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  • 平成13年度|
  • 第3章 個別の検査結果|
  • 第1節 省庁別の検査結果|
  • 第7 文部科学省|
  • 本院の指摘に基づき当局において改善の処置を講じた事項

公立の中学校における免許外教科担任の解消が一層図られるよう改善させたもの


(1) 公立の中学校における免許外教科担任の解消が一層図られるよう改善させたもの

会計名及び科目 一般会計 (組織)文部科学本省 (項)義務教育費国庫負担金
部局等の名称 文部科学本省
国庫負担の根拠 義務教育費国庫負担法(昭和27年法律第303号)
国庫負担の対象 公立の小学校、中学校、中等教育学校の前期課程等に要する経費のうち教職員給与費等
検査した道府県 北海道ほか23府県
上記の道府県において平成13年度に免許外教科担任を実施した中学校の数 3,035校
上記の中学校における免許外教科担任の実施件数 9,923件
上記に係る国庫負担金相当額 125億3134万円(平成13年度)

1 制度の概要

(教育の機会均等と全国的な教育水準を保障する制度)

 文部科学省(平成13年1月5日以前は文部省)では、教育の機会均等と全国的な教育水準の確保を保障する制度として、義務教育費国庫負担制度、教員(教諭、講師等。以下同じ。)の免許制度等を設けている。このうち、義務教育費国庫負担制度は、義務教育費国庫負担法(昭和27年法律第303号)に基づき、義務教育無償の原則に則り、国民のすべてに対しその妥当な規模と内容とを保障するため、国が必要な経費を負担することにより、教育の機会均等とその水準の維持向上とを図ることを目的としている。また、教員の免許制度は、教育職員免許法(昭和24年法律第147号)に基づき、教員の免許に関する基準を定め、専門職性を有する教員の資質の保持と向上を図ることを目的としている。

(義務教育費国庫負担制度)

 文部科学省では、義務教育費国庫負担法に基づき、公立の中学校等の義務教育諸学校に要する経費のうち各都道府県の負担する教職員給与費等の経費について、原則としてその実支出額の2分の1を負担するため、義務教育費国庫負担金を毎年度各都道府県に交付している。この義務教育費国庫負担金の額は、近年の少子化傾向により児童生徒数及び教員数が減少しているにもかかわらず2兆8000億円前後で推移しており、その13年度における歳出決算額は2兆8712億6523万余円となっている。
 そして、この義務教育費国庫負担金の算定の基礎となる各都道府県ごとの義務教育諸学校の教職員の定数は、「公立義務教育諸学校の学級編制及び教職員定数の標準に関する法律」(昭和33年法律第116号。以下「標準法」という。)等に基づき算定することとされており、各都道府県では、この定数を標準として各義務教育諸学校に教職員を配置している。

(教員の免許制度)

 教育職員免許法によれば、小学校、中学校等の教員は、同法により授与する各相当の免許状を有する者でなければならないとされている。これらの学校のうち中学校の教員の免許状は、国語、社会、数学、理科、音楽、美術、保健体育、技術、家庭、英語等の各教科について授与するものとされていて、中学校においてはそれぞれの教科についての免許状を有する教員による教育が行われることが必要であるとされている。

(中学校における免許外教科担任)

 都道府県教育委員会は、教育職員免許法附則の規定に基づき、当分の間、ある教科の教授を担任すべき教員を採用することができないと認めるときは、上記免許制度の例外的な措置として、当該中学校の校長及び教諭の申請により、1年以内の期間を限り、当該教科についての免許状を有しない教諭が当該教科の教授を担任すること(以下「免許外教科担任」という。)を許可することができるとされている。
 これは、へき地等における小規模の中学校においては、免許状を有する教員をすべての教科については採用することが困難な場合があることなどを考慮したことによるとされている。

(免許外教科担任の申請手続及び審査基準)

 免許外教科担任の許可を受けようとするときは、教育職員免許法施行規則(昭和29年文部省令第26号)附則の規定に基づき、当該学校の校長及び当該教諭は、連署をもって、教諭の氏名、教科の名称、免許外教科担任の事由、教諭の履歴、教諭が所有する免許状の種類等の事項を記載した申請書を都道府県教育委員会に提出し、その許可を受けなければならないとされている。
 そして、文部科学省では、免許外教科担任の許可が行政手続法(平成5年法律第88号)に規定する申請に対する処分に該当することから、この許可を行うに際しては、上記申請書の記載事項である免許外教科担任の事由、教諭の履歴等を十分考慮するとともに、教員間の授業時間数の配分を調整するために免許外教科担任が行われることのないよう、各都道府県教育委員会において同法第5条の規定に基づき具体的な審査基準を定めることが適当であるとし、6年9月に各都道府県教育長あてにその旨の通知を発している。

(文部科学省による免許外教科担任の解消措置)

