会計名及び科目 | 一般会計 (組織)厚生労働本省 (項)児童保護費 |
部局等の名称 | 厚生労働本省 |
国庫負担の根拠 | 児童福祉法(昭和22年法律第164号) |
国庫負担対象事業 | 保育所運営事業 |
国庫負担対象事業の概要 | 保護者の労働や疾病等により保育に欠ける児童を保育所において保育するもの |
検査対象保育所 | 北海道ほか23都府県の1,573市区町村に所在する保育所13,272箇所 |
上記の市区町村に対する国庫負担金交付額 | 2574億3634万余円 | (平成13年度) |
定員が適切なものになっているとは認められない保育所数 | 1,386箇所 | |
定員を適切なものに改めたとした場合の国庫負担金相当額の開差額 | 47億2188万円 | (平成13年度) |
(平成14年11月14日付け 厚生労働大臣あて)
標記について、会計検査院法第36条の規定により、下記のとおり改善の処置を要求する。
記
1 制度の概要
貴省では、児童福祉法(昭和22年法律第164号)に基づき、保育に欠ける児童を保育所において保育する市町村(特別区を含む。以下同じ。)に対し、その保育に要する費用の一部を負担するため、児童保護費等負担金(保育所運営費国庫負担金に係る分)(以下「負担金」という。)を交付している。そして、平成13年度の負担金の交付額は、4138億8986万余円となっている。
児童福祉法第24条の規定によれば、市町村は保護者の労働又は疾病等の事由により保育に欠けると認められる児童については、保護者から申込みがあったときは、保育所において保育しなければならないこととなっている。そして、市町村では、保育の実施(保育に欠ける児童を保育所において保育を行うこと)を、市町村が運営する保育所や社会福祉法人等が経営する保育所で行っている。
貴省では、都道府県に対して通知を発し、保育所設置認可の指針を示している。これによると、都道府県及び市町村は、保育所入所待機児童(以下「待機児童」という。)の数をはじめとして、人口、就学前児童数、就業構造等に係る数量的、地域的な現状及び動向の分析を行うとともに、この分析に基づき将来の保育需要の推計を行うこととなっている。
そして、都道府県は、上記の市町村等が行った分析及び推計を踏まえて保育所設置認可申請への対応を検討することとされている。
負担金の交付額は、「児童福祉法による保育所運営費国庫負担金について」(昭和51年厚生省発児第59号の2)等に基づき、次のとおり算定することとされている。
この費用の額及び徴収金の額は、次のとおり算定することとされている。
(ア) 費用の額は、1人当たりの月額で定められている保育単価に各月の入所児童数を乗じて算出した年間の額などとする。
(イ) 徴収金の額は、児童の扶養義務者の前年分の所得税額又は前年度分の市町村民税の課税の有無等に応じて階層別に児童1人当たりの月額で定められている基準額などにより算出した年間の額とする。
また、市町村は、保育所を経営する社会福祉法人等に対しこのように算定した費用の額のうち当該保育所に係る分を、委託費として支払わなければならないとされている。
保育単価は、保育所の所在地域、定員、入所児童の年齢等の区分によって定められている基本分保育単価に、民間施設給与等改善費加算額、児童用採暖費加算額等を加算した額とされている。13年度の基本分保育単価(月額)の一例を挙げると次表のとおりである。
基本分保育単価(月額)の一例 (単位:円)
定員区分 | 乳児 | 1・2歳児 | 3歳児 | 4歳児以上 |
20人 | 200,440 | 137,890 | 90,980 | 84,730 |
21人から30人まで | 179,430 | 116,880 | 69,970 | 63,720 |
31人から45人まで | 168,720 | 106,170 | 59,260 | 53,010 |
46人から60人まで | 162,330 | 99,780 | 52,870 | 46,620 |
61人から90人まで | 153,190 | 90,640 | 43,730 | 37,480 |
91人から120人まで | 146,520 | 83,970 | 37,060 | 30,810 |
121人から150人まで | 144,200 | 81,650 | 34,740 | 28,490 |
151人以上 | 143,420 | 80,870 | 33,960 | 27,710 |
