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  • 平成13年度|
  • 第3章 個別の検査結果|
  • 第1節 省庁別の検査結果|
  • 第9 農林水産省|
  • 本院の指摘に基づき当局において改善の処置を講じた事項

農村公園等に設置する安全柵について間伐材を使用することにより環境及び経済性に配慮するよう改善させたもの


(3) 農村公園等に設置する安全柵について間伐材を使用することにより環境及び経済性に配慮するよう改善させたもの

会計名及び科目 一般会計  (組織)農林水産本省  (項)海岸事業費
(項)農業生産基盤整備事業費
(項)農村整備事業費
(項)農地等保全管理事業費
(項)農村振興費
部局等の名称 東北、関東、東海、近畿、中国四国、九州各農政局
補助の根拠 土地改良法(昭和24年法律第195号)
予算補助
補助事業者
(事業主体)
府1、県15、計16府県
間接補助事業者
(事業主体)
市9、町18、村1、土地改良区3、計31市町村等
補助事業 地域用水環境整備事業、中山間地域総合整備事業、農村総合整備事業等
補助事業の概要 農村の生活環境を整備して農業者等の定住の促進等を図る事業において、農村公園等の整備をする際に、訪れた人の安全を図るため、遊歩道等に安全柵を設置するもの
事業費 49億7662万余円 (平成12、13両年度)
上記に対する国庫補助金交付額 25億1956万余円  
擬木柵の資材費に係る直接工事費 2億4234万余円 (平成12、13両年度)
低減できた安全柵の工事費 1億2960万円 (平成12、13両年度)
上記に対する国庫補助金相当額 6540万円  

1 事業の概要

(農村生活環境の整備及び安全柵の設置)

 農林水産省では、農業生産基盤及び農村の生活環境の整備その他の福祉の向上を総合的に推進することを目的として、地域用水環境整備事業、中山間地域総合整備事業、農村総合整備事業等(以下、これらを合わせて「農業農村整備事業等」という。)を実施する都道府県及び市町村等(以下「事業主体」という。)に対して、毎年度多額の国庫補助金を交付している。
 上記事業の中には、農村の生活環境の整備を図るために農村公園等の整備を行うものがあり、事業主体では、車両が通行しない遊歩道等における転落防止など訪れた人の安全を図るための柵(以下「安全柵」という。)を設置することがある。そして、この安全柵には、自然との調和や周囲の景観に配慮するため、木材に模したプラスチック及びコンクリート製の柵(以下「擬木柵」という。)や木製の柵(以下「木柵」という。)がある。

(間伐材の利用促進)

 農林水産省では、木材の利用推進は、地域経済の発展、森林の整備、環境の保全のために重要であるとして、平成8年8月に、木材利用推進連絡会議を設置し、木材利用技術等に関する情報交換及び事業実施に係る連絡調整等を行うこととしている。
 これを踏まえて、農林水産省構造改善局(13年1月6日以降は農村振興局)及び林野庁では、11年11月に、各地方農政局建設部長等あてに通知を発し、都道府県林務担当部局(以下「林務担当部局」という。)、都道府県農業農村整備事業担当部局(以下「農業農村担当部局」という。)及び地方農政局等は相互に連携し、農業農村整備事業等における間伐材等木材(以下「間伐材」という。)の一層の利用促進を図ることとしている。
 そして、農業農村担当部局、林務担当部局、地方農政局等は連携して、農業農村整備事業等による施設の整備に当たり、建設用資材としての間伐材の需要量の把握及び需要情報の提供等に努めることとされている。
また、林野庁では、地域の森林を健全に育成し、森林が持つ国土保全機能を十分に発揮させるため、間伐推進に係る対策を一層強化しており、12年度から、今後5年間で150万haの森林を緊急かつ計画的に整備する「緊急間伐5カ年対策」を実施し、間伐材の利用促進など総合的な取組を展開している。

2 検査の結果

(検査の着眼点)

 前記のように、農林水産省では、通知を発するなどして農業農村整備事業等における間伐材の一層の利用促進を図ることとしていることから、安全柵の設置において間伐材の利用促進が図られているか、また、擬木柵に替えて間伐材を使用した木柵とすることにより工事費の低減を図ることができないかなどに着眼して検査した。

(検査の対象)

 青森県ほか15府県(注) において、青森県ほか46事業主体が、12、13両年度に農村公園等に設置した安全柵のうち、支柱の一部が水中にあって通常より腐朽が進行しやすい箇所の柵を除外して、擬木柵の設置が含まれている工事は、計132件、工事費計49億7662万余円(国庫補助金相当額25億1956万余円)となっている。このうち擬木柵(総延長21,482m)の資材費に係る直接工事費2億4234万余円(国庫補助金相当額1億2261万余円)を対象として検査した。

(検査の結果)

