検査対象 | 核燃料サイクル開発機構(平成10年9月30日以前は動力炉・核燃料開発事業団) | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
予算執行額 |
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1 検査の背景
(機構の概要)
核燃料サイクル開発機構(平成10年9月30日以前は動力炉・核燃料開発事業団。以下「機構」という。)は、核燃料サイクル開発機構法(昭和42年法律第73号。以下「機構法」という。)に基づき、〔1〕高速増殖炉及びこれに必要な核燃料物質の開発、〔2〕核燃料物質の再処理、〔3〕高レベル放射性廃棄物の処理及び処分に関する技術の開発を計画的かつ効率的に行うとともに、これらの成果の普及等を行い、原子力の開発及び利用の促進に寄与することを目的として設立されているものである。
そして、機構に対しては、国の一般会計及び電源開発促進対策特別会計から、機構が実施する事業に直接要する経費に充てることとして出資金が、また、人件費等の一般管理運営業務に要する経費に充てることとして補助金がそれぞれ交付されている。その予算額は平成12事業年度で出資金942億1600万円、補助金398億0357万余円となっており、これらが機構収入に占める割合は80.9%となっている。
機構の予算は、機構法の規定により、事業計画及び資金計画とともに毎事業年度の開始前に主務大臣の認可を受けなければならないこととなっている。そして、機構の予算は、核燃料サイクル開発機構法施行規則(昭和42年総理府令第46号。以下「総理府令」という。)により、予算総則及び収入支出予算からなるとされている。
このうち、収入支出予算は、電源開発促進対策特別会計法等に規定する業務の経理に係る会計(以下「特別会計」という。)とその他の業務の経理に係る会計(以下「一般会計」という。)とに区分して整理することとなっている。これらの特別会計及び一般会計は、それぞれ更に出資金部門及び補助金部門に区分されている。そして、支出予算については、特別会計と一般会計間の流用はできないこととなっている。
また、予算総則で指定する経費は、主務大臣の承認を得なければ、それらの経費の間又はそれ以外の経費との間で相互に流用することができないこととなっている。この経費としては、一般会計及び特別会計の補助金部門の中の〔1〕(項)役職員給与のうちの(目)役員給与及び(目)職員給与、〔2〕(項)共通経費のうちの(目)退職金及び(目)福利費、〔3〕(項)交際費が指定されている。
機構の財源のうち補助金は、文部科学省(13年1月5日以前は科学技術庁)の定めた核燃料サイクル開発機構一般会計予算補助金交付規則(昭和44年44原第2259号)及び核燃料サイクル開発機構電源開発促進対策特別会計予算補助金交付規則(昭和55年55原第68号)に基づいて交付されている。
そして、これらの補助金は、「補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律」(昭和30年法律第179号)等の適用を受け、当該補助金を補助の目的以外に使用することができないため、補助金部門の予算を出資金部門の予算に流用することはできないこととなっている。
13年4月、給与や管理共通費の支払等、機構の予算執行に関して不適切な事態がある旨の新聞報道がなされ、国会審議等でも取り上げられるところとなった。
これらを受けて、機構では11事業年度の予算執行を中心にその事実関係を調査し、13年4月にその結果を公表している。その骨子は以下のとおりである。
(ア)給与の支払は適正に行われていたが、手続の一部に不備があった。また、退職金の支払は適正に行われていたが、予算区分管理の一部に適正でないものがあった。
(イ)管理共通費及び地元協力金については、更なる透明性の確保に努める。
(ウ)固定資産税及び都市計画税(以下「固定資産税等」という。)については、納税通知書に基づき納めている。
文部科学省は、機構の調査結果を受けて更に調査を実施し、13年5月に、次のとおり不適切な予算管理があるなどの問題点が明らかになったとしている。
(ア)機構が一時大量に採用した職員の高齢化により、実支給単価が予算給与単価を上回ることになった。この結果、給与費の不足が生じるため、多数の欠員分の給与をこれに充てざるを得なかった。
(イ)補助金部門の経費である退職金を主務大臣の承認を得ずに出資金部門の経費である業務協力員費から支出していたり、適正な手続を経ずに出向・派遣職員と業務協力員の身分換えを恒常的に行っていたりするのは、機構法で認められていない出資金部門と補助金部門の間の流用に該当すると考えられる。
(ウ)社内調整費は、各研究事業費などから一定額を留保し、予算の実施計画を円滑に実施するために一括して執行するための共通的経費である。その内容については、誤解を受けることがないよう認可予算との関係が合理的に説明できるものでなければならない。
(エ)地元協力金については、事業目的に照らし見直しを要する事例が見受けられた。
文部科学省は、上記の調査結果に基づき、機構内の予算執行・定員人員管理に係るチェックシステムの確立等、機構が講ずべき 21項目にわたる改善指示事項を取りまとめ、機構において早急に検討及び措置し、その状況を報告するよう大臣名で機構法第41条第2項の規定に基づく指示を行った。
