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  • 平成13年度|
  • 第3章 個別の検査結果|
  • 第1節 省庁別の検査結果|
  • 第7 文部科学省|
  • 本院の指摘に基づき当局において改善の処置を講じた事項

史跡等購入費補助金の交付を受けて土地の買取り等を行った史跡について、保存のための管理を適切に行うとともに、積極的な活用を図るよう改善させたもの


(2) 史跡等購入費補助金の交付を受けて土地の買取り等を行った史跡について、保存のための管理を適切に行うとともに、積極的な活用を図るよう改善させたもの

会計名及び科目 一般会計 (組織)文化庁 (項)文化財保存施設整備費
部局等の名称 文化庁
補助の根拠 文化財保護法(昭和25年法律第214号)
予算補助
補助事業者(事業主体) 県1、市19、町13、村1、計34事業主体
補助事業 史跡等の土地の買取り等の事業
補助事業の概要 史跡等の土地の買取り等を行う事業主体に対しその経費の一部を補助するもの
保存のための管理が適切でないなどの史跡数 34箇所
上記に対する事業費 116億3266万円(昭和42年度〜平成13年度)
上記に対する国庫補助金交付額 91億9603万円

1 制度の概要

(史跡等の指定)

 文化庁では、文化財保護法(昭和25年法律第214号。以下「法」という。)に基づき、文化財を保存し、かつ、その活用を図り、もって国民の文化的向上に資するとともに、世界文化の進歩に貢献することを目的として諸施策を講じている。
 そして、この文化財には、有形文化財、無形文化財、記念物等があり、このうち、記念物は、貝塚等の遺跡で我が国にとって歴史上又は学術上価値の高いもの、庭園等の名勝地で我が国にとって芸術上又は観賞上価値の高いもの及び動物等で我が国にとって学術上価値の高いものであるとされている。
 文部科学大臣(平成13年1月5日以前は文部大臣)は、法の規定に基づき、記念物のうち重要なものを史跡、名勝又は天然記念物(以下「史跡等」という。)に指定している。史跡等に指定されると、その所有者又は管理団体(以下「所有者等」という。)は、当該史跡等の管理及び復旧に当たるものとされ、また、その現状を変更し、又はその保存に影響を及ぼす行為をしようとするときは、文化庁長官の許可を受けなければならないこととされている。

(史跡等の保存)

 国及び地方公共団体は、法の規定に基づき、文化財である史跡等が我が国の歴史、文化等の正しい理解のため欠くことのできないものであり、かつ、将来の文化の向上発展の基礎をなすものであることを認識し、その保存が適切に行われるように、周到の注意をもってその趣旨の徹底に努めなければならないこととされている。そして、史跡等の所有者その他の関係者は、史跡等が貴重な国民的財産であることを自覚し、これを公共のために大切に保存しなければならないこととされている。
 このようなことから、史跡等の所有者等は、当該史跡等を保存するため、その管理に必要な標識、境界標、囲さく等の施設(以下「標識等」という。)の設置、清掃、見回り、応急的復旧等を行うこととされている。
 そして、文化庁長官は、史跡等の所有者等に対し、その管理に関し必要な指示をすることができることとされている。

(史跡等の土地の買取り等に要する経費の補助)

 文化庁では、法の規定及び「史跡等購入費国庫補助要項」(昭和54年文化庁長官裁定)に基づき、史跡等を保存することを目的として史跡等の土地の買取り等(以下「公有化」という。)の事業を実施する地方公共団体(以下「事業主体」という。)に対し、これに要する経費の一部として史跡等購入費補助金を交付している。そして、事業主体に交付される史跡等購入費補助金の額は、公有化に要する経費の5分の4となっている。
 また、地方公共団体における史跡等の保存又は活用に伴う経費は、地方交付税の算定基礎となっている。

(史跡等を活用するための取組)

