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  • 平成12年度|
  • 第4章 特定検査対象に関する検査状況

公共事業の再評価について


第6 公共事業の再評価について

検査対象 国の機関 内閣府(平成13年1月5日以前は総理府(沖縄開発庁))、農林水産省、国土交通省(平成13年1月5日以前は総理府(北海道開発庁、国土庁)、運輸省、建設省)
公団等 日本道路公団、首都高速道路公団、緑資源公団(平成11年9月30日以前は森林開発公団及び農用地整備公団)、水資源開発公団、阪神高速道路公団、地域振興整備公団、新東京国際空港公団、日本鉄道建設公団、都市基盤整備公団(平成11年9月30日以前は住宅・都市整備公団)、日本下水道事業団
都道府県 47都道府県
政令指定都市 12政令指定都市
検査の対象とした再評価の件数 10,317件(平成10年度〜12年度)
上記の再評価の対象事業に係る実施済事業費 延べ94兆1705億余円

1 制度の概要と実績

(制度導入の経緯)

 平成9年12月、当時の北海道開発庁、国土庁、運輸省及び建設省(13年1月6日以降は国土交通省)、沖縄開発庁(13年1月6日以降は内閣府)並びに農林水産省の公共事業関係6省庁に対して、内閣総理大臣から公共事業の再評価システムの導入と事業採択段階における費用対効果分析の活用についての指示があった。
 このうち再評価システムは、事業の効率的な執行及び透明性の確保が公共事業の重要な課題であることから、事業実施段階において、事業採択後一定期間経過後で未着工の事業や長期にわたる事業等を対象に改めて事業の必要性等について評価を行い、その結果に基づき必要な見直しを行うほか、継続が適当と認められない場合は休止又は中止とするものである。
 上記の6省庁では、この指示を受けて合同の委員会を開催するなどして検討した結果、所管の直轄事業、公団等事業、補助事業等すべての公共事業を対象として再評価システムを導入することとし、10年3月の閣僚懇談会の際に内閣総理大臣に報告している。
 また、管下の公団・事業団等に対してその実施する事業について再評価を行うよう指示するとともに、所管の国庫補助事業等を実施する地方公共団体に対して同事業の再評価を行うよう要請している。

(政策評価制度における位置付け)

 総理府に設置された行政改革会議の最終報告(9年12月)において政策評価機能の充実の必要性が提言され、これを受けて10年6月に中央省庁等改革基本法(平成10年法律第103号)が制定され、政策評価の機能の強化及びその評価結果を政策に反映すべきことが基本方針として盛り込まれた。その後、事前、事後に、政策の効果について厳正かつ客観的な評価を行い、それを政策立案部門の企画立案作業に反映させる仕組みが検討されてきており、13年1月に政策評価各府省連絡会議において「政策評価に関する標準的ガイドライン」が了承され、同年6月には「行政機関が行う政策の評価に関する法律」(平成13年法律第86号)が成立した。
 そして、公共事業の再評価は、この新たに制度化された政策評価の枠組みの中で、既存の取組みを踏まえつつ、評価内容の充実、評価の透明性の向上など一層の改善・充実を図り、引き続き実施することとされている。

(再評価の実績)

 前記の各省庁等では、10年度以降再評価を実施しており、10年度以降12年度までの間に行われた農林水産及び国土交通両省所管の公共事業の再評価の結果を継続、中止等の対応方針別に示すと、表1のとおりとなっている。
 なお、以下、国土交通省所管事業については、13年1月6日の省庁再編後における再評価分も含め旧所管に区分して示すこととする。また、旧北海道開発庁、旧沖縄開発庁及び旧国土庁の予算に係るものについては、公共事業関係予算のほとんどが他の関係省庁への移替え等により執行されることから、当該各省庁の実績に含まれている。

