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医療費に係る国の負担が不当と認められるもの


(58) 医療費に係る国の負担が不当と認められるもの

会計名及び科目 一般会計 (組織)厚生労働本省 (項)精神保健費
(項)生活保護費
(項)身体障害者保護費
(項)老人福祉費
(項)児童保護費
(項)国民健康保険助成費
  厚生保険特別会計(健康勘定) (項)保険給付費
(項)老人保健拠出金
(項)退職者給付拠出金
  船員保険特別会計 (項)保険給付費
(項)老人保健拠出金
(項)退職者給付拠出金
部局等の名称 社会保険庁、北海道ほか30都府県
国の負担の根拠 健康保険法(大正11年法律第70号)、船員保険法(昭和14年法律第73号)、国民健康保険法(昭和33年法律第192号)、老人保健法(昭和57年法律第80号)、生活保護法(昭和25年法律第144号)、精神保健及び精神障害者福祉に関する法律(昭和25年法律第123号)、知的障害者福祉法(昭和35年法律第37号)等
医療給付の種類 健康保険法、船員保険法、国民健康保険法、老人保健法、生活保護法、精神保健及び精神障害者福祉に関する法律、知的障害者福祉法等に基づく医療
実施主体 国、都道府県30、市563、特別区23、町963、村181、国民健康保険組合100、計1,861実施主体
医療機関及び薬局 医療機関350、薬局25
不適切に支払われた医療費に係る診療報酬等 入院基本料、入院基本料加算、初診料・再診料等
不適切に支払われた医療費の件数 363,745件(平成10年度〜14年度)
不適切に支払われた医療費の額 2,128,933,473円(平成10年度〜14年度)
不当と認める国の負担額 1,172,403,617円(平成10年度〜14年度)

1 医療給付の概要

(医療給付の種類)

 厚生労働省(平成13年1月5日以前は厚生省)の医療保障制度には、老人保健制度、医療保険制度及び公費負担医療制度があり、これらの制度により次の医療給付が行われている。
(ア) 老人保健制度の一環として、市町村(特別区を含む。以下同じ。)が老人保健法に基づき、健康保険法、船員保険法及び国民健康保険法(以下「医療保険各法」という。)による被保険者(被扶養者を含む。以下同じ。)のうち、当該市町村の区域内に居住する老人(70歳以上の者又は65歳以上70歳未満の者で一定の障害の状態にある者をいう。)に対して行う医療
(イ) 医療保険制度の一環として、医療保険各法に規定する保険者が、医療保険各法に基づき被保険者((ア)の老人を除く。)に対して行う医療
(ウ) 公費負担医療制度の一環として、都道府県、市町村が、生活保護法に基づき要保護者に対して行う医療、精神保健及び精神障害者福祉に関する法律に基づき精神障害者に対して行う医療、知的障害者福祉法に基づき知的障害者に対して行う医療等

(診療報酬又は調剤報酬)

 これらの医療給付においては、被保険者(上記(ウ)の要保護者、精神障害者、知的障害者等を含む。以下同じ。)が医療機関で診察、治療等の診療を受け又は薬局で薬剤の支給等を受けた場合、市町村、保険者又は都道府県(以下「保険者等」という。)及び患者がこれらの費用を医療機関又は薬局に診療報酬又は調剤報酬として支払う。
診療報酬の支払の手続は、図1のとおりとなっている。

図1 診療報酬の支払の手続

図1診療報酬の支払の手続
(注)
 調剤報酬の支払の手続についても同様となっている。

(ア) 診療等を担当した医療機関等は、診療報酬等として医療に要する費用を所定の診療点数に単価(10円)を乗じるなどして算定する。

(イ) 医療機関等は、上記診療報酬等のうち、患者負担分を患者に請求し、残りの診療報酬等(以下「医療費」という。)については、老人保健に係るものは市町村に、医療保険各法に係るものは各保険者に、また、公費負担医療制度に係るものは都道府県又は市町村に請求する。
 このうち、保険者等に対する医療費の請求は、次のように行われている。
〔1〕 医療機関等は、診療報酬請求書又は調剤報酬請求書(以下「請求書」という。)に診療報酬等の明細を明らかにした診療報酬明細書又は調剤報酬明細書(以下「レセプト」という。)を添付して、国民健康保険団体連合会又は社会保険診療報酬支払基金(以下「審査支払機関」と総称する。)に毎月1回送付する。
〔2〕 審査支払機関は、請求書及びレセプトに基づき請求内容を審査点検した後、医療機関等ごと、保険者等ごとの請求額を算定し、その後、請求額を記載した書類と請求書及びレセプトを各保険者等に送付する。

