会計名及び科目 | 一般会計 (組織)厚生本省 (項)国民健康保険助成費 |
部局等の名称 | 厚生本省(交付決定庁)(平成13年1月6日以降は厚生労働本省) 北海道ほか25府県(支出庁) |
交付の根拠 | 国民健康保険法(昭和33年法律第192号) |
交付先 | 市111、町354、村88、一部事務組合1 計554市町村等(保険者) |
保健事業に係る特別調整交付金の概要 | 市町村等の国民健康保険に係る財政力の不均衡を調整するために交付する財政調整交付金のうち、被保険者の健康の保持増進のために必要な保健事業を実施している場合に交付するもの |
効果的なものとなっていない保健事業の事業費 | 55億0315万余円 | (平成10、11両年度) |
上記に対する交付金交付額 | 48億9832万円 |
1 事業の概要
厚生労働省では、国民健康保険について各種の国庫助成を行っており、その一つとして、保険者である市町村(特別区を含む。以下同じ。)に対して財政調整交付金を交付している。財政調整交付金は、市町村間の国民健康保険に係る財政力の不均衡を調整するため、国民健康保険法(昭和33年法律第192号。以下「国保法」という。)に基づいて交付するもので、一定の基準により財政力を測定してその程度に応じて交付する普通調整交付金と、特別の事情を考慮して交付する特別調整交付金がある。
そして、特別調整交付金の一つとして、健康教育、健康相談、健康診査その他被保険者の健康の保持増進のために必要な事業(以下「保健事業」という。)を実施している場合に交付されるもの(以下「保健事業特別交付金」という。)がある。
国民健康保険制度は被保険者の疾病や負傷に対して必要な医療給付を行うことを主たる目的としたものであるが、この医療給付の対象となる保険事故の発生を未然に防止し、また、疾病を早期に発見して重症化を防止するために行われる保健事業の実施は、同制度における重要な施策の一つである。そして、国保法において、保健事業を行うことが保険者の努力義務とされている。
保健事業特別交付金は、上記の保健事業のうち一定の要件を満たすものを実施している市町村に交付されるもので、その交付要件等については、厚生労働省が「国民健康保険の調整交付金の交付額の算定に関する省令」(昭和38年厚生省令第10号)に基づいて交付の基準を定めている。
そして、保健事業特別交付金の対象となる保健事業には、健康指導事業、健康づくり推進事業ほか5事業がある。
これらの交付対象事業のうち全国の市町村で広く行われている健康指導事業及び健康づくり推進事業の主な内容は、次のとおりである。
(1) 健康指導事業
この事業には総合健康指導事業及び高齢者健康指導事業がある。
ア 総合健康指導事業
この事業は、65歳未満の者に対して健康調査等を継続して行い、疾病の早期発見、早期治療を奨励するとともに、生活習慣の改善等の指導を行い、健康の保持増進を図るもので、以下のような事業項目がある。
(ア) コンピュータ健康診査
これは、個人の健康づくりの指針としてもらうなどのため、対象者に、調査票を配布して健康状態、自覚症状、病歴等を問診形式により調査し、これを分析した結果を本人に送付するものである。
(イ) 節目健診
これは、コンピュータ健康診査を実施した被保険者の中から40歳を基点として節目ごとに対象者を選定し、その者に対し、血圧測定、検尿、循環器検査、肝機能検査等の健診を実施するものである。
なお、この節目健診とは別に、市町村は、老人保健法(昭和57年法律第80号。以下「老健法」という。)の規定に基づき、当該市町村の区域内に居住地を有する40歳以上の者に対して、原則として同一人について年1回、血圧測定、検尿等の健康診査(以下「老健法に基づく基本健診」という。)を実施することとされているが、節目健診は少なくとも老健法に基づく基本健診の健診項目のすべてを網羅することとなっている。
(ウ) 総合健康指導
これは、コンピュータ健康診査、節目健診のデータを基に、生活習慣の改善に役立てるための具体的な健康指導を行うものである。
イ 高齢者健康指導事業
この事業は、高齢者(65歳以上)を対象として健康調査等を行い、この調査結果を基に健康管理、在宅日常生活における環境づくりのアドバイス等の健康指導を行うもので、以下のような事業項目がある。