<表1> 再評価の実績 (平成13年3月末現在)
実施
年度
所管省名 事業区分 再評価
の件数
対応方針別事業数
継続 見直し 休止 中止 評価手
続き中
10 農林水産省 直轄事業・公団事業 418 362 33 10 13 0
補助事業 1,955 1,913 20 13 9 0
2,373 2,275 53 23 22 0
旧運輸省 直轄事業・公団事業 18 10 8 0 0 0
補助事業 74 43 2 27 2 0
92 53 10 27 2 0
旧建設省 直轄事業・公団事業 853 850 2 1 0
補助事業 4,871 4,835 27 9 0
5,724 5,685 29 10 0
11 農林水産省 直轄事業・公団事業 88 75 11 0 2 0
補助事業 897 873 17 2 5 0
985 948 28 2 7 0
旧運輸省 直轄事業・公団事業 11 9 0 2 0 0
補助事業 24 19 2 2 1 0
35 28 2 4 1 0
旧建設省 直轄事業・公団事業 146 142 1 3 0
補助事業 656 648 8 0 0
802 790 9 3 0
12 農林水産省 直轄事業・公団事業 63 50 13 0 0 0
補助事業 849 830 16 0 3 0
912 880 29 0 3 0
旧運輸省 直轄事業・公団事業 55 46 0 0 9 0
補助事業 223 172 1 0 50 0
278 218 1 0 59 0
旧建設省 直轄事業・公団事業 124 102 0 0 22 0
補助事業 668 546 1 0 109 12
792 648 1 0 131 12
合計 農林水産省 直轄事業・公団事業 569 487 57 10 15 0
補助事業 3,701 3,616 53 15 17 0
4,270 4,103 110 25 32 0
旧運輸省 直轄事業・公団事業 84 65 8 2 9 0
補助事業 321 234 5 29 53 0
405 299 13 31 62 0
旧建設省 直轄事業・公団事業 1,123 1,094 0 3 26 0
補助事業 6,195 6,029 1 35 118 12
7,318 7,123 1 38 144 12
総計 11,993 11,525 124 94 238 12
注(1) 公団・事業団等の事業については、原則として、国庫補助金を受けて実施しているものは「補助事業」に、それ以外は「公団事業」に整理している。また、「補助事業」には地方公共団体が国の貸付金を受けて実施している事業を含む。
注(2) 再評価の件数は、同一の事業について複数回再評価を実施したものも、それぞれを別の評価として合計している。
注(3) 対応方針のうち「見直し」とは、施設規模や事業手法等の見直しを行った上で継続するものである。なお、平成10、11両年度の旧建設省では「継続」に含まれている。
注(4) 旧運輸及び旧建設両省所管事業については、平成12年度に実施した長期継続事業、休止事業等に係る抜本的見直しの結果を含み、農林水産省所管事業については、このような抜本的見直しの結果等を含まない。
注(5) 平成12年度の旧建設省の補助事業の「中止」には、都道府県等では継続するとしているが、国が補助を中止するとしたものを含む。

2 検査の着眼点及び対象

(検査の着眼点)

 国や地方公共団体等の予算において、公共事業関係費は大きな割合を占めている。一方、公共事業を取り巻く状況は、人口構造の高齢化並びに国及び地方公共団体の厳しい財政状況、社会資本の整備水準の向上と環境への意識の高まりなどを背景とした国民ニーズの多様化などによって、近年大きく変化している。また、行政による説明責任の遂行の重要性は、情報公開制度の導入に見られるように近年一層高まっている。このような背景の下、長期間を経過している公共事業についてはその実施の妥当性について改めて検討を行うとともに、検討の結果、継続するものについてもより一層の効率的な事業実施を図ること、さらにはそれらの決定過程の客観性、透明性の確保を図ることを目的として、公共事業の再評価システムが導入された。
 本院では、従来から、事務・事業の評価を指向した検査を行ってきており、長期間を要している公共事業などについて、有効性などの観点から検査を行ってきたところである。また、平成10年度決算検査報告において、各省庁等における評価制度の導入状況を記述し、今後ともその策定・導入、規程等の整備、実施・運用状況等を見守っていくとしたところである。
 このようなことから、政策評価に先行して実施され、今後は政策評価の枠組みの中で公共事業の評価の一部門として重要な役割が期待されている公共事業の再評価について、それがどのように実施・運用されているかに着眼して検査した。

(検査の対象)

 検査は、表1の11,993件のうち、前記6省庁のうち旧国土庁を除く5省庁、日本道路公団等10法人、47都道府県及び12政令指定都市において実施された次の再評価を対象として実施した。

〔1〕 直轄事業及び公団事業(以下、両事業を合わせて「直轄等事業」という。)の再評価

1,772件(実施済事業費計30兆3035億余円)

