会計名及び科目 | 一般会計 (組織)厚生本省 (項)老人福祉費 |
部局等の名称 | 厚生労働本省(平成13年1月5日以前は厚生本省) |
特別積立預金の概要 | 特別養護老人ホームが老人福祉法(昭和38年法律第133号)に基づき国等から交付を受けた措置費の残余を、介護保険制度の導入に伴い現預金として積み立てたもの |
使用予定のない特別積立預金を保有している施設数 | 2,538施設 | |
上記の施設における使用予定のない特別積立預金の額 | 1297億円 | (平成13年度末) |
上記に係る国庫負担金相当額 | 518億円 |
特別養護老人ホームが保有している特別積立預金について
(平成14年11月14日付け厚生労働大臣あて)
標記について、会計検査院法第36条の規定により、下記のとおり改善の意見を表示する。
記
1 特別積立預金の概要
貴省では、平成12年4月以降、介護保険法(平成9年法律第123号)に基づき、市町村を保険者、市町村の区域内に住所を有する65歳以上の者等を被保険者として、被保険者の要介護状態などに関し、必要な保険給付を行う介護保険制度を導入している。そして、介護保険制度においては、要介護者等に該当すること及び要介護状態区分について市町村から認定を受けるなどした被保険者が特別養護老人ホーム(以下「特養ホーム」という。)等において介護サービスを受けることとなっている。
上記介護サービスの提供を行う特養ホームは、サービス提供の対価として受け取る報酬(以下「介護報酬」という。)により施設を運営している。この介護報酬は、原則として利用者が1割を負担し、残りの9割について被保険者の保険料でその100分の50を、公費で100分の50(国が100分の25、都道府県、市町村がそれぞれ100分の12.5)を、それぞれ負担することとなっている。
そして、特養ホームを経営する社会福祉法人(以下「法人」という。)が受け取った介護報酬の使途については、法人外への資金の流出に属する経費や高額な役員報酬など実質的な剰余金の配当と認められる経費等に使用してはならないこととされている。
貴省では、介護保険制度導入前においては、老人福祉法(昭和38年法律第133号)に基づき、市町村が、身体上又は精神上の理由により居宅において必要な介護を受けることが困難な老人を特養ホームに入所させ養護する場合に、その養護に係る費用(以下「措置費」という。)の一部を老人福祉施設保護費負担金(以下「保護費負担金」という。)として負担していた。
この保護費負担金の交付額は、「老人保護措置費の国庫負担について」(昭和47年厚生省社第451号)等(以下「交付基準等」という。)に基づき、措置費の額から徴収金の額等を控除した額を国庫負担対象事業費とし、その額に2分の1を乗じて得た額とされていた。そして、措置費の額及び徴収金の額については、交付基準等に基づき、所定の方式により算定することとされていた。
措置費は、市町村から特養ホームに交付され、交付基準等により、特養ホームでは当該年度の措置費は原則として当該年度中に使用することとされていた。ただし、入所した老人の処遇及び職員の給与水準が適正に維持され、かつ、施設運営等が適正に確保されていて、なお当該年度の措置費に残余が生じた場合は、これを次のとおり取り扱うことが認められていた。
〔1〕 長期的に安定した経営を確保するため、将来発生が見込まれる経費に対処する財源として、人件費引当金(繰入限度額は累積で当該年度の人件費支出額の6箇月分)、修繕引当金又は備品等購入引当金(繰入限度額は累積で各々2,500万円)に繰り入れる。
〔2〕 〔1〕の残余の措置費は繰越金として整理する。
その後、12年度の介護保険制度の導入に伴い、11年度末時点において特養ホームに生じている繰越金及び引当金は、「特別養護老人ホームにおける繰越金等の取扱い等について」(平成12年老発第188号)により、次のとおり取り扱うこととされた。
〔1〕 11年度末の繰越金及び引当金について、必要となる会計上の調整を行い、調整後の額を12年度の期首貸借対照表中の純資産の部に移行時特別積立金として計上する。
〔2〕 移行時特別積立金と同額の現預金を他の現預金と区分するため、貸借対照表中のその他の固定資産に移行時特別積立預金(以下「特別積立預金」という。)として計上する。
また、特別積立預金は、これが措置費の残余であることから、その使途を当該特養ホームに係るものに制限することとされ、次のいずれかに該当し、かつ、都道府県知事等が承認した場合にのみ使用できることとされた。
(1) 措置制度から介護保険制度への移行に伴って生じる一時的な資金不足に対処するために必要な経費(以下「つなぎ資金」という。)
(2) 当該特養ホームの決算処理に当たって、欠損金が見込まれる場合の補てん経費
(3) 当該特養ホームに係る国庫補助事業など公的補助事業として行う大規模修繕等の法人負担分
(4) その他当該特養ホームの運営上やむを得ないと認められる経費等