これに対し、機構では、指示事項の各項目にわたり検討を行い、13年7月にその検討状況及び当面の措置を報告している。
2 検査の着眼点及び方法
前記の機構及び文部科学省における調査を踏まえ、主に、機構が発足した10事業年度以降の予算執行が、機構法等の法令や認可予算に照らし適切に行われているかどうかに着眼して検査した。
検査に当たっては、文部科学省において、前記の機構の予算執行に対する調査の内容等を確認した。
また、機構の本社において、認可予算の内容及び実施計画の執行状況について検査を行うとともに、予算に関係する諸規程類及び予算の手続の趣旨についても聴取を行い、敦賀本部ほか6事業所等において、関連帳票類に基づき、実施計画の執行状況等について検査を実施した。
3 検査の状況
検査の状況について、文部科学省の調査内容に関連した事項と本院が独自に実施した事項を示すと、それぞれ次のとおりである。
(1)文部科学省の調査内容に関連した事項
〔1〕 予算定員と実員、予算給与単価と実支給単価について
文部科学省の調査結果では、予算定員が実員に対してかい離している理由として、機構職員の高齢化等により多くの欠員を抱えざるを得なかったなどの問題があったとしている。
本院において、この調査結果を踏まえ更に検査したところ、次のような事態となっていた。
予算総則では役職員の定員及び給与について、「予算で予定した定員及び給与の基準を超えて、みだりに増加し、又は支給してはならない。」と定められている。このうち予算定員は、10事業年度2,727人、11事業年度2,676人、12事業年度2,626人であるのに対し、実員は2,575人、2,571人、2,458人となっていて予算を超えてはいなかったが、両者の間に毎事業年度100人以上のかい離が生じていた。一方、給与については、給与の基準に基づいて支払われていたが、実支給単価が予算給与単価を毎事業年度月平均18,000円程度上回っていた。
〔2〕 一般会計と特別会計間、出資金部門と補助金部門間での人件費の流用について
機構では、事業年度途中に一般会計及び特別会計における補助金部門の人件費の執行見通しを立て、過不足が生じて流用が必要となった場合、事業年度末に主務大臣の流用承認の手続を執っている。
文部科学省の調査結果では、一般会計と特別会計間又は出資金部門と補助金部門間で人件費を流用しているものが見受けられた。文部科学省は、これらの事態について機構法に違反していると考えられるとしている。
本院において、この調査結果を踏まえ更に検査したところ、次のような事態が見受けられた。
(ア)機構では、10事業年度の役職員給与について、流用承認を申請するに当たり、一般会計で1億1230万余円、特別会計で1億7879万余円の流用増としていた。この流用の財源には、一般会計、特別会計ともに補助金部門の経費である退職金などを充てていた。
しかし、実際は、特別会計において役職員給与が2億4830万余円不要となったため、主務大臣の承認を得ずに、これを同じ特別会計の出資金部門の経費である事業費に更に流用していた。
(イ)上記(ア)の流用の財源となった退職金に不足が生じたため、一般会計の出資金4億0109万余円、特別会計の出資金1億3818万余円を、主務大臣の承認を得ずに、それぞれの会計の補助金部門の退職金へ流用していた。
(ウ)11事業年度においても、上記(ア)及び(イ)とほぼ同様の事態が見受けられたほか、一般会計と特別会計間での流用の事態も見受けられた。
(エ)12事業年度においては、10、11両事業年度と同様な処理が本年3月まで進められていたが、前記新聞報道等の事態が発生したため、流用申請を再度行った。そして、機構では、役職員給与のうち不用額分に相当する補助金は国に返還することとしている。
(2)本院が独自に実施した事項
〔1〕 地元協力金の支払について
文部科学省の調査結果では、地元協力金について事業目的に照らし見直しを要する事例があったとしているが、これには事態の具体的な記述がなかったことなどから、本院において更に検査したところ、次のような事態が見受けられた。
すなわち、機構では、主に、機構の施設が所在する市町村及びそれに隣接する市町村が実施する道路、下水道などの公共施設を整備する事業に対して地元協力金を負担している。この件数及び金額は、10事業年度が117件で2億0718万余円、11事業年度が115件で5億9180万余円、12事業年度が113件で2億2899万余円となっている。
上記のうち、認可予算に計上されているものは、11事業年度が3件で3億9100万円、12事業年度が2件で5165万余円にとどまっており、これ以外の支出は、認可予算で計上されていないものを実施計画に計上して支出しているものである。
そして、この中には、同一の自治体等に対して、地元協力金の対象事業費の多寡にかかわらず毎年定額を支出していたり、地元協力金の対象事業が明確でなく協力先における使途の内容が明確でないまま支出したりしているものがあった。
しかし、地元協力金の財源は国から交付を受けた出資金等であるから、予算執行を適切に行うためには、機構において、認可予算に計上するとともに地元協力金の支出の必要性や対象事業等を明確に示すことが求められる。
〔2〕 固定資産税等の支払について