(ア) 高齢者健康調査
これは、高齢者及び家族に対して、健康状況、生活状況、介護状況、保健福祉サービスの利用希望状況等を毎年1回アンケート等により調査するものである。
(イ) 総合健康指導
これは、高齢者健康調査のデータを基に、高齢者の寝たきり防止と在宅ケアに役立てるための具体的な指導を行うものである。
そして、健康指導事業の実施に当たっては、保健担当部門等の関係機関との情報交換等に十分配慮し、また、事業実施後は、得られた健康情報(結果及び種々の統計表)を分析し、これをその後の保健事業に活用することとなっている。
(2) 健康づくり推進事業
この事業の主なものは国保総合健康づくり推進事業(国保総合健康づくり推進事業に準じた事業を含む。以下同じ。)である。
国保総合健康づくり推進事業は、市町村の創意工夫により、国民健康保険担当部門と老健法に基づく保健事業の担当部門をはじめとする各行政部門との連携を図り、福祉・生きがいを含めた総合的な健康づくりの視点に立って、市町村の保健事業の水準を全体として向上させることを目的とするものである。
そして、市町村は、生活習慣病予防教室を開催するなどの各種健康教育や、各種健康相談、健康診査事業、退院した者に対する訪問活動等を行う在宅ケア推進事業等の事業項目を実施することとなっている。
そして、健康指導事業及び健康づくり推進事業に対する交付金の交付額は、それぞれ被保険者数に応じた額を限度として、市町村の国民健康保険特別会計に計上された各事業の事業費の額(一部の事業項目等においては7割又は5割を乗じた額)の合計額とされている。
2 検査の結果
厚生労働省では、保健事業の積極的な推進を行うことは、国民健康保険の被保険者の健康の保持・増進のため有効であるとともに、医療費の適正化につながることから、保健事業特別交付金の交付等を通じて保健事業の一層の推進と適切な運営を目指しているところである。
そこで、保健事業特別交付金の対象となる保健事業が適正かつ効果的に実施されているかに着眼して検査した。
保健事業特別交付金のうち、健康指導事業及び国保総合健康づくり推進事業を対象として交付される額が、毎年度の交付金の交付額全体の過半を占めていることから、北海道ほか25府県(注) の705市町村及び1一部事務組合が平成10、11両年度に実施した健康指導事業(事業費35億5246万余円、これに係る交付金交付額33億1227万余円)及び国保総合健康づくり推進事業(事業費38億2878万余円、これに係る交付金交付額32億4334万余円、健康指導事業を合わせた事業費計73億8125万余円、これに係る交付金交付額計65億5562万余円)を対象に検査した。
検査したところ、上記の706市町村等のうち北海道ほか25府県の554市町村等が実施した両事業(健康指導事業の事業費31億0120万余円、これに係る交付金交付額28億9655万余円、国保総合健康づくり推進事業の事業費24億0194万余円、これに係る交付金交付額20億0176万余円、事業費計55億0315万余円、これに係る交付金交付額計48億9832万余円)において、次のとおり適切とは認められない事態が見受けられた。
(1) 健康指導事業について
(ア) コンピュータ健康診査又は高齢者健康調査の有効回答率が低率となっていたもの | |
74市町村 |
上記の市町村では、国民健康保険の被保険者等を対象に調査票を配布することによりコンピュータ健康診査又は高齢者健康調査を実施していた。しかし、有効回答率が低率(50%未満)となっていて、多数の被保険者に対して健康づくりの指針を示せなかったり、節目健診や総合健康指導の実施に必要な情報を十分得られなかったりしている状況となっていた。
(イ) コンピュータ健康診査の回答者でない者を含めるなどして節目健診を実施していたもの | |
123市町村 |
上記の市町村では、節目健診の対象者を、コンピュータ健康診査の回答者でない者を含めて選定するなどしていた。このため、国保総合健康づくり推進事業のうちの健康診査事業や国が市町村に対して別途助成を行っている老健法に基づく基本健診との相違が明確でない状況となっていた。