さらに、貴省では、その後、特別積立預金の使途制限を一部見直し、13年8月、「特別養護老人ホームにおける移行時特別積立金の使用について(疑義回答)」(老計第35号)の通知を都道府県知事等に発した。この通知により、当該特養ホームにおける介護サービスが適切に行われ、かつ、安定的な経営が確保されていると都道府県知事等が認める場合には、法人は、上記(3)に該当しない介護保険関係施設の施設整備等についても特別積立預金を取り崩して使用できることとなった。
都道府県、政令指定都市及び中核市(以下「都道府県等」という。)は、老人福祉法等に基づき、当該特養ホームの運営規程及び会計に関する諸記録等が適正なものとなっているかどうかなどを確認するため、当該特養ホームに対して、必要と認める事項の報告を求めたり、帳簿書類その他の物件等を検査したりなどすることができることとなっている。
2 本院の検査結果
特養ホームに生じた繰越金及び引当金は、措置費の残余であるとして、介護保険制度の導入に伴い特別積立預金として管理されるようになった後もその使途に制限が設けられている。
そこで、特別積立預金が有効に活用されているかなどに着眼し、北海道ほか46都府県及び札幌市ほか41市(注1)
が監督している特養ホーム3,897施設を対象にして、特別積立預金がどのような用途に使用されているか、今後の使用目的及び使用予定額はどのようになっているかなどについて、都道府県等を通じてその状況を検査した。
検査したところ、次のような状況となっていた。
すなわち、上記の3,897施設のうち、12年度期首に特別積立預金を保有していたのは3,100施設(これに係る特別積立預金総額2298億余円)となっていた。そして、この3,100施設のうち、12年度に特別積立預金を取り崩して使用していた施設は1,603施設(注2)
、772億余円で、その内訳は、つなぎ資金に使用している施設が1,565施設、737億余円、つなぎ資金以外の使途に使用している施設が185施設、34億余円となっており、ほとんどがっなぎ資金で占められていた。13年度においては、238施設において65億余円を取り崩して施設整備の法人負担分等の経費に使用しているのみで、12年度に比べ取崩し額は大幅に減少している状況であった。
その結果、13年度末において、2,726施設に総額1460億余円の特別積立預金が使用されないまま残っている状況となっていた。
さらに、この2,726施設について、今後の使用予定等を調査したところ、施設で保有している特別積立預金の全額について具体的な使用予定があるのは188施設、93億余円のみであった。これ以外の2,538施設については、次のとおりになっていた。
(1) 特別積立預金の全額について具体的な使用予定がないもの
2,329施設 | 〔使用予定のない13年度末特別積立預金1212億余円、保護費負担金相当額484億余円〕 |
これらの施設では、現在も特別積立預金の全額について具体的な使用予定がない状況となっている。
(2) 特別積立預金の一部について具体的な使用予定がないもの
209施設 | 〔使用予定のない13年度末特別積立預金85億余円、保護費負担金相当額34億余円〕 |
これらの施設では、13年度末の特別積立預金154億余円のうち68億余円について施設整備等の法人負担分に使用する予定があるものの、残額の85億余円については具体的な使用予定がない状況となっている。
この結果、上記の2,538施設における13年度末の特別積立預金総額1297億余円(これに係る保護費負担金相当額518億余円)については、現行の使途制限の中で具体的な使用予定がない状況となっていて、今後も多くの特養ホームでこの特別積立預金が長期にわたり滞留し続けることになると認められる。
多くの特養ホームにおいて、上記のとおり多額の特別積立預金が使用予定のない状況となっていることは、特別積立預金を有効に活用するという観点から適切とは認められず、改善の必要があると認められる。
このような事態が生じているのは、貴省において、特別積立預金の使途制限を一部見直しているものの、特別積立預金がより一層有効に活用されるための適切な措置を講じていないことによると認められる。
我が国においては、急速な高齢化の進展に伴い、高齢者保健福祉対策への要請がますます高まる中、法人に社会福祉事業の中心的な担い手としてふさわしい事業を確実・効果的かつ適正に行わせ、従来にも増して自主的に経営基盤の強化を図らせるとともに提供する福祉サービスの質の向上を図ることが求められている。
ついては、貴省において、法人の経営基盤の強化と高齢者福祉サービスの質の向上に資するものとなるよう、特別積立預金のより有効な活用を図るための措置を講じる要があると認められる。
(注1) | 札幌市ほか41市 札幌、旭川、仙台、秋田、郡山、いわき、宇都宮、千葉、横浜、川崎、横須賀、新潟、富山、金沢、長野、岐阜、静岡、浜松、名古屋、豊橋、豊田、京都、大阪、堺、神戸、姫路、奈良、和歌山、岡山、倉敷、広島、福山、高松、松山、高知、北九州、福岡、長崎、熊本、大分、宮崎、鹿児島各市 |
(注2) | 1,603施設 特別積立預金の使途が重複しているものが147施設あり、これを含めると1,750施設となる。 |