(ウ) 請求を受けた保険者等は、それぞれの立場から医療費についての審査点検を行って金額等を確認の上、審査支払機関を通じて医療機関等に医療費を支払う。

(国の負担)

 保険者等が支払う医療費の負担は次のようになっている。

(ア) 老人保健法に係る医療費(以下「老人医療費」という。)については、老人の居住する市町村が審査支払機関を通じて支払うものであるが、この費用は国、都道府県、市町村及び保険者が以下のように負担している(図2参照)
〔1〕 老人保健法により、老人医療費については、国は10分の2を、都道府県、市町村はそれぞれ10分の0.5ずつを負担することになっており、残りの10分の7については各保険者が拠出する老人医療費拠出金が財源となっている。
〔2〕 国民健康保険法により国は市町村等が保険者として拠出する老人医療費拠出金の納付に要する費用の額の一部を負担している。
〔3〕 健康保険法等により国は政府管掌健康保険等の保険者として老人医療費拠出金を納付している。

図2 老人医療費の負担

図2老人医療費の負担

(イ) 医療保険各法に係る医療費については、国は、患者が、〔1〕政府管掌健康保険等の被保険者である場合の医療費は保険者としてその全額を、〔2〕市町村が行う国民健康保険の被保険者である場合の医療費は市町村が支払った額の50%を、〔3〕国民健康保険組合が行う国民健康保険の被保険者である場合の医療費は国民健康保険組合が支払った額の47%を、それぞれ負担している。

(ウ) 生活保護法、精神保健及び精神障害者福祉に関する法律、知的障害者福祉法等に係る医療費については、国は都道府県又は市町村が支払った医療費の4分の3又は2分の1を負担している。

2 検査結果の概要

(検査の着眼点)

 国民医療費は年々増加しており、このうち老人医療費は12年度では約37%を占め、高齢化が急速に進展する中でその占める割合は高くなっている。このような状況の中で医療費に対する国の負担も多額なものとなっていることから、本院では従来から老人医療費を中心に診療報酬等の請求が適正に行われているかに着眼して検査を行っている。
 そして、近年では医療機関において、医師、看護師等の医療従事者が不足していて算定要件を満たしていなかったり、必要な各種届出を行っていなかったりしているのに、これらを満たすことが要件とされている診療報酬を請求したり、診療報酬を画一的に算定して請求したりしている不適正と認められる事態が多く見受けられる。そこで、本年の検査に当たっても、これらの点を中心に検査した。また、昨今の医薬分業の進展に伴い増加傾向にある調剤報酬についても併せて検査した。

(不適切な支払の事態)

 社会保険庁の31地方社会保険事務局(注1) 及び31都道府県(注2) において検査したところ、1,861実施主体が350医療機関及び25薬局に対して行った10年度から14年度までの間における医療費の支払について、363,745件、2,128,933,473円が適切でなく、これに対する国の負担額1,172,403,617円が不当と認められる。

(注1)  31地方社会保険事務局 北海道、青森、岩手、秋田、山形、福島、茨城、栃木、群馬、埼玉、千葉、東京、神奈川、富山、岐阜、静岡、愛知、三重、滋賀、大阪、兵庫、奈良、鳥取、島根、広島、山口、福岡、佐賀、熊本、宮崎、鹿児島各社会保険事務局
(注2)

 31都道府県 東京都、北海道、大阪府、青森、岩手、秋田、山形、福島、茨城、栃木、群馬、埼玉、千葉、神奈川、富山、岐阜、静岡、愛知、三重、滋賀、兵庫、奈良、鳥取、島根、広島、山口、福岡、佐賀、熊本、宮崎、鹿児島各県

 これを 診療報酬等の別に整理して示すと、次のとおりである。

診療報酬等 実施主体
(医療機関等数)
不適切に支払われた医療費の件数 不適切に支払われた医療費 不当と認める国の負担額
    千円 千円
〔1〕入院基本料 室蘭市ほか448市区町村等(31) 22,371 440,605 259,798
〔2〕入院基本料加算 札幌市ほか1,150市区町村等(117) 106,259 748,752 414,317
〔3〕初診料・再診料 北見市ほか478市区町村等(56) 62,651 202,132 102,106
〔4〕リハビリテーション料 平鹿郡大森町ほか259市区町村等(30) 16,579 149,766 79,665
〔5〕指導管理料 帯広市ほか117市区町村等(21) 16,271 131,840 64,635
〔6〕注射料 弘前市ほか104市区町村等(12) 2,535 87,085 45,968
〔7〕処置料 いわき市ほか142市区町村等(19) 5,846 55,584 31,947
〔8〕検査料 黒石市ほか139市区町村等(13) 6,395 50,633 25,720
〔9〕在宅医療料 山形市ほか39市区町村等(11) 3,582 46,022 24,636
〔10〕麻酔料 札幌市ほか307市区町村等(6) 7,889 33,749 19,566
〔11〕投薬料 流山市ほか27市区町等(6) 4,660 30,139 17,641
〔12〕入院時食事療養費 滝川市ほか245市区町村等(12) 10,640 25,609 14,677
〔13〕画像診断料 福島市ほか113市区町村等(11) 5,711 24,355 13,031
〔14〕手術料 盛岡市ほか83市町村等(5) 734 16,005 10,772
〔15〕調剤報酬 鶴岡市ほか360市区町村等(25) 91,622 86,650 47,917
1,861実施主体(375) 363,745 2,128,933 1,172,403