〔2〕 補助事業の再評価

8,545件(実施済事業費計63兆8669億余円)

 これらの再評価について、事業種別、対応方針別に区分して、件数、総事業費及び実施済事業費を示すと、表2−1、表2−2のとおりである。

<表2−1> 直轄等事業 (単位:件、億円)

対応方針 中止 休止 継続/見直し 合計
件数・
事業費
事業種別
件数 件数 件数 件数
総事業費 総事業費 総事業費 総事業費
実施済事業費 実施済事業費 実施済事業費 実施済事業費




農業農村整備 2 1 91 94
497 990 31,763 33,250
17 5 17,046 17,069
農地海岸 0 0 3 3
600 600
510 510
草地開発整備 0 0 1 1
245 245
146 146
漁港漁村整備 0 0 3 3
165 165
83 83
森林整備 11 4 274 289
234 297 3,921 4,453
108 78 2,062 2,249
治山 2 5 172 179
19 22 6,122 6,163
18 9 4,191 4,219



港湾 9 2 69 80
725 77 22,245 23,048
70 3 11,554 11,628
空港 0 0 2 2
27,348 27,348
23,591 23,591
鉄道 0 0 2 2
10,920 10,920
7,058 7,058



河川 1 0 214 215
8 410,424 410,432
0 33,263 33,263
ダム 12 2 92 106
9,294 664 90,816 100,774
609 13 31,240 31,862
砂防等 0 0 123 123
8,582 8,582
4,210 4,210
海岸 0 0 13 13
8,818 8,818
1,921 1,921
道路・街路 6 0 574 580
547 328,375 328,922
83 113,704 113,787
市街地 6 1 62 69
149 62,660 62,809
40 13 48,459 48,514
都市公園 0 0 13 13
7,042 7,042
2,916 2,916
合計 49 15 1,708 1,772
11,475 2,051 1,020,050 1,033,576
948 124 301,961 303,035

<表2−2> 補助事業 (単位:件、億円)

対応方針 中止 休止 継続/見直し 合計
件数・
事業費
事業種別
件数 件数 件数 件数
総事業費 総事業費 総事業費 総事業費
実施済事業費 実施済事業費 実施済事業費 実施済事業費




農業農村整備 4 3 1,639 1,646
94 94 43,893 44,082
4 16 32,339 32,361
農地海岸 1 0 95 96
2 2,437 2,439
0 1,304 1,304
草地開発整備 0 0 11 11
213 213
151 151
沿岸漁場整備開発 0 1 37 38
5 772 777
3 554 557
漁港漁村整備 1 1 178 180
34 23 7,243 7,300
12 0 4,097 4,110
漁港海岸 0 0 33 33
961 961
605 605
森林整備 4 4 547 555
85 74 14,909 15,069
44 42 7,391 7,478
治山 1 2 435 438
22 4 5,510 5,537
21 3 3,248 3,272



港湾 49 26 220 295
1,408 455 9,591 11,455
130 164 6,015 6,310
空港 2 0 1 3
608 240 848
8 119 127
鉄道 1 1 1 3
1,616 1,616 2,400 5,633
259 66 1,200 1,526



河川 27 17 1,633 1,677
803 449 141,053 142,306
279 277 65,569 66,126
ダム 41 9 221 271
6,403 1,296 43,276 50,976
287 108 16,163 16,559
砂防等 2 1 598 601
4 3 7,050 7,058
2 2 4,977 4,983
海岸 3 1 171 175
55 18 4,514 4,588
41 13 2,748 2,803
道路・街路 5 1 619 625
1,240 187 78,550 79,978
384 1 57,000 57,385
市街地 12 0 367 379
2,491 66,301 68,792
428 35,212 35,640
下水道 12 1 1,195 1,208
686 129 637,897 638,713
343 4 373,352 373,701
都市公園 5 2 304 311
1,020 72 34,324 35,416
477 71 23,113 23,662
合計 170 70 8,305 8,545
16,578 4,428 1,101,141 1,122,148
2,726 776 635,167 638,669
注(1) 表2-1、表2-2とも、旧運輸省所管の海岸事業は港湾事業に区分している。
注(2) 砂防等とは、砂防、地すべり対策、急傾斜地崩壊対策、雪崩対策の各事業をいう。
注(3) 市街地とは、市街地再開発、土地区画整理、公営住宅整備、住宅地区改良、住宅市街地整備総合支援、密集住宅市街地整備促進等の各事業をいう。
注(4) 総事業費及び実施済事業費は、各事業の再評価実施年度におけるものであり、再評価を行うに当たって一体として評価された補助事業以外の事業費も含んだものである。
注(5) 同一の事業について複数回再評価を実施したものも、それぞれを別の評価として合計した延べ件数・金額である。
注(6) 事業の中には総事業費等が明確でなく、件数のみ集計しているものがある。

