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  • 平成13年度|
  • 第3章 個別の検査結果|
  • 第1節 省庁別の検査結果|
  • 第9 農林水産省|
  • 本院の指摘に基づき当局において改善の処置を講じた事項

漁船の取締りのために使用する船舶の借上げ契約に当たり、航海日当の積算を航海海域の実態に適合するよう改善させたもの


(4) 漁船の取締りのために使用する船舶の借上げ契約に当たり、航海日当の積算を航海海域の実態に適合するよう改善させたもの

会計名及び科目 一般会計 (組織)水産庁 (項)漁業調査取締費
部局等の名称 水産庁
契約の概要 漁業資源の保存及び最適な利用を図るため、漁船の取締りのために使用する船舶の借上げ
契約金額 116億8641万余円(平成12、13両年度)
契約の相手方 全国漁業調査取締船事業協同組合ほか2法人
契約 平成12年4月〜13年12月 随意契約
航海日当の積算額 2億0087万余円 (平成12、13両年度)
低減できた航海日当の積算額 4050万円  

 

1 船舶の借上げ契約の概要

(漁船の取締りの概要)

 水産庁では、漁業法(昭和24年法律第267号)に基づき、漁業秩序の維持確立を図ることを目的として、沿岸、沖合及び遠洋において主に我が国漁船を対象としで無許可漁法等の違反操業の取締りを実施してきた。
 そして、平成8年7月に「海洋法に関する国際連合条約」(平成8年条約第6号。以下「海洋法条約」という。)が我が国において発効し、これに伴い「排他的経済水域における漁業等に関する主権的権利の行使等に関する法律」(平成8年法律第76号)等が施行された。
 この海洋法条約を実効あるものとするため、我が国と近接しており漁業で最も関係が深い大韓民国(以下「韓国」という。)との間において、「漁業に関する日本国と大韓民国との間の協定」(平成11年条約第3号。以下「日韓漁業協定」という。)が新たに締結され、11年1月に発効した。これにより、漁業資源の保存及び最適な利用を図るため、日韓両国は、自国の排他的経済水域(注1) では、両国の漁船を船籍を問わずに取り締まることとなった。すなわち、我が国の排他的経済水域では我が国漁船、韓国漁船の双方を我が国が取り締まることとなり、一方、韓国の排他的経済水域では我が国漁船が韓国の取締りを受けることとなった。そして、いずれの国の排他的経済水域にも属さない海域である沖合の一部や遠洋については、従来どおり我が国漁船を対象として取締りを実施することとなった。

(船舶の借上げ契約)

 水産庁では、漁船の取締りを同庁所有の官船を使用して行うほか、全国漁業調査取締船事業協同組合ほか2法人(注2) が所有する船舶を乗組員を含めて借り上げ、この借り上げた船舶(以下「用船」という。)に同庁職員を漁業監督官等として乗船させる方法により行っている。12、13両年度の用船延べ73隻に係る契約総額は、116億8641万余円となっている。

(用船料の積算)

 用船料については、水産庁制定の用船料算定基準(以下「算定基準」という。)に基づき、乗組員の人件費、船舶保険の保険料、ドック費、修繕費等により積算することとしている。このうち乗組員の人件費については、船長、航海士、機関長等の職員と甲板員等の部員に区分し、それぞれの給与費、航海日当、船員保険料等を合計して積算することとしている。

(航海日当の積算)

 航海日当の積算に当たっては、用船の区分を取締り対象の海域(以下「取締海域」という。)により遠洋を対象とする遠洋船と沿岸及び沖合を対象とするその他船の2区分とし、それぞれの航海日当の日額を「農林水産省に勤務する船員等に対する旅費支給規程」(昭和30年農林省訓令第10号。以下「旅費規程」という。)に基づき定めていた。
 このうち、その他船の航海日当の日額については、職員の日額を1,365円、部員の日額を940円としていた。これは、旅費規程において航海日当の日額が沿岸を対象とする第1区海域と沖合を対象とする第2区海域に区分して定められていることから、その平均値を用いたものである。
 そして、その他船の航海日当について、上記日額にそれぞれの乗組員数、航海日数を乗じるなどして、12年度30隻分9348万余円、13年度34隻分1億0738万余円、計延べ64隻分2億0087万余円と積算していた。

2 検査の結果

(検査の着眼点)

 我が国の漁業を取り巻く国際情勢は、海洋法条約、日韓漁業協定等の発効により新たな局面を迎えており、特に日本近海における取締対象漁船、取締海域が変化してきている。
 そこで、沿岸及び沖合における取締りに使用するその他船の航海日当の積算が取締海域の実態に適合したものとなっているかに着眼して検査した。

(検査の結果)

 検査したところ、前記のその他船延べ64隻における航海日当の積算について、次のとおり適切とは認められない事態が見受けられた。
 日韓漁業協定発効後の水産庁における漁船の取締りは、前記のとおり、遠洋については変更がないものの、沿岸及び沖合については主として我が国の排他的経済水域をその対象として実施されることとなった。そして、この排他的経済水域は、小笠原諸島等の一部離島の周辺海域を除き旅費規程に定められている第1区海域にほぼ重なるものとなっていた。
 そこで、12、13両年度におけるその他船による取締海域について調査したところ、12年度に実施した772航海のうち770航海(99.7%)、13年度に実施した812航海のうち799航海(98.3%)がいずれも旅費規程に定められている第1区海域において実施されていた。
 したがって、その他船の航海日当の積算に当たっては、取締海域の実態に適合した日額により積算を行う要があると認められた。

(低減できた積算額)

 仮に、その他船における航海日当について、取締海域の実態を踏まえて日額を旅費規程の第1区海域の日額と同額(職員1,090円、部員750円)として修正計算すると、12、13両年度で計1億6035万余円となり、前記の積算額2億0087万余円を約4050万円低減できたと認められた。

(発生原因)

 このような事態が生じていたのは、水産庁において、算定基準に定めるその他船の航海日当の日額を取締海域の実態に即したものとしていなかったことによると認められた。

3 当局が講じた改善の処置

 上記についての本院の指摘に基づき、水産庁では、14年4月に、算定基準を改定し、その他船の航海日当の日額を旅費規程の第1区海域の日額と同額とすることとし、14年度の船舶の借上げ契約に係る用船料の積算から適用する処置を講じた。

(注1) 排他的経済水域 領海の幅を測定するための基線から200海里以内の水域をいい、沿岸国は、この水域の海底の上部本域並びに海底及びその下の天然資源に関する主権的権利を有する。
(注2) 全国漁業調査取締船事業協同組合ほか2法人 全国漁業調査取締船事業協同組合、共同船舶株式会社、根室第一漁業生産組合