(ウ) 総合健康指導の実施に当たり、コンピュータ健康診査、節目健診又は高齢者健康調査によって得られた個人データを十分活用していなかったもの | |
300市町村等 |
上記の市町村等では、総合健康指導の実施に当たり、コンピュータ健康診査、節目健診又は高齢者健康調査によって得られた個人データに基づく具体的指導を行っていなかったり、指導が必要と認められた者の過半に対し総合健康指導を実施していなかったり、コンピュータ健康診査等と関係なく不特定多数の者を対象とした電話健康相談等の事業を実施したりしていた。このため、コンピュータ健康診査等の結果が被保険者の健康指導に十分活用されない状況となっていた。
(エ) 事業の実施によって得られた健康情報について分析を十分行っていなかったり、分析結果をその後の保健事業に活用していなかったりしていたもの | |
160市町村等 |
上記の市町村等では、コンピュータ健康診査又は高齢者健康調査の結果得られた情報に基づいて市町村等全体の健康状態の特徴等の分析を十分行っていなかったり、分析は行っているものの、その結果を踏まえて保健事業の見直しを図ったり、広報誌等を利用して被保険者等に対して分析結果の周知を図ったりするなどの活用をしていなかったりしていた。
(1)の合計 | 352市町村等 | 交付金交付額 | 28億9655万余円 |
(2) 国保総合健康づくり推進事業について
一般住民を対象とした保健事業について、事業費全体が保健事業特別交付金の対象となっていたもの | |||
232市町村 | 交付金交付額 | 20億0176万余円 |
上記の市町村では、国保総合健康づくり推進事業のうち各種健康教育等の事業を、国民健康保険の被保険者だけでなく被保険者以外の一般住民を対象として実施していた。そして、被保険者以外の者も含めた一般住民を対象として実施した事業について、事業費全体が国民健康保険特別会計に計上され市町村の一般会計等による費用負担がなされていなかった。このため、一般住民を対象とした事業費全体を対象として保健事業特別交付金が交付されている状況となっていた。
したがって、上記のように、保健事業特別交付金の対象となる保健事業の実施に当たり、有効な情報が十分得られなかったり、情報を十分活用していなかったり、他の会計から適切な費用負担がなされていなかったりなどしている事態は、事業の有効性の観点からみて改善の要があると認められた。
このような事態が生じていたのは、市町村において事業の趣旨を十分理解していなかったことなどにもよるが、厚生労働省において、主として、次のことによると認められた。
(ア) コンピュータ健康診査及び高齢者健康調査の趣旨を十分周知していなかったこと、また、被保険者個人の健康状態を把握するための効果的な調査方法について十分検討していなかったこと
(イ) 健康指導事業における節目健診の在り方等について十分検討していなかったこと
(ウ) コンピュータ健康診査等の結果に基づく個人データを活用して総合健康指導を行ったり、事業の実施によって得られた健康情報をその後の保健事業に有効活用するよう十分指導していなかったこと
(エ) 一般住民を対象とした事業について、市町村の一般会計等において応分の費用負担をするよう指導していなかったこと
3 当局が講じた改善の処置
上記についての本院の指摘に基づき、厚生労働省では、14年3月に、都道府県に対して通知を発し、保健事業特別交付金の対象となる保健事業の見直しに際して、事業が効果的に実施されるよう、次のような処置を講じた。
(ア) 健康指導の指導対象者の選定に当たっては、各種調査データを活用して訪問事業を行うことなどにより効果的に行うこととし、コンピュータ健康診査等を行う場合には、地域の実態把握とともに被保険者個人の健康状態の把握を目的としたものである旨を周知し、調査票の配布・回収については調査員を活用し有効回答率の向上に努めるよう指導した。
(イ) 節目健診を含む健康診査事業に係る費用については助成対象外とした。
(ウ) 健康指導は事前に得られた各種調査データを積極的に活用して行い、老人保健担当部局等とも連携を図るなどして事業の実施によって得られた健康情報をその後の保健事業に有効活用するよう指導した。
(エ) 一般住民を対象とした事業について、市町村の一般会計等から応分の費用負担を求めるよう指導した。