3 検査の状況

 各省庁等では、上記の再評価に当たり、事業の特性等に応じて、それぞれ再評価に関する実施要領(以下「実施要領」という。)等を策定しており、これに基づき10年度以降再評価を実施している。なお、旧国土庁については、同庁の公共事業関係予算の大部分が農林水産、旧運輸及び旧建設各省への移替え等により執行されることから、実施要領等は策定していなかった。また、旧北海道開発庁及び旧沖縄開発庁の定めた実施要領等の内容は農林水産、旧運輸及び旧建設各省の実施要領等におおむね準じたものとなっていた。
 この再評価の実施・運用状況を示すと、以下のとおりである。

(1)再評価システムの内容

ア 農林水産省所管の直轄等事業の再評価システム

 農林水産省所管の公共事業は、他省庁の実施する公共事業に比べて一般的に事業規模が小さく、受益者が特定されるものが多数ある。そして、受益者が特定される事業は当該受益者の意向により成立し、受益者に事業費の一部を負担させたり、用地を無償で提供させたりすることになっており、また、事業を中止するためには、受益者を含め関係者の同意を得る必要があるなどとされている。
 このような事業の特性から、農業農村整備事業のうち土地改良事業では、昭和24年から土地改良法(昭和24年法律第195号)に基づき、計画策定時に、受益者の負担がその負担能力を超えないことを確認するとともに、事業実施に伴い生じる作物生産効果、営農経費節減効果等の経済効果と総事業費を対比する費用対効果分析を行うことになっている。
 農林水産省では、平成10年3月に各事業の所管部局ごとに実施要領を定め、これに基づき10年度から再評価を実施している。その後、12年7月、事業の採択前の段階から完了後に至るまでの事前評価、再評価及び事後評価からなる事業評価を体系的に実施することになったことに伴い、その実施体制を整備するとともに、「農林水産公共事業事業評価実施要綱」(以下「要綱」という。)を制定し、12年度以降は、要綱及び実施要領に基づき再評価を実施している。これらの要綱等によると、再評価システムの主な内容は以下のとおりとなっている。

(ア)再評価を実施する事業

 再評価は、原則として、事業採択後5年を経過した時点で未着工又は継続中である 公共事業を対象とし、5年を経過するごとに実施することとしている。

(イ)再評価の方法

 再評価に当たっては、次の評価項目について点検し、事業実施の妥当性について総合的かつ客観的に評価して、事業の継続、中止等の対応方針を決定することとしている。
〔1〕 事業の進ちょく状況
〔2〕 関連事業の進ちょく状況
〔3〕 農林漁業情勢、農山漁村の状況その他の社会経済情勢の変化
〔4〕 地元(受益者、地方公共団体等)の意向
〔5〕 事業コスト縮減等の可能性
〔6〕 費用対効果分析の算定基礎となった要因の変化
〔7〕 代替案の実現可能性(上記の検討の結果、問題があると認められる場合に限る。)

(ウ)再評価の実施手続

 再評価は、国の直轄事業については、地方農政局等が実施主体として、それぞれ農学、林学、水産学などの専門的知見を有する学識経験者等から構成される第三者委員会を設置し、この第三者委員会の意見具申を参考に地方農政局長等が対応方針案を作成し、本省に報告することとなっている。そして、本省ではこの対応方針案について検討し、省としての最終的な対応方針を決定することとしている。
 また、公団事業については、本省の所管部局が実施主体となり再評価を行うこととしており、その際には当該部局に設置した第三者委員会の意見具申を参考にすることとしている。