 検査したところ、上記の各工事において、事業主体が安全柵に擬木柵を採用していた主な理由は、次のとおりとなっていた。
〔1〕 擬木柵は木柵に比べて資材の供給が安定していること
〔2〕 腐食に強いなど耐朽性があること
〔3〕 経済的であること
 そこで、上記の各項目について検査したところ、以下のような状況となっていた。
(1) 資材の安定供給について
 木柵の資材の原材料となる間伐材の供給については、前記のとおり、林野庁において「緊急間伐5カ年対策」を実施しており、今後も毎年多量の間伐材が発生することが見込まれている。そして、これを加工した資材の供給についてみると、近年、丸棒加工機械により木材の剥皮、丸棒加工等を行い、木柵の資材等を製作する丸棒・杭加工施設(以下「丸棒加工施設」という。)が増加している。そして、これを備えた森林組合・企業(以下「組合等」という。)は前記16府県のうちには、本院が確認しただけでも香川県を除く15府県に存在しており、その数も千葉県を除いて複数(2社から8社)存在している状況であった。
 したがって、丸棒加工機械の導入による効率化が図られるなど間伐材を加工した資材の生産体制等は整備されており、また、丸棒加工施設の生産能力に余力もあることから、安定的な供給が可能であると認められた。
(2) 木柵の耐朽性について
 間伐材のうち杉等の素材の耐朽性については、林野庁林業試験場(13年4月1日以降は独立行政法人森林総合研究所)の研究報告(昭和59年)によれば、野外に設置した杭(供試体の大きさは、縦3cm、横3cm、高さ60cmの耐用年数は5年から6.5年となっている。
 しかし、日本農林規格(JAS規格)等に基づき、水性薬剤で防腐防蟻処理加工(以下「防腐加工」という。)を施したものは、無処理の場合に比べて一般的に3倍から4倍の防腐効果があるとされている。そして、上記のJAS規格で6年11月に指定された水性薬剤を所定量注入した木材は、「通常より激しい腐朽・蟻害のおそれがある条件下で高度の耐朽性が期待できる」とされている。また、安全性については、この水性薬剤を使用した木材を、農村公園等に設置する木柵に使用することに問題はないとされている。さらに、防腐加工施設を備えた組合等は、前記16府県のうち三重県を除き15府県に存在している状況であり、供給上の問題も見受けられない。
 したがって、近年、安全性とともに高度な耐朽性を確保する様々な防腐加工の方法が開発されていることから、品質確認を徹底することなどにより、間伐材(支柱の直径16cm、横木の直径10cm)を使用した木柵は相当程度の耐朽性を有し、長期間供用できるものと認められた。
(3) 木柵の経済性について
 前記の16府県において、予定価格の積算に使用されていた擬木柵の資材単価の平均は、1m当たり2段柵(横木の本数が2本)で10,000円程度、3段柵(横木の本数が3本)で13,400円程度となっている。
 しかし、木柵の資材として使用するために必要な防腐加工等を施した間伐材の資材単価(以下「木柵の資材単価」という。)を、丸棒加工施設を備えた組合等から見積りを徴するなどして調査したところ、その平均は、1m当たり2段柵で4,700円程度、3段柵で6,700円程度となっていた。
 したがって、木柵の資材単価は、丸棒加工施設の普及などにより、擬木柵の資材単価よりも安価となっている状況であり、木柵とすることは経済的であると認められた。
 以上により、安全柵の設置に当たっては、木材利用推進の方針を徹底し、森林の整備、環境の保全などのため間伐材の一層の利用促進を図るとともに、間伐材の使用によって安全柵の設置に係る工事費の低減に努める要があると認められた。

(低減できた工事費)

 安全柵の設置に当たり、間伐材を採用したとすれば、その資材費に係る直接工事費は計1億1268万余円となり、前記の資材費に係る直接工事費計2億4234万余円を約1億2960万円(国庫補助金相当額約6540万円)低減できたと認められた。

(発生原因)

 このような事態が生じていたのは、事業主体において、間伐材の利用促進についての認識及び検討が十分でなかったこと並びに次のことなどによると認められた。
(ア) 農林水産省において、関係機関との連絡・調整が十分でなく、環境や景観等にも配慮することとなる間伐材を用いた施工等の検討、都道府県へのこれらの情報の提供等が十分に行われていなかったこと
(イ) 都道府県において、農業農村担当部局及び林務担当部局の間伐材の利用促進についての認識が十分でないため、相互の連携、間伐材を用いた施工及び地域における間伐材の利用に関する情報の把握が十分でなく、事業主体への具体的な情報の提供等が十分に行われていなかったこと

3 当局が講じた改善の処置

 上記についての本院の指摘に基づき、農林水産省では、14年10月に通知を発し、間伐材の利用が推進され、工事費の低減が図られるよう関係機関において情報の共有など連携を強化するとともに、農業農村担当部局及び林務担当部局が連携して、事業主体に対して間伐材を用いた施工等に係る具体的な情報の提供等に努め、事業主体における間伐材の利用促進についての意識が喚起されるよう周知を図る処置を講じた。

青森県ほか15府県 京都府、青森、岩手、宮城、栃木、千葉、山梨、長野、愛知、三重、滋賀、奈良、香川、愛媛、大分、鹿児島各県