このように、基本分保育単価及び加算額は、同じ年齢で隣接する定員区分を比べたとき児童数が多い方の定員区分(以下「上位の定員区分」という。)の方が額が低く定められている。
これは、児童1人当たりの管理費等は児童数が多くなるほど低くなることによる。
保育所の定員は、社会福祉法人等が設置するものにあっては都道府県が認可し、市町村が設置するものにあってはその市町村が条例等で定めて、都道府県に届け出ることになっている。
また、市町村及び社会福祉法人等が保育所の定員を変更しようとするときは、都道府県に届け出なければならないことになっている。
貴省では、近年、待機児童の解消が大きな課題となっていることから、10年2月に都道府県に対して次の(ア)から(オ)を主な内容とする通知を発し、保育所への入所円滑化対策を執ることとした。
(ア) 保育の実施は、定員の範囲内で行うこととされているが、年度の途中において定員を超えても保育士数等が所定の基準を満たす保育所においては、定員を超えて保育の実施を行うことができることとするとともに、当分の間、年度当初においても同様に定員を超えて保育の実施を行うことができるものとする。
(イ) 定員を超えて保育の実施を行うことができる児童数は、〔1〕年度当初はおおむね定員に15%を乗じて得た児童数の範囲内、〔2〕年度途中はおおむね定員に25%を乗じて得た児童数の範囲内とし、〔3〕年度後半(10月以降)は定員の25%を乗じて得た児童数を超えても差し支えないこととする。
(ウ) 定員を超えて保育の実施を行う児童に係る保育単価は、当該保育所の定員内の児童と同じに取り扱う。
(エ) 定員を超えて保育の実施を行う状況が恒常的にわたる場合には、定員の見直し等に積極的に取り組むこととする。また、前年度に定員を超えて保育の実施を行い、年度当初においても引き続き定員を超える場合は、まず定員の見直しに取り組むべきであるが、見直しが困難である場合は、引き続き定員を超えて保育の実施を行うことができるものとする。
(オ) 意図的に、定員を減員して定員区分を変更しながら、定員を超えて児童を入所させるようなことがないよう十分留意する。
2 本院の検査結果
近年、保育所の定員充足率(入所児童数/定員)が高くなっている状況にあることから、相当程度の保育所が定員を超えて保育の実施を行っていると思料された。
また、前記のとおり、定員を超えて保育の実施を行う児童に係る保育単価は当該保育所の定員区分の保育単価をそのまま適用することから、保育所にとっては定員を少なく設定し、定員を超えて保育を実施した方が、保育単価が高額となって経営上有利となる。
そこで、相当期間、継続的に定員を超えて保育の実施を行いながら定員が変更されないままとなっている保育所はないか、また、定員を増員又は減員した保育所については、当該定員変更が地域の保育需要に見合っておらず、定員変更時から定員を超えて保育の実施を行っている保育所はないかに着眼して検査した。
北海道ほか23都府県(注) の1,573市町村(13年度負担金交付額2574億3634万余円)に所在する保育所13,272箇所の10年4月1日から14年4月1日までの各年度の定員、入所児童数等について検査した。
検査したところ、年度当初を含め長期間、継続的に定員を超えて保育の実施を行っていたのに定員が変更されていなかったり、定員を変更していても増員又は減員時から定員を超えて保育の実施を行っていたりした保育所が1,386箇所見受けられた。これらの保育所が定員を入所児童数に見合うものに改めたとして、これらの保育所に係る負担金相当額を試算すれば、322億2340万余円となり、交付済みの負担金相当額369億4528万余円と比べて47億2188万余円の開差を生じる計算となる。
これを態様別に示すと次のとおりである。
(ア) 継続して上位の定員区分以上の入所児童数による保育の実施を行いながら定員が変更されていないもの | |
1,135箇所 |
これらの保育所では、10年度当初又は途中から14年4月1日までの間、継続して上位の定員区分以上の入所児童数による保育の実施を行いながら、定員が変更されていなかった。
これらの保育所は、高い保育単価が適用されることとなるので、同じ入所児童数による保育の実施を定員内で行っている保育所と比べて負担金相当額が多くなっていた。