前記新聞報道において、機構が東海村に通常の2倍以上の固定資産税等を支払ってきた可能性があるとされたが、この報道に関して文部科学省の調査結果に特に記述がなされていないことから、本院において検査したところ、次のような事態が見受けられた。
すなわち、機構では、地方税法(昭和25年法律第226号)に基づき、東海事業所で取得した研究施設等(地方税法上の家屋。以下同じ。)に係る固定資産税等を東海村に納税しており、その額は、10事業年度12億6927万余円、11事業年度12億7241万余円、12事業年度14億2080万余円となっている。
地方税法では、市町村長は、総務大臣が告示する固定資産評価基準によって固定資産税の課税評価額を決定しなければならないとされている。 また、道府県及び市町村の評価に不均衡を来すことのないように、道府県知事が不動産取得税の課税評価額を市町村に通知したときは、市町村長は、特別の事情を除くほか当該通知に係る価格に基づいて評価をしなければならないとされている。
東海事業所において、2年1月以降11年間に取得した82の研究施設等の固定資産税の課税評価額について調査したところ、東海村では、固定資産評価基準の規定を拡大解釈するなどして、村独自の補正を行って課税評価額を算出していた。
そこで、上記のうち、茨城県に対して不動産取得税を納めている16の研究施設等について、固定資産税と不動産取得税の課税評価額を比較したところ、固定資産税の課税評価額が不動産取得税の課税評価額の平均2.3倍(最高で5.1倍)となっていて、機構の固定資産税等の納付額が過大になっていると認められた。
東海村では、13年5月の茨城県知事との協議を踏まえ、元年以降に取得した研究施設等で、固定資産税と不動産取得税の課税評価額に開差のあるものについては、県と共同で13年度中に再評価を行い、14年2月を目途に評価額の修正等の措置を執ることとしている。この評価額の修正による納税額の減額は約1億円が見込まれている。
〔3〕 消費税の申告について
固定資産税等の支払に係る上記のような事態にかんがみ、他の税の支払についても本院で検査したところ、消費税の申告について次のような事態が見受けられた。
機構では、毎事業年度の消費税の申告に当たって、機構が定めた消費税事務取扱要領に基づき仕入控除税額を計算し、この結果、11事業年度分では7億3266万余円の還付を受けていた。
消費税法(昭和63年法律第108号)によれば、同法別表第三に掲げる公共法人等が、補助金や寄附金など、資産の譲渡等の対価以外の収入(以下「特定収入」という。)を得ている場合には、普通法人並みに計算した仕入控除税額から特定収入に係る課税仕入れ等の消費税額を差し引いた額を仕入控除税額とすることとされている。
一方、特定収入とされている補助金等のうち、同法施行令等により、課税仕入れに係る支払対価の額等以外の支出にのみ使用していることが特定できるものについては、特定収入から除外できることとされており、この支出には、職員給与(通勤手当を除く。以下同じ。)、福利費、租税公課等が該当する。
そして、機構は前記の公共法人等に該当し、毎事業年度の消費税の申告において、国庫補助金の全額について特定収入として扱い、還付を受けていた。しかし、この国庫補助金のうちには職員給与、福利費、租税公課など課税仕入れに係る支払対価の額等以外の支出に使用していることが特定できるものがあり、これらについては特定収入から除外できたと認められる。
したがって、機構で、これらについて特定収入から除外することとすれば、11事業年度分において消費税の負担を50億5922万余円軽減できたと認められた。
機構では、12事業年度分の申告に当たり、適切な申告に改めることとし、過大な負担の原因となった前記の取扱要領については、適切な消費税の申告ができるよう11月に改訂している。
4 本院の所見
機構の予算執行に関しては、平成8年度決算検査報告において「廃棄物屋外貯蔵ピットに関する予算とその執行について」を掲記し、「認可された予算については、その趣旨に沿った執行を行うこと、及び執行結果をできる限り予算要求に反映させて適切な予算を作成していくことが肝要である。」と記述しているところである。
しかし、10年10月の機構発足以降も、主務大臣の承認が必要とされている予算の流用について、その承認を受けないで流用したり、認可予算で計上されていない地元協力金を支出したりしているなど、適切とは認められない予算の執行が行われていた。
また、固定資産税等及び消費税については、東海村の納税通知書に従ってこれを支払っていたり、税額の計算方法が複雑であったりしているなどの事情があったとはいえ、機構において過大な負担をする結果となっていた。
これらの事態が生じていたのは、機構において政府出資法人として適正な予算執行に努めなければならないという基本的な認識がなお不十分なことや、納税者として適正な負担をするという意識が希薄なことによると認められる。
したがって、今後は、〔1〕予算執行に係る職員の意識を高め、〔2〕予算執行に係る内部統制を充実強化するなど、再発を防止し、適切な予算執行を行うための体制整備が求められる。
機構においては、13年5月の文部科学省の指示に基づき、既に改善の措置を講じている事項もあるが、改善の措置の多くは検討中の段階にある。本院としては、独自に検査を実施した結果明らかになった事態と併せ、機構における今後の改善状況を注視していくこととする。