(エ)評価結果等の公表

 再評価の結果及びその根拠、第三者委員会における論議の内容等並びに再評価の決定に至る経緯については、可能な限りデータを付して公表することとしている。

イ 旧運輸及び旧建設両省所管の直轄等事業の再評価システム

 旧運輸及び旧建設両省では、それぞれ実施要領等を定め、これに基づき10年度から再評価を実施している。また、公団事業については、各公団等が旧運輸省又は旧建設省の実施要領等に基づき、10年度から再評価を実施している。両省の実施要領等によると、再評価システムの主な内容は以下のとおりとなっている。

(ア)再評価を実施する事業

再評価を実施する事業は、次の事業としている。
〔1〕 事業採択から5年間を経過した時点で未着工の事業など
〔2〕 事業採択後10年間を経過した時点で継続中の事業など(ただし、5年目のものについても事業の進ちょく状況などに応じて再評価を実施する。)
〔3〕 事業採択前の準備・計画段階で5年間が経過している事業
〔4〕 再評価実施後さらに5年間経過した時点で未着工又は継続中の事業など
〔5〕 社会経済情勢の急激な変化等により見直しの必要が生じた事業

(イ)再評価の方法

 再評価は、「事業の進ちょく状況」、「事業をめぐる社会経済情勢等の変化」、「採択時の費用対効果分析の要因の変化」及び「コスト縮減や代替案立案等の可能性」の視点から行うこととしている。また、これらの視点から再評価を実施するに当たり、具体的にどのような指標を設定して評価を実施するかなどについては、各事業種別ごとに実施要領の細目などにより定めている。
 そして、各評価指標による評価結果を総合的に検討し、おおむね以下のような判断の過程を経て、その対応方針を決定することとしている。
〔1〕 特に問題がないと認められる場合は、事業をそのまま継続する。
〔2〕 コスト縮減が可能であったり、事業手法、施設規模等の見直しが必要と認められたりする場合は、これらを見直した上で事業を継続する。
〔3〕 諸問題の解決に時間を要すると認められる場合は、予算の計上を見合わせ、事業を休止する。
〔4〕 経済社会情勢の急激な変化等のため需要が当初の見込みと大幅にかい離した等の事情により、事業の効果がなくなっていると認められる事業等については、事業を中止する。

(ウ)再評価の実施手続

 再評価は、国の直轄事業については国の地方支分部局が、また、公団事業については当該各公団・事業団等がそれぞれ再評価を行う実施主体として、必要なデータの収集、整理等を行い、それを基に事業の継続、中止等の対応方針案を決定し、本省に送付することとなっている。そして、本省は、対応方針案に検討を加え、対応方針を決定することとしている。
 上記対応方針案の策定に当たっては、原則としてすべての事業について、学識経験者等の第三者の意見を聴取する仕組みを導入することとしている。そして、多くの事業種別については、土木工学、都市工学、経済学などの学識経験者等から構成される第三者委員会が設置され、再評価の実施主体が作成した対応方針の原案に対して審議が行われ、不適切な点又は改善すべき点があると認められたときは意見の具申が行われている。また、残りの事業についても、別途、第三者からの意見聴取が行われている。

(エ)評価結果等の公表

 旧運輸省では、見直し、休止又は中止の措置を講じた事業の概要、見直し等の措置の概要、見直し等に至った理由などを公表することとしており、旧建設省では、評価結果、対応方針等を、結論に至った経緯や再評価の根拠とともに公表することとしている。また、第三者委員会における審議過程の透明性を確保することとしている。

ウ 補助事業についての地方公共団体の再評価システム

 補助事業の場合は、事業主体である地方公共団体や公団・事業団等が、再評価を行う実施主体として、必要なデータの収集、整理等を行い、それを基に対応方針を決定し、必要な場合は補助金交付等に係る要求を行う。なお、本省は、これら団体が決定した対応方針を踏まえ、当該事業の補助金交付等に関する方針を決定することとしている。
 このうち、公団・事業団等では、前記の公団事業の場合と同じ内容、方法により再評価を行っている。一方、地方公共団体については、農林水産、旧運輸及び旧建設各省では、それぞれの要綱、実施要領等を参考にして再評価を行うよう要請を行っている。
 そして、本院が検査した47都道府県及び12政令指定都市では、この要請を受けて、いずれも12年度までに再評価システムを導入している。これらの都道府県等がどのような体制の下で、どのように再評価を行っているかについて、直轄等事業と対比するなどして示すと、以下のとおりである。

