1 本院が要求した是正及び改善の処置
外務省大臣官房総務課要人外国訪問支援室長であった者(以下「元室長」という。)が、内閣総理大臣の外国訪問(以下「総理外国訪問」という。)に際して、内閣官房の報償費から内閣総理大臣及び同行者に係る宿泊費差額として交付を受けた公金を競走馬やマンションの購入に充てるなどした事件(以下「事件」という。)を受け、本院では、事件が内閣官房報償費のどのような執行体制から、また、外務省のどのような事務体制から発生したか、宿泊費差額の支払財源とされる内閣官房報償費の執行やその内部での確認、監査は適切に行われているかなどの点に着眼して検査した。
検査したところ、総理外国訪問の際の宿泊費差額の精算に当たっては、内閣官房と外務省の間の事務の分担が明確でないことなどから、双方において、元室長から提出された精算書と領収証書の突合等の実質的な確認は行われていない状況となっていた。
また、そのほかにも内閣官房と外務省の間における総理外国訪問に係る事務及び経費の分担が明確になっていなかったり、内閣官房における報償費の執行体制等が整備されていなかったりしており、事件はこのような体制を背景に発生したものであると認められた。
そして、元室長が領得したと思料される額を、内閤宮房から提出された関係資料がある平成9年9月から元室長が在任していた11年8月までの18回の総理外国訪問を対象として算定したところ、3億77百万円となった。
内閣総理大臣及び外務大臣に対し、13年9月に、内閣官房において事件に係る損害額を早期に確定し、債権を保全するための措置を講ずるよう、会計検査院法第34条の規定により是正の処置を要求するとともに、内閣官房及び外務省において内閣官房報償費や総理外国訪問に係る経費の適切な執行を期するよう、次のとおり、同法第36条の規定により改善の処置を要求した。
〔1〕 内閣官房及び外務省において、総理外国訪問における各々の事務分担を明確に定め、その事務の分担に応じ自らの責任において予算を執行すること
〔2〕 内閣官房において、内閣官房報償費の出納、保管に係る事務補助の内容及びその実施手続を定めるとともに、管理状況が十分把握できるよう、その執行体制を整備すること
〔3〕 内閣官房において、内閣官房報償費の出納、保管について定期的に内部監査を行うなど、報償費が適正に使用されているかどうかの確認を内部で行うことができる体制を構築すること
2 当局が講じた是正及び改善の処置
内閣官房では、本院指摘の趣旨に沿い、現状において事件に係る損害額の算定が可能な総理外国訪問についてその損害額を452,498,351円と確定し、元室長に納入を告知した。そして、損害賠償請求に係る債権を保全するために元室長の所有する財産の保全処分の申立てを法務省に依頼し、東京地方裁判所から差押命令を得るなどして、マンションの売却代金、銀行預金等351,278,062円を回収した(14年11月20日現在)。
また、内閣官房及び外務省では、本院指摘の趣旨に沿い、内閣官房報償費や総理外国訪問に係る経費の適切な執行等を図るよう、次のような処置を講じた。
〔1〕 総理外国訪問に係る経費について、内閣官房では、14年度において、国家公務員等の旅費に関する法律(昭和25年法律第l14号)に基づき支給される内閣総理大臣及び官邸同行者の日当等を外国旅費の予算に計上し支給しているほか、これらの者の宿泊費については宿舎の施設借上費として庁費の予算に計上し内閣官房の職員が現地に同行して支払事務を行っている。そして、内閣官房が予算計上した上記以外のすべての総理外国訪問に係る経費については、外務省で予算計上し同省の責任において支払事務を行っており、総理外国訪問に係る内閣官房と外務省の間における事務及び経費の分担が明確化された。
〔2〕 内閣官房では、14年4月に、報償費の持つ性格に留意しつつその透明性を可能な限り高め、厳正かつ効果的な執行を確保することを目的として、「内閣官房報償費の取扱いに関する基本方針」(平成14年4月1日内閣官房長官決定。以下「基本方針」という。)等を定めた。これらの中で、内閣官房報償費については、取扱責任者の責任と判断のもとでその経費の性格に適したものに限定し執行することとするとともに、使用目的類型の明確化、事務補助者の指名等を定め、報償費の執行体制を整備した。
〔3〕 内閣官房では、基本方針等において、定期的に内部監査を行うことなどを定め、報償費が適正に使用されているかどうかの確認を内部で行うことができる体制を構築した。