注(1)  複数の診療報酬について不適正と認められる請求があった医療機関については、最も多い診療報酬で整理した。
注(2)

 計欄の実施主体数は、各診療報酬等の間で実施主体が重複することがあるため、各診療報酬等の実施主体数を合計したものとは符合しない。

(発生原因)

 このような事態が生じていたのは、次のことなどによると認められる。
(ア) 医療機関等から不適正と認められる診療報酬等の請求があったのに、これに対する実施主体及び審査支払機関の審査点検が十分でなかったこと
特に、診療報酬請求上の各種届出についての確認が必ずしも十分でなかったこと
(イ) 地方社会保険事務局及び都道府県において、医療機関の医療従事者が不足していることを把握する資料があるにもかかわらずその活用が必ずしも十分でなかったこと
(ウ) 地方社会保険事務局及び都道府県における医療機関等に対する指導が十分でなかったこと

3 検査結果の詳細

 上記医療費の支払が適切でない事態について、診療報酬等の別に、その算定方法及び検査の結果の詳細を示すと次のとおりである。

〔1〕 入院基本料

(入院基本料の算定方法)

 入院基本料は、患者が入院した場合に1日につき所定の点数が定められている。この入院基本料は、看護配置、看護師比率、平均在院日数その他の事項について厚生労働大臣(13年1月5日以前は厚生大臣)が定める基準に適合しているものとして地方社会保険事務局長(12年3月31日以前は都道府県知事)に届け出た医療機関において、その基準に掲げる区分に従い所定の点数を算定することとされている。
 そして、医療機関において、医師の数が医療法(昭和23年法律第205号)に定める標準となる数(以下「標準人員」という。)に100分の60を乗じて得た数以下である場合(以下「著しい医師不足」という。)などの入院基本料については、所定の点数に原則として100分の12から100分の30までの定められた割合を乗じて得た点数を所定点数から控除して算定することとされている。
 また、入院基本料は、看護師及び准看護師(以下「看護職員」という。)の数が入院患者数に対して所定の割合以上であること、看護職員の数に占める看護師の数が所定の割合以上であることなどの要件を満たす旨の地方社会保険事務局長への届出を行った場合、それぞれの区分に従い所定の点数を算定することとされている。
 さらに、看護職員の数に占める看護師の数が所定の割合以上であることの要件を満たしていない場合であっても、別に厚生労働大臣が定めるより低い所定の割合以上であることの要件を満たす場合には入院基本料の点数から所定の点数を減算することとされている。

(検査の結果)

 検査の結果、室蘭市ほか27市区町に所在する31医療機関において、入院基本料等の請求が不適正と認められるものが22,371件あった。その主な態様は次のとおりである。
(ア) 著しい医師不足等であるのに、入院基本料について所定の減額をしないで算定していた。
(イ) 看護職員の数又は看護師の数が所定の割合以上であることの要件を満たしていないのに、高い点数の区分の入院基本料の点数を算定していた。
(ウ) 看護師の数が所定の割合以上であることの要件を満たしていないのに、入院基本料の点数から所定の点数を減算することなく入院基本料を算定していた。
このため、上記22,371件の請求に対し室蘭市ほか448市区町村等が支払った医療費について440,605,505円の支払が適切でなく、これに対する国の負担額259,798,438円は負担の要がなかったものである。

〔2〕 入院基本料加算

(入院基本料加算の算定方法)