 史跡等の所有者その他の関係者は、法の規定に基づき、史跡等が貴重な国民的財産であることを自覚し、できるだけこれを公開するなどその文化的活用に努めなければならないこととされている。そして、近年、国民の文化財に対する関心の高まりに伴って、史跡等についても保存するだけではなく、可能な限り整備、活用し、史跡等の内容について理解を促進していくことが強く求められるようになってきている。このため、文化庁では、公有化した土地について、史跡等への国民の理解を促進し地域の歴史や文化に触れられるような整備、活用を進めていくよう事業主体を指導しているところである。
 このようなことから、公有化した後の史跡等の活用を図ろうとする事業主体では、史跡等の復元、環境整備、情報提供施設の設置等の整備事業を行っているところである。また、国民が史跡等に慣れ親しむようにするため、史跡等についてホームページに掲載したり、パンフレットで紹介したりすることに加え、発掘調査状況の説明会を開催したり、小中学生の学習教材としたり、土器作りの体験教室を開催したりするなどの活用方策を講じているのが一般的である。

2 検査の結果

(検査の着眼点)

 前記のように、事業主体は史跡等の所有者として、法の規定に基づき、公有化した土地について史跡等を適切に保存していくとともに、できるだけ当該史跡等を公開するなどその文化的活用に努めなければならないこととされている。
 そこで、史跡等購入費補助金の交付を受けて公有化した土地について、史跡等の保存のための管理が適切に行われているか、また、当該史跡等の活用を図るための取組がなされているかに着眼して検査した。

(検査の対象)

 史跡等購入費補助金は、史跡(貝塚、古墳、都城跡、城跡、旧宅その他の遺跡で我が国にとって歴史上又は学術上価値の高いもののうち重要なもの)の土地の購入に係るものがその大宗を占めている。
 そこで、北海道ほか23府県(注1) の285事業主体において、昭和32年度から平成13年度末までに史跡等購入費補助金の交付を受けて土地の公有化を行った史跡273箇所、これに係る土地13,606,027m (補助対象事業費1247億2829万余円、国庫補助金961億5546万余円)を対象として検査した。

(検査の結果)

 検査したところ、保存のための管理が適切に行われていなかったり、活用を図るための取組が十分でなかったりしていた史跡が、北海道ほか13府県(注2) の34事業主体で34箇所682,297m (補助対象事業費116億3266万余円、国庫補助金91億9603万余円)見受けられた。
 これを態様別に示すと次のとおりである。(ア、イの態様には、事態が重複しているものがある。)

ア 保存のための管理が適切とは認められないもの

(ア) 事業主体が公有化した土地の現状を無断で変更し、史跡以外の利用に供していたもの

3道県 4事業主体 4箇所 補助対象事業費 7億1108万余円
  国庫補助金 5億6226万余円

 これらは、事業主体が、公有化した土地において無断で、金網製フェンスの設置工事を行っていたり、遊具の移設工事を行っていたりするなどしていて、土地の地下にある遺構そのものをき損するおそれが生じていたものである。

<事例1>
 A市では、B遺跡について昭和49年度から54年度までの間に土地18,771m の公有化(これに係る補助対象事業費357,308千円、左に対する国庫補助金285,844千円)を実施している。そして、B遺跡は50年度に史跡の指定(指定面積21,166m )を受けている。
 現地を調査したところ、A市では、公有化した土地の一部において、史跡の保存、活用を図る上で全く関係のない球技用の金網製フェンス(延長133.5m)の設置工事を無断で行っていた。そして、この工事において、地下にある遺構を保存するために行った盛土を掘削したことにより、遺構をき損する可能性を生じさせていた。

(イ) 事業主体が公有化した土地を適切に管理していないため、近隣住民等により当該土地が畑として使用されるなどしていたもの

8道県 18事業主体 18箇所 補助対象事業費 79億2489万余円
  国庫補助金 63億0440万余円

 これらは、事業主体が公有化した土地について清掃、見回り等を適切に行っていないため、近隣住民等により、当該土地が畑として使用されていたり、当該土地に廃棄車両が不法に投棄されていたりなどしていたものである。

