済状況が厳しい国に対する今後の援助に当たっては、電力分野のように問題点が既に指摘されている分野における相手国の自助努力の実現可能性等を見極め、援助の効果が発現するよう次のような措置を講じることが重要である。すなわち、援助対象事業の実施内容の範囲等を十分検討するとともに、援助実施後においては、援助対象事業の効果発現を妨げている要因を取り除くよう相手国に適時適切に働きかける必要があると認められる。