 入院基本料加算は入院基本料の所定点数に加算するもので、これには、療養病棟療養環境加算、療養環境加算、看護補助加算等がありそれぞれ所定の点数が定められている。
 そして、厚生労働大臣が定める施設基準に適合しているものとして地方社会保険事務局長に届け出た医療機関において、一般病棟等に患者を入院させた場合、届出に係る療養病棟療養環境加算、療養環境加算等の点数を算定することとされている。ただし、これらの加算の多くは、医師等の数が標準人員を満たしていない場合には算定できないこととされている。
 また、一般病棟に入院している老人の患者であって、90日(12年9月30日までの間は180日)を超える期間入院していて症状が安定している患者(以下「特定患者」という。)に対しては、老人特定入院基本料を算定することとされており、看護補助加算等は算定できないこととされている。
 さらに、療養環境加算等は、患者の選定に係る特別の病室に入院している患者に対しては算定できないこととされている。

(検査の結果)

 検査の結果、札幌市ほか89市区町に所在する117医療機関において、入院基本料加算等の請求が不適正と認められるものが106,259件あった。その主な態様は次のとおりである。
(ア) 医師等の数が標準人員等を満たしていないのに、療養病棟療養環境加算等を算定していた。
(イ) 地方社会保険事務局長への届出を行っていないのに、療養環境加算等を算定していた。
(ウ) 特定患者に対して、看護補助加算等を算定していた。
(エ) 患者の選定に係る特別の病室に入院している患者等に対して、療養環境加算等を算定していた。
 このため、上記106,259件の請求に対し札幌市ほか1,150市区町村等が支払った医療費について748,752,812円の支払が適切でなく、これに対する国の負担額414,317,553円は負担の要がなかったものである。

〔3〕 初診料・再診料

(初診料・再診料の算定方法)

 初診料は、患者の傷病について医学的に初診といわれる医師の診療行為があった場合に、再診料はその後の診療行為の都度それぞれ算定することとされている。
 ただし、特別養護老人ホームほか8施設(注3) (以下「老人ホーム等」という。)に配置されている医師(以下「配置医師」という。)がこれら施設の入所者に対して行っている診療については、その診療が別途介護保険制度の介護給付等として行われているものであることから、初診料、再診料は算定できないこととされている。
また、医療機関に老人ホーム等が併設されている場合、当該医療機関の医師が当該老人ホーム等の入所者に対して行っている診療についても、初診料、再診料は算定できないこととされている。

 特別養護老人ホームほか8施設 特別養護老人ホーム、養護老人ホーム(定員111名以上の場合)、身体障害者療護施設、重度身体障害者更生援護施設、救護施設(定員111名以上の場合)、知的障害者更生施設(定員150名以上の場合)、知的障害者授産施設(定員150名以上の場合)、乳児院(定員100名以上の場合)及び情緒障害児短期治療施設

(検査の結果)

 検査の結果、北見市ほか52市町に所在する56医療機関において、初診料、再診料等の請求が不適正と認められるものが62,651件あった。その主な態様は次のとおりである。
(ア) 配置医師が特別養護老人ホーム、身体障害者療護施設等の入所者に対して行った診療について、初診料、再診料を算定していた。
(イ) 医療機関の医師が同医療機関に併設されている特別養護老人ホーム等の入所者に対して行った診療について、初診料、再診料を算定していた。
このため、上記62,651件の請求に対し北見市ほか478市区町村等が支払った医療費について202,132,220円の支払が適切でなく、これに対する国の負担額102,106,652円は負担の要がなかったものである。

〔4〕 リハビリテーション料

(リハビリテーション料の算定方法)

 リハビリテーション料は、理学療法、作業療法等の種類ごとに1日につき所定の点数が定められており、理学療法は基本的動作能力の回復を図るために、作業療法は応用的動作能力等の回復を図るために、いずれも個々の症例に応じて行うこととなっている。このうち、理学療法は、投薬、処置等によって治療の効果を上げることが困難な場合であって、この療法がより効果があると認められるときなどに行うこととされている。
 また、厚生労働大臣が定める施設基準に適合しているものとして地方社会保険事務局長等に届け出た医療機関において、理学療法又は作業療法を行った場合、その届出に係る理学療法の点数又は作業療法の点数を算定することとされている。

(検査の結果)

 検査の結果、平鹿郡大森町ほか24市区町に所在する30医療機関において、リハビリテーション料等の請求が不適正と認められるものが16,579件あった。その主な態様は次のとおりである。
(ア) 多くの入院患者等に対して理学療法を毎月画一的に実施して理学療法の点数を算定したり、理学療法に該当しない消炎鎮痛処置について理学療法の点数を算定したりしていた。
(イ) 地方社会保険事務局長等への届出を行っていないのに、理学療法の点数又は作業療法の点数を算定していた。
 このため、上記16,579件の請求に対し平鹿郡大森町ほか259市区町村等が支払った医療費について149,766,565円の支払が適切でなく、これに対する国の負担額79,665,226円は負担の要がなかったものである。