 文部科学省では、免許外教科担任の解消を図るため、毎年度、公立の中学校等の教職員の定数を改善しつつ、6年度以降次のような措置を講じてきている。
(ア) 都道府県が、中学校における免許外教科担任の解消のために非常勤講師を配置した場合に要する経費を補助するため、6年度から12年度までの間にこれに係る補助金を交付した。
(イ) 13年4月に標準法を改正し、上記の補助に代えて、教諭等の定数を非常勤講師の数に換算することにより、中学校に非常勤講師を配置できるようにした。
(ウ) 各都道府県に対して、免許外教科担任の許可件数及び免許外教科担任の解消のための対策の実施状況の調査を実施し、それらの内容に応じて個別に指導及び助言を行っている。このような文部科学省の免許外教科担任の解消のための措置により、全国の中学校における免許外教科担任の許可件数は6年度以降減少しつつあるが、13年5月現在においても、文部科学省に対し報告された件数は14,615件に上っている。

2 検査の結果

(検査の着眼点及び対象)

 教員の免許制度は、前記のとおり、教育の機会均等と全国的な教育水準の確保を保障する制度の一つとして、専門職性を有する教員の資質の保持と向上を図るために設けられているものである。したがって、中学校における免許外教科担任をみだりに行うことにより、教員の免許制度の目的が形骸化し、ひいては教育の機会均等とその水準の維持向上とを図ることを目的として都道府県に対し多額の国庫負担金を交付している義務教育費国庫負担制度の趣旨を損なうおそれがあると認められる。
 そこで、中学校における免許外教科担任の許可件数が相当数に上っているという状況を踏まえて、上記の視点から、北海道ほか23府県(注1) に所在する公立の中学校において、13年度に免許外教科担任の許可を行ったとして文部科学省に報告のあった2,907校、8,771件の許可状況等について、免許外教科担任の申請及び許可は適切に行われているか、また、その解消に向けた取組が図られているかなどに着眼して検査した。

(検査の結果)

 検査したところ、次のような事態が見受けられた。

(1) 免許外教科担任の許可に係る審査基準の策定状況
 文部科学省では、前記のとおり、免許外教科担任の許可の手続の適正を期するため、各都道府県教育委員会に対して具体的な審査基準を定めることが適当である旨の通知を発しているところである。
 そこで、各道府県における審査基準の策定状況をみると、審査基準を定めているとしているものが北海道ほか16府県ある一方で、これを定めていないとしているものが岩手県ほか6県で見受けられた。そして、審査基準を定めているとしているものの中には単に申請の手続しか規定しておらず、その内容が、教員間の授業時間数の配分を調整するために免許外教科担任が行われることのないようにするとの前記通知の趣旨に沿った具体的なものであるとは認められないものも見受けられた。

(2) 免許外教科担任の実施状況
 各道府県における免許外教科担任の実施件数は、実際には3,035校で9,923件(週42,933時間、年間1,502,655時間、国庫負担金相当額125億3134万余円)となっていた。
 このうち、各中学校において、道府県教育委員会の許可を受けずに免許外教科担任をさせていたり、免許外教科担任の解消に向けた取組が十分でないと認められたりする事態が、次のとおり、北海道ほか22府県(注2) に所在する827中学校において2,110件(この件数の中には、〔1〕及び〔2〕の事態が重複しているものも含まれている。)見受けられた。

〔1〕 許可を受けずに免許外教科担任をさせていたもの
 各道府県における免許外教科担任の実施件数は、前記のとおり9,923件となっていた。このうち、許可を受けずに教諭等に免許外教科担任をさせていたものが1,474件見受けられた。このうち、937件は、許可を受けずに免許外教科担任をさせていたものを許可を受けたこととして文部科学省に報告していたものであった。

〔2〕 免許外教科担任の解消に向けた取組が十分でないと認められたもの
ア 中学校における免許外教科担任の解消に向けた取組が十分でないと認められたもの
 免許外教科担任は、ある教科の教授を担任すべき教員を採用することができないと認めるときに、各中学校においてその申請を行うものであるが、教諭等に対する校務分掌、授業時間数の配分を工夫することなどにより、これを行わずに済む場合がある。
そこで、このような視点から、各道府県における免許外教科担任の許可の状況について検査したところ、教諭等の校務分掌、授業時間数の配分を工夫して教諭等の有する免許状に係る教科の教授のみを担任させていたり、複数教科の免許状を有する教諭等に当該教科の教授を担任させていたりすることにより、免許外教科担任の解消を図っていたものが見受けられた。
 一方、ある教科について免許状を有する教諭等に授業時間数の余裕が十分あると認められるのに、当該教科の免許状を有しない教諭にその教授を担任させていたなど、免許外教科担任の解消に向けた取組が十分でないと認められるものが、前記23道府県の560校で818件見受けられた。これについて、その例を示すと次のとおりである。