上記の1,135保育所が、13年度において、それぞれの定員を増員して実際の入所児童数に見合うように上位の定員区分内に設定したとして、これらの保育所に係る負担金相当額を試算すれば254億8189万余円となり、交付済みの負担金相当額295億0183万余円と比べて40億1994万余円の開差を生じる計算となる。
上記の事態について事例を示すと次のとおりである。
A保育所では、定員120人として保育の実施を行っている。しかし、A保育所の平成10年度以降の入所児童数及び負担金相当額は次表のとおりとなっていた。
定員 (人) |
入所児童数(人) | 負担金相当額(千円) | |||
最小時 | 最大時 | 年間平均 | |||
10年度 | 120 | 128 | 138 | 135.5 | 32,772 |
11年度 | 133 | 150 | 144.3 | 35,603 | |
12年度 | 136 | 148 | 141.7 | 35,105 | |
13年度 | 135 | 160 | 148.3 | 42,861 | |
14年度 | 138 | — | — | — |
A保育所では、10年4月1日から14年4月1日まで継続して上位の定員区分である「121人から150人まで」又は「151人以上」に相当する入所児童数を保育していたにもかかわらず、定員を120人のままとしていた。
A保育所が、13年度において、定員を増員して実際の入所児童数に見合うように「121人から150人まで」の定員区分内に設定したとして、負担金相当額を試算すれば40,698,595円となり、交付済みの負担金相当額42,861,870円と比べて2,163,275円の開差を生じる計算となる。
(イ) 定員増員時から継続して上位の定員区分以上の入所児童数による保育の実施を行っていたもの | |
223箇所 |
これらの保育所では、定員を増員したものの、定員増員時から14年4月1日まで1年以上継続して上位の定員区分に該当する入所児童数による保育の実施を行っていた。
これらの保育所が、13年度に、定員を増員して実際の入所児童数に見合うように上位の定員区分内に設定したとして、これらの保育所に係る負担金相当額を試算すれば61億9273万余円となり、交付済みの負担金相当額68億0177万余円と比べて6億0904万余円の開差を生じる計算となる。
(ウ) 定員減員時から継続して上位の定員区分以上の入所児董数による保育の実施を行っていたもの | |
28箇所 |
これらの保育所では、定員を減員しながら、定員減員時から14年4月1日まで1年以上継続して上位の定員区分に該当する入所児童数による保育の実施を行っていた。
これらの保育所が、13年度に、定員を実際の入所児童数に見合う上位の定員区分内に設定していたとして、これらの保育所に係る負担金相当額を試算すれば5億4878万余円となり、交付済みの負担金相当額6億4168万余円と比べて9290万余円の開差を生じる計算となる。
上記のような事態は、同じ入所児童数で保育の実施を行っている保育所の間で適用される保育単価が区々となり、各保育所に係る費用の額に開差が生じて保育所間で均衡を欠くこと、また、国が必要以上に負担金を交付することとなることから改善の要があると認められる。
このような事態が生じているのは、主として次のことによると認められる。
(ア) 市町村及び保育所において、定員内で保育の実施を行うことが原則であるということについての理解が十分でないこと
(イ) 市町村及び保育所において、定員を超えて保育の実施を行う状況が「恒常的にわたる」かどうかを任意に判断していること
(ウ) 都道府県において、保育所の定員変更の届出を受ける際に、地域の保育需要について適切に把握していないこと
3 本院が要求する改善の処置
ここ数年、入所児童数の増加が図られているにもかかわらず、待機児童は解消されていない状況にあり、待機児童の解消を図る方途として定員を超えて保育の実施を行うことは、当分の間、継続されると見込まれる。
ついては、貴省において、保育所における保育の実施が適切に行われるよう次のような処置を講ずる要があると認められる。
(ア) 市町村及び保育所に対し、定員内で保育の実施を行うことが原則である旨の周知徹底を図ること
(イ) 市町村及び保育所に対し、定員を超えて保育の実施を行う状況が「恒常的にわたる」かどうかを判断する具体的な基準を明示すること
(ウ) 都道府県に対し、保育所の定員変更の届出を受ける際は地域の保育需要を最もよく把握している市町村の意見を求める旨を明示すること