(ア)実施要領等の整備状況

 各都道府県等の中には、独自の実施要領等を定めて再評価を実施しているものと、特に実施要領等を定めておらず、各省で定めた要綱、実施要領等に基づいて再評価を実施しているものとがある。また、独自の実施要領等を定めている都道府県等の中には、前記3省の所管事業に共通の実施要領等を定めているもの、各省所管事業ごとに別々の実施要領等を定めているもの、農林水産省所管事業に係る実施要領等と旧運輸及び旧建設両省所管事業に係る実施要領等との2つの実施要領等を定めているものがある。

(イ)実施要領等の内容

 都道府県等の実施要領等の12年度における内容について調査したところ、以下のようなものとなっていた。

〔1〕 再評価を実施する事業

 農林水産省所管の直轄等事業について、同省では、前記のとおり、原則として、事業採択後5年を経過した時点で未着工又は継続中である公共事業を対象とし、5年を経過するごとに再評価を行うこととしている。これに対し、補助事業の場合は、未着工の事業については、直轄等事業の場合と同様に事業採択後5年経過した時点で再評価を行うこととしているが、継続中の事業については、5年経過した事業を対象としているものがある一方で、10年経過した事業を対象としているものも相当数見受けられた。また、一部の都道府県等では、独自の基準を設けて、更に評価対象を限定しているものが見受けられた。
 旧運輸及び旧建設両省所管の直轄等事業について、両省では、前記のとおり、事業採択後5年間を経過した時点で未着工の事業又は事業採択後10年間を経過した時点で継続中の事業などを対象としているのに加えて、事業採択後5年間を経過した時点で継続中の事業についても必要に応じ再評価を実施することとしている。これに対して、補助事業の場合は、一部の都道府県等では、この5年継続中の事業の要件が明文化はされていないものの、必要な場合は、「社会経済情勢の急激な変化等により見直しの必要が生じた事業」の規定に基づき再評価を行うことは可能な状態となっている。

〔2〕 再評価の方法

 農林水産省所管の直轄等事業について、同省では、前記のとおり、要綱において、「事業の進ちょく状況」など7つの評価項目を掲げており、この評価項目に基づいて再評価を実施している。補助事業においても、「事業の進ちょく状況」、「計画変更の必要性」、「社会経済情勢の変化」、「費用対効果分析の基礎となる要因の変化」、「コスト縮減や代替案の可能性」など、要綱に準じた評価項目が掲げられており、この評価項目に基づいて再評価を実施している。
 旧運輸及び旧建設両省所管の補助事業についても、「事業の進ちょく状況」、「事業をめぐる社会経済情勢等の変化」、「採択時の費用対効果分析の要因の変化」及び「コスト縮減や代替案立案等の可能性」という両省の実施要領に準じた再評価の視点を掲げ、これに基づいて再評価を実施している都道府県等が多い。

(ウ)第三者委員会の状況

 都道府県等では、そのすべてにおいて学識経験者等の第三者で構成される第三者委員会を設置して再評価を実施している。この中には、農林水産、旧運輸及び旧建設3省所管事業に共通の第三者委員会を設置しているものと、農林水産省所管事業に係るものと旧運輸及び旧建設両省所管事業に係るものとの2つの第三者委員会を設置しているものとがある。

(2)再評価の実施状況

 各実施主体では、上記の再評価システムに従って、10年度以降、再評価を実施しているが、その実施結果等の状況は以下のとおりである。

ア 再評価の実施結果の状況

 各事業が再評価の対象となるに至った原因については、気象や地形が厳しかったり、事業規模が大きかったりするなどのため、長期間にわたって事業を行わざるを得ないものもある一方で、用地買収・補償、地元交渉、他事業との調整の難航などの事態により、その事業期間が長期化しているものも多く見受けられる。なお、これらの事業の中には事業全体としては完了していないものの、実施済事業費に係る分については、既に施設が供用されて一定の効用を発揮しているものもある。
 再評価の対象となった各事業を、中止、継続等の対応方針別に区分してみると以下のとおりである。