<事例1>
 A中学校(10学級。教諭等18名)では、国語ほか3教科について週46時間の教授を担任すべき教員を採用することができないとして、これらの各教科について7名の教諭等に免許外教科担任を行わせていた。
同中学校では、理科の免許状を有するa教諭に理科の教授を全く担任させずに数学の教授を15時間担任させる一方で、技術の免許状を有するb教諭に技術の教授を全く担任させずに理科の教授を15時間担任させていた。そして、数学の免許状を有するc教諭及び保健体育の免許状を有するd教頭に技術の教授をそれぞれ1時間、5時間担任させるなどしていた。

イ 道府県における免許外教科担任の解消に向けた取組が十分でないと認められたもの
 免許外教科担任は、道府県において、教員に対して各中学校間の兼務を発令してその有する免許状に係る教科の教授を担任させたり、教諭等の定数を非常勤講師の数に換算することなどにより各中学校に当該教科の免許状を有する非常勤講師を配置したりすることによって、その解消を図ることが可能である。
 そこで、このような視点から、各道府県において免許外教科担任の解消のためにこのような措置を講じているかについて検査したところ、次のような状況であった。

(ア) 兼務発令について

群馬県ほか10県においては、免許外教科担任の解消を図るため教員に対して各中学校間の兼務を発令していたものがあるものの、北海道ほか12府県においては、このような免許外教科担任の解消を図るための措置を講じていなかった。
上記の免許外教科担任の解消を図るための兼務発令について、その例を示すと次のとおりである。

<事例2>
 B中学校(2学級。教諭等6名)では、技術の免許状を有する教員がいないことから、近隣の中学校に勤務する技術の免許状を有する教員について兼務発令を受け、当該教員に技術の教授を週6時間(各学年2時間)担任させていた。この措置により、同中学校では技術の教科について免許外教科担任の解消を図っていた。

(イ) 非常勤講師の配置について

 岩手県ほか18県においては、免許外教科担任の解消を図るため非常勤講師を配置していたものがあるものの、北海道ほか4府県においては、このような免許外教科担任の解消を図るための措置を講じていなかった。
 上記の免許外教科担任の解消を図るための非常勤講師の配置について、その例を示すと次のとおりである。

<事例3>
 C中学校(3学級。教諭等9名)では、美術及び家庭の免許状を有する教員がいないことから、県より美術又は家庭の免許状を有する非常勤講師2名の配置を受け、このうち1名に美術の教授を週6時間(各学年2時間)、他の1名に家庭の教授を4時間(1、3学年各1時間、2学年2時間)、それぞれ担任させていた。この措置により、同中学校では美術及び家庭の両教科について免許外教科担任の解消を図っていた。

(発生原因)

 このような事態が生じていたのは、各中学校へ教員を配属する際の各道府県における配慮が十分でなかったことにもよるが、主として次のことによると認められた。
(ア) 道府県によっては、免許外教科担任が教員の免許制度の例外的な措置であるのに、その申請及び許可の手続を適正に行おうとする認識が十分でなかったこと
(イ) 文部科学省の通知があるにもかかわらず、道府県によっては具体的な審査基準を定めることや審査基準の運用を適切に行うことについての認識が十分でなかったこと
(ウ) 中学校において、教諭等の校務分掌及び授業時間数の配分を工夫することなどによって免許外教科担任の解消を図ることについての認識が十分でなかったこと
(エ) 道府県において、免許外教科担任の解消を図るために、教員に対して各中学校間の兼務を発令してその有する免許状に係る教科の教授を担任させたり、教諭等の定数を非常勤講師の数に換算することにより各中学校に当該教科の免許状を有する非常勤講師を配置したりする配慮が十分でなかったこと

3 当局が講じた改善の処置

 上記についての本院の指摘に基づき、文部科学省では、公立の中学校における免許外教科担任の解消が一層図られるよう、14年9月及び10月に同省主催の会議を開催するとともに、同年10月に各都道府県教育委員会に対して通知を発し、免許外教科担任が教員の免許制度の例外的な措置であるとの認識を徹底させ、その申請及び許可の手続を適正かつ適切に行うよう指導するなどの処置を講じた。

(注1)

北海道ほか23府県 北海道、京都、大阪両府、岩手、秋田、茨城、群馬、新潟、石川、福井、兵庫、奈良、鳥取、岡山、広島、愛媛、高知、福岡、長崎、熊本、大分、宮崎、鹿児島、沖縄各県

(注2) 北海道ほか22府県 北海道、京都、大阪両府、岩手、秋田、茨城、群馬、新潟、石川、福井、兵庫、奈良、鳥取、岡山、広島、愛媛、高知、長崎、熊本、大分、宮崎、鹿児島、沖縄各県