〔5〕 指導管理料

(指導管理料の算定方法)

 指導管理料のうち、老人慢性疾患生活指導料、老人慢性疾患外来総合診療料等は、配置医師が老人ホーム等の入所者に対して行っている診療の場合、前記〔3〕(参照) のとおり、その診療が別途介護保険制度の介護給付等として行われているものであることから算定できないこととされている。

(検査の結果)

 検査の結果、上川郡新得町ほか20市区町に所在する21医療機関において、指導管理料等の請求が不適正と認められるものが16,271件あった。その主な態様は、配置医師が特別養護老人ホーム等の入所者に対して行った診療について、老人慢性疾患生活指導料、老人慢性疾患外来総合診療料等を算定していたものである。
 このため、上記16,271件の請求に対し帯広市ほか117市区町村等が支払った医療費について131,840,997円の支払が適切でなく、これに対する国の負担額64,635,762円は負担の要がなかったものである。

〔6〕 注射料

(注射料の算定方法)

 注射料は、静脈内注射、点滴注射等の注射の種類ごとに所定の点数が定められている。そして、特定患者に対しては、老人特定入院基本料を算定することとされており、注射等の費用はこの入院基本料に含まれていて、別途に算定できないこととされている。

(検査の結果)

 検査の結果、弘前市ほか11市区に所在する12医療機関において、注射料等の請求が不適正と認められるものが2,535件あった。その態様は、特定患者に対して、老人特定入院基本料を算定しなければならないのに老人一般病棟入院基本料とともに注射の費用を算定したり、老人特定入院基本料を算定しているのに注射の費用を別途に算定したりしていたものである。
 このため、上記2,535件の請求に対し弘前市ほか104市区町村等が支払った医療費について87,085,273円の支払が適切でなく、これに対する国の負担額45,968,255円は負担の要がなかったものである。

〔7〕 処置料

(処置料の算定方法)

 処置料には、一般処置料、皮膚科処置料等があり、それぞれの処置ごとに所定の点数が定められており、処置に当たって薬剤を使用した場合は、その購入価格を10円で除するなどした薬剤料の点数を合算して算定することとされている。
 そして、外来患者に対する人工腎臓に係る処置料には、一定の薬剤の費用が含まれていることから、これを別途に算定できないこととされている。また、著しく人工腎臓の実施が困難な障害者等に対して人工腎臓を実施した場合は障害者加算を算定することとされている。
 さらに、特定患者に対しては、老人特定入院基本料を算定することとされており、一部の処置等の費用はこの入院基本料に含まれていて、別途に算定できないこととされている。
 このほか、老人ホーム等の職員が入所者に対して行った処置は、処置料として算定できないこととされている。

(検査の結果)

 検査の結果、いわき市ほか15市区町村に所在する19医療機関において、処置料等の請求が不適正と認められるものが5,846件あった。その主な態様は次のとおりである。
(ア) 外来患者に対する人工腎臓に係る処置料について、処置料に含まれる薬剤料を別途に算定したり、人工腎臓の処置に使用される薬剤について、実際よりも多い使用量により薬剤料を算定したりしていた。また、著しく人工腎臓の実施が困難な障害者等に該当していないのに障害者加算を算定していた。
(イ) 特定患者に対して、老人特定入院基本料を算定しなければならないのに老人一般病棟入院基本料とともに一部の処置の費用を算定したり、老人特定入院基本料を算定しているのに一部の処置の費用を別途に算定したりしていた。
(ウ) 特別養護老人ホームの職員が入所者に対して行った創傷処置等を処置料として算定していた。
 このため、上記5,846件の請求に対しいわき市ほか142市区町村等が支払った医療費について55,584,190円の支払が適切でなく、これに対する国の負担額31,947,412円は負担の要がなかったものである。

〔8〕 検査料

(検査料の算定方法)

 検査料には、血液化学検査等の検体検査料、心電図検査等の生体検査料等があり、それぞれの種類ごとに所定の点数が定められている。そして、特定患者に対しては、老人特定入院基本料を算定することとされており、検査等の費用はこの入院基本料に含まれていて、別途に算定できないこととされている。
 また、検査は、治療方針の決定に必要な限度で行うこととし、診療上必要があると認められる範囲内において選択して行うこと、同一の検査はみだりに反復して行ってはならないこととされている。
 さらに、健康診断は、医療給付の対象として行ってはならないこととされている。

(検査の結果)