(ア)中止とされた事業

 本院が検査の対象とした再評価に係る事業のうち、中止とされた事業は、12年度までに、農林水産省所管事業で26件(総事業費計989億余円、実施済事業費計228億余円)、国土交通省所管事業で193件(総事業費計2兆7063億余円、実施済事業費計3446億余円)ある。
 その理由についてみると、農林水産省所管事業では、農業農村整備事業において担い手である営農者が減少するなどの社会情勢の変化により、その効果が期待できないとして中止とされたものなどである。国土交通省所管事業では、港湾事業において岸壁等の利用者として見込んでいた周辺の企業の立地が進まなかったり、下水道事業において汚水処理の対象地区で予定されていた開発計画の一部について見込みが立たなかったりするなどのため、その時点における需要が十分見込めないため、緊急にその事業を実施する必要性が低下したとして中止とされたものや、道路事業において支障物件の移転交渉や関連事業の事業化が難航しているなどのため、当面事業の進ちょくが見込めないとして中止とされたものなどである。

(イ)休止とされた事業

 休止とされた事業は、12年度までに、農林水産省所管事業で21件(総事業費計1510億余円、実施済事業費計159億余円)あり、これらの事業は、事業を実施する必要性は依然としてあるものの、関連する事業が遅れているなどのため、現時点では早急に事業を実施する条件が整っていないとしているものなどである。
 また、国土交通省所管事業では、休止とされた事業が64件(総事業費計4968億余円、実施済事業費計742億余円)あるが、これらは、その後の再評価で継続事業として事業再開された3件を除き、すべてその後の再評価で中止となっている。

(ウ)継続又は見直しとされた事業

 継続又は見直しとされた事業は、12年度までに、農林水産省所管事業で3,519件(総事業費計11兆8758億余円、実施済事業費計7兆3734億余円)、国土交通省所管事業で6,494件(総事業費計200兆2433億余円、実施済事業費計86兆3394億余円)ある。
 このうち、継続とされた事業は、事業の進ちょく状況や社会経済情勢の変化の有無などについて評価した結果、引き続き事業の必要性が認められ、かつ、事業の進ちょくも見込めるとして今後とも継続して実施することが妥当であると判断されたものである。
 また、見直しとされた事業は、社会経済情勢の変化等により、現計画のままで事業を継続することが適当でなかったり、更に効率的なものとすることが可能であったりすることから、施設の規模、事業手法等を見直したうえで事業を継続することとされたものである。

イ 評価の具体的実施方法

(ア)費用対効果分析の実施状況

 費用対効果分析は、その事業が費用に見合う効果を発現するものであるかということを見る上で分かりやすい指標である。旧運輸及び旧建設両省では、その所管するすべての事業について、新規採択時に費用対効果分析を行い、さらに、再評価の際には、その算定基礎となる事業費や事業の効果に関連する要因の変化について評価し、採択時の分析結果に影響を与える変化が認められた場合に改めて分析を行うことを基本として、具体的な実施条件については事業種別ごとに実施要領等で定めている。
 そして、この分析は、例えば道路事業において建設費や供用後の維持管理費等を費用とし、供用後に利用者が得られる走行時間の短縮や走行経費の減少などを便益とし、それぞれ算定された費用と便益の比率(費用便益比)により、投下費用により得られる事業の効果の度合いを定量的に評価することなどを主な方法として行われている。
 農林水産省所管の事業のうち土地改良事業では、前記のとおり、土地改良法に基づき、計画策定時に、事業実施に伴い生じる経済効果と総事業費を対比する費用対効果分析を行うことになっており、この経済効果を総事業費で除した投資効率が1以上の場合のみ事業が実施されることになっている。そして、再評価時における費用対効果分析の取扱いについて、直轄等事業では、計画策定時等に行っている費用対効果分析の算定基礎となった要因の変化について、その数値を第三者委員会に提示しているが、改めてその数値を基にした費用対効果分析までは行っていない。また、補助事業では、計画策定時と同様の手法で改めて費用対効果分析を行っているもの、計画策定時の算定を基に材料単価を時点修正するなどして一部のデータのみを更新する簡易な手法で費用対効果分析を行っているものがある一方で、改めて費用対効果分析は行っていないものも少なくなかった。