<事例2>
 C市では、昭和57、平成12両年度に史跡の指定を受けたD遺跡群(指定面積21,738.01m )について、昭和57、58、62、平成13各年度にD遺跡群に係る土地7,756.17m の公有化(これに係る補助対象事業費183,108千円、左に対する国庫補助金146,485千円)を実施している。
 現地を調査したところ、公有化した土地の一部(約300m )について、隣家の住民に無断で占有され、畑地としてネギ等が栽培されていたり、耕作用の土や用具の置き場となっていたりしていた。また、当該土地の一部(約500m )は近隣住民によりゲートボール場として整備されており、それに付属する小屋、ベンチ等も設置されていた。

(ウ) 事業主体が史跡の保存のために必要な標識等を全く設置していないことなどから、公有化した土地の範囲が明確になっていないもの

3県 6事業主体 6箇所 補助対象事業費 9億8310万余円
  国庫補助金 7億7999万余円

 これらは、事業主体が、標識等を全く設置していなかったり、公有化した土地の範囲を明確に示していなかったりなどしていて、史跡の保存が適切になされないおそれがあると認められたものである。

イ 公有化した土地について、史跡の活用を図るための取組が十分ではないと認められたもの

10府県 10事業主体 10箇所 補助対象事業費 20億1358万余円
  国庫補助金 15億4937万余円

 これらは、事業主体において、史跡の整備について検討をしていなかったことなどから、当該史跡に係る土地の公有化が終了し又はほぼ終了してから現在まで、公有化した当時と変わらない状況となっていた。そして、事業主体において、前記のような国民が史跡に慣れ親しむための方策を講じておらず、公有化した土地について、史跡の活用を図るための取組が十分ではないと認められたものである。

<事例3>
 E市では、昭和56年度に史跡の指定を受けたF遺跡(指定面積3,714.79m )について、同年度に当該史跡に係る土地3,605.79m の公有化(これに係る補助対象事業費5,532千円、左に対する国庫補助金4,425千円)を実施している。
 現地を調査したところ、当該史跡については、E市においてその整備について検討をしていなかったことから、公有化した当時と変わらない状況となっていた。そして、E市では、E市のホームページに当該史跡の名称及び所在地だけを掲載するにとどまっていて、本院が調査を行った平成11年度から13年度までの3箇年度において、史跡のパンフレットを作成することや、小中学生の学習教材とすることなど国民が史跡に慣れ親しむための方策を全く講じていなかった。

(発生原因)

 このような事態が生じていたのは、次のことによると認められた。
(ア) 事業主体において、公有化した土地について、その現状を無断で変更したり、史跡ごとの特性に応じた清掃、見回り等を実施していなかったりするなど史跡の保存のための管理を適切に行うことについての認識が十分でなかったこと
(イ) 事業主体において、史跡の活用を図ることについての認識が十分でなく、史跡の状況等に応じた活用方策に係る具体的な事例などの情報の把握に努めていなかったこと

3 当局が講じた改善の処置

 上記についての本院の指摘に基づき、文化庁では次の処置を講じた。
ア 14年10月に各都道府県教育委員会に対して通知を発するなどして、史跡の管理を適切に行うこと及び史跡の積極的な活用を行うことについて都道府県に対し周知徹底を図るとともに、管下の市町村に対してもこれらの徹底を図るよう求めた。
イ 同年9月に史跡の適切な保存の在り方や具体的な活用事例を示した資料を都道府県及び市町村に対して配布し、史跡の保存・整備・活用の推進を図った。

(注1)

北海道ほか23府県 北海道、京都、大阪両府、岩手、秋田、茨城、群馬、新潟、石川、福井、兵庫、奈良、鳥取、岡山、広島、愛媛、高知、福岡、長崎、熊本、大分、宮崎、鹿児島、沖縄各県

(注2) 北海道ほか13府県 北海道、京都府、岩手、秋田、茨城、群馬、新潟、奈良、鳥取、岡山、広島、福岡、熊本、沖縄各県