 検査の結果、黒石市ほか12市区町村に所在する13医療機関において、検査料等の請求が不適正と認められるものが6,395件あった。その主な態様は次のとおりである。
(ア) 特定患者に対して、老人特定入院基本料を算定しているのに検査の費用を別途に算定していた。
(イ) 多くの特別養護老人ホームの入所者に対して血液化学検査等を画一的に実施して検査料を算定していた。
(ウ) 健康診断として行った血液化学検査等を診療報酬として算定していた。
 このため、上記6,395件の請求に対し黒石市ほか139市区町村等が支払った医療費について50,633,665円の支払が適切でなく、これに対する国の負担額25,720,287円は負担の要がなかったものである。

〔9〕 在宅医療料

(在宅医療料の算定方法)

 在宅医療料のうち、寝たきり老人在宅総合診療料の24時間連携体制加算は、厚生労働大臣が定める施設基準に適合しているものとして都道府県知事に届け出た医療機関において所定の点数を算定することとされている。また、寝たきり老人在宅総合診療料等は、老人ホーム等の入所者に対しては算定できないこととされている。

(検査の結果)

 検査の結果、山形市ほか10市区村に所在する11医療機関において、在宅医療料等の請求が不適正と認められるものが3,582件あった。その主な態様は次のとおりである。
(ア) 都道府県知事への届出を行っていないのに、24時間連携体制加算を算定していた。
(イ) 特別養護老人ホームの入所者に対して行った診療について、寝たきり老人在宅総合診療料等を算定していた。
 このため、上記3,582件の請求に対し山形市ほか39市区町村等が支払った医療費について46,022,654円の支払が適切でなく、これに対する国の負担額24,636,763円は負担の要がなかったものである。

〔10〕 麻酔料

(麻酔料の算定方法)

 麻酔料のうち麻酔管理料は、地方社会保険事務局長に届け出た麻酔科を標榜する医療機関において、麻酔に従事する医師がマスク又は気管内挿管による閉鎖循環式全身麻酔(注4) 等を行った場合に所定の点数を算定することとされている。

 閉鎖循環式全身麻酔 閉鎖循環式全身麻酔器を用いて、患者の呼気中の炭酸ガスを除去しながら、麻酔ガスと酸素を補給する吸入麻酔法

(検査の結果)

 検査の結果、札幌市ほか5市区に所在する6医療機関において、麻酔料等の請求が不適正と認められるものが7,889件あった。その態様は、地方社会保険事務局長への届出を行っていないのに、麻酔管理料を算定していたものである。
 このため、上記7,889件の請求に対し札幌市ほか307市区町村等が支払った医療費について33,749,395円の支払が適切でなく、これに対する国の負担額19,566,416円は負担の要がなかったものである。

〔11〕 投薬料

(投薬料の算定方法)

 投薬料のうち処方せん料は、薬局において調剤を受けさせるために患者に処方せんを交付した場合、処方した剤数、投与量等にかかわらず、1回につき所定の点数を算定することとされている。
 また、特定患者に対しては、老人特定入院基本料を算定することとされており、投薬等の費用はこの入院基本料に含まれていて、別途に算定できないこととされている。

(検査の結果)

 検査の結果、流山市ほか5市に所在する6医療機関において、投薬料等の請求が不適正と認められるものが4,660件あった。その主な態様は次のとおりである。
(ア) 特定患者に対して、老人特定入院基本料を算定しなければならないのに老人一般病棟入院基本料とともに投薬の費用を算定したり、老人特定入院基本料を算定しているのに投薬の費用を別途に算定したりしていた。
(イ) 症状が安定している慢性疾患の患者に対して、長期にわたって投与することのできる慢性疾患の薬剤を短期間分に分けて投与するなどして、その都度処方せん料を算定していた。
 このため、上記4,660件の請求に対し流山市ほか27市区町等が支払った医療費について30,139,195円の支払が適切でなく、これに対する国の負担額17,641,143円は負担の要がなかったものである。

〔12〕 入院時食事療養費

(入院時食事療養費の算定方法)

 入院時食事療養費のうち、入院時食事療養(I)は、医療機関が地方社会保険事務局長への届出を行い、厚生労働大臣が定める基準に適合する食事療養を行った場合に算定することとされている。そして、上記の届出を行った医療機関において、厚生労働大臣が定める特別食を提供した場合には、特別食加算を算定することとされている。
 また、入院時食事療養(I)の届出を行った医療機関において、所定の要件を満たしている食堂において食事療養を行った場合には、食堂加算を算定することとされているが、療養病棟入院基本料等を算定する場合には、食堂加算は算定できないこととされている。

(検査の結果)