(イ)事業をめぐる社会経済情勢等の変化や事業の進ちょく状況に係る評価の実施状況事業をめぐる社会経済情勢等の変化の評価について、国土交通省所管事業では、河川事業における災害発生時の影響や地域の協力体制、土地区画整理事業における自然環境条件や関連する他事業の進ちょく状況など、各種の評価指標が事業種別ごとに設定されており、個別事業の特性や諸情勢等を踏まえ、適切に評価指標を選定して評価を行うこととなっている。
 事業の進ちょく状況の評価については、再評価時点での実施状況などは進ちょく率や実施済事業費などで評価されている。今後の実施のめどなどについては、旧運輸及び旧建設両省所管事業では、道路・街路事業において部分供用開始見込み年度を示したり、完了見込み年度を示したりするなど明らかにしているものが多かったが、中には具体的に明らかにされないまま評価を行っているものが見受けられた。
 また、農林水産省所管事業のうち、直轄等事業では完了見込み年度を示していたが、補助事業では、継続という方針が示されているだけで完了予定など今後の進ちょく見込みが示されないまま評価を行っているものが見受けられた。

(3)13年度における国土交通省の実施要領の改正

 上記のようなこれまでの再評価の実施状況を踏まえるなどして、国土交通省は13年7月に実施要領の改正を行い、旧運輸省所管事業、旧建設省所管事業等を包括する国土交通省所管のすべての公共事業の再評価に統一的に適用される新たな実施要領を定め、以降はこれによって再評価を実施することとしている。その主要な改正点は次のとおりである。
(ア)学識経験者等からなる研究会において、再評価の手法に関する事業種別間の整合性や評価指標の定量化等について検討する。
(イ)事業の必要性があっても、事業の進ちょくの見込みが乏しい場合には中止とすることが適切な場合もあることから、今後の事業実施のめ、ど進ちょくの見通しなどの視点から再評価を実施することを明記するとともに、従来、継続、休止、中止などとしていた対応方針の考え方を継続と中止の2つに整理する。
(ウ)費用対効果分析は、従来、一部の事業についてのみ実施していたが、今後は原則としてすべての事業について実施する。

4 本院の所見

 公共事業の効率性及びその実施過程の透明性の一層の向上を図るため導入された再評価システムについては、新たに制度化された政策評価の枠組みの中で、今後も一層の改善・充実を図りつつ、引き続き実施するものとされており、政策評価制度の円滑な展開を図るためにも、全国的なシステムとしては他に先駆けて実施された公共事業の再評価システムが、今後、より一層充実したものとして浸透・定着していくことが求められている。その際には、前記のようなこれまでの再評価の実施状況を踏まえ、次のような点について配慮していくことが望まれる。
(ア)農林水産省所管の直轄等事業では、再評価の時点で費用対効果分析の算定基礎となった要因が変化した場合には、その数値を第三者委員会に提示しているが、更に再評価を効果的なものとするためには、変化した要因の数値を基にして改めて費用対効果分析を行うことが望まれる。
(イ)国土交通省所管事業の再評価については、これまでの再評価の実施状況を踏まえ、その改善・充実を図るべく、13年度に新しい実施要領が定められたところであり、その着実な実行が望まれる。また、この改正により、休止の対応方針がなくなり、必要性が認められる事業についてもその進ちょくの見込みが乏しい場合には中止とするなど、今後の事業の進ちょくの見込みが再評価の視点として更に重要なものとなっており、事業の進ちょくの見込みの判断を的確に行うことが望まれる。
(ウ)都道府県等においては、その再評価システムにおいて、再評価を実施する事業の要件、費用対効果分析等の取扱いが区々となっている事態が見受けられた。再評価システムは、現在まだ改良・精緻化の過程上にあるものであり、また、都道府県等においては、各省の要請によりシステムの整備を図っているところであるから、その成熟には一定の時間を要するものと見込まれるが、国庫補助事業の事業主体として、今後一層その質の向上に努めることが望まれる。
 再評価システムは、制度発足以来3年を経過し、毎年改良が行われ現在に至っているが、この間、実施主体の公共事業に対する意識も変わりつつあり、本制度に対する国民の関心も高くなっている。本院としては、今後、公共事業の再評価が一層適切に実施され、公共事業の効率的な執行及び透明性の確保に資するとともに、今後本格的に実施される政策評価の中の事業評価の一つとして、政策評価の他の部門と有機的に連携して機能していくことを期待しつつ、再評価を含む各府省等における評価制度の実施・運用状況等を注視していくこととする。