 検査の結果、滝川市ほか10市町に所在する12医療機関において、入院時食事療養費等の請求が不適正と認められるものが10,640件あった。その態様は次のとおりである。
(ア) 厚生労働大臣が定める特別食に該当しないのに、特別食加算を算定していた。
(イ) 療養病棟入院基本料等を算定しているのに、食堂加算を算定していた。
 このため、上記10,640件の請求に対し滝川市ほか245市区町村等が支払った医療費について25,609,860円の支払が適切でなく、これに対する国の負担額14,677,998円は負担の要がなかったものである。

〔13〕 画像診断料

(画像診断料の算定方法)

 画像診断料には、コンピューター断層撮影診断料、エックス線診断料等があり、それぞれの種類ごとに所定の点数が定められている。そして、診療の一般的方針として、医師の診療は、その必要性があると認められる疾病に対して妥当適切に行うこととされている。

(検査の結果)

 検査の結果、福島市ほか9市区町に所在する11医療機関において、画像診断料等の請求が不適正と認められるものが5,711件あった。その態様は、多くの入院患者に対してコンピューター断層撮影等を毎月画一的に実施して画像診断料を算定していたものである。
 このため、上記5,711件の請求に対し福島市ほか113市区町村等が支払った医療費について24,355,013円の支払が適切でなく、これに対する国の負担額13,031,142円は負担の要がなかったものである。

〔14〕 手術料

(手術料の算定方法)

 手術料のうち体外衝撃波腎・尿管結石破砕術(注5) は、厚生労働大臣が定める施設基準に適合しているものとして地方社会保険事務局長に届け出た医療機関において行った場合、所定の点数を算定することとされている。
 そして、この手術を行う際に消耗性電極を使用した場合は、一連の手術について1回、所定の点数を加算して算定することとされている。

 体外衝撃波腎・尿管結石破砕術 体外から衝撃波を当てて結石を細かく砕き、破砕された結石小片を尿と共に自然排出させる治療法

(検査の結果)

 検査の結果、盛岡市ほか3市町に所在する5医療機関において、手術料等の請求が不適正と認められるものが734件あった。その態様は、手術を行う際に消耗性電極を使用していないのに、所定の点数を加算して算定していたものである。
 このため、上記734件の請求に対し盛岡市ほか83市町村等が支払った医療費について16,005,680円の支払が適切でなく、これに対する国の負担額10,772,681円は負担の要がなかったものである。

〔15〕 調剤報酬

(調剤報酬の算定方法)

 調剤報酬のうち、薬剤服用歴管理・指導料の特別指導加算は、処方された薬剤について、直接患者又はその家族等から服薬状況等の情報を収集して薬剤服用歴に記録し、これに基づき薬剤の服用等に関し必要な指導を行った場合に算定することとされている。
 また、在宅患者訪問薬剤管理指導料は、在宅患者訪問薬剤管理指導を行う旨を地方社会保険事務局長に届け出た薬局において、居宅において療養を行っている患者に対して、医師の処方せんによる指示に基づき、薬剤師が患家を訪問して、薬学的管理指導を行った場合に月に2回に限り算定することとされている。ただし、介護保険の要介護被保険者等である患者に対しては算定できないこととされている。

(検査の結果)

 検査の結果、鶴岡市ほか18市町に所在する25薬局において、調剤報酬の請求が不適正と認められるものが91,622件あった。その主な態様は次のとおりである。
(ア) 薬剤服用歴の記録に基づき薬剤の服用等に関し必要な指導を行うことなどの要件を満たしていないのに、特別指導加算を算定していた。
(イ) 介護保険の要介護被保険者である患者に対して在宅患者訪問薬剤管理指導料を算定していた。
(ウ) 医師の処方せんによる指示がないのに在宅患者訪問薬剤管理指導料を算定していた。
 このため、上記91,622件の請求に対し鶴岡市ほか360市区町村等が支払った医療費について86,650,449円の支払が適切でなく、これに対する国の負担額47,917,889円は負担の要がなかったものである。

 以上を医療機関等の所在する都道府県別に示すと次のとおりである。

都道府県名 実施主体
(医療機関等数)
不適切に支払われた医療費の件数 不適切に支払われた医療費 不当と認める国の負担額 摘要
    千円 千円  
北海道 室蘭市ほか106市町村等(12) 6,260 85,019 49,829 〔1〕〔2〕〔3〕〔5〕〔10〕〔12〕
青森県 八戸市ほか89市区町村等(14) 8,872 49,673 26,732 〔1〕〔2〕〔3〕〔6〕〔8〕
岩手県 紫波郡紫波町ほか35市町村等(3) 1,311 16,210 10,465 〔2〕〔5〕〔14〕
秋田県 北秋田郡鷹巣町ほか60市町村等(3) 2,418 8,129 4,573 〔1〕〔4〕〔8〕
山形県 鶴岡市ほか2市町(3) 712 7,681 4,580 〔9〕〔15〕
福島県 伊達郡川俣町ほか88市区町村等(16) 13,472 50,116 30,529 〔1〕〔2〕〔4〕〔5〕〔6〕〔7〕〔12〕〔13〕〔15〕
茨城県 岩井市ほか253市区町村等(19) 63,897 149,762 81,474 〔1〕〔4〕〔7〕〔8〕〔13〕〔14〕〔15〕
栃木県 足利市ほか18市区町村等(1) 612 37,627 23,913 〔1〕
群馬県 群馬郡榛名町ほか137市区町村等(21) 21,489 172,082 97,312 〔2〕〔3〕〔4〕〔6〕〔7〕〔8〕〔12〕
埼玉県 所沢市ほか188市区町村等(22) 16,767 86,556 38,701 〔1〕〔2〕〔3〕〔4〕〔5〕〔10〕〔13〕
千葉県 船橋市ほか242市区町村等(30) 27,701 142,133 68,909 〔1〕〔2〕〔3〕〔4〕〔5〕〔10〕〔11〕〔12〕
東京都 小平市ほか283市区町村等(32) 25,568 158,668 80,296 〔1〕〔2〕〔3〕〔4〕〔5〕〔6〕〔7〕〔8〕〔9〕〔10〕〔12〕〔13〕
神奈川県 横浜市ほか111市区町村等(19) 17,160 73,351 36,394 〔2〕〔3〕〔4〕〔5〕〔7〕〔8〕〔9〕〔10〕〔11〕〔15〕
富山県 富山市ほか77市区町村等(12) 18,318 83,826 48,119 〔2〕〔3〕〔4〕〔5〕〔11〕〔15〕
岐阜県 岐阜市ほか34市町村等(5) 2,369 17,415 11,444 〔2〕〔3〕〔4〕〔9〕
静岡県 沼津市ほか139市区町村等(10) 9,262 64,012 35,077 〔1〕〔2〕〔3〕〔9〕〔10〕
愛知県 豊橋市ほか108市区町村(21) 18,840 169,790 101,967 〔1〕〔2〕〔3〕〔4〕〔5〕〔7〕〔8〕〔9〕〔13〕〔15〕
三重県 尾鷲市ほか77市町村等(4) 4,676 114,089 62,231 〔1〕〔2〕〔3〕〔15〕
滋賀県 甲賀郡水口町ほか55市町村等(6) 3,970 22,848 13,130 〔3〕〔4〕〔8〕〔14〕
大阪府 箕面市ほか98市町村等(17) 6,465 58,876 32,797 〔1〕〔2〕〔3〕〔4〕〔5〕〔6〕〔7〕〔8〕〔9〕〔11〕〔13〕
兵庫県 西宮市ほか273市区町村等(31) 45,879 203,085 106,787 〔2〕〔3〕〔4〕〔5〕〔6〕〔7〕〔9〕〔12〕〔15〕
奈良県 天理市ほか44市町村等(5) 1,742 21,998 11,035 〔2〕〔3〕〔9〕
鳥取県 西伯郡名和町ほか22市町村等(5) 3,799 7,601 4,876 〔3〕〔5〕
島根県 出雲市ほか87市区町村等(6) 6,048 24,960 14,631 〔2〕〔3〕〔4〕
広島県 広島市ほか60市区町村等(12) 6,104 57,645 29,688 〔2〕〔3〕〔4〕〔15〕
山口県 宇部市ほか6市町(3) 1,678 6,528 3,591 〔3〕〔12〕
福岡県 福岡市ほか152市区町村等(22) 16,185 139,219 82,978 〔1〕〔2〕〔3〕〔4〕〔6〕〔7〕〔8〕〔9〕〔14〕
佐賀県 唐津市ほか26市町村等(3) 548 18,241 11,932 〔2〕〔7〕〔11〕
熊本県 本渡市ほか50市町村等(5) 5,991 20,512 11,100 〔3〕〔11〕〔15〕
宮崎県 都城市ほか47市町村等(10) 4,203 51,968 31,782 〔1〕〔2〕〔8〕
鹿児島県 鹿児島市ほか40市町村等(3) 1,429 9,296 5,518 〔4〕〔8〕〔12〕
1,861市区町村等(375) 363,745 2,128,933 1,172,403  

注(1)  計欄の実施主体数は、都道府県の間で実施主体が重複することがあるため、各都道府県の実施主体数を合計したものとは符合しない。
注(2)

 摘要欄の〔1〕〜〔15〕は、本文の不適切な支払の事態の診療報